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27、悲しきアンデッド


『あいつら最低よっ』

 通路の奥に潜む男たちの下へ向ったメネが嫌悪も露わな顔で戻って来た。

そのまま聞き込んだ話を披露する。


25階層でシルバーゴーレムを仕留めたという話だったがそれは真っ赤な嘘で、他の冒険者の手柄を横取りしたものだった。


この道は魔物との遭遇率がそれなりに高いがセーフティエリアへの最短コースだ。

そこにはポーションや食料等の販売所があり、攻略で消費した物を補給できる。


つまり此処を通るということはそのパーティーはかなり疲弊していて、ポーションも無いに等しい状態だと言うことだ。


彼らはそんな冒険者を待ち伏せしてドロップ品を横取りするだけではなく、足が付かないようにと全員を殺してダンジョン内に捨てていた。

時間が経てばダンジョンに吸収され、死体は残らないからだ。


どうやらそんなことを何度も行っているらしく、今も次の獲物を待ちながらこれから得る金の使い道を好き勝手に言い合っているとか。


『しかもあいつら男はさっさと殺すクセに女は慰み者にしてから殺してるのよっ。命乞いをする女に剣を突き立ててヤッた時の絶望に満ちた顔がたまんねぇとか言ってるし』


「よし、殺ろう」

「か、カナエ」

「リシュー君は反対なの?」

 聞き返されてリシュー君の眉が困ったようにへにょんと下がる。


「ギルドに申し立てるとか…」

「無駄だよ。此処に入る前に言われたでしょ『ギルドはダンジョン内でのトラブルに一切関知しない』って」

 私の言葉を受けて、そうねぇとメネも同意する。


『卑怯な手を使ったとしても自分の命を守れなかった方が悪いと判断されて終わりだわ』

 この世界の厳しさを目の当たりにして黙り込んでしまったリシュー君の横で、あらっとメネが声を上げた。


『精霊からの情報よ。ここから左に行った先で奴らを待ってる者がいるって』

 その言葉にピンと来てニヤリと笑う。


「あいつらのことはその人たちに任せよう」

「どういうこと?」

 首を傾げるリシュー君を伴い奥へと歩を進めることにする。



「おい、止まれ」

 目深にフードを被ったまま洞窟を進んでいると横の小道から声がかかる。


奥から出て来たのは下卑た笑いを浮かべる巨漢の男。

その後ろには3人の男たちが同じような笑みを張り付けて此方を見ている。


「何か御用ですか?」

 首を傾げて問うと、その眼前に剣先が付きつけられる。


「お前らが持ってるドロップ品を全部こっちに寄越せ」

「痛い目見たくなかったらさっさとしな」

 右後ろにいた男が尻馬に乗ってそんなことを言う。


「ギルドに訴えるよっ」

 私を庇うように前に進み出たリシュー君をゼンダと呼ばれていた男がせせら笑う。


「とんだ世間知らずがいたもんだぜ」

 ゼンダの言を受けて、まったくだと左横の男が口を開く。


「外ならともかくダンジョンに入ったら強さがすべてなのさ。力の無い奴は死ぬだけだからな」

「そうなる前にこっちが貰ってやるっていってんだ。さっさと出しなっ」

 畳みかけるように凄む手下たち。


「安心しな。出すものを出せばセーフティーエリアまで俺らが送ってやるからよ」

 最後の男が猫なで声でそんなこと言う。


だが精霊の話だとこうして脅しに屈してドロップ品を出した後、助けるどころか全員が殺されてしまった。

もちろん抵抗する相手は容赦なく殺して奪ったのだろうが。


「メネが言った通りの連中だね。じゃ始めようか」

「…うん」

 小さく息をつくリシュー君を見やってから用意していたセリフを紡ぐ。


