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40、最悪な神託


「とにかく落ち着いて」

「そうだよ。何でそんなことに?」

 私とリシュー君に言われてメネがその場で大きく息を吸う。


『精霊たちが教えてくれたの。ルイジン国神殿の枢機卿に神託が下ったって』

「…内容からして発信元は」

『ええ、アイツよ』

 深く頷かれて私とリシュー君から派手な溜息が漏れ出る。


『不味いことにその枢機卿がとんだ食わせものでね』

 メネの話によるとそいつは名誉欲の塊で今の地位も金で買った俗物だとか。


当然のことながらそんな者に神託が下りるはずもなく、他の枢機卿には下りるのに自分には一度もないことがコンプレックスになっていた。


劣等感を抱えた日々を送っていた彼のところに初めて下りた神託。

しかも内容が国宝であるすべての攻撃を無効とする『不死身の指輪』を盗人から取り戻せと言う名誉なもの。


指輪は半年前に宝物庫から消えてしまった物で、これをアレクセイ君が有しているそうだ。


そりゃ張り切るよね。

これで他者を見返せるとすぐさま国王に働きかけて討伐隊を編成し、明日にも当人も一緒に魔の森へと向かうことになったそうだ。


しかもルイジンの国王が武器や魔道具を盗まれた他の国にも事の次第を教えた為、その国々も独自に捜索隊を出すことに。


何よりミオリちゃんが持つ『直感のペンダント』の本来の所有主であるサラオレ神国が奪還に燃えているとか。

それは60年前に消失した聖女が手にすべき聖具で、盗まれた為に未だに聖女が出現しないと考えられているので盗人に対して恨み骨髄らしい。


「で、でも何だってそんなことを…」

 訳が分からないと言った顔をするリシュー君に向かい溜息混じりに答えを紡ぐ。


「ドラマで良くあるみたいに主人公が何の障害もなくすんなり成功するより波風が立ってピンチに陥った方が見てて楽しいからだよ。前にアレクセイ君たちのことを『代わり映えしないから退屈』とか言ってたしね」

 私の言葉にメネが大きく頷く。


『それ言えるわね。きっとエルデちゃんが魔王に敗れて死んだと思ったから、残ったアレクセイちゃんたちに試練を与えて面白くしたつもりなんだわ』

 それが真実だろう。

あのクソ邪神ならそうするとしか思えない。

本当にとことんクソだな、あいつはっ。


「とにかく魔王様にこのことを報告しよう。魔国にも関係があるしね」


アレクセイ君の仲間のヴォロド君のギフトである胸甲…胸部と背部をしっかり防御する分厚い胸当てと背当てからなる鎧…は半年前に『魔杖リオンサート』と共に消えた『魔鎧ランツフート』だ。


ベストに似たシンプルな作りながらその防御力は高く、魔法攻撃無効の効果が付いている魔国のお宝の一つだ。



「ふむ、なかなかに面倒なことになっておるの」

 考え込む魔王様の横で当主も思案顔だ。


「クルーン大陸にあるルイジン国からこの魔の森があるハウター大陸までですと陸路と海路を使って最速でも7日はかかりましょう。他の国もこれから捜索隊を組織するとなると同じくらいはかかるかと」


