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3 神様通信


「こっちに来て今日で一週間か」

 結界と『家』のおかげでなんとかやって行けているけど、それが無かったらマジで秒で死んでいた。


ラノベに出てくる異世界はもう少し転生者に優しい世界だった気がする。

でも創作物と違って現実が厳しいのは仕方がないことなのかもと自分を納得させていたけど…。

7日目の夜、それを見事にひっくり返される事が起こった。


夕食後、お風呂に入って部屋着にしているジャージに着替えたら壁にあるテレビの画面が突然光った。


「ハーイ、神様通信の時間だよー」

 画面に出てきたのは金髪碧眼のイケメン。

けどニコニコと笑っているその顔は…胡散臭さ100パーセント。


「初めまして。僕は君たちをこの世界・エンディアに呼んだ神様さ。こっちに来て一週間、本当に良く生き延びました。おめでとー」

 パチパチと手を叩く姿にイラっとなったのは私だけではないはず。


「で、君たちと違って残念な者たちを紹介するね。その前にまずは結果発表ーっ」

 お約束の『ヒュードンドン、パフパフ』という効果音付きで画面に『18/28』という数字が表れる。


「この一週間で10人のお仲間が死んでしまいました。悲しいね~っ」

 そう言いながら顔は完全に面白がっている。


「まずはリー・トン君。選んだ種族は獣人でスキルは『格闘』『身体強化・極』『超・回復』だよ」

 言いながら指を鳴らすと画面に茶色の獣耳を持った青年の姿が映る。


「僕から貰ったギフトは『ファイアーナックル』でバリバリの格闘系だったんだけど…自分がまだレベル1だってことを知らなかったみたいでさー。S級の魔物に挑んであっさり殺られちゃいました」

 やれやれとばかりに両手を肩まで上げて首を振る。


「そんな彼にはこの言葉を贈るねー『身の程を知らず』です」

 キャハハっと笑うと自称神様は再びパチンと指を鳴らす。


「お次はイリヤ君。選んだのはエルフ族でスキルは『魔法全般』『身体強化』『弓術』だよ」

 画面に長い耳をした端正な顔のエルフが映る。


「ギフトは『妖弓シルフィン』風魔法が付与された百発百中の弓なんだけど…でもこれってレベルが40にならないと使えない代物なんだよね。ところでエルフがなんで滅多に国から出ないか知ってるかな?」

 わざとらしく耳に開いた手を当てて聞く真似をするのがメッチャむかつく。


「エルフは長寿な分、レベル上昇が凄く遅いんだよ。レベル10になるのに30年くらいが必要なんだ。だから高レベルになるまで安全なところに引き籠ってるわけさ。ってことで」

 軽く指を振りながら実に楽しそうに言葉を継ぐ。


「レベル1のエルフが魔の森を歩き回ったら死んで当然。そんな彼にはこの言葉を贈ろう『ローマは一日にして成らず』です」

 得意げに言い放ってから指を鳴らすと6分割された画面にエルフの特徴を持った男女の顔が現れた。


「彼らもイリヤ君と同じようにエルフ族を選んだんだ。で、同じ結末を迎えたってことで後は省略。

次行ってみよう」

 名前すら言ってもらえず6人の顔が画面から消える。


「さてこっちの彼女はヒルデさん。選択種族は魔族でスキルは『最上級火魔法』『超魔力回復』『杖闘術』だよ」

 画面には銀髪にスカイブルーの蛇目(じゃがん)、額に黒い小角がある美人がいる。


「ギフトは『全能の杖』で究極の魔法使いを目指したんだけど、魔族でもレベルが低いと使える魔法はショボい威力しか無いってことを知らなくてね。『こんなはずじゃない』って泣きながら逃げ回ってたけど最後はA級の魔物に食べられちゃいました」

 残念~と肩を竦めてから自称神が言葉を継ぐ。


「彼女にはこの言葉を贈ろう『自惚れは自滅を招く』です」

 そう言って片目を瞑って見せてからまた指を鳴らす。


「最後はトーランド君。選んだのは人族でスキルは『商才』『強運』『集客』ギフトは『何でもコピー袋』だよ」

 聞き捨てならない単語に思わず身を乗り出す。


「街中に転生出来たら勝ち組だったんだけどねぇ。戦闘スキルが何もない状態じゃこの森では生きて行けない。これは完全にチョイスをしくじった例だね」

 フムフムと勝手に納得してから話を続けてゆく。


「彼は『強運』のおかげで何とか生き延びてたんだけど手持ちの食料を増やそうと『何でもコピー袋』を使っちゃったのがいけなかったね。これは『使用魔力は持ち主のМP3分の2』って奴だからレベルが低い状態で使うと魔力欠乏になって昏倒しちゃうんだ」

 見慣れない道具を使う時は安全確認してからじゃないとねーと自称神が笑う。


「で、気を失っていたところをビッグスネークに見つかって生きたまま飲み込まれたんだよね。でも痛みを感じることなくゆっくり逝けた分、他の者たちに比べたら良い死に方だったんじゃないかな。そんな彼にはこの言葉を贈っておくね『安全は止める勇気の積み重ね』です」

 言い終わってから、そうそうと自称神は思い出したように手を打った。


「しくじったって言えば彼女もそうだね。此方はロザリーちゃん、選んだのは人族でスキルは『魅了』『不老』『光魔法』だよ」

 そこにはピンクブロンドの髪に緑の瞳の美少女の姿があった。


「ギフトは『完全回復のブレスレット』これはどんなダメージを受けてもすぐに回復する便利アイテムなんだ。使う度に持ち主が5歳年を取る仕様だけど『不老』を持ってるからいいよね。彼女の目標は王子様に見初められて王妃になる…だったけどねぇ」

