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23、トカラのダンジョン


岩山の(ふもと)にぽっかりと空いた大穴。

その前ではギルドの職員が冒険者の出入りをチェックしている。


はい、やって来ました…トカラダンジョン。

リシュー君のうるうるとした瞳でのお願いに全面降伏させられ、街に着いた翌日には挑戦することになった。


『何だかんだ言ってリシューちゃんには甘いわよねぇ』

 そう言うメネは新作の服…D社のアヒルのキャラクターを参考にした水兵服を着ている。

白い短パンに帽子、青いセーラーカラーのシャツがよく似合っている。


「あの目に抵抗できるとでも?」

『…無理よねぇ』

  溜息混じりの私の問いにメネも両手を上げて降参する。


それに此処に来る前にすべての神殿を回ってクソ邪神のことをチクっておいた。

12柱の神殿が揃っていることで有名なこの街に来た目的は達成できたから、これくらいの寄り道は良いかなと思う。


「ステータスカードを」

 入口の脇にあるギルドの出張所に行き、ダンジョンに入る為の手続きをする。


「はい、こちらです」

 渡されたカードを職員が見慣れた機械にいれてステータスを確認する。


「リシュアンさんはCランクですので単独入場できます。カナエさんはDランクですが同じパーティーならば可能となります。入場料は一人10エルンです」

 高いように思えるがそれを払えないくらいの能力では入っても死ぬだけなので、こうして選別をしているようだ。


「擦り付けがあった時のみ対応しますが、他はダンジョン内でのトラブルにギルドは一切関知しません」

「分かりました」

 つまり自分の身すら守れない者にダンジョンに入る資格なし…と言うことだ。


「それと10階と15階層のセーフティエリアにポーションや食料等の販売所がありますので御活用下さい」

 さすがに古いダンジョンだけあってそう言った施設も充実している。


お金を払って職員さんから入場証を受け取り、まずはと出張所で売られているダンジョンの地図を手にリシュー君と攻略方法を話し合う。


1階から10階までが洞窟ゾーンで11階から20階が森ゾーン、21階から30階が山岳ゾーン。

其処から下は記されていない。

その先は別の地図(高額)を買わなければならない。


「全部で何階まであるのかな?」

「分かっているのは50階で、そこから先は未攻略だって。下に行くほど魔物が強くなって数も多くなるそうだけど…あそこより強い魔物はそうそう出ないと思う」

「だよね」

 軽く肩を竦める私とリシュー君。


SS級、S級、A級の魔物が跋扈する魔の森。

本当に何てところに飛ばしてくれたんだと、今更ながらにクソ邪神に対して怒りが湧く。


クソ邪神と言えば最近はメネのおかげでエルデ君やアレクセイ君一行の近況は分かるので、顔を見たくないのもあってアンに頼んで毎回録画はしているが視聴はしていない。

今も彼らのストーキングに励んでいることは間違いないだろうが。


「レベル的にも問題はないよね」

 そう笑うリシュー君のレベルは今は48だ。

それに伴って魔法の威力も格段に強くなっているし、剣術のスキルもある。

最近は剣に魔法を付与することも覚えたので某ゲームにいた魔法剣士ばりの実力だ。


一方、私のレベルは62で絶対防御な結界魔法と称号に『毒使い』がある。

そこらにいる魔物にはまず負けないだろう。


結論、ダンジョン攻略方法は…力押し。

出会った魔物は容赦なく倒す、以上。


『ホント、いろんな意味で反則よねぇ。あんた達』

 呆れるメネの前で揃って肩を竦めると、私とリシュー君はダンジョンの入り口に向かって歩き出した。



「おら、邪魔だっ。ゴミ共は後ろに回れっ」

 入り口で順番を待っていたら背後からそんな声が聞こえて来た。


見ると厳つい鎧を着た巨漢が手下と思われる3人の男たちを引き連れて此方に向かってくる。

周囲の冒険者は眉を顰めながらも順番を譲っているので、これが初めてではないようだ。


馬鹿にかかわると面倒臭いので、そっとリシュー君の袖を引いて横にずれる。

そんな私たちの前を小馬鹿にした様子で一行が進んで行く。


「チッ、ゼンダのヤツ。調子に乗りやがって」

 すぐ前にいた冒険者の小声での悪態に此方も小声で聞いてみる。


「誰なんですか?」

 私の問いに冒険者が嘆息と共に教えてくれた。


