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37、因果は巡る


「その前に私たちの出自について他言しないと誓っていただけますでしょうか?」

 異世界人とバレて無用のしがらみに縛られるのは真っ平御免なので、まずはそこを押さえておく。


「分かった、契約魔法をかけよう」

 この魔法は提示した条件に反するとそれなりの報復が訪れる。

最高位のものだと破ると命を失う場合もある。


「良いのですか?」

 間髪入れずに返って来た答えにちょっと驚いていると当主が笑みを零しながら言葉を継ぐ。


「其方はそれに値するだけのことをしてくれた。何よりこの私を遣り込めるだけの知恵と豪胆さを有している。強き者を敬い信頼するのは魔族として当然のことだ」

 こんなところで魔族の特性が出るとは。

しかし私たちには好都合だ。


当主が契約魔法を自らにかけたのを見届けてから徐に口を開く。


「私どもを信頼して下さった御当主様に敬意を表してすべてをお話します。私と此方のリシュアンは異世界よりこちらに送られて来た者です」

「異世界…渡り人かっ」

 驚きに目を見開く当主の前で頷くと収納からテレビを取り出す。


「此方は過去の出来事を映し出す魔道具です。見ていただければ私どもがこの世界にやって来た訳が分かります」

 テーブルの上にテレビを設置してから当主にお願いする。


「家宝である『真実の鏡』を出していただけますか」

「いいだろう、噓偽りがあれば必ず鏡が反応するからな」

 私の言葉に頷くと当主が別空間から先日見た鏡を引っ張り出す。


「では始めます」

 すぐに暗かった画面が明るくなって行く。

そして…。


『ハーイ、神様通信の時間だよー』

 出てきたのは金髪碧眼のイケメン、でも笑っているその顔は…胡散臭さ100パーセント。


『初めまして。僕は君たちをこの世界・エンディアに呼んだ神様さ』

 クソ邪神がそう言った途端、鏡が反応した。


その鏡面に『神様』の文字が浮かび、次いでそれが『創造神の眷属』に代わる。


いや、本当に優秀な鏡だな。

クソ邪神の嘘もちゃんと指摘してくれる。

その性能に満足しつつ流れる映像を見つめた。


『僕から貰ったギフトは『ファイアーナックル』でバリバリの格闘系だったんだけど…自分がまだレベル1だってことを知らなかったみたいでさー。S級の魔物に挑んであっさり殺られちゃいました』


『死んだ彼らが残したギフトは拾った者に所有権が移るから探してみるのもいいかもね。欲しいのがあったらドンドン手に入れよう。持ち主が死にさえすればそれは君の物だ』


『それじゃあ、また来週~っ。何人生き残っているか実に楽しみだよ』

 満面の笑みで手を振る姿が徐々に消えて行く。

相変わらず辟易するほどのクソぷりだな。


「これは…まさか神の眷属がこのような非道を」

 あまりのことに二の句が継げぬ様子の当主。

だが鏡が反応しない以上、これが紛れもない事実であることは明白だ。


「続いてこちらも」

 当主が何か言う前に第2回、3回と順にすべての通信を再生して見せる。


目を見開いたまま微動だにしない当主。

まあ、創造神の眷属が自分の楽しみの為だけに異世界人の魂を攫って来てこんなことをしているなんて俄かには信じられないのも無理はない。

押し寄せる情報を吞み込むだけで精一杯といったところか。


「いや、待て。待ってくれっ」

 呆けたように映像を見ていた当主が12回目の途中で突然立ち上がった。


「こんなことがあろうとは…」

 何故か愕然とした様子で呟くと此方へと向き直る。


「済まぬが其方たちのことを魔王様にお知らせしなければならん」

 いきなりのことに私、リシュー君、メネも驚く。


『どういうことぉ。いきなり契約破り?』

「でも違反したら報復があるんでしょう」

 呆れるメネと心配するリシュー君に、それはと当主が困惑したまま言葉を返す。


「このエルデという者が持つ『魔剣ガルドボルグ』は60年前に盗まれた魔王様の愛剣だ」

「はいぃ?」

 とんでもない事実に変な声が出た。

しかし驚くのはまだ早かった。


「その責めを負い自死されたのが当時の武具管理官であったグ族の頭領であるカナン殿だ」

「ってことは…」

「ああ、彼の妻となったリン嬢はカナン殿の娘…彼女が幼い頃に何度か会っているから間違いない」


まさかの巡り合わせ…いや、この場合は因果(いんが)か。


「これが事実だとしたらカナン殿は死ぬこともなく、グ族も追われることはなかっただろう」

 無念そうに言葉を綴る当主。


後で聞いたが当主の父親とカナンさんは王宮に勤めた時の同期で仲も良く、家族ぐるみでの付き合いがあったそうだ。


深いため息の後、当主が盗難時のことを教えてくれた。


当時は隣のクルーン大陸で大掛かりな戦争が起こっていて、どちらの陣営も強国である魔国を味方に引き入れるか、でなければ国力を削ぐよう画策していて世情不穏この上なかった。


