8、もしよければ婚約破棄します?
「家同士が決めた婚約者でも、浮気は良くないよね」
日常と化した「ごはん仲間」のランチタイム。
マナちゃんはアキュレス殿下とロザリア様が恋人繋ぎで手を繋いでいるのをニコニコ見守り、売店で買った魔法グミを袋から出した。
蛍光色の魔法グミは、生き物の形をしている。
フクロウのグミがほうほうと鳴いてみんなの周りをパタパタ飛んで、カエルのグミはケロケロッと騒いでぴょんぴょんする。
「そうは言っても、恋はしてしまうものですから……」
相鎚を打ちながら焼き色の美しいスコーンをさくりといただけば、アツアツ、ほくほく。
生地が素朴で優しい味で、紅茶との相性がとても良い。
「コーデリア! もしや誰かに心惹かれているんですか?」
ジャスティン様がショックを受けたような顔をしている。
「わたくしが心惹かれるのはジャスティン様だけですわ。でも、政略結婚する男女が全て互いに恋をしたり、互い以外に心惹かれないかといえば、それはあり得ませんでしょう?」
言いながら、私は思った。
「そういえばジャスティン様のお家……公爵家の財政は立ち直って、もう我が家の支援も必要ありませんわよね」
そう。なんと公爵家は、最近すっかり領地経営も改善されて、事業も次々成功させているのだ。傾いていたお家は、もう心配いらない……!
「もしよければ婚約破棄します? 婚約がジャスティン様の自由を束縛してしまうのは、わたくしの望みではありませんの」
「え、ええっ……?」
「これから恋愛しようというのに、婚約関係があると恋愛もしにくいでしょう?」
私はそーっとマナちゃんとジャスティン様を見比べた。
「わたくし、ジャスティン様が恋をする足枷にはなりたくありませんし……ジャスティン様が婚約に縛られず恋をして、恋を実らせるところを見たいのですわ」
「コーデリア……君は僕に何を求めるんです? 婚約関係なしの状態で恋愛をして、告白してほしいと……?」
「ええ、ええ。何の心配もなく、後ろめたさもなく、のびのびと恋愛してくださいませ。それがわたくしの望みです……」
本音を言うと、婚約破棄をして彼の特別なポジションを失うのは寂しい。世間的には不名誉でもあるし――本当は、本当は。
心の中には、複雑な気持ちがあったりもする。
けれど、私はジャスティン様が婚約者を気にして遠慮する姿を見たくない。我慢してほしくない。浮気や不倫をしていると言われるより、フリーになって自由に思うがまま、好きな人を好きだと言ってほしい……!
「こ、コーデリア……わかりました。貴方がそれを求めるなら、僕は貴方を振り向かせて見せましょう……!
」
一部不思議な部分はあったけれど、私たちは婚約破棄をしたのだった。