当主の言が確かなら猶予は7日間か。

それまでにアレクセイ君たちと接触して何とかしないと。


それにギフトとして渡された盗品の武器や魔道具は彼らが持っている物だけではない。


所有者が不明なものを除いてもリシュー君の『極盾ロイヤ』『破槍アトラル』『天鳥の羽帽子』

エルデ君の『ファイアーナックル』『全能の杖』『駿足の靴』『毒・石化無効のペンダント』

これらも早く持ち主に返した方が無難だろう。


因みに魔王様の愛刀『魔剣ガルドボルグ』は既に返還済みなのでノーカンだ。

代わりに『こっちならそう危険はないだろう』ともう一つの愛刀である『魔剣ダーインスレイヴ』を渡されてエルデ君がガクブルしてたな。


ただ今は貸すだけで晴れて免許皆伝となったら正式に下賜されるそうだ。

リンさんの為にも頑張れと言ったらビビっていたのは何処へやら俄然張り切り出したけど。


それはさておき、ものは相談と魔王様に取り引きを持ち掛ける。


「此方になります」

 リシュー君とエルデ君が集めたギフトを魔王様たちの前に広げる。


「これは…」

「ふむ、これだけの数が揃うと壮観だな」

 絶句する当主の横で魔王様が感心したように言葉を綴る。


「これらを一旦、魔王様に譲渡したいと思います。その後で元の持ち主に魔国から返還と言う形にすれば相手国に大きな貸しを与えられるのでは?」

 私の提案に考え込む魔王様。


「確かにそうだが…それについてのお前たちへの対価はなんだ」

「はっきり言ってこれは厄介払いです」

『本当にはっきり言うわね』

 呆れるメネに構うことなく話を続けて行く。


「何の後ろ盾も無い私たちが返すよりも魔国を挟んだ方が円滑に事が運ぶでしょうし、私たちも渡り人であることが知られずに済みます。何より魔王様ならば悪いようにはしないと信じられますので」