 クフフっと笑って指を鳴らすと途端に画面が変わった。


薄暗い洞窟の周囲に緑の体色をした小人のような魔物が数多く徘徊している。

その奥から聞こえる…悲鳴。


「彼らはハイゴブリンと呼ばれる魔物で人族の女が大好きなんだ。どうやら彼女、魅了した魔物に乗って森から脱出しようとしたらしいけど、そんな連中がいる森の中で『魅了』を使ったらどうなるか…分かるよね」

 その唇に酷薄な笑みを浮かべて言葉を綴る。


「一度に5、6匹の相手をしなきゃいけないから大変だろうけど『完全回復のブレスレット』があるし簡単には死なないから大丈夫。そうだね、ゴブリンの仔をたくさん産んで欲しいから特別に『安産』のスキルをプレゼントしよう。僕って本当に優しい」

 そう自賛してから、最後にと自称神は実に良い笑顔で口を開く。


「死んだ彼らが残したギフトは拾った者に所有権が移るから探してみるのもいいかもね。欲しいのがあったらドンドン手に入れよう。持ち主が死にさえすれば(・・・・・・・)それは君の物だ」

 つまり欲しければ殺して奪えということか。


「それじゃあ、また来週~っ。何人生き残っているか実に楽しみだよ」

 満面の笑みで手を振る姿が徐々に消えて行く。


「クソがっ!」

 思わず手近にあったカップを画面に向かって投げつけた。

派手な音を立てて画面に放射状のヒビが入るが、それどころじゃない。


「何が『神』だっ。神は神でも邪神じゃないかっ」


そもそもこの転生は最初からおかしかった。

スキルの選別に時間制限を付けて参加者の焦燥を煽り、さらに特殊スキルを早い者勝ちにしてそれを増長させた。


しかも選んだスキルやレベルに関しての説明は無し。

ギフトだってどれも曲者揃いでまともとは言い難いやつばかり。


つまり鑑定を取らなかったら詰むよう仕組まれていたんだ。


それにあの邪神は最後にこう言っていた。

『何人生き残っているか実に楽しみだよ』と。


あの部屋にいた者たちは邪神の遊び道具として集められたと言うことだ。


「人をコケにするのもいい加減にしろっ!」

 腹の底から湧き上がる怒りに思わず叫ぶ。


人生でこんなに激怒したのは初めてかもしれない。


いいだろう、そっちがそう来るなら私は何が何でも生き残ってやる。

この世界で幸せになって、何の憂いもなく大往生してみせる。


そう心に誓い拳を強く握り締めた。




「な、何事!?」

 突然の爆音と揺れに慌てて背後を振り返る。

相変わらず鬱蒼と茂る木々の遥か向こうに上がる黒煙。

どうやら誰かが強力な火魔法を使ったようだ。


邪神の通信から3日が経過したが私がすることは変わらない。

人里を目指して魔の森を探検中だ。

結界と『家』のおかげで何の問題もなく進んで行けるので助かっている。


余談ながら怒りに任せて破壊したテレビは『家』の修復能力で翌朝には綺麗に直っていた。


「八つ当たりしてゴメン」

 画面を撫でながら謝ると家全体がフルリと揺れた。

どうやら『気にするな』と言ってくれてるらしい。


貢いだ魔石のおかげか『家』の進化が目覚ましい。

そのうち話し出すんじゃないかと本気で思っている。


「この森に現地の人がいる可能性は低いから…使ったのは転生者かな」

 そんなことを呟きながら未だに上がる黒煙を目指して歩を進める。


「うーん、さすがにもういないか」

 真っ黒に焦げた大地を見渡してひとり呟く。


「おわっ!?」

 放った当人はいないが、その相手をした魔物はまだ此処にいたようだ。


真っ白な鱗を煌めかせた大きなトカゲが威嚇の声を上げて地中から姿を現した。

ガッツリ睨み付けて来ているので、結界を強化しつつ『鑑定』をかけてみる。


土龍(アースドラゴン)…本来は茶黒の体色だがこの個体は色素が無い白化個体(アルビノ)。強化された鱗はどんな攻撃も受け付けず魔法攻撃も弾くが動きは愚鈍なS級魔物』


「物理も魔法も効かない相手か…厄介だね」

 そうため息をついた時、アースドラゴンの背に生えているトゲの隙間にキラリと光ったものが見えた。

何かと思って鑑定をかけたら…とんでもないものだった。


『妖弓シルフィン…風魔法が付与された百発百中の弓、レベル40で使用可能』


邪神が言っていた曰く付きの妖弓だった。


たぶんあのアースドラゴンが妖弓の持ち主を殺した相手なんだろう。

もしかしたらさっきの火魔法は邪神の話を聞いた誰かが妖弓を手に入れようと攻撃したのかも。


「おっと」

 そんなことを考えていたらアースドラゴンが此方に向かって岩礫を放ってきた。

その数は百を超えている。

こんな攻撃を仕掛けられたら強固な防御がないと勝負にならない。

まあ、私には無害だけど。


結界で岩礫を弾きながらアースドラゴンの背…妖弓へと狙いを定める。


「では『収納』っと」

 妖弓が背から消えたのを確認して私は(きびす)を返した。


魔法攻撃が効かない…私の結界が通用しない相手と戦う気はない。

取る物も取ったし、ここはさっさと撤退だ。


アースドラゴンの咆哮を背中越しに聞きながら全速力で来た道へと戻った。



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[気になる点] 「魅了」って相手を魅惑して自分の願い通りに動かす術ですよね 魔物を魅了したら、その魔物が自分を食べる・傷つける(強姦もここに含まれる)などの行動をやめるはずなのに 魅了したら魅了した相…
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