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47、セドとターリク


「到着っと」

 さすがに魔王様のように一瞬でとは行かず、2度ほど中継地点を経由して無事に留守番組の下へと着いた。


「ター兄ちゃんっ」

 姿を見るなりセド君がターリク君に飛びついた。


「は?…もしかしてお前」

 驚きながらもしっかり抱き留めたターリク君が震え声で尋ねる。


「…セドか?」

 姿が変わっていてもさっきの魔王様の変身を目の当たりにしていたからか、すぐにセド君だと分かったようだ。


「うん、僕だよっ」

 それは嬉しそうに笑うセド君を見て、その身をガシッと抱きしめる。


「生きてたんだなっ、セドっ」

「カナ姉ちゃんとリシュー兄ちゃんに助けてもらったんだ」

 にっこり笑って此方を振り返るセド君に、そうかとターリク君がその言葉を噛み締めるように頷く。


「会えて良かったね、セド君」

「うん、リシュー兄ちゃん」

 近付いて頭を撫でるリシュー君に嬉し気に頷くセド君に見てから、ターリク君は其方へと視線を向ける。


「リシュー?…毒キノコを食って死んだと聞いたが、お前も俺らと同じか」

「そうだよ。死にかけていたところをカナエに助けてもらって、それからずっと一緒にいるんだ」

 何故か自慢げに言葉を綴るリシュー君。


そんな遣り取りを横目に当主に魔王様のことを教える。


「は?魔の森で魔物相手に暴れているっ!?」

 メチャクチャ焦っている当主の話によると、20年ほど前に力試しと称してこっそり単独で魔の森へと出掛けていったことがあったそうだ。


事態を知り慌てて後を追った一同が目にしたのは、地形が変わり主な魔物が絶滅寸前まで倒されてしまい死の荒野と化した森だった。


凄くノリノリで走っていったからなー。

早めに止めないと今回もそうなる可能性は高いだろう。


羅針盤で魔の森に向かう当主に魔法の言葉を教えてからその背を見送る。

取り敢えず『頑張れ』と心の中でエールを送っておいた。



「感動の再会中すみませんが、スマホはどうなりました?」

 そう声をかけると、ターリク君が訝し気な顔のまま懐を探り出す。


「…無い」

 懐から出て来たのは一掴みの灰の塊。


ファイアボールが当たる寸前に『結界』で囲ったからな。

リシュー君の時と同じように、そのまま死亡認定されたんだろう。

どうやらターリク君も無事にヤツの監視から外れることが出来たようだ。


その事を説明すると、そうかとターリク君から深い安堵の息が漏れ出る。


「奴に関わるとロクな目に遭わないからな。良かったぜ」

「セド君同様これであなたも晴れて自由の身と言うことですが、この先はどうします?特にないのなら身を隠す場所くらいは提供しますよ」

「…考えさせてくれ」

 そう言って黙り込むターリク君。


まあ、彼の立場なら『はいそうですか』と簡単には頷くことは出来ないな。

今の段階では私たちを本当に信用していいか分からないだろうから。



「ところでそろそろお昼だけど」

「僕、カレーが食べたいっ」

「うん、食べたい」

 元気よく手を上げたセド君のリクエストにリシュー君も賛同する。


「じゃあカレーを作るから、その間にセド君は宿題をやっておいて」

「はーい」

 良いお返事が返って来たので収納からリシュー君が作った算数ドリルを取り出す。


セド君は言語理解のスキルのおかげで読み書きは何とか大丈夫だが、学校に行ったことがなかったので算数は未経験だった。


なので妹の勉強を見ていた経験のあるリシュー君が先生役になっていろいろと教えてあげている。

今は九九を猛勉強中だ。


仲良くテーブルでドリルをやり出した2人の姿にターリク君が唖然とした後、ゆっくりとその唇に笑みが浮かんで行く。


「大事にしてもらってんだな」

「当たり前ですよ。6歳児を邪険にしたら児童虐待でしょうが」

「…俺が育ったところじゃ弱いガキは死んで当然だったからな」

 ぽつりと呟かれた言葉に彼の過去が偲ばれたが…ここはスルーした方が良いだろう。

誰だって触れられたくないことはある。



「よし、出来上がり。で、これを」

 ガオガイズ家の料理人さんに『熟成』を付与してもらった魔石を取り出してさらに美味しくさせる。