「なるほど、そう来たか」

 大きく頷く魔王様、さすがに理解力が高くて助かる。


「ですがこれだけの宝物をどうやって手に入れたかと聞かれた時にどう答えれば…」

 もっともな当主の疑問に、それについてはと私の考えを伝える。


「運よく盗品の隠し場所を見つけたとでも言えば良いのでは。疑う者もおりましょうがそれを証明する術がない以上、文句のつけようはございますまい」

 推定無罪というやつだ。

しれっと言ってやれば当主は唖然となり、その横で魔王様が爆笑してる。


後で聞いたら私の厚顔不遜ぶりがツボに入ったんだとか。


「いや、久々に楽しませてもらった。この我に怯むことなく互角に渡り合うとは大した女だな、お前は」

「誉め言葉と受け取っておきます。それで?」

 笑い過ぎた所為で目尻に涙を溜めてる魔王様に聞き返す。


「提案を受け入れよう。此処にあるものは我が預かる」

「ありがとうございます」

 深々と頭を下げ秘かに安堵の息を吐いた。


他に類を見ない膨大な魔力量とそれに裏打ちされた高い戦闘能力。

それらを持つ魔族は殊更にプライドが高い。


その高いプライド故に彼らは正々堂々を好む。

卑怯な真似は自らが弱いと喧伝しているに等しいからだ。


そこは信頼が置けるので提示した案件だったが、魔王様が私の申し出に応じてくれて良かったよ。

ホッとする私に耳に届いた声。


「魔王と取り引きとか…とんでもない女だな」

「そうかな、頼りになると僕は思うけど」

「味方ならな。敵に回ったらと考えるだけで嫌だぜ」

 こそこそとそんな話をしているリシュー君とエルデ君。


そこ、聞こえているからね。

チラリと視線を向ければリシュー君は笑顔で此方に手を振り、エルデ君は顔色を変えて引き攣った笑みを返してきた。


そんな遣り取りをしていた私に魔王様の声がかかる。


「神託により追われる身になった渡来人たちはどうするのだ?」

 魔王様の問いに小さく息をついてから口を開く。


「いきなり訪ねても警戒されるだけだと思いますので、まずは状況確認でしょうか。下手に動くより彼らの内情を知ってからの方が良いかと」

 私の考えに、うむと魔王様も頷く。


「それが良かろうな。だが魔国としても『魔鎧ランツフート』は是が非にも奪還せねばならぬ、その渡来人たちの出方次第では追う側となるぞ」

 魔国のトップとしては当然の言だろう。

なので私も静かに頷く。


「ギフトを返すよう説得はしてみますが…それが叶わぬ時は仕方ありません」

「そうならぬことを此方としても望む。励め」

「承知いたしました」

 淑女の礼をする私に笑みを向けると魔王様は当主に向き直った。


「これより魔国に帰還する」

「は、グ族の者たちの準備が整いましたら出発いたします」

 胸に手を当てて頭を下げると当主は此方へと向き直る。


「其方たちも早く…」

「いえ、私どもは此処で失礼します」

 私の答えに少し驚いたようだが、すぐに小さく頷く。


「そうか、其方たちには『魔杖リオンサート』の件だけで無くいろいろと世話になった。いつでも我が城を訪ねてくれ」

「ありがとうございます。奥方様によろしくお伝えください」

「ああ、其方のおかげでリディアの憂いと辛さを知ることが出来だ。これからはすべてのものから妻を守り寄り添って行く。…感謝する」

 そう言って笑みを浮かべると当主は出発の差配の為に巨大トンボ部隊の方へと去って行った。


「俺も一緒に…」

「それは御免被ります」

 同行を申し出ようとしたのを断るとエルデ君が不満そうにこっちを見る。


「なんでだよっ」

「同郷の者のことが気になるのも分かりますが、あなたは他にやることがあるでしょう」

「あ?」

「魔国に行ってリンさんを支えるんでしょう。それに魔王様の弟子になったんですよね」

「…そうだった」

 どうやら忘れていたようだ。


「まずは魔国で自分の立ち位置を確定させなさい。すべてはそれからです」

 そう言ってやれば、分かったと力強く頷く。


「力を貸して欲しい時は此方から連絡しますので」

「おう、そん時は何を置いても駆けつけるぜ。何しろあんたは…その…リンと俺の恩人だからよ」

 ちょっと頬を染めての発言に私も笑顔で頷く。


「ええ、頼りにしてます。それとリンさんにカレーのレシピを渡しておきましたから頼めば作ってくれるかもしれませんよ」

「ほ、ホントかよっ」

 嬉しそうだなエルデ君。

ずっとこれが食いたかったと泣きながら食べてたからね。


「どうぞお幸せに」

「お、おう」

 軽く手を上げるとエルデ君は此方に向かって頭を下げるリンさんの下へと戻って行った。

好きなだけイチャつくと良い。

その後で魔王様のしごきが待っているだろうけどリンさんが居れば大丈夫だろう。


とは思うが…目の前で幸せそうに抱き合われると、ついこの言葉が口をつく。


「…リア充が、もげろっ」

『ちょっとぉ。何、呪いの言葉を吐いてるのよ』

「いや、単なるお一人様の(ひが)みだよ。ここはスルー推奨で」

 私の言にやれやれとばかりに首を振ってからメネが問いかける。


『それでこれからどうするの?』

「魔王様に言った通り、まずは状況確認だね。その結果次第で普通の冒険者を装って接触してみるよ」

 そこへ魔国の人達と別れの挨拶を終えたリシュー君が戻って来た。


「そう言えばリシュー君、頼んでいた物は?」

「もちろん手に入れたよ」

 満面の笑みを浮かべて腰に下がるマジック袋をポンと叩く。


「でかしたっ」

 大喜びの私に、うんとリシュー君も嬉しそうに頷く。


『頼んだって何を?』

 首を傾げるメネに、決まってるじゃないと2人して笑みを向ける。


「魔国と言ったら」

「お米だよねっ」

 私に続いてそう答えるリシュー君に、あらぁとメネから呆れが混じった声が上がる。


「宰相さんが今回の褒賞にってお金をくれようとしたから、それよりお米下さいって言ったら驚かれたけど凄くいっぱいくれたんだ」

 リシュー君の言に、そう言えばとメネが呆れ顔のまま言葉を綴る。


『確かにそれが最初に魔国に来ると決めた理由だったわね』

「でもこれで炊き立ての御飯が食べられるし、お米料理も作り放題だよ」

「やったっ、早く食べたい」

「任せなさいっ」

 そう胸を叩く私をリシュー君は満面の笑顔を、メネはため息混じりの苦笑を向けた。




読んでいただきありがとうございます。

次回「41話 指名手配」は金曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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