5、可愛いショタだった推しは、美少年に育ちました。
そして、月日が流れた。一気に流れた。
可愛いショタだった推しは、美少年というか、もうすぐ美青年と呼ばれるくらいのお年頃に育った。
ショタと少年の違いってなんだろう。幼く可愛らしい容姿の少年がショタだ。
少年と青年の違いってなんだろう。ここは、たぶん年齢だ。20歳くらいを境界にして青年と呼ばれるようになるのだ。
美青年一歩手前の美少年ジャスティン様は、小説よりもレベルアップして輝いている。
健康で、剣術も学ばれて、原作より体格がよく、凛々しい感じにパワーアップしている。
「おはようございますコーデリア。今日も可愛いですね!」
朝の空気が良く似合う美声が爽やかで、耳が幸せ。毎日聞いていても飽きない。
すらりとした長身で、所作は洗練されていて、匂い立つような気品がある。
健康的な肌は肌理細やかで血色がいい。
日差しに金色の艶を魅せるチョコレートブラウンの髪は流れが整っていて、繊細で優美。
顔立ちは優し気で、神々が丹精込めて造詣した芸術品みたいな、現実味の薄い王子様フェイス。
あと、控えめで上品な、良い香りがする。
「ジャスティン様も、本日もすっごく格好良いですわ」
心からの賛辞を贈れば、ジャスティン様は嬉しそうに微笑んでくれた。ふわっと。
微笑んだ瞬間に良い匂いのするそよ風がほわっと吹くのが色々ずるい。
「ジャスティン様、もう誰も貴方を当て馬なんて呼べませんわ。貴方は勝ち確です」
「ふふ、たぶん褒めてくれてるんですね。細やかなニュアンスがわからないのが悔しいですよ。いつかコーデリアの言うことを全部理解できるようになりたい……なれるかな……」
私とジャスティン様は貴族の子弟たちが通う王立学園に通うようになっていた。
王立学園は平民も貴族も通う学園で、家から馬車で通う学生もいれば、寮生活を送る学生もいる。私たちは、馬車通学だ。
小説の通り、聖女が召喚されてきた。
突然の出来事だった。
学園中の生徒が見守る中、正門に大きな魔法陣がパアッと光り輝く。
学生服を着た女の子が光の中、姿を現す――異世界から召喚されたのだ。
癖のないストレートロングの髪は出現した瞬間は黒かった。それが根元からサアッとピンク色に色を変えていく。
「えっ、人が」
「何……?」
「髪の色変わってる」
ざわざわと見守る学生たち。
ジャスティン様が前に立ちふさがるように立ち位置を変える。さりげなく守ってくれているのだ。
まるで物語に出てくる騎士様のよう。
こんな行動が自然とできるあたり、とても格好良い。
「以前から申しておりました聖女様ですわ、ジャスティン様」
背中に向けてこっそりと教えてあげると、なぜだか胸が苦しくなった。
「聖女様は特別な女の子ですの。可愛くて、明るくて、前向きで、めげなくて、みんながつい応援してしまうような……」
――ヒロインなのだ。
私は、ヒロインが好きだ。
心根がまっすぐで、健気で、ピュアな性格をしていることが多くて。見た目も可愛いから、応援したくなる。
感情移入して、いっしょになって未知の体験をしたり、悲しんだりドキドキしたり、迷ったり困ったり、喜んだりする――そんな読書体験が好きだ。
「わたくし、彼女との恋を応援しま……」
「え゙ーーーーーーー!! なにこれぇーーーーーー!?」
校庭中に騒がしい声が響き渡った。
「くっそ見られてるぅぅ!? え、えっ、なんか集まってく……、やだちょっと、囲まないで、……こ、殺されるーーーーーー!?」
校庭中に騒がしい声が響き渡った。大切なことなので、二回。
「……聖女様?」
聖女様は、なんか思ってたキャラと違う人だった。それに、妹と一緒に転移するはずなのに一人しかいないような……。




