表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/76

35、ガオガイズ家の跡目問題


ガオガイズ家のお城の広間で待っていたら、近くにいたメイドさんたちが一斉に扉に向かって頭を下げた。


それからすぐに扉が開いて一人の魔族が姿を現す。

リシュー君とよく似た尖った耳に藤色の髪、ダークブルーの瞳をした美丈夫だ。


急いで立ち上がり私たちも深く頭を下げる。

するとすぐに、楽にせよとの声がかかった。


ゆっくりと顔を上げた私とリシュー君をまじまじと見つめてから徐に口を開く。


「どうやら今回は本物のようだな。ガオガイズ家の色を有しておる」

 ふむふむと頷いている当主。

確かにまったくの偶然だがリシュー君の髪と私の目の色は当主に酷似している。


「それにどちらもその魔力量は驚異ですらある」

 聞き捨てならないことを言ってから当主は悪戯な笑みを浮かべてとんでもない爆弾を落としてくれた。


「このメルバの『鑑定』は魔国随一でな、そのメルバでもすべては見通せなかった。良き隠蔽の魔道具を持っているようだ」

 そう言って横に立つ執事さんを見やる。


最初に会った時に執事にしては珍しく表情を動かして驚いていたので何かあるとは思ったが…まさか鑑定の名手だったとは。


しかし当主の爆弾発言はそれだけでは無かった。


「何より精霊を連れておるとは実に興味深い」

『あらヤダ、アタシのことまでバレてるのぉ』

 驚きの声を上げるメネに、良ければと当主が言葉を継ぐ。


「姿を見せてもらえまいか、精霊殿」

『仕方ないわねぇ、そこまで言われちゃ見せない訳には行かないわ。それに好みのタイプだしぃ』

 余計なことを言いつつメネがテーブルに降り立つ。


因みに今日のメネの服は貴族邸を訪ねるというので黒のタキシード姿だ。

本体である眼鏡の所為で某タ〇シード仮面に見えてしまうのは御愛嬌だが。


『初めましてだわ、アタシはメネ。御存じの通りの精霊よ』

 姿同様にその気になれば声も届くようになるそうで、礼儀正しくお辞儀をした後でそう言ってバチンとウィンクをして見せる姿に当主の相好が崩れる。


「おおう、何とも可愛らしいではないか」

 どうやら見かけによらず可愛い物好きのようだ。


『あらぁん、本当のことを言われると照れちゃうわぁ』

 そう言われたメネはメネでクネクネと体を揺らして恥じらっている。


可愛い可愛いとメネを褒め捲る当主と、それを受けて様々な可愛いポーズを取って見せるメネ。

何だかもう物凄いカオスな空間になって来た。


「デラント様、その辺で」

 見兼ねたのか執事さんが軌道修正に入る。


「ああ、そうだな。其方らにはこの前に立って我が一族であることを証明してもらおう」

 言いながら横の空間に手を伸ばし異空間…収納から1m四方の鏡を取り出す。

あれが『真実の鏡』なのだろう。


「その前にお聞きしたい事がございます」

「何だ?」

「このお家の御次男のことです。何故そこまで多くの女性と関係を?」

 私の問いに、ふむと少し考え込んでから当主が口を開く。


「確かに其方らには知る権利があるな」

 小さく頷いてから当主が語ったことは精霊ネットワークで仕入れた情報とあまり違いはなかったが、簡単に補足すると…。


ガオガイズ家の男は当主と年の離れた弟の2人がいる。


両親は随分前に当主に家督を譲り温暖な離島で悠々自適な毎日、弟は部屋住みとして城に残っていた。


その弟は噂通り…いや、噂以上の女好きでほとんど見境が無い。

メイドはもちろん、友人の恋人、人妻、果ては従姉妹にまで手を出していた。


本人曰く『自分が誘ったことなど一度もない、女が勝手に抱かれにやってくる』のだそうだ。


確かに名家であるガオガイズ家の一員で、当主に負けない美男子だそうなので肉食女子が群がるのも無理はないが…。


しかし彼がそこまで増長したのは周囲が派手な女遊びを黙認し誰も諫めようとはしなかったからだ。


その理由は彼の魔力量にあった。

魔法に長けたガオガイズ家の者でありながら弟は兄である当主に比べ魔力量が少なかった。


此処で問題なのが魔族の特性だ。

長命ではあるが、その魔力量の多さから子が生まれにくい。

他種族と比べると驚くほどの出生率の低さだ。


まず両親の魔力量の差が大きいと子は望めないし、生まれても早世する可能性が高い。


しかも同等の量の夫婦であっても内包魔力の多さに比例して出生率は低くなる。

現に当主も結婚してかなり経つが子供には恵まれていない。


だが魔力量の少ない弟ならば相手は選びたい放題。

多くの子を作ることが出来る。


よって弟が女性たちとの間に子をもうければ跡継ぎ問題は解決、家は安泰と考えた両親や親戚たちにより彼の女遊びは公認となり、あちこちで子種をバラまいた…ということらしい。