「私たちは持っていません。ケガをして待機している仲間に預かってもらっているので」

「僕らはポーションを買う為に先に来たんです」

「ケッ、使えねぇ」

 悪態をつくゼンダに、お願いしますとリシュー君が懇願する。


「姉さんたちのケガは酷いんです。早くしないと」

 言いながらフードから美貌の顔を覗かせるとゼンダの目が見開かれる。


「お前の姉貴か…いいだろう」

 大きく頷くと後ろの3人に目配せをする。


「だったら其処に案内しな」

「え?」

 驚くリシュー君にゼンダは殊更優し気な声で言葉を継ぐ。


「俺らの手持ちのポーションを分けて遣る。その代わりにドロップ品を貰うぜ」

「…分かりました。こっちです」

 小さく頷くと先に立って歩き出したリシュー君の後を全員がついて行く。 


『あいつら「楽しめそうだ」とか「今度はヤリながら殺すなよ」とか言って舌なめずりしてるそうよ。ホント最低だわっ』

 私の横を飛んでいるメネが精霊たちの声を伝えながら憤慨する。

本当に見事なまでのクズどもだ。


「この先です」

 私が指さした先の通路は奥が暗くなっていて良く見えない。

だが小さな呻き声のようなものが聞こえてくる。


見極めようと奥を覗き込むゼンダと手下たち。

その隙に素早く後ろに下がるとその間に結界の壁を展開する。


「何だ?」

 ズルズルと何かを引き摺るような音がしてゼンダが訝るように首を傾げる。


やがてそれが姿を現した。


「うわぁっ!」

「げぇぇっ」

 叫ぶ男たちに20体以上の腐乱死体…ゾンビたちが襲い掛かる。


「な、何でこんなところにアンデッドがっ!?」

 手にした剣で必死に絡みつく腐った腕を振り払いながらゼンダが喚く。


「彼らに見覚えがあるでしょう?」

「何だと!?」

 振り返ったゼンダに冷え冷えとした声で彼らの正体を告げる。


「みんな、貴方たちが殺した冒険者ですよ」

 その言葉に全員が驚いた様子でアンデッドたちを見返す。


掴みかかる女性冒険者のアンデッド。

亡くなってまだ間もないのだろう、その姿は生前とほとんど変わらない。


「ま、まさか…そんな」

 どうやら自分が手にかけた相手だと分かったようで思い切り顔を引き攣らせる。


「普通なら死体はダンジョンに吸収されてしまいますが、余程強い恨みの念を持って亡くなったのでしょうね。こうして吸収されること無くアンデッド化してしまいました」

 精霊がもたらした話をしてやるとゼンダと手下たちはその顔を恐怖で染め上げた。


「くそっ」

 アンデッドたちを振り払うと此方に向かって駆けて来る。

しかしすぐに結界に阻まれてしまう。


「な、何だコイツはっ!?」

 剣で切りつけたり拳で叩いたりするが、そんなことで壊れるような結界ではない。

そのことはすぐに彼らにも分かったようだ。


「お、俺が悪かったっ。許してくれっ」

「金ならいくらでも出す。頼むっ」

「し、死にたくないっ」

「助けてくれっ」

 此処に至って漸く自分たちが罠に嵌ったと分かったようで情けない声で懇願してきた。


「その人たちが助けを求めた時にあなたはどうしました?」

 そう返されてゼンダの顔が歪む。


「私の国の言葉にこんなのが有ります『因果応報』と。自分でした事のツケはちゃんと自分で清算して下さい。…ではさようなら」

 それだけ言うと結界壁に遮断を加える。

途端に透明だった壁が真っ黒になり音も聞こえなくなった。


『精霊たちが言うには奴らも初めはちゃんとした冒険者だったそうよ。でも他人の上前を撥ねて楽して稼ぐことを覚えてからは坂を転がり落ちるみたいに外道になっていったんですって』

