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3、魔法薬をつくりましょう


 魔法薬を作ると決意した後、私は早速お父様におねだりして材料を買い集めた。


「ネコ妖精のひげ、一角馬の涙、眠らぬ夜樹の黄金果実、海底の星草、甘唐辛子のアマカラ花蜜……完璧ですわ〜!」


「どれもとても貴重な材料ですね、コーデリア……」


 材料を並べて悦に浸る私の隣には、わくわくとした眼で見守るジャスティン様がいる。

 見舞いに来た日以降も、頻繁に遊びにきてくださるのだ。

 

「お嬢様、お坊ちゃま。刃物は危ないですから、私がカットいたしますね」

 メイドのメアリが薬材をカットしてくれる。

 

「よくわからないけど、僕も手伝うよ」

 ジャスティン様は意外と乗り気だ。

 壁際で侍従たちが心配そうに見守る中、私たちはすり鉢とすりこぎ棒をおままごとの道具みたいに使ってゴリゴリと薬材をすり潰した。


「すり潰したあとは、煮込むのですわ」

「お料理みたいですね」

 お鍋にすり潰した薬材を入れてぐつぐつ煮込みながら、休憩タイムにお菓子をいただけば部屋の扉のあたりにコソコソと中の様子を窺うお父様がいる。


 

「公爵令息が魔法薬作りを……あんなに仲良く……」

 お父様は声が大きい。

 室内にもバッチリ聞こえている。

「ご実家にバレたら『何をさせてるんだ』と怒られないだろうか? というか、パパのコーデリアちゃんが男の子と仲良くなってしまって……うっ、うっ」

 


(お父さま……恥ずかしいですわ)

 私はもじもじした。

 

 ああ、メイドのメアリが淹れてくれた紅茶の香りがかぐわしい。

 嗅いでいるだけで上品な気分になれて、背筋が伸びる心地がする……。

 一瞬、私が現実逃避していると、涼やかな声がした。

 

「婚約者ですから」

 ……ジャスティン様だ。


 背筋を伸ばし、姿勢よくお澄まし顔をしているのが可愛い――格好良い。

 可愛くて格好良い。これはずるい……!

 

「ぐ、ぐぬぬ」

 お父様は嬉しそうなような悔しそうなような複雑な感情の入り乱れた顔でハンカチの端を噛んで、立ち去って行った。

 爪を噛んだりしないあたり、お上品だ。

 お父様は常日頃から、できるだけ上品に振る舞おうと努力なさっている方なのだ。

 


「……コーデリア、このジュレを召し上がってください。とても美味しいですから」 

 ジャスティン様はお父様の背中に一礼して見送ってから、赤スグリのジュレをすすめてくれた。

 

 赤スグリのジュレはスプーンで掬うとぷるるんっとして、赤い色が照明に照らされてきらきらして、綺麗。

 口あたりはひんやり、つるんっとしていて、甘酸っぱい。

 爽やかな甘酸っぱさに幸せを感じていると、とろとろと舌の上で形を崩して、やわらか~い!

 

 ――美味しいっ!


 私が桜色に染まった頬を押さえて蕩けそうな顔をしていると、ジャスティン様はにっこりした。

「こちらのくるみのローストも美味しいですよコーデリア。蜂蜜シロップに漬けてあるようです」

「バターたっぷりのブリオッシュも、パティシエの得意菓子ですの」

 

 お菓子タイムの後で魔法薬が完成してみれば、見た目はなかなか美しい。

 冷やして透明なグラスに注げば、ジュースみたい。

 下の方が紫、上にいくほど蒼のグラデーションとなっていて、なんだか美味しそうなのだ。


「僕で人体実験してみるわけですね」

「人体実験だなんて……でもそうかもしれません」


 見た目は小説で描写されていた通り。

 でも、いきなり本人に飲ませて果たして大丈夫か――私は一瞬迷った。


「あ、あのう。お飲み頂く前に、毒見をわたくしが」

「いただきます」

 侍従たちが目を剥いて見守る中、ジャスティン様はニコニコして魔法薬のグラスをぐいっとあおった。止める暇もなく、ごくごくと飲んでぷはっと息をつく様子は、意外と大胆。

 そしてなんとなんと、あっという間に顔色がよくなっていく!

 


「すごい、なんだか元気が出てくる……?」

 ジャスティン様は驚いた様子で立ち上がり、軽く腕を振ったりして体調を確かめている。血色が悪かった頬に薔薇色が差して、とても可愛い。

 

 

「よかったですわジャスティンさま! 本当は、お体に毒でしたらどうしようかと心配してましたの」

「そうじゃないかと思いました」

 

 ただでさえ病弱なのに、名家の御嫡男なのに、不用心すぎないかしら?


 私はこの日、ジャスティン様がとても心配になって思わず「次からは安全が確認できてからお口になさってくださいね」と忠言してしまうのだった。

 

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