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4-1 目覚め

1章




『もう大丈夫です。全ての悪夢から解放されたんです』


うるさい!


『間違っているのはあなたじゃない。世の中だったんです』


うるさい、うるさい!


『安心してください』


うるさい!これは俺が決めた道なんだ!お前が俺に指図するな!


怒りの限界を超えたクランはそれと同時に目覚める。フカフカなベットの中、それに白い天井。目を開けてボーっとしてしまう。手枷がされてないな。


俺は誰に助けられたんだ?


いくつかの疑問を抱きつつ、クランは体を起こす。部屋には看護婦さんが椅子に座っている。

「目覚められたんですね。良かったです」そう言って看護婦さんは俺の手を握ってくる。熱心に看病してくれたんだろうなと思う他ないだろう。してくれたこと、思ってくれたこと非常にありがたいのだが、「あの…、連れがいたと思うんですが、ケルトとレイナというんですが…、どこにいるか分かりませんか?」

看護婦さんは自分の頬に手を当て考え込むしぐさをしている。

「そんな名前の方はこの病院にはいないと思います」


どうなっているんだ?


最後の記憶…。クランは必死に自分の最後の記憶を思い出そうと目を瞑る。光に包まれた。その時には3人一緒だった。ラクトスの森の転移阻害に引っかかる訳はない。俺たちは転移なんてしてないし、できる奴もいなかった。謎の光に包まれ、気づけばここにいた。ならば、絶対にあの2人もこのどこかにいるはず。

「つかぬ事を聞きますが、私の名前は分かりますか?」

「いえ、今目覚められたばかりなので…、聞いてもよろしいですか?」


なるほどな。


きっとケルトもレイナもまだ目覚めていないのかもしれない。であるならば、この看護婦さんの言うことは正しいとも言える。

「俺はクランです。俺と同時期に助けられた人はいませんでしたか?」

「それは分かりません。私たちはここへ運び込まれた人たちを介抱するのが仕事なんですから」


確かに…。じゃあ、


「俺と同じ日もしくは近い日に運び込まれた人はどのくらいですか?」

「患者さんの人数の把握は私の仕事ではないんでですね。そこのところは院長に聞かれてはいかがですか?」

「そうですね」

そりゃそうだ。いくらなんでもこの看護婦さんが全てを把握しているわけがない。

「あ、後ですね、この大きな剣はあなたの物ですか?」

看護婦さんが指さした先には自分の剣が壁に立てかけられていた。


んん!?


「そ、そうだが…。何でだ?俺は人間だぞ。それに武器なんて危ないから取り上げるのが筋なんじゃないのか?」

動揺からか少し声が大きくなってしまった。


こいつらいったい何を考えているんだ?武器もある、安心しろということか?安心させ、そこから油断を誘い、捕縛…という筋書きなのか?


看護婦さんに対して少し警戒心が高まるのだった。緊張した空気に変わったのが分かったのか、看護婦さんは両手を挙げ、無害アピールをする。少し怯えている雰囲気から察するに、クランは自分の眉間のしわに指を当てて揉んでおく。


俺の怒りのせいか…、申し訳ない。


少し落ち着いたのが分かったのか、「武器を取り上げるのは当然だと思います。でも、あなたは今までその武器で自分の命を守ってきたのでしょう?ならば、取り上げられませんよ。その武器があなたの心の拠り所でもあるのですから。でも、大丈夫です。ここは人間しかいませんから。少しずつ武器から離れられるように一緒に頑張っていきましょう」