これは本当に便利でいろいろな料理に利用させてもらっている。


「帰ったぞ」

 そうこうしているうちに魔王様と当主が戻って来た。


「丁度良いタイミングでした。カレーが出来てますよ」

「うむ、まだ狩り切れなかったがカレーが待っていると聞いて早く戻ったのだ」

 そんなことを言いながら席に着く魔王様。

その横では当主が感謝に満ちた目でこっちを見ている。


どうやら無事に魔物絶滅の危機は去ったようだ。


「そういえば討伐隊はどうなりました?」

 遠目で見ただけだがかなりの数の魔物に囲まれていた。

あのままだったら全滅は免れなかったろう。


「我が戦い出したらその隙をついて森の外へと逃げて行ったぞ。少し被害は出たようだが無事と言っていいだろう」

「それは良かったです。攻撃を命じた枢機卿はともかく同行の騎士団には何の咎もありませんから」

 私の言に、うむと魔王様も頷く。


「このことは魔国から各国に詳細を通達します。証拠もないまま冒険者を殺めたと」

 当主の言に私も賛成する。


「そこは特にお願いします。枢機卿の評判が落ちればそれだけ指名手配解除が近付きますから」

「どういうことだ?」

 不思議そうなターリク君にカレーを盛り付ける手を止めぬまま説明する。


「…そうか。確かにそれならアレクセイたちの助けになるな」

 袂を分かったとは言え、ターリク君にとってアレクセイ君たちは今もセド君同様に大切な仲間なのだろう。

大きく頷くとターリク君はテーブルの上に『万能暗器』と着けていた腕輪を置く。


聞けばこの腕輪の中に『無双槍アルゴルン』が収納されているのだそう。

使いたいと念じれば現れて、用が無くなればまた腕輪に戻る便利仕様なのだとか。

まあ、背よりも大きい長槍を常に持ち歩くのは不便なのでこの収納機能は有難いな。


「こいつらを持って行ってくれ」

「良いのか?」

 あっさりと所有権を放棄することに魔王様が少しばかり感心した様子で問いかける。

それに対してターリク君は毅然と顔を上げて口を開く。


「構わない。そもそも奴から渡された物で俺のじゃないからな」

「その意気や良し、我が預かろう」

 ターリク君の言に満足げに頷いてから魔王様は私の方へと顔を向ける。


「話は済んだ。カレーをくれ」

「はいはい」

 小さく息をついてからその前にカレーの大盛りを差し出す。


「む、これは前とは違うな」

「ええ、今回はたくさん動いてお腹が空いたでしょうからカツカレーにしました」

 某チェーン店にある千切りキャベツと草鞋のようなカツを乗せたボリュームたっぷりなカレーを目にした魔王様がご機嫌でスプーンを手に取った。


「うむ、大儀である」

 言うが早いか次々とカレーを口に運ぶ魔王様。

それを見て。


「カナ姉ちゃん、僕もー」

「僕も食べたいっ」

 揃って声を上げるセド君とリシュー君に辛さ控えめなものを渡して行く。


当主とターリク君にも行き渡ったところで改めて声を上げる。


「はい、いただきます」

「「いただきますっ」」

 声を揃えて笑顔で言うとリシュー君とセド君が食べ始める。

仲がいいね、君たちは。




「で、進捗状況はどうなってる?」

 私の問いにメネが上機嫌で言葉を綴る。

『上々よ、例の俗物がとうとう拘束されたしね』


ターリク君を救出してから2ヶ月が経った。


魔国から発信された国宝物返還情報と枢機卿の醜聞は各国を駆け巡り、その所業に非難が集中した。


特に魔の森での行い…ターリク君が持っているはずのギフトを魔国が返還したので無関係の獣人の冒険者を誤って死亡させたとなった。

その時の攻撃の所為で討伐隊が魔物に囲まれ全滅の危機にさらされたことも含めて大問題になった。


当人はいろいろと言い訳を…要は『俺は悪くねぇ』していたが誰も取り合わず、擁護してくれる者も無く神殿の塔に幽閉されることになった。


普段からして鼻摘み者だったからな、やっぱ日頃の行いって大事だよね。


「なら神託は?」

『無効までとはいってないけど、今は誰も信じてないわね。カナエちゃんの思惑通り近いうちに指名手配は解除されるんじゃないかしら』

 そうなればアレクセイ君たちも大手を振って森の外に出られるだろう。



「カナ姉ちゃん、お腹空いたぁ」

「僕もっ」

 今日の分の勉強が終わり、セド君とリシュー君が元気よく此方へと駆けて来る。