然しながらそこまでしても城にやって来るのは弟の子ではない者ばかりで、今現在ガオガイズ家の血を引いた子は現れていない。


「それは…何というか」

 呆れ返る私の前でバツが悪そうな顔をする当主。


「随分と罪なことをなさいましたね。いくら後継ぎが欲しいからと言って好き勝手に扱われ捨てられた女たちの身を考えたことはございませんでしたか?」

「それは…私も気の毒だとは思ったが。しかし名乗り出た者にはきちんと慰謝料として相応の金を渡しておるし」

 ぼそぼそと言い訳をしている当主の前で私は大きく息を吸い、思いの丈を口にする。


「虫のいいこと言ってんじゃねぇぞっ!」

「なっ…」

 大音響での怒声に当主だけでな周囲の者も驚きの目でこっちを見る。


「弄ばれて捨てられた女が自分からその恥を晒しに来るかっ。ほとんどの者はこの家の威光を恐れて泣き寝入りだ。そのバカ男が無理に関係を持った女たちを『ガオガイズ家に逆らったらどうなるか分かるな』と脅してるしなっ」

「何とっ」

 私の話に驚愕する当主。

だがこんなもんで終わりだと思うな。


「そもそもの設定が間違いだからなっ。そのバカ男は兄より自分の方が重要視されているという優越感に浸りたいがために嘘の魔力量を申告してたんだ。本来の魔力量は魔族の中でも多い方だ」

「ば、馬鹿な…魔力量判定は最新鋭の魔道具で」

 愕然となりながらも言葉を綴る当主の主張をこれでもかと蹴散らしてやる。


「所詮道具は道具だ、使う者によってどうとでも改竄できる。鑑定であっても私たちのことがすべて分からなかったように魔道具では簡単に誤魔化せる。それが証拠に未だに跡継ぎと呼べる存在は現れてないだろう」

 尤もな言葉に当主はぐうの音も出ない。


「…その話は本当なのか?」

「出所は精霊たちだ。彼らが見聞きしたものを信じないのは構わないが事実は事実だ」

『悪いけど本当よ。アンタの弟はとんだクズ男だわ』

 続けられたメネの言葉に当主はガックリと肩を落とした。


思う存分女漁りをしたい、兄よりも注目され周囲からチヤホヤされたい。

そんなアホな理由でバカ男は魔力量を少なく申告して多くの女たちを不幸にしていたのだ。


弟の言い分を鵜呑みにし、それを確かめもしなかった当主や一族も同罪だ。

バサッと大量の書類を収納から出して当主の前に積んでやる。


「これは?」

「精霊が集めてくれたバカ男の被害者たちの資料だ。状況を細かに書いてあるが…酷いものだ。最近は家の威光を笠に着て夫や婚約者の前で無理やり犯すのがお気に入りのようだ。その後で絶望した女の多くが自死したり、心を病んだりしている」


その書類はメネ経由で精霊たちから教えてもらった事を列記したものだ。

昨日はたっぷり眠った後だったので心置きなく徹夜で全部書き出しておいたから、しっかり読んで大いに反省してもらおう。


私の言に慌てて書類に目を通し始めるが…読み進めるに従って当主の顔色がどんどん悪くなる。


「このようなことになっていたとは。弟の言い分を疑いもせず放置とは…ガオガイズ家当主として失格だ」

 マリアナ海溝並みの深いため息を吐いて当主は頭を抱えた。


「まあ、そのバカ男にもついに天誅が下ったが」

「どういう事だ?」 

 ギョッとして聞き返す当主にバカ男の現状を教えてやる。


「最近、バカ男と連絡が取れていないのでは」

「そ、そうだ。1月前に外遊に出たまま何も言ってこない。しかしそれはよくある事で…弟がどうかしたのか?」

 最低なバカ男でもたった一人の弟なので心配のようだ。


「悪行の報いだ。バカ男を恨んだ者に痺れ薬を盛られて動けなくなったところで御付きの者共々魔力封じの枷をつけられてハイオーククィーンの巣穴に投げ込まれた」

「なっ」

 あまりのことに絶句する当主。


ハイオークは豚によく似た魔物で性欲が旺盛なのが有名だ。

種族関係なく見境なしに襲い掛かる。

そのクィーンは催淫のスキルを有していて、男を際限なく発情させることが出来るので24時間体制で励む。


大抵の場合、相手にされた男は精気を搾り尽くされ死に至るが…魔族で魔力量の多いバカ男は簡単には死ねないだろう。


「御付きたちもバカの尻馬に乗って無体な真似をしてきた連中だからこっちも自業自得だな」

 そう言ってやると元々悪かった当主の顔色がさらに酷くなる。

 

