4、わたくし全力で応援いたしますわ!
魔法薬は、熟れた果実みたいな甘ったるい匂いがする。
私は完成した魔法薬の残りを瓶に入れ、レシピを紙に書いてお土産に渡した。
「これを売って公爵家の財政を建て直せば格下貴族と無理に婚約する必要もなくなりますわ」
年齢にしては生々しいことを言って周囲を驚かせた私に、ジャスティン様はショックを受けたようだった。
「コーデリア……公爵家の血統がお金で売られたと噂されたのを気にしてくださっていたんですね」
「そんな噂があったのですか」
でも実際、お金で血統を買うようなものかも――私は微妙な笑顔で頷いた。
「わたくし、噂は気にしませんわ」
けれど、ジャスティン様が気になさっているのは心が痛む。
推しには後ろめたいことを感じずに幸せでいてほしいのだ。
そんな私の気持ちを察してかはわからないが、ジャスティン様は大人びた口調で真面目な顔で頭を下げた。
「支援していただいている立場で贅沢だとは思うのですが、僕は、あなたのお家に支援してもらう実家の在り様が恥ずかしく、心苦しいです。こんな風に気を使わせてしまって……」
――わたくしの推しは、こんなに幼いときから良い子ですのね。
私は嬉しくなって頬を染めた。
続く言葉は本心から、自然と口をついて出た。
「わたくし、ジャスティン様が推し……こほん、好きですの」
「!!」
ジャスティン様が目をきらきら輝かせて赤くなっている。可愛い。
「ですから、ジャスティン様のために何かできればと思いましたの。大好きなジャスティン様のお力になれたら、わたくしは幸せなのですわ」
「コーデリア……! 僕、君みたいな子と婚約できて幸せです。将来、貴方が公爵家の妻として不自由なく過ごせるよう今から精いっぱい努力します」
真剣な顔で誓うジャスティン様に、私はすっかり調子に乗った。
そして、告げたのだった。
「ジャスティン様が立派なスパダリになって、聖女様を射止めることができるように、わたくし全力で応援いたしますわ!」
ちなみにこの時期、聖女はまだ召喚されていない。
「スパダリってなんでしょう?」
「聖女を射止める……?」
この時、発言を聞いた壁際の侍従からそんな囁きがこぼれるのが聞こえた。
私の目には全員が頭の上に「???」を浮かべるのが視えた。
ジャスティン様も同様だ。
――そういえば、この世界には「スパダリ」という言葉がない。
「せ、説明しますわ」
未知の聖女とスパダリについて、私はその後ゆーっくり時間をかけて説明をして、「わたくしは応援しますわ」ともう一度宣言しておいた。
理解してもらえたかどうかは、わからないけれど。
「あと、ちょっとだけわたくし知識がありますの。地図をご覧になって」
「うん?」
「魔の森にダンジョンの入り口が隠されていて、その中でとても価値のある宝石が採掘できるのですわ」
「こんなところにダンジョンの入り口が!」
「この国境付近に三カ月後に出没してパトロンを探すレオナルドという方は、やがて商王と呼ばれるほど商売の才能がある方なのでお助けして囲っておくと良いと思いますの」
「コーデリア、君は預言者か何かなんですか?」
――健康第一、そして次は財政安定!
その日から聖女が召喚されるまでの間、私は推しのために持てる知識を捧げて全力で応援した。