「あいつはゼンダってDランクだ。前から態度の悪い奴だったが25階層でシルバーゴーレムを仕留めて以来あの調子さ」

 忌々し気な声に順番抜かしだけでなく他にも色々とやらかしているのが伺える。


「お前さん達、見ない顔だな。気を付けろよ、新人イビリは奴の常套だ」

 2人してフードを目深に被っていて正解だったようだ。

新顔と分かったら間違いなく因縁を付けられていただろう。


「はい、ありがとうございます」

 礼を言って頭を下げるとリシュー君と共に列に戻る。


『嫌よねーっ、身の程を知らない奴ほど思い上がりが激しくて。ああいうのは一度痛い目に合わせないとダメよぉ』

 メネの過激発言に私とリシュー君は揃って苦笑を浮かべた。



「取り敢えず一気に5階層まで行って様子を見よう」

「そうだね、浅い階だと弱い者いじめみたいになりそうだし」

 ホールのように広々とした洞窟…ダンジョンの1階で方針を決めると、2人して下に続く階段を駆けて行く。


『はい、次はこっちね』

 メネが精霊ネットワークで得た情報を元に道案内をしてくれているので、迷うことなくすぐに5階層に到着する。


こんな風に此処にいる精霊からの情報をメネが教えてくれるのでとても助かっている。

しかしながら当の精霊たちの姿は見えない。


メネの話によると元々精霊は人見知りで恥ずかしがり屋。

そのうえ警戒心も強いので滅多に人前には出ないのだそう。


人見知りで恥ずかしがり屋…やっぱりメネを精霊と同じカテゴリーに入れるのはどうかと。


『何か文句でもぉ』

 私の考えに気付いたようでメネが此方を睨む。


「いや、別に」

 緩く首を振ると私は前に続く階段へと目をやった。


代わり映えのない景色だが、地図にある注意書きには6階から魔物の脅威度が一気に上がると記されている。

それに此処から先には照明の魔道具が設置されていないので光源は自前となる。


「はい、こんな時には…ハンドライト~っ」

 某青タヌキの口調を真似て収納から小型ライトを取り出す。


先端だけでなく側面にも光面がある優れものなので周囲に展開している結界の上部を固定化し、その上に設置する。

おかげで一気に周囲が明るくなった。


「でも此処までぜんぜん魔物と遭遇しなかったね」

 歩きながらそんなことを呟くリシュー君に、そりゃそうよとメネが笑う。


『魔物だって馬鹿じゃないのよ。明らかに自分より強い相手に襲い掛かるなんて真似はしないわ』

 納得の理由に頷くと入り組んだ道へと歩を進める。


「この階に出るのはゴーレムとワーム系だっけ」

『ええ、ロックゴーレム、ストーンゴーレム、たまにアイアンゴーレムが出るわ。魔法が効き辛いから剣の修行中のリシューちゃんには丁度いい相手ね。ワームは地虫に似たのが多くて…凄くおっきいのよぉん』

「つまりジメジメしたところで良く見る奴らってことか」

 ミミズや芋虫といった、うぞうぞニョロニョロ系の魔物というわけだ。


「お近づきにはなりたいとは思わないな」

「それは僕も」

 リシュー君の同意を得られたので、向かって来たらサクッと結界で消すことにする。 


そんな会話を交わしつつ奥へと進んで行くと…。


「出た、あれは…」

 前方に現れた岩の塊に意気込むリシュー君。

よく見ると短い手足と頭があり、それを動かして此方に近付いて来る。


「ロックゴーレムだね。魔石は首の付け根」

 鑑定結果を口にすると、大きく頷いたリシュー君が剣を構えて向かって行く。


「はっ!」

 狙い違わず指定した場所に剣を突き刺すと呆気なくゴーレムが崩れ落ちる。

するとすぐにその姿が消えて、後には2つに割れた魔石が残された。


「あ、割れちゃった」

 がっかりするリシュー君に、何言ってるのとメネが声をかける。


『普通はこんな簡単に終わらないのよ。ゴーレムを倒すには魔石を壊すしか無いんですもの、2つに割れたくらいだったら上出来よ』

 メネの話の通りゴーレム種は生物では無いので活動エネルギー源である魔石を壊さないと倒すことは出来ない。

なのでドロップ品の魔石は粉々になってしまっていることがほとんどだ。


私が鑑定持ちなのですぐに魔石の位置が分かるが、鑑定が無いと闇雲に攻撃するしかなく時間も労力もかかるので大変なのだ。


それにアイアンゴーレムを始めとする金属系のゴーレムはその金属塊をドロップするので採算が取れるが、ロックやストーンは強い割には実入りが少なくハズレと呼ばれ嫌われている。