「お帰り、今日の夕飯は土鍋で炊いた鯛めしに大根とボアの角煮、貝柱と海藻のポン酢和え、ポテトサラダと御吸物だよ」

 鯛めしはさっぱり味なので、こってりしたおかずとよく合う。


「やった、角煮は大好きなんだ」

「僕もー」

 キャッキャッと喜ぶお子様2人。


「我も空いたぞ」

「お、俺もだ」

「………」

 続いてやって来た魔王様、ターリク君はともかくエルデ君は口も利けないくらいボロボロだ。

まあ、これも此処ではお馴染みの光景だが。


あれから魔王様の強い要望によって私たちは魔国へと向かった。

まあ、ターリク君が魔国で保護されることになってセド君も一緒に行くとなったんだけど。


「カナ姉ちゃんとリシュー兄ちゃんとメネちゃんは来ないの?」

 と涙目で言われたのが決め手かな。

で、現在は異世界人全員が魔王城で暮らしている。


エルデ君は弟子として魔王様にビシバシ扱かれる毎日を送りながらリンさんとイチャラブ中。


ターリク君も最初は同じように弟子にされかけたんだけど『隠形』のスキル持ちということで宰相さんの直属部隊である隠密班に入れられた。

此処の訓練も厳しいらしいが『エルデに比べたらずっとマシ』と当人が言っていた。


セド君はリシュー君と一緒に宰相さんが手配してくれた学校に通っていて勉強中。

どちらも同年代の友達が出来て楽しそうだ。


メネは相変わらず好き勝手にあちこちを飛び回っては噂の収集に精を出し。


そして私は魔王様の世話係らしきものをしている。

魔王城にはちゃんとお世話をするメイドさんたちがいるので、らしきものだ。


何しろ究極の自由人である魔王様がただ一人言うことを聞く存在と認識され、宰相さんや当主を始めとした四天王や魔国貴族から拝み倒される形で引き受ける羽目になった。


私は我が侭を言ったらおやつ抜きと宣言しただけなんだが…。

それで素直に頷いてしまう魔王様の方がどうかと思う。



「大丈夫か、エルデ」

「お、おう。これくらい屁でもねぇ」

 傷だらけのエルデ君の側にリンさんがやって来て治癒魔法をかけてやっている。


彼女が此処にいるのは『エルデの好物を作れるようになりたい』と私の下で料理修行に励んでいるからだ。

本当に出来た嫁だ。


「この角煮は私も手伝ったのだ」

「そうか…うん、美味いぜ」

「良かった」

 そんな幸せに満ちた遣り取りをするご両人。


しかし好事魔多し。

「そうか、屁でも無いなら明日の修行は倍にしよう」

 鯛めしを口に運びながらしれっとそんなことを言う魔王様。


途端にエルデ君の顔色が悪くなるが…リンさんの前だからだろう。

「望むところだぜっ」

 と盛大に虚勢を張りさらに墓穴を掘っていたな。


そんな彼に心の中で『頑張れ』とエールを送っておいた。



『ちょっと、ちょっと、ちょっと』

 夕食が終わり魔王様が宰相さんに捕まって執務室へと連行された後、お馴染みのフレーズと共にメネが私の肩に降りて来る。


「何かあった?」

『あったというか…アレクセイちゃんたちのところに送ったターリクちゃんの手紙なんだけど』

 まったく情報が得られないというのも不安だろうと10日に一回くらいの頻度で彼らの下に手紙を届けてもらっている。


精霊たちによるリレー方式での配達なのでそれくらいの時間が必要なのだ。

渡し方もこっそりと眠っている彼らの枕元に置くので初めは怪しまれて読まずに捨てられていたが、最近では目を通すようにはなってくれていた。


まあ、ありのままを書いても…セド君が生きてるとか、今は魔王様に保護されてるとかは信じてもらえないだろうからそこは伏せた当たり障りのない内容になっているが。


『それが元で揉め事が起っちゃってね』

「あー、ミオリちゃんか」

 私の言にメネが呆れ顔を浮かべて頷く。


『あの子、アイツの神託と本気で心中する気みたいよぉ』

 物騒なメネの言葉にその場にいた誰もが此方に顔を向けた。


何がどうなっているのか詳しく聞くとしよう。



評価&ブックマークをありがとうございます。

次回「48話 邪神の巫女」は火曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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