「この病院は人間しかいない病院で、悪魔たちに管理されているってことなのか?」

「いえ、違います。この世界に悪魔はいません。人間の楽園です」

「人間の楽園ねぇ…」


この世界って言ったよな。つまりは人間界へ帰還したとは考えない方がいいだろうな。悪魔のいない異世界と考えるべきだろう。


「リハビリなんかは大丈夫です。もう十分お世話になったので元気な人が病院にいても、ね…」

クランは少し乾いた笑いを浮かべてみる。

「そんな、気を使わなくてもいいんです。しっかりリハビリしてトラウマなんかも少しでも治療していけばいいんです。急がなくてもいいんですよ」

ゆっくり、諭すように、優しい眼差しで看護婦さんはクランに訴えかける。恩を仇で返す訳にはいかないよな。優しい看護婦さんに対してクランは少し警戒心を解くことにする。

「お気持ち、ありがたく受け取っておきます。しかし、俺は元気なので、リハビリは通いでも構いませんか?」

「大丈夫ですよ、社会復帰も大事ですからね。くれぐれも無理はしないでくださいね」

「ありがとうございます」

「では、聞きたいこともあるとのことなので院長室へと案内しますね」

それからクランは身支度を始めた。剣、それからチェーンシャツ、チェーンズボン。インナーの類は全てそこに置いてあった。魔法攻撃をカットしてくれる服もちゃんと洗濯され、綺麗に畳んであった。無い物がない。恐らく人間の楽園というのは間違いではなさそうだ。人間には悪魔と人間の判別はできない。レイナも来ているのだとすれば、よっぽどのことが無い限りは大丈夫だと思いたい。装備一式を着こんでクランは部屋の外にいる看護婦さんに合流した。ラクトスの森から転移して来た人間しかいない異世界。条件はなんなのか?少し考えてクランは顔が青ざめる。人間だけしかいない世界…。全員転移したなんて誰が確認した?俺の思い込みだろ…。光に包まれた時に3人いたのは記憶にあるが、全員が消えたかまでは確認していない。悪魔がこの世界の条件に一致しないのであれば、…レイナは1人あの森に取り残された可能性が高い。勘だがケルトはきっとこの世界にいる。あのシルヴィーって奴に追われてたんだ。レイナ1人では危ない。早くケルトと合流してレイナを救いに戻らなければ。少し焦ってきた。

「ここが院長室です」

考え事に耽っている間に院長室へ到着したみたいだ。看護婦さんに丁寧に挨拶して院長室へと入る。

「クランさんですね。退院ということでよろしいですかな?」

院長室の席に座る白髪の爺さんはクランが入ってくるなりそう告げた。何故俺の名前を知っている?というのが最初の疑問だ。クランが怪訝な表情を浮かべていると、「今日知った情報を何故私が知っているのか?と疑問に思っているのでしょうな」


ご名答である。


「各部屋にはカメラによる監視体制が敷かれているのですよ。患者により良いケアを行うためには必要な事であると私が設置させた物で、全部屋についています。それに、急変や職員への非道は監視することで職場の平和にも繋がりますし」


ごもっともだ。まだ、一言も喋っていないってのに、相当頭が切れそうな奴だな。


「退院するのであれば入院費用を支払って貰わなければなりませんが、お金は準備できますかな?」


お金…か。この世界は異世界とはまた違う異世界。通貨が同じなのだろうか。


「エルで良ければ払えると思います」

その言葉に院長は少し目を開き驚きの表情を浮かべる。そして金額を聞き、ここでの通貨もエルだったので受付で支払うようにと説明を受けた。

「クランさんはどうやら優秀なようですな。最初は皆無一文ですからここでのお金を返す為に仕事の斡旋などから話を始めるのですが」

「そうか。助けてくれたこと、重々に感謝する。それで、だ。俺はここから出たいのだが」

クランの言葉に院長は首を傾げる。

「出たいとは?」

どうやらよく意味が分かっていないようだ。それもそうだろう、人間が悪魔のいた世界に帰りたいなど、普通は言わない。

「ここに来る前の世界へ返して欲しい」

少し呆けた顔をした後、院長はうんうんと頷いた。

「どうやら、あちらに何か大切な物を忘れてきたのでしょうな。だが、それは命よりも大事な物なのでしょうか?」

「いや…、そういう訳ではないが」

「ならば諦めなさい。この世界は行き止まり。君の願いは届かない。でも、その代わりとなるメリットがとても大きい、あの世界のことは忘れる努力をすることが一番ですな」

「そうか、出られないのか。それは残念だな。聞く限り、ここは平和そのもののようだ。少し荒くれ者の俺には物足りないかもしれない。だが、かと言って無暗にここで暴れようなんて気は無いし、平和を脅かそうだなんてことは思ってないから安心して欲しい」

現状詰んでるようだな。入ったのに出られないってのは、まず無いだろう。難しいとは思うが必ず手段はあるはず。

「では…」とクランが退出しようとした時、「荒くれ者、ですか…」と院長の小声が聞こえた。ついポロッと出てしまった本音に多少反省してしまう。要注意人物認定されてもおかしくない発言だったよな。クランが院長を振り返り見ると、院長はニコリと笑った。

「ちゃんと、そういう人たちのことも考えたシステムがこの世界にはあるので安心してください」そう言ったのだった。


何だ、安心システムって?


クランが口を開くよりも早く院長が答える。

「まずは役所へ行くと良いでしょう。市民登録を済ませ、家を借りる申請をしなければここでは生活できませんからな。それに、先ほどの私の言葉が少し気になっている様子。それに関しても役所へ行けば詳しく説明してもらえるでしょう。法律は人間界とほぼ同じです。その剣を抜くことがないようにしてもらいたいですな」

どうやら話は終わったようだ。クランは病院代を支払い終えると、外に出る。まずは役所へ行かないとな。何をするにしても情報が足りなさすぎる。この世界についてしっかり聞いておかないと出口の前に人生が終わってしまうかもしれない。教えて貰った通りに役所へと向かう。街並みは人間界と変わらないようである。懐かしいようで心地が悪い。


