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20、魔物襲来


『ホントにどうするの?、まさか…』

「私一人だったら面倒臭いんでさっさと逃げるんですが」

『あんたねぇ』

「でもリシュー君は戦うと言うでしょうね」

『そうね、あの子は心根が真っすぐなイイ子だから』

 頷くメネの前で息をついてから言葉を継ぐ。


「だったら私も逃げるわけには行きませんね。此処にいる人たちを見殺しにするのも寝覚めが悪いですし」

『やっぱりあんたもイイ子だわ』

 手放しで褒めてくれるメネに苦笑を向けると私はそっと倉庫から離れる。

そのまま東側の石垣へと向かった。


『何をする気?』

「ちょっと試したいことがあるんですよ」

 そうこうしているうちに石垣へと到着。

先頭にいるカイルさんを見つけて声をかける。


「カイルさん」

「どうした?ここは危険だ。早く村の倉庫へ」

「近付いて来てるのはレッサードラゴンの群れだそうです」

 私の話にサッとカイルさんの顔色が変わる。


「本当なのかっ?知らせでは赤蜥蜴だということだったが」

 赤蜥蜴はレッサードラゴンに大きさや姿が似ているが、脅威度はDで火に弱く比較的撃退しやすい魔物だ。


「遠目で間違えたんでしょう。これは確かな情報ですから」

「だとすると此処の戦力では…」

 それ以上は言わず黙り込むカイルさん。


カイルさんと話している私に気付いたリシュー君が此方にやってくる。


「どうしたの?カナエ…姉さん」

 未だに私を姉と呼ぶのに慣れないようで一拍遅れるリシュー君に笑みを向けてから、この村に迫っている魔物のことを伝える。


「そんな…どうすれば」

 今の絶望的状況を知ったリシュー君の顔色も悪い。 


「取り敢えず自警団の人達は下がった方がいいでしょう。此処にいても死ぬだけです」

「そうだな、村長に伝えてくる」

 頷くなりカイルさんは石垣の近くにいる初老の男性の下に走って行く。


しばらく2人して難しい顔で話し合っていたが結論が出たのだろう、カイルさんだけが戻って来た。

自警団の人達は村長に説得され、不安な面持ちで村へと帰って行く。


「俺が殿(しんがり)となって時間を稼ぐ、その間に皆と共に逃げてくれ」

「死ぬ気ですか?」

 私の問いにカイルさんは笑みを浮かべて首を振る。


「そう簡単に死ぬつもりは無い、1匹でも多く道連れにしてやるさ。それが弟子を救えなかった俺のせめてもの贖罪だ」

 思い定めた目で語るカイルさん。

彼の中ではもう此処で死ぬことは決定事項のようだ。


そんな彼の前で私は大きく息を吸い、思いの丈を口にする。


「虫のいいこと言ってんじゃねぇぞっ!」

「なっ…」

 大音響での叫びにカイルさんだけでなくリシュー君も驚きの目でこっちを見る。


「弟子が死んだのは自業自得、自らの行いが自分に帰って来ただけだ。それをいつまで引き摺ってるっ。此処で村人のために死んだら、そりゃあ周囲は褒め称えてくれるだろう。けどそれは単なる逃げだっ。弟子を失った可哀そうな自分を慰めるだけの行為でしかない。そんな理由で死なれたら残された村人たちにはいい迷惑だ。後々まであんたを見殺しにしたと言われ続けるだろうからね」