そんな中での『魔剣ガルドボルグ』の盗難事件だ。

管理責任者だったカナンさんは当然のことながら責められ、どこかの国と内通しているのではとの疑いまでかけられた。


自らの死によって潔白を証明しようとしたが…逆に罪を暴かれることを恐れての死とされて有罪となり、彼の一族郎党すべてが魔国から謀反人の一味とされ召し捕られることになった。


しかし一族の者は頭領であるカナンさんの無実を信じ、魔国から逃亡した。

いつかカナンさんの汚名を濯ぐことを誓って。


リンさんがエルデ君にあそこまで執着…と言うより監視だな…しているのは父親の死と一族が追われることになった元凶である『魔剣ガルドボルグ』を有していたからだろう。


彼女にしてみたら何としても取り戻したい、なので剣を持ったまま逃げないよう夫婦になって自らの監視下に置いたわけか。

いずれ隙を見てエルデ君から剣を奪い返すために。


「確かにこれは魔王様にお話ししない訳には行きませんね」

 溜息混じりに頷くと、先程かけた契約魔法を解除してもらう。

しかし本当にロクなことをしないな、あのクソはっ。


「ところで『魔杖リオンサート』紛失の責任は問われなかったんですか?」

 精霊ネットワークでもそれについての情報は入って来なかったので聞いてみたら。


「あれは紛失の状況が普通では無かったからな」

 苦笑を浮かべる当主によると魔杖が消えたのは王室会議の真っ最中。

魔王、四天王、その他の魔国貴族が揃っていた中で魔杖が光ったと思ったら忽然と消え失せた。


目撃者は国の重鎮一同。

その後いくら調べても魔法の痕跡は皆無。

もはやこれは神的な力が働いたとしか思えないと調査団は結論付けた。

よって当主にもガオガイズ家にも何のお咎めも無かったのだそう。


その結果を受けて60年前の『魔剣ガルドボルグ』の盗難も同じような状況だったのではという意見が出て、一件の見直しを図るよう魔王様から指令が出た矢先なのだとか。




「では出発します」

 グ族の悲劇を聞いた後、すぐに当主と私たちは此処に来る時に乗った巨大トンボを使い王城へと向かった。


王城はトンボで2時間ほどのところにあり、ガオガイズ家の城の4倍の大きさなのが上空から分かった。


「お疲れさまでした。到着いたしました」

 降りる時に手助けをしてくれた御者さんにお礼を言って地に足を付けるが、レース装飾がたっぷり付いた紫紺のベルラインスカートの所為で動き辛いことこの上ない。


魔王様に謁見ということで奥方様が張り切ってドレスやリシュー君の礼服を用意してくれたのだが、申し訳ないが着慣れないものを着るもんじゃ無いなというのが正直な感想だ。


少し行くとそこには近衛と思われる兵団が待っていた。


「ようこそ、お話は伺っております」

 先頭にいた執事長と思われる白髪のオジサマが恭しく此方に頭を下げる。

当主が先触れを出していたので大まかなことは伝わり済みのようだ。


オジサマに先導されて着いた先には同じような転移の魔法陣。

本来なら訪問者は表門から長い道のりを経て魔王の居城に行くのだそうだが、事は急を要するので思い切りショートカットで向かうことになった。


魔法陣が光ったと思ったら、次に現れたのは大きくて重厚な扉。

それが開かれた先にあるのは高い天井の大広間だった。


最奥に置かれた椅子に座しているのは…額に一本の青い角と尖った耳、漆黒の目と髪をした細身の男性。

一見するとただの美形な優男だが、その全身からとんでもない威厳と魔力を感じる。

さすがは魔王、半端ないな。


その周りには魔国の重鎮らしき4人が立っている。

誰もが一騎当千の(つわもの)たちと言った感じだ。


当主が先に立って歩き出し、その後に私とリシュー君が続く。

3mほどまでに近付いたところで当主が膝を折って臣下の礼を取る。

すぐに私たちも跪いて頭を下げた。


「頭を上げよ」

 魔王様の横に立っていた甲冑を纏った厳ついおっさん…メネによると四天王の一人、武のザライド将軍が声を上げる。


他は四天王である知のウェルナム、力のダワーズ、宰相という面子だそうだ。


「早速だが詳しい話を頼む。『魔剣ガルドボルグ』の行方が分かったそうだが」

 少しばかり身を乗り出して問う魔王様。

その顔によく合う美声だな。


「今は魔の森に住む竜人が所有しております。しかし由々しきことに彼に魔剣を与えた者がおるのです。カナン殿では無くその者が魔剣を盗んだ犯人と分かりました」

「何とっ」

