1 異世界へ
Merry Christmas
ということで新連載始めました。
拙い素人作品ですが楽しんでいただけましたら幸いです。
それとおかげさまでRentaコミックスさまより「神様にスカウトされて異世界にやって来ました。―家電魔法で快適ライフ―R」が装いも新たに配信されることになりました。
水見悠助氏に担当していただいてます。
詳細は以下の通りです。
書名:『神様にスカウトされて異世界にやって来ました。―家電魔法で快適ライフ― R』
著者名:[著]水見悠助 [原作]太地文
配信日:9/30
発行:Rentaコミックス
よろしくお願い申し上げます。
『おめでとうございます。あなた方は選ばれました』
「…何処のフィッシング詐欺だ」
思わずそう呟いてしまった私は悪くないと思う。
此処は真っ白い何もない空間。
そこに30人ほどの人間がいる。
人種年齢性別すべてバラバラで無造作に集められたという感じがする。
その誰もの目の前に浮かんでいるタブレットに似た半透明の板。
さっきの文句はそこに浮き出てきたものだ。
次に板に浮かんだのは状況説明だった。
どうやら此処にいるのは全員死人らしい。
地球でその日に死んだ何万もの死者の中からランダムに選ばれたのが此処にいる者たち。
まあ、確かに心当たりがある。
交差点に突っ込んできたバイクに跳ねられて歩道の石畳に叩きつけられた。
その時に頭を強打したところまでは覚えているから、それが死因だろう。
『皆さまにはここで選んでいただきます』
板が提示した選択肢は2つ。
異世界に転生するか、このまま輪廻に乗って再誕を待つか。
制限時間は5分。
それまでに決めないと魂が消滅してしまうと明記される。
そんな重大事項を5分で決めろとは…此処の管理者は鬼かっ。
5分後、3人が空間の隅に現れた輪廻の扉へと向かってゆく。
私の隣にいた外国人のおばあちゃんもその一人だ。
「いいんですか?」
思わずそう声を掛けたら、いきなりの問いに驚いた顔をしたがすぐに笑顔になった。
「構わないさ」
あれ?言葉が通じてる。
そんな私の疑問に板が答えてくれた。
『皆さまは既に『言語理解』を習得されています』
なるほどね。
納得する私の前でおばあちゃんが言葉を綴る。
「異世界なんて初めて聞いたよ。どんな所か知らないがこの年でまた一からやり直すのは御免だね。天国で爺さんも待っているだろうしね」
晴れやかな顔でそう言うおばあちゃんに私も笑みを返す。
「お気をつけて」
「ああ、有難うよ」
軽く手を振るとおばあちゃんは扉の向こうへと消えていった。
ざっと見回すと残ったのは28人。
「馬鹿だぜっ、せっかく異世界で好きに出来るってのによ」
「おお、美女を集めてハーレムを作ってやるぜ」
「ほんとよね、私は王子様に見初められて王妃になるのっ」
好き勝手言ってはしゃいでいるのは10代20代といった若い人が多い。
喜ぶのは良いけど来世を望んだ人を馬鹿にするあんたらは何様だと言いたい。
面倒臭いから言わないけど。
そんなことを考えていたら板に新たなメッセージが現れた。
『まずは転生にあたって種族と性別、年齢をお決めください』
板に現れたのは種族名とその姿。
人族の他にエルフ、ドワーフ、獣人、魔族、竜人とかがいる。
いきなり種族とか変えると面倒臭そうなので『人族』性別も同じ『女』年齢は…今のアラフォーのままだと体力的にキツイだろうから16くらいにしておこう。
周囲はエルフや竜人が人気のようで魔族を選ぶ人もいたみたいだ。
『これから向かうのは剣と魔法の世界。海や森には魔物がいる少し厳しいところです。よって皆さまには3つのスキルが渡されます。以下の中からお選びください。制限時間は20分です』
板の右上に現れた数字は刻々と減ってゆく。
これが0になる前に選択しなくちゃならないのか。
しかも指を添えてスクロールすると二百以上のスキル名が羅列されている。
こんな重大事項を20分で決めろとは、此処の管理者…以下略。
よく見るとスキルは2つに分かれていた。
『基本スキル』と『特殊スキル』だ。
基本は多人数が取得しても無くならないが、特殊は他の者に取られたらそれで終わり。
つまり早い者勝ちだ。
見る間に特殊の項目から『最上級火魔法』や『身体強化・極』『剣術・最強』『魔力量・最大』『魅了』とかが消えて行く。
みんな焦って『特殊』を取りまくっているけど…私は興味が無い。
こっちは平和ボケした日本出身だ。
しかも人と争った経験すら無い。
そんな私が異世界で魔物や人と戦うなんて無理だ。
だから攻撃系のスキルは必要ない。
それに良く言うじゃないか。
慌てる乞食は貰いが少ないって。
そんなことを考えつつ、私は『基本』から『異世界常識』と『鑑定』を選んだ。
とにかく一番大切なのは情報だ。
これがあるとないとでは大きく違う。
最後の一つはインベントリが欲しいが…それだと身を守る術がない。
どうしたものか考えていた私の目が最後尾の端に小さくある『その他』を見つけた。
試しに『その他』を指で押してみると。
『こちらでは項目に無かったスキルが申請できます。ですがものによっては承認されない場合もございますので御了承ください』
「ふーん、だったら『空間魔法…強力結界可能・使用魔力小』で」
そう書き込んでみたら、しばしの後…。
『承認されました』との文字が。
いやー、やってみるものだな。
こうして私のスキルは『異世界常識』『鑑定』『空間魔法』に決まった。
結界が使えるなら余程のことが無い限り安全だ。
「ん?」
決定とある場所を押すと画面が変わり、そこには『ギフトを1つ選んでください』との文字が。
「ギフト?」
さっきと同じようにスクロールすると今度は物らしい。
『聖剣』『魔剣』『無双槍』『修復機能付き鎧』『魔力補助杖』とか。
変わり種だと『無限ポーション瓶』や『毎日一枚金貨財布』なんてのがあった。
こっちも『特殊』と同じで早い者勝ちのようだ。
どんどん強力な武器や便利アイテムが項目から消えて行く。
「でも私が欲しい物はないな」
そう呟いてから最後尾を目指す。
「やっぱりあった」
さっきと同じように小さく『その他』が存在している。
さっそく『その他』を開いてみると。
『こちらでは項目に無かったアイテムが申請できます。ですがものによっては承認されない場合もございますので御了承ください』
「了解だよ。…私が欲しいのは」
『生前に住んでいた家、出来たら家具家電備品付き』
ダメもとで書き込んでみたら、しばしの後…。
『承認されました』との文字が。
「え?マジで通ったのっ。何でも挑戦してみるものだな」
自分で申請しておいて何だけど…いいのか。
でもこれで異世界に放り出されても住む場所はゲット出来たから安心だ。
空間魔法で持ち運びも出来るしね。
貰う物が決まったので最終決定の場所を押す。
残り時間は…10秒!?