『お前はバカか?今目の前に転がっているのは人形じゃないんだぞ。正当な剣技にはもう飽き飽きだ。殺しは面白いぞ、命の奪い合いだ、ヒリヒリする』ガウラ…。


嫌なことを思い出した。クランは頭を振りながら思い浮かんだ嫌な記憶を必死に振り払う。

「おい!悪魔が逃げたぞ!早く捕まえろぉぉおおお!」

後方から大声でそんな声が聞こえてくる。悪魔?すぐさま後ろを振り返ると小さな少年が必死に大の大人数人から逃げている。スッと少年が自分の横を駆け抜けていった。

「おい、そこの兄ちゃんも協力してくれよ」

追いかける男たちがそう声を掛けながらクランの横を通り過ぎていく。悪魔ってなんだ?ここには人間しかいないって…。追いかけられている少年をよく見ると、首輪をつけている。クランは追いかける男を1人捕まえて「ここには悪魔がいないって聞いたんだが」と問い詰める。

「おい、兄ちゃん。新人か。その話は後にしてくれ。今捕まえないと大変なことになるんだよ!」

焦って少し大声になっているが引く気は全くない。

「大丈夫だ。あれだけの大人に追われて捕まらない方がおかしいだろ。つーか、悪魔って何だ?何故悪魔がいる?」

必死に振りほどこうとするがクランの力が強く、振りほどくことができない。男は諦めたのかその場に座り込んだ。

「兄ちゃんも悪魔にこだわるってことは、あっちの世界で悪魔にこっぴどくヤラれた口か。じゃあ、好都合ってもんだ。悪魔はここでは魔法を使えないし、魔力が強ければ強い程に弱体化するらしいんだと。兄ちゃんも金貯めてその内悪魔の奴隷を買えよ。奴隷は人権が認められてないからな。やりたい放題にできる」

「そうか。そりゃどうも」

有力な情報が聞けたのでクランは男を解放する。


ズドーン。


突然爆音が鳴り響く。


へ?


驚いて音の方角に視線を向ける。そこには爆炎が上がっている。あっちは…、少年が逃げていった場所。クランはすぐに駆けだす。そこには焦げた何かが転がっており、その手前では皆が跪いている。

「誰ですか、1匹のおもちゃも管理できずに逃がした方は」

1人立っている男がそう皆に問いただしている。後から到着した先ほどクランが尋問していた男を再び捕まえ、解説を求める。

「あの立ってる奴は誰だ?」

「あれはミーファ様だ」


ミーファ?偉い奴なのか?


「あいつは何者だ?」

「ミーファ様は天界の遣いで、このオンネス地区を管理されてるお方だ」


オンネス地区?天界の遣い?


「あの黒い焦げてるのは何だ?」

「あれはさっき逃げてた奴隷だ。管理できていないのが見つかれば即殺される。そしてその主人にもペナルティーが与えられるんだ」


ペナルティー?


「奴隷の見分け方はあれか?首輪か何かなのか?」

「そうだ」


ふーむ。


「あの爆発は何だ?爆弾か何かか?」

「いや、違う。ミーファ様の授かった神の力だ。ミーファ様はその力で火を操ることができるんだ」


火を操るねぇ…。と、そのミーファ様とやらの視線がこちらに向いているような気がする。すぐさま隣にいた男は跪いた。その場に立っているのはミーファとクランだけである。

「おい、お前。頭が高い、早々に跪け」


何だこいつ、バカか?


「跪け――だと?人間界の法律にそんなものはない。それと俺に命令するな」

ミーファはあからさまにため息を吐く。

「話ぶりから察するにあなたは新人ですね。人間界の法律は確かに採用されています。しかし、その法律の上位に私たち天界の遣いの命令は絶対という法律が加えられています。ちゃんと覚えておくように。それと、今回は見逃しますが、その大きな剣は銃刀法違反に当たります。家にしっかりと保管して持ち歩かないように。次見かけたときには没収しますからね」

「ここで剣を抜いたらどうなるんだ?」

「そうですねぇ…」

ミーファは顎を撫でるように考え込む。

「その時は容赦なく殺します」

「そうか、参考になった」

満足したのか、ミーファはこの場から去っていった。

「兄ちゃん、血の気が多いのは結構だけどよ。ミーファ様には盾突かない方がいい。奴隷を買うまでの我慢だ。むしゃくしゃした時の為に奴隷はいるんだからな」


はぁ…、なんとなくだが理解はできた。レイナが来ていない説は消しだな。確実にレイナもここにいる。そして、奴隷というやつになっている可能性が高いだろうな。どうしたものか…。クランは再び考え込みながら役所までの道を歩いていく。役所へ着くと受付でこの町のルールを説明する講習会をするらしく、明日また来て欲しいと言われた。それまでは近くの仮設住宅で待機するようにと、家の鍵も渡されたのだった。至れり尽くせりだな、人間には。クランは部屋で1人ボーッと天井を見つめる。あの時ミーファと戦ったら俺は勝てたのか?魔法なしでは異世界で魔法を使える相手には勝てた試しがない。こちらも奥の手があったから勝てる訳であって。クランは荷物から魔石を取り出し、剣の窪みにはめ込んでみる。だが、反応が無い。魔法は使えないようである。だが、ミーファは使える。どんなカラクリなのかを暴かなければ戦えないな。とりあえず、クランは今できることが何もないので寝ることにした。


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