 当主の言葉に驚きの表情を浮かべる魔王様と重鎮たち。


「ではやはり…」

「はい、それが真ならばカナンは無実だったと言うことですな」

 魔王様にそう答える宰相さん。

その言葉に誰もの顔が沈痛に染まる。


「その証となるものはありますかな」

 宰相さんの問いに頷くと立ち上がりまずは淑女の礼を取る。


「御前失礼いたします。私はカナエ、此方はリシュアンと精霊のメネです」

 名を呼ばれてリシュー君は剣士の礼を、メネは空中で優雅に頭を下げてみせる。


タキシード姿のメネに魔王様たちから小さなどよめきが起こる。

魔族にしても精霊は滅多に見ることの出来ない希少な存在のようだ。

中身はオネエだが。


「証を示す前に一つお約束願います」

「何だね?」

「私どものことを口外しないでいただきたいのです」

 その申し出に少し考え込んだが最終的には魔王さまが頷いた。


「…いいだろう。約束しよう」

 良し、言質は取った。

ならばクソ邪神のやらかしを(つまび)らかに知らしめてやろう。


「では此方を御覧下さい」

 収納からテレビを取り出し、その横に『真実の鏡』をセットしてもらう。

これで準備は万端、先に見せたのと同じ映像を再生する。


「…………」

 見終えた反応は当主とほぼ同じ。

誰もが許容範囲を超えた出来事に茫然としてしまっている。


「これは…神の眷属がこのような非道を」

 心ここにあらずと言った様子で呟く魔王様。

さすがは当主の上司だな、言ってることが同じだ。


「見たことを信じていただけたので?」

 私の問いに、ああと魔王様が力なく頷く。


「ガオガイズ家の『真実の鏡』に何の変化もないのだ。信じるしかあるまい」

 深いため息と共に椅子に力なく座り込んだ魔王様が口を開く。


「カナンとその一族に…申し訳が立たぬ」

 後悔に満ちた言葉を綴る魔王様の横で宰相さんが緩く首を振る。


「魔王様だけの過ちではございません。確かな証が無いというだけで断罪してしまった我らも同罪です」

 宰相さんの言にその場にいる重鎮たちも深く首を垂れた。


確かにカナンさんは無実だったのだから死ななくても良かったし、彼の一族も国外逃亡の果てに魔の森のような危険地帯で困窮する生活を送らずに済んだはずだ。


すべての元凶はあのクソ邪神だ。

滅びろと心の中で唱えてから魔王様に問いかける。


「この後はどうされるのです?」

「もちろんカナンの潔白を周知し、一族も魔国へ復帰させる。だがその前に…彼らに謝りたい。あの時の我の判断は間違いであったと」

 切なげに言葉を綴る魔王様。

国のトップでありながら自らの非をきちんと認めて謝罪するところはさすがだな。


「グ族が魔の森のどこに居るか分からぬが1日も早く見つけてやらねば」

「しかし一口に魔の森と言ってもあそこは広うございますからな」

「闇雲に探しても詮無きこと」

 宰相さんに続いて知のウェルナムさんがそう言うと魔王様から深いため息が零れる。


「あのー」

 ゆっくりと手を上げると全員の目が此方に向けられる。


「場所なら分かりますよ」

「まことかっ」

 驚く魔王様たちの前で頷いてから『探索の瞳』と『転移の羅針盤』を収納から取り出す。


「この魔道具を使えば場所も分かりますし、定員大人2名までですが転移も出来ます」

「2名だけか…」

「はい、ただこの魔道具の所有者は私になっていますので連れて行けるのはお一人となります」

 リシュー君を連れて初めて転移する前に念のため鑑定をかけた結果がこれだった。


メネや赤子になったロザリーちゃんくらいなら誤差扱いで何とかなったが、それ以上は無理だ。


「ならば我が行こう」

 そう言って立ち上がる魔王様に周囲は反対の声を…上げなかった。

と言うか完全に悟りを開いたような顔になって緩く首を振っている。


どうやらこの魔王様、普段から同じようなとんでも行動を起こしているようだ。


「済まぬが頼めるか。我々も時間はかかるがフライ部隊でその里に向かう」

 そう言って当主が深々と頭を下げた。


これは…断るという返事はさせてもらえないな。

仕方がない、魔王様と魔の森へGOだな。




誤字報告をありがとうございます。

次回「38話 再び魔の森へ」は火曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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