3-18 新たなる町へ
18章
ケルトたちは今タンダスを出てラクトスの森を歩いている。迷宮であるラクトスの森を抜ける為に必要なことはタンダスを経由するということ。そして、村人と会話することで解呪されるのだとか。巫女達にそう教えて貰ったのだった。だが、このことは他言無用であり、秘密にすると約束したのだった。
それはそうと、レイナの問いにまだ答えていないケルトであった。どこに行くかという質問である。
「そりゃあ、クランさん。そこんとこ、どうなんですかね?」
ケルトはレイナの質問をそのままクランに横流しした。
「おい、それはお前が考える担当だろ。俺に振るな」
クランはシラーっとした目でケルトを見る。ケルトはわざとらしく「えっ?そうなの、初耳」とふざけてみるのだった。そんな平行線を辿る内容に痺れを切らしたのか、レイナが口を挟む。
「森を抜ければラカラソルテでしょ」
「そうだな。そして、その隣がヘルジャス王国だ」
クランの言葉にケルトは空を見上げ、笑ったのだった。
「ヘルジャス直行で」
ケルトはそう言うと、いきなり走り出した。
「あっ、待ってよケルト」
ケルトに続き、レイナも走り出した。そして、その後をやれやれといった感じでクランが続いた。暫く森の中を歩き、先に光が差し込む場所があった。どうやら森の出口に辿り着いたようだ。だが、近づくにつれ、不安な気持ちに襲われたのだった。出口の付近には2人の人影が立ちふさがっていた。1人は銀髪ロングの女性。そして、その隣にはガタイのいい赤髪ロングの男性。女性を見てケルトは思わず目を