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5 第2回神様通信


「こいつは確かにおもしろいね。さすがは渡り人の持ち物だ」

 楽し気に笑うと里長はリバーシの駒を引っくり返した。


第一村人のエルフが報告したらしく野菜中心の夕食が終わった後、里長からリバーシについて質問があった。

見せた方が早いと実物を出してルールを説明、そのままゲーム開始となった。


「気に入ったのなら差し上げます」

 しばらくやり合ってからそう申し出るが、いやと里長は首を振った。


「これくらいなら自作できるさ。勝手に作るが構わないかい?」

「どうぞ、これは私が発案した物では無いですから」

 私の返事に、そうかいと嬉しそうに頷いてから里長は神妙な顔で口を開いた。


「こいつをやってお前さんの性分は分かった。奸計は出来るが卑怯なことは好きではない、かなりの面倒臭がりで自己中心性も強い。けどまあ、大まかに言えば善人の部類ってとこだね」

 的確な指摘にぐうの音も出ない。

さすがは長寿なエルフの里長、観察眼に優れている。


「ほぼ正解です。面倒事は避けて…場合によっては蹴倒して通るのが信条なので。前の世界でも立身出世よりのんびり暮らす方を選んでましたね」

 その答えが可笑しかったらしく里長は声を上げて笑った。


「やはり捕らえなくて良かったよ」

「…理由を聞いても」

 物騒な言葉に首を傾げて問う私の前に渡した妖弓が置かれる。


「この弓は60年前にシュスワルの神殿から忽然と消えたエルフの国宝なのさ」

「は?」

 飛び出したとんでもないワードに目が点になる。


「あの邪神(クズ)が勝手に持ち出したんだろう。確かにそんな相手でなければ世界樹様の結界内で盗みなど出来る訳が無い」


あのクソ邪神っ、盗品を渡すとかふざけるのもいい加減にしろっ。

もしかしてギフトにあった武器やアイテムはみんなそうなのか?。

無事に人里に出られたとしても、そんな有名な盗品を持っていることが知れたらそこでアウトじゃないか。


「私を信じていただきありがとうございます」

 そう言って思い切り頭を下げる。

このまま国宝窃盗犯として捕らえられてもおかしくない状況だったのだから。


「礼は必要ないさ。こっちもあの邪神(クズ)と変わらないからね」

「え?」

 クスリと笑うと里長は私の目を覗き込むようにして言葉を継ぐ。


「お前さんの生き様に興味があるのさ。しっかり生き残って邪神(クズ)をがっかりさせるところが見てみたい」

「あー確かにその出歯亀根性は邪神といい勝負ですね」

 軽く肩を竦める私に、でだと里長は懐から緻密な彫刻がされた木製の腕輪を取り出した。


「こいつは隠蔽の魔道具でね、装着者のステータスを偽装できる。町で暮らすならステータスカードを作る必要があるが…お前さん、見られたら困るものばかりだろう」

「…おっしゃる通りです」

 里長の話に深いため息と共に頷く。


『異世界常識』だとベテラン冒険者のレベルが30前後。

一般人となると10に満たない。


だというのに私のレベルはさらに上がって32、数値も普通の人族の域を軽く超えている。

何より一番不味いのが〈称号〉『異世界人』だ。

こんなものを晒したら権力者に目を付けられること請け合いだろう。


「試しに付けてみな、隠したいものや変えたいところを思い浮かべながらね」

 言われるまま腕輪を左手首に通すとピッタリのサイズに変わる。

次いで自身に鑑定をかけると。



 〈 カナエ(ユズキ) 〉


 16歳

 Lv. 3 (32)


 HP 150 (2950)/150 (2950)

 МP 120 (3600)/120 (3600)

 攻撃力 100 (9000)

 防御力 130 (13000)


〈スキル〉

 『アイテムボックス』『一般教養・礼節』『家事』

 (『空間魔法』『異世界常識』『鑑定』)


〈称号〉

 無し (『異世界人』『料理研究者』『報復者』)


〈ギフト〉

 無し (『家』(進化可能物件))