「ば、場所は?」

「教えてもいいが…無料ただで情報が得られると?」

 ニヤリと笑うと周囲の誰もが思いっきり顔を引き攣らせる。


『本物の悪代官になってるわ』

「うん、ガオガイズ家の人全員がカナエにビビってる」

 こそこそと言葉を交わすメネとリシュー君。

小声だけどちゃんと聞こえてるからね。


だがそれを言うと話が進まないので此処はスルーしておく。


「…何が望みだ」

 地を這うような声で当主が聞いてきた。

ガッツリ此方を睨んでくるけど知ったこっちゃない。

すべてはバカ男の自業自得だ。


「私たちの計画の協力者となっていただけるだけで結構です。詳しいことは弟君の救出が終わってからにいたしましょう」

 そう言うと当主は苦虫を嚙み潰したような顔になったが、仕方なしに頷く。


「それとお教えした後でおかしな真似はなさらない方が宜しいかと。此処での遣り取りは今は姿を隠していますが多くの精霊たちが見ております。私共に何かあれば世界中にお家の恥が晒されると御承知おき下さい」

 ニッと笑うと当主は派手な溜息の後で口を開く。


「相分かった。部屋を用意するので其処で待っていてくれ」

「ありがとうございます、では…」

 笑顔のまま収納から取り出した地図をテーブルの上に広げ、クルーン大陸のある場所に印を付ける。


「此処か、メルバっ」

「はい、フライ部隊を出動させます」

 言うなり執事のオジサマは早足で部屋を出て行った。

続いて当主も出て行き。


「こ、こちらへ」

 残された私たちは未だビビり捲っているメイドさんたちに先導され、離れと思える別館へと案内された。



「先制パンチがクリーンヒットしてイニシアチブが取れたところで次だけど」

 盗聴を懸念して強めの結界を張ったところで口を開く。


『でも魔国の貴族相手に良くあそこまで言い切ったわねぇ』

 感心しきりなメネに、あれはと言葉を継ぐ。


「この城の佇まいや使用人を見て当主の為人(ひととなり)が掴めたからね。城下の繁栄を見ても名君みたいだし良かったよ。じゃなかったら別の手を使うことになったからね」

 『異世界常識』にある魔族の通りだったら次男の被害者である女性たちの現状を伝えても一笑に付して終わりだったろう。


だが種族に関係なく申し出た者にはきちんと慰謝料を払う辺り、魔族の中でも善良な部類と判断したのでああなった訳だ。


「別の手って…何をする気だったの?」

 怯えを刷いた顔をするリシュー君にニッコリと意味深な笑みを返す。


「聞きたい?」

「…止めとく」

 フルフルと首を振るリシュー君。

うん、その方がいいと思う。

好奇心は猫を殺すと言うしね。


『だったら最後のエグイ脅しは必要なかったんじゃない?』

 メネの疑問に肩を竦めながら答える。


「当主だけだったらいいけど名君の周囲には忠臣が多いからね。主の障害を排除しようと独断で動き出す者がいるだろうし、あのバカ男の後押しをしていた親類連中も油断ならないしね」

 尤もな私の言に、成る程とメネとリシュー君が感心した顔で頷く。


「当主が帰って来たら『魔杖リオンサート』を返す代わりに私たちの事は一切不問って風に持っていって、そうなったらさっさとデオンド国に行こう」


デオンド国には『破槍アトラル』の持ち主である主神殿が在する。

魔国の隣、クルーン大陸にある国なのでまた船旅になるだろう。


同じ大陸にカラン国があるが『水神の宝珠』は蒼竜王さまに渡したので行く必要はない。


「うん」

『そうねー』

 私の提案にリシュー君とメネが同意の頷きを返す。


「ま、それまでは暇だから」

 言いながら異空間への扉を呼び出した。

アンのところへ戻って念願のカレーを作ろうと思う。


「何するの?」

「それは出来てのお楽しみ」

 小首を傾げるリシュー君とメネを連れ現れた扉を潜った。



お話を読んでいただきありがとうございます。

次回「36話 ガオガイズ家の家庭事情」は火曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