13、あっ、百合でしたか!
「おねーちゃん、わたしのこと忘れて浮気してない?」
「してないよ。あたしは。っていうか、アヤ。その魔物たちは何?」
「わたしが転移した場所、魔界だったんだ。魔王がウザかったからどっちが強いかわからせてやった」
なんだか恐ろしい会話をしている。
私たちは姉妹の再会を見守り、どうやら魔物たちが人間に危害を加えることがなくなったということを理解した。
「オ、オレは百合の間に挟まろうとしていたのか」
「アキュレス殿下、お気を確かに!」
アキュレス殿下がショックを受けて、ロザリア様にいい子いい子してもらっている。
「ロザリア……お前は本当にいつもオレのそばにいて味方をしてくれる……オレは君をママと呼びたい……」
「ええっ!? 殿下、それはちょっと……わたくしバブ男よりオレ様の方が……」
ロザリアがあやしいルートに入りかけている。
華やかな光が咲くダンスフロアに、音楽が流れ始める。
「みなさーん、あたしたちはおうちに帰ります。お騒がせしました!」
マナちゃんが妹の手を握って深々と頭を下げる。そして、私の近くにきた。
「また遊びに来れたら来たいけど……たぶん無理でしょ。だから、お別れってことで」
「あ……」
お別れ、という言葉がズンッと心に響いた。
それほど長い親交でもなく、深くお互いのことを知ってるわけでもない。
……けれど、もう会えないと思うと胸の奥がじんじんとする。
「今まで、ありがとう。元気でね……お幸せに」
友達の温度感で、マナちゃんが手を握る。
握った手のひらはぽかぽかとあったかくって、鼻の奥がツンとした。
「こちらこそ、ありがとう……」
さようなら、と言わなくてはいけない。
元気でね、お幸せに、と。
それは、その人と二度と会わないかもしれないから言うのだ。ありったけの祝福の気持ちを込めて、貴方の人生に幸せあれ、と願うのだ。
――でも。
「……またね」
そう呟いたら、マナちゃんはハッとした顔で瞬きをした。
そして、ニカッと歯を見せて笑ってくれた。
「――うん。またね!」
再会を誓い合って、姉妹が光の中に消えていく。どうやったのかはわからないけれど、二人は帰ったようだった。
魔物たちが姿を消すと、最初は警戒していた人々は少しずつ日常に戻っていった。