 一気に捲し立てると唖然とした後、カイルさんは何か言い返そうとしたが…力なく首を垂れた。


「すみません、言いすぎました」

「いや、君が指摘した通りだ。此処で死ねば楽になると心の隅でそんなことを考えていたのは間違いない」

 情けないなと自嘲するカイルさんにもう一言。


「それに貴方にはまだやるべきことが残っています」

「やるべきこと?」

「弟のことです。こんな中途半端なまま放り出すおつもりですか?弟子が一人前になるまで面倒を見るのが師匠の務めでは?」

 言われてカイルさんはハッとなってリシュー君を見やる。


「ああそうだ、俺には弟子がいる。こいつを一端の剣士にしてやるのが師の役目だ」

「はい、僕ももっとたくさんのことを師匠に教わりたいです」

 キラキラとした目でカイルさんを見るリシュー君。

その様を眩し気に見返してからカイルさんは力強く頷いた。


「何が何でも死ぬわけには行かんな」

「そう決意してくれて良かったです。死にたがりと一緒に戦う気はないですから」

 ニヤッと笑って見せるとカイルさんは苦笑し、リシュー君からは感嘆と呆れが混ざった視線を送られた。


「ああ、せっかく叩いてもらった尻だ。せいぜい足掻くとしよう。だが現実問題としてどう戦う?」

「それなんですけど…レッサードラゴンのアンチマジックの範囲はどれくらいか判ります?」

 私の問いにカイルさんが少し考え込んでから口を開く。


「周囲1mくらいだが群れとなるとその範囲は拡大するな」

「では20匹だと?」

「そうさな…30m四方は魔法が通用しないと考えた方がいい」

 カイルさんの答えに大きく頷くと私の考えを2人に伝える。


「そんなことが出来るのか?」

「はい、これでも魔族の血を引いてますからね。魔力量には自信があります」

 私とリシュー君を交互に見やって納得するが不安は隠せないようだ。


「どの道これが成功しなければ死ぬだけですから」

「確かにそうだな」

「任せて下さい。カイルさんたちは罠から逃れた個体の討伐をお願いします。それじゃ」

 手を上げで走り出そうとする私の背に声がかかる。


「気を付けてっ、絶対に戻って来てよっ」

 泣きそうな目でこっちを見るリシュー君を安心させるように自信たっぷりに言い切ってやる。

 

「当たり前でしょう。あのクソに遣り返さないうちは死んでたまるもんですかっ」

 そうサムズアップするとリシュー君は苦笑を浮かべて大きく頷いた。



『ホントにやる気なの?』

 エプロンのポケットで計画を聞いていたメネが問いかけて来た。


「もちろん、それにこれは私にしか出来ないことだし」

『確かにそうだけど…気付かれて襲われたら命は無いわよ』

 無謀な計画と思っているのがよく分かる顔をしてるメネに笑いかける。


「それよりメネに頼みがあるんだけど」

『アタシに?』

「ええ、合図したらこれを上から落として欲しい」

 5cm四方の中が霧状のもので満ちている透明な箱を差し出しすと怪訝そうながら受け取る。


『お安い御用だけど…これ何よ?』

「私の切り札」

 そんな会話をしていたらターゲットの姿が見えて来た。


『来たわっ、あれがレッサードラゴンよ』

 メネが指さす先に土煙を上げて此方に爆走して来る影。

その姿は某映画に出て来た2足歩行の小型肉食恐竜によく似ている。


開かれた口にはびっしりと生えた鋭い牙が見え、引っ切り無しに垂れてる(よだれ)が不気味さを増大させている。


「ここら全体を結界で覆うから、その前にさっきの箱を群れの中心に落として来て」

『構わないけど…アンチマジックスキルで結界は無効化されるわよ』

「あいつらにはね。でもその範囲外には有効でしょ」

『それは…そうだけど』

 私の言葉に思いっきり首を傾げるが、早くと急かすと慌てて上空へと飛んで行く。


「今だよっ」

 大きく手を振ると、それを受けてメネが箱を下に落とす。


「往生せいやっ『結界』」

 アンチマジックの範囲外となる地域を包み込むように結界を張ってから箱…固定化した極小の結界を解除すると、新たに張った結界の中が白い霧で充満する。

次の瞬間…。


「があぁぁっ!」

 物凄い叫びを上げてレッサードラゴンたちがバタバタと倒れて行く。


『何?何なの、あれはっ?』

 軽くパニックになっているメネに霧の正体を教える。


「ただの殺虫剤だよ」

 アンの進化に伴って効力が百倍から千倍になってしまい猛毒と化してはいるが、元は市販の殺虫剤だ。


『はぁ?』

 訳が分からず唖然とするので私の計画の全貌を教える。


「奴らに結界は通用しないけど毒には有効、だから中を殺虫剤で満たしたの。これなら結界内だけに毒が撒けるから他に影響が出ないし」


『…ホントにとんでもないことするわねぇ』

 呆れと感心が混ざった目でこっちを見るメネに軽く肩を竦めることで答える。


『ちょっと、こっちに来るわよ』

 中央から離れていた為に毒で死ななかった個体…5匹がフラフラと此方に向かってくる。

瀕死状態でもアンチマジックスキルは健在のようで結界をすり抜けてしまうのだ。


「しぶといな。此処は三十六計だね」

『逃げるってこと?』

「そう、私の攻撃手段は結界だけだし。それが通用しない相手には逃げの一手だよ。けどその前に」

 展開していた殺虫剤で満ちた広範囲結界を縮小して最初の箱状にする。


「でもって『収納』っと」

 それを収納してから周囲を見回す。


辺りには死んだレッサードラゴンのドロップ品である皮や牙に爪、魔石がたくさん落ちているが今は拾っている場合ではない。


「毒は全部結界内に収めたけど、念のため後でこの辺りにリシュー君に浄化魔法をかけて貰おう。さて」

 言うなり全速力で石垣に向かって走り出す。


「カイルさん、リシューっ。後はお願いっ」

「おお、任せろっ」

「カナエは隠れていて」

 駆け寄る私と入れ替わるように2人が石垣の外へと飛び出してゆく。


レッサードラゴンとはいえ毒に侵され足元が覚束ない状態ではそれほどの脅威ではない。


「リシュー、顎下にある逆鱗を狙えっ。そこが弱点だっ」

「はい、師匠っ」

 元気よく答えるとリシュー君がレッサードラゴンに切りかかる。

すぐに一匹を倒して次に向かって行く様は堂に入っていて(たくま)しささえ感じる。


「確か実戦は初めてのはずだけど…」

 迷いのない戦いぶりに首を傾げる私に、当然よとメネが我が事のように胸を張る。


『リシューちゃんが強くなったのはカナエのためよ』

「私の?」

 怪訝な顔をするとメネが派手な溜息をつく。


『あの子も報われないわねぇ…此処で自分が頑張らないと大切な人が守れないと思ってるのよ。守る者がある男は強いわよ、誠之助がそうだったもの』

 メネの言葉に少しばかり困る。


私がリシュー君と行動を共にしているのは、クソ邪神に遣り返すのに利用できそうだからだ。

そんな風に慕われ、大切に思われるような存在では決して無い。


『あんたもなかなかに厄介ねぇ』

 そんな私を見やりながら再びメネは溜息をついた。



「お帰りなさい。お疲れさま」

「うん、ただいま」

 嬉しそうに笑うその顔は達成感に満ちている。


「よくやったぞ、リシュー。初陣にしては上出来だ」

 カイルさんからも手放しで褒められてリシュー君が照れた顔で頭を掻く。


「何とか生き延びましたね」

 周囲を見回せばあちこちに転がるレッサードラゴンのドロップ品。

それは襲撃が終息した証だ。


「ああ、すべて君のおかげだ」

 感謝のこもった言葉を綴るカイルさんの前で緩く首を振る。


「私は結界を使った罠を張っただけです。それが上手くいっただけのことで、生き残ったレッサードラゴンを倒したカイルさん達が一番の功労者ですよ」

「カナエ…姉さんらしいね」

 苦笑するリシュー君に釣られたようにカイルさんも笑みを浮かべた。



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