 溜息混じりのメネの話に私も嘆息して言葉を紡ぐ。


「人間、楽を覚えるとロクなことにならないと良く言うけど、彼らはまさにその典型だね」

「…うん」

 私の言葉に頷くリシュー君だが、その顔色は悪い。


やはり未成年の彼には刺激が強かったかと、こんな場に立ち会わせてしまったことを反省しつつ聞いてみる。


「しんどいならモル村に戻ってカイルさんの帰りを待ってる?」

 その問いに弾かれたようにリシュー君の顔が上がる。


「でもギフトを返さないと」

「それは私がやっておくよ。だからリシュー君は…あだっ」

 後頭部への衝撃に思わずつんのめる。


痛む場所を擦りながら振り向くと腕を組んだメネが此方を睨んでいる。

どうやらあの衝撃はメネのハイキックだったようだ。


『あんたねぇ、それは絶対に言っちゃいけない言葉よ。リシューちゃんをみくびらないでよね』

 憤然と綴られる言葉に反射的にリシュー君の方に目を向ければ、悲しそうな顔で此方を見ている。


「カナエが僕を守ろうとしてくれてるのは分かるし嬉しいけど…。僕は守られるだけは嫌だ。僕もカナエを守りたいっ」

 毅然と顔を上げるリシュー君に唖然としてから、すぐに勢い良く頭を下げる。


「ごめん、リシュー君の気持ちを考えてなかった」

 独りよがりな考えを押し付けられて嬉しいわけはない。

これは全面的に私が悪い。


「本当にごめん。でもこれから先もこんなことはたくさんあると思う」

 それでも心配で聞いてみると。


「分かってる。ちょっと(ひる)んじゃったけど…強くなるって決めたから」

 覚悟をした目をするリシュー君。

メネが言った通り彼を子供と見縊(みくび)るのは失礼だ。


「了解。じゃあこれからは対等なパートナーとしてよろしく」

 そう笑って手を差し出すと、キョトンとした後ですぐに破顔して手を握って来た。


「うん、よろしく」

 それは嬉しそうに笑うリシュー君に頷き返していたら、チョンチョンとメネが肩を突いてきた。


「メネもはっきり言ってくれてありがとうね」

『これくらいお安い御用よぉ。ところで精霊たちが言うには静かになったって』

 言いながら指さす先には黒い壁。

どうやら始末が着いたようだ。


『でもこのままだと奴らもアンデッド化しそうよ』

「性悪共だからね。その可能性は大きいかな」

 リシュー君に浄化魔法をかけてもらっても良いが、これだけの数のアンデッド相手だと大変だろう。


「ならばこれで行くか」

 収納からペットボトルの水を取り出すとリシュー君は不思議そうな、メネは不安に満ちた顔をする。


『またおかしな物を出したわね。何をする気?』

 ビビった様子で聞いてきたメネに笑顔を向けて答える。


「このまま放置しておく訳にもゆかないからね。それに犠牲者たちも早く成仏したいだろうし」

 言いながら結界を解除してボトルの中身をぶち撒ける。


「もういっちょ」

 新たなボトルを出して周囲に振りかければ、水に触れた先からアンデッドたちが消えて行く。


消えて行く時、穏やかな顔になったように見えたのは私の気のせいか。


「南無阿弥陀仏」

 宗旨は違うが気持ちは伝わるだろうと消えたアンデッドたちに向かって手を合わせ念仏を唱えた。


「みんな居なくなっちゃったね」

 アンデッドたちは当然だが、ゼンダ一行の姿も見えない。

彼らに対しての恨みが余程深かったらしく骨も残さず食い尽くされたようだ。


『ちょっ、どういうことよぉ』

 驚くリシュー君の隣でメネが声高に問いかけて来た。


『まさかこれって…』

 空になったペットボトルを震えながら指さしてきたので笑顔のまま答えを紡ぐ。


「アンの進化の影響で『超神聖水』になってしまった水ですが、何か?」

『はあぁぁっ!?』

 途端にメネから悲鳴混じりの叫びが上がる。


『馬鹿言ってんじゃないわよぉ。神聖水なんて本神殿にいる教皇さましか生み出せない貴重なものよ。それより神気が高い超神聖水なんてぇぇっ』


「実際にあるんだから仕方ないでしょ。あるなら有効に使わないと」

 しれっと言い返すと、ああもうっとメネが思いっきり頭を抱える。


『絶対に他に知られないようにしなきゃダメよっ。こんなものを持ってると知られたら地の果てまで追い回されるわよぉっ』


「でしょうね。他にも色々と影響がありそうだし」

 ぐるりとアンデッドたちが消えた辺りを見回して鑑定をかけると。


『聖域…悪しきものは近付くことの出来ない神聖な場所』


「ここだけ聖域になってしまったみたい」

『聖域ですってぇぇっ。ダンジョンの中に出来るなんて前代未聞よぉ』

 確かにバレたら何かと不味そうだ。


「これは薬たちと一緒で門外不出にしとこう」

「それがいいと思う」

 私の判断にリシュー君も全面的に賛成する横で突然メネが頓狂な声を上げた。


『聖域だなんて…ヤダちょっとぉ、怖いこと思い出しちゃったじゃないぃっ』

 何事かとその顔を見れば思いっきり斜線が入っている。


『さっきリシューちゃんの剣にその「超神聖水」を掛けてたわよね』

「酸でやられたら大変だから、普通の水よりいいかなと思って」

 そう言い返せばメネが再び頭を抱える。


『そんなことしたら剣が変化するに決まってるじゃないのぉぉっ』

 絶叫するメネの言い分に、確かにとリシュー君に愛刀を出してもらう。


で、鑑定をかけてみたら…。


「ただの片刃刀から聖剣になってるね」

 以前より輝きが増した剣を前にしてリシュー君は嬉しそうな、メネは魂が半分抜けかけた顔になった。


『カナエっ、あんた何してくれてんのぉっ』

 メネによると聖剣を生み出せるのは神だけ。


名工が己の才を尽くして作り上げた銘品を神殿に奉納し、それが長い年月をかけて神気を浴び続けることで漸く聖剣となるのだそう。


『それを水をかけたら出来上がりなんて、ホイホイ作られちゃたまんないわよぉっ』

「了解、これからは何かにかけたりしないようにするよ」

『そう言う問題ぃぃっ?』

 絶叫した後、ゼイゼイと息をつくメネの背を指で擦りながらリシュー君が口を開く。

 

「大丈夫だよ、メネさん。こう見えてカナエは抜け目が無いから」

『確かにね。普通、それくらいじゃ無きゃ創造神の眷属と遣り合おうとは思わないわね。それにカナエが遣ることに一々驚いてたら身が持たないって良く分かったから今後は全スルーするわ』

 派手な溜息をつくメネ。


エライ言われようだが、言い返していたら先に進まないのでここは黙っておくことにした。



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次回「28話 酒宴と夜話」は火曜日投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お家の水道全部から超神聖水が出るなら、料理も……お風呂も……トイレも……うん、考えちゃダメなヤツだ。 ……キュ○ピーなメネさんもお風呂(洗面器で代用)に入るのかな……精霊として進化し…
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