「普通の人族並みのステータスに変わりました。…でもいただいて本当にいいんですか」

「ああ、お前さんは国宝である『妖弓シルフィン』をエルフ族の手に戻してくれた恩人だ。それくらい安いものさ」

 そう言って笑う里長に深く感謝するのだった。



ハンモック風の寝床でぐっすり眠った後、朝はお粥にいろいろな総菜を好きにトッピングする料理が出た。

どれも美味しくて大満足。

最後に出されたレン茶を飲んでいたら里長がやって来た。


「この里で一番足の速い使い魔を用意した」

「重ね重ねありがとうございます」

 深々と頭を下げる私をキリカさんが促し外へと案内される。


「…これって」

 里の外れにある広場に鹿とも馬ともつかない白い体色の動物がいた。


「麒麟を見るのは初めてか?」

「はい、綺麗な生き物ですね」

 頷きながら近寄ってきた麒麟を見つめる。


「賢く穏やかな性を持つものだ。瞬間移動のスキルが有り千メルトの距離を1日で走破出来る。この白燐ならば森の外れまで6日で着く…そこから先は自力となる。すまないな」

 聞くと使い魔としての麒麟は希少で、人族の町では悪目立ちするし盗難にも合いやすいそうだ。

なので森を出たら放ってやって欲しいとお願いされた。

そうすれば自分でエルフたちの下へと帰ってくるらしい。


「いえ、森を出られるなら大助かりです。いろいろとありがとうございます」

 そうキリカさんにお礼を言っていたら遅れて里長がやって来た。


「頼まれた金だ」

 人族の町に行くにしても先立つものが必要だ。

なので魔石のいくつかを現金化してもらうようお願いしておいたのだ。

もちろん、換金手数料はきちんと差し引いてもらってる。


差し出された小袋を受け取るとズシリとした重さが伝わってきた。


「…多すぎませんか?」

 首を傾げる私に、何のと里長が笑う。


「お前さんが寄越した魔石はSやA級の魔物の物ばかりだ。これくらいには優になるさ」

「…町で換金する時は気を付けます」

 相場はしっかり調べておいた方が良さそうだ。

下手を打って目を付けられたくはない。


「それじゃあ白燐をお借りして行きます。本当にお世話になりました」

 深く頭を下げると私は麒麟に跨った。


軽く練習したが、キリカさんが言った通りに賢い子で私を振り落とすことなく走ってくれた。


「ああ、縁があったらまた会おう」

「気をつけて」

 里長とキリカさんに見送られ、私は購入したマントを羽織りエルフの里を出発した。




「今日は此処までだね。ご苦労さん」

 白燐の背を軽く叩いて足を止めると周囲を見回す。

陽が落ちかけているので急いで『家』を取り出した。


しかし瞬間移動スキルってのは本当に凄い。

千メルト(約五百キロ )の距離を1日で走破と言っていたけど、それは誇張ではなく真実だった。

さっきまでいた場所から一瞬で遥か彼方に移動された時はマジで肝を潰した。


「はい、ご飯だよ」

 家の脇に繋ぐと教えられた通り小粒の魔石を与える。

麒麟の食料が魔石と聞いた時は驚いたが、優美な見かけでもちゃんと魔物なのだなと感心した。


ボリボリと音を立てて美味しそうに魔石を食べるさまを見守ってから、また明日ねと手を振る。


エルフの里を出てから早2日、今日あたりあの邪神からコンタクトがあるはず。

さあ来いとばかりにテレビの前に陣取りながら手早くコピーしたカップ麺で夕食を済ます。


前のコンタクトから考えを改めて、クソ邪神の所為で死んでしまったトーランドという人の供養にもなるかと『何でもコピー袋』を使うことにした。


失ったМP3分の2は一晩寝れば回復するので寝る前にせっせと災害用持ち出し袋の中身を複製して増やしている。


オリジナルと食べ比べてみたが味や食感に大差は無し。

使いようによっては本当に便利なアイテムだと思う。



「ハーイ、神様通信の時間だよー」

 画面に出てきたクソ邪神を睨みつける。


「僕が送ってあげたスマホの調子はどうかなー。ちゃんと僕の姿がみえてるぅ?」

 クソ邪神が言ったことに思わず眉が寄る。


スマホ?…私にはそんなものは無かった。

だがこれで他の者たちがクソ邪神のふざけた配信をどうやって見せられているかが分かった。


「はーい、今週の結果発表ーっ」

 前と同じ『ヒュードンドン、パフパフ』という効果音付きで画面に『13/28』という数字が表れる。


「この一週間で5人のお仲間が死んでしまいました。悲しいね~っ」

 そう言う顔は前回と変わらず完全に面白がっている。


「まずは…」

 嬉々として5名の死亡理由を面白おかしく説明して行く。

本当に胸糞が悪い。


「でも残念な者たちのことばかりじゃつまらないよね。ってことで頑張ってる者を紹介しようー。題して『今週の優秀者は誰だコーナー』だよ」

 パチパチと手を叩いてからパチンと指を鳴らす。


「はい、彼はエルデ君。竜人族でスキルは『剣技』『火魔法』『超・強化』だよ」

 画面には漆黒の鱗と黒い角を持った竜人の青年の姿が映る。


「ギフトは『魔剣ガルドボルグ』剣も魔法も得意なオールラウンダーさ」

 個人情報保護法の文字はこの邪神の辞書には無いようだ。

勝手に手の内を晒されたら死活問題だろうに。


「現在のレベルは32で君たちの中では1番の高レベル者だね」

 邪神の言葉に思わず首を傾げる。


エルフの里を出てからも襲ってくる魔物を狩りまくっているので私のレベルは今は33だ。

だが集計時には彼の方が上だった可能性もあるかと思い直す。


「しかも彼、僕の言うことを聞いて残されたギフト集めをしてるんだよね。そういう素直な子は好きだよ」

 ニコニコと笑いながら邪神はその成果を口にする。


「彼が集めたのは『ファイアーナックル』『『全能の杖』『駿足の靴』『毒・石化無効のペンダント』だね。この先どれくらい集められるかなぁ」


邪神の話が本当なら『妖弓シルフィン』を手に入れようとアースドラゴンに喧嘩を売ったのは彼だったのだろう。

けどさすがの彼も物理も魔法も効かない相手には退散するしかなかったようだが。


「それじゃあ、また来週~っ。何人生き残っているか実に楽しみだよ」

 前回と同様に満面の笑みで手を振る姿が徐々に消えて行く。


「…相変わらずのクソだな」

 溜息をつくと黒くなった画面から視線を外す。


「けどエルデ君だっけ、集めているのが盗品だと…知らないだろうな」

 このままだと人里に出た時にトラブルに巻き込まれるのは必至だ。


それもまた邪神の計画通りだと思うと他人事ながら腹が立つ。


「…風呂に入って寝よう」

 どんなに不快に思えても今の私に出来ることは無いのでさっさと寝ることにする。

明日も魔の森縦走が待っているのだから。 



早々に評価、ブックマークをどうもありがとうございます。

これからも楽しんでいただけるよう頑張ります。(⋈◍>◡<◍)。✧♡



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