割れた魔石(こんな状態でも買取はしてくれる)を収納してさらに先へと進む。


『来たわよ~』

 メネが指さす先に居るのは…。


体長5mを超える芋虫…体は乳白色の円筒形で頭は褐色、ウネウネと動く無数の足、表面はヌルっとした粘液で覆われている。


「き、気持ち悪いっ」

 リシュー君の呟きに完全同意し、さっさと結界に閉じ込めて中の酸素を抜く。


結界の中でうぞうぞと動いていたが…すぐに魔石を残してその姿を消した。


「はい、おしまい」

 魔石を拾って笑みを向けるとリシュー君は苦笑、メネは呆れ返った顔をした。


『反則中の反則だわねぇ、カナエは』

 メネ曰く、ワーム系の魔物はゴーレムと反対で物理攻撃が効きにくい上に魔法も火魔法しか通用しない。

けれど狭い洞窟内での火魔法は使った方も酸欠で死ぬ危険があるので大っぴらには使えず、通常は小さな火でちまちまと体力を削って倒すのだとか。


『こんなに簡単に倒しちゃうなんて他の冒険者が見たら嫉妬でどうにかなっちゃうわよぉ』

「まあ、最初から慣れ合う気は無いけど見られないよう注意するよ」

『それが正解ね』

 私の言葉に頷くとメネは、次はこっちよと左前方を指さした。


そんなこんなでやって来ました10階層。

『この先は道が二股に分かれてるの。右へ進んだ方が少し遠回りになるけど無難よ』

「理由は?」

『左はアンデッドで一杯だからよ』

 確かに魔石無しの厄介者との遭遇は避けたい。


「でも10階層にアンデッドが出るっていう情報は無かったはずだけど」

 買った地図を見返してもそんなことは書かれていない。


「最近になって出始めたとか?」

「そんなところだろうね」

 リシュー君の意見に同意するとメネに教えられた通りの道へと向かう。


それからロックやストーンといったゴーレム、ミミズに似たワーム系と何度か遭遇して倒したが、成果的にはショボいものばかり。


此処に来るまでに宝箱も幾つか見つけたものの、鑑定してみると中身は下級や中級のポーションだったり鉄製の剣やナイフと必要の無い物ばかりなので開けることなくスルーした。


というわけでこのままさらなる下層へ行くことにする。 



「此処が11階か」

「いきなり景色が変わるのって不思議な感じだね」

 洞窟を出た途端に広がる森。

地下のはずなのに空があって太陽ぽいものまであるのには恐れ入る。


『暗くて狭っ苦しいところよりずっといいわよ』

 楽し気なメネの言葉に同意すると森の中へと足を踏み入れる。


「森ゾーンに出るのは…ウルフ系、ボア系、豹や虎みたいな大型猫科系だね。牙や毛皮が主なドロップ品だって」

 地図にある情報を口にするとリシュー君が遠くを指さす。  


「誰か戦ってるよ」

 指示された場所では5人の冒険者が灰色ウルフの群れと戦闘中だ。

連携の取れた無駄のない戦いぶりなのでベテランのパーティーなのだろう。


失礼ながらこっそり鑑定をかけてみる。

誰もがDランクでレベルも20台前半、スキルは剣術、格闘、魔法、斥候、治癒とバランスがいい。

彼らくらいのレベルの者が此処で活動しているのなら、私たちはもっと下の階層に行った方がいいだろう。


鑑定結果をリシュー君とメネに伝えると、だったらと2人も同じことを口にする。


『あんた達なら森ゾーンは飛ばしていいんじゃない』

「うん、それに森はもう飽きたっていうか…あまり居たくない」

 尤もなリシュー君の言葉に私も頷く。


「じゃあ森ゾーンを抜けて山岳ゾーンに行こうか」

「賛成っ」

 嬉し気なリシュー君に頷き返すとメネの案内に従って私たちは森ゾーンを後にした。



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[一言] 最初の蛇みたいに結界でスパン!とは出来ないのか。
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