危なかった、もう少し遅かったら何もない状態で異世界に送られるところだった。
見るとその場に残っていたのは私だけ。
みんなもう異世界へ旅立ったようだ。
そんなことを考えていたら私の周囲が光り出した。
どうやら私も出発らしい。
さて…どんな事が待ち受けているかな。
「お約束の森スタートですか」
気が付くと私は森の中に立っていた。
着ている物は黒いシャツにズボン、深緑のチュニック、足元は茶色のブーツ。
カバン類はなくて手ぶらの状態で。
「太陽が見えたら方向が分かるんだけど」
鬱蒼と茂った高い木々の所為で空さえ良く見えない。
『異世界常識』によると此処は地球とよく似た自然環境で太陽は西から昇って東に沈む。
月は2つで北極星のような導の星もある。
暦もほぼ同じで四季もあって、周囲に生えてる草の様子から今は秋のようだ。
「ん?ちょっと待った。森には魔物がいるって書かれてたよね」
板の説明を思い出し、慌てて結界を周囲に展開させる。
その途端、いきなり目の前に何かが落ちてきた。
「どぇぇぇっ!?」
何事と周囲を見渡すと私のすぐ後ろに横たわる巨大な蛇らしきもの。
黄色と紫の網目模様が綺麗だ。
「ってことは…」
落ちているものをよく見るとそれは蛇の頭部だった。
まるでギロチンにかけられたようにスッパリと首から切断されている。
「と、と、とにかくここは…鑑定」
パニックになりながらも情報を求めて鑑定してみる。
『キンググレートスネーク…魔の森に生息するSS級の魔物。狙われたらまず命はない』
「とんでもない魔物だったんだ。…でも何で死んだんだろう」
まじまじと切り口を見つめて考える。
「もしかしてだけど…結界の所為か」
私に襲いかかったタイミングで結界が発動したんで、そのまま首と胴とが泣き別れになった訳だ。
「えっと…なんかゴメン」
長い舌をデロンと出した状態で絶命してる蛇の頭に思わず謝る。
「でも鑑定にあった魔の森って…」
ダメもとで足元の地面に向かって鑑定をかけてみる。
『魔の森…ハウター大陸中央部にある大森林地帯。魔素が濃いためS、A級の魔物が跋扈する危険地域』
「めちゃくちゃヤバい場所だったぁぁっ」
鑑定結果に思わず絶叫する。
ふざけんなっ!
なんて所に転生させてくれてるんだ。
結界が使えなかったら着いた早々に蛇のご飯になっていたじゃないか。
心の中で管理者へ悪態をつき捲っていたけど不意に我に返る。
死んだ蛇の体から黒い煙のようなものが溢れ出し、それが止むとソフトボールくらいの大きさの魔石が残った。
『異世界常識』によると魔物は死ぬと魔石を残して消えてしまう。
たまにドロップ品として肉や皮、牙なんかを落とすけどね。
でも獣は死んでも消えることなくちゃんと死体が残る。
それが魔物と獣の違いだけど、どっちも襲われたら危険なことに変わりない。
「有難くいただいておくね。『収納』っと」
魔石に向かって手をかざす。
すると見る間に消えて私の頭の中に収納された知らせが届く。
「こんな感じなんだ」
初めての収納に満足げに頷いてから次の確認作業に入る。
収納の中身を思い描くと魔石の他に家とある。
「どうやらちゃんとあるみたい。でも注文通りなのか不安だな」
そんなことを呟きながら目の前の空いた土地に出してみる。
「出たっ…けど…なにこれ?」
現れたのはコンクリート製の長方形の箱。
手前にドアが付いているので家らしいが。
「ま、入ってみるしかないね」
覚悟を決めてドアを開けてみる。
「…私が暮らしてたマンションの一室だ」
間取りも窓に掛るカーテンも奥の部屋のベッドもキッチンも全く同じ。
ああ、だから長方形の箱だったんだ。
まさか地球からそのまま持ってきたなんてことは…無いよね。
不安に駆られつつ中へと進んでゆく。
「ちょっと暗いな…電気は」
そう呟いて照明のスイッチを入れるが何も起こらない。
そこでハタと気づいた。
「電気きてないじゃんっ!」
叫ぶなりがっくりと床に膝をつく私だった。
異世界生活…初っ端から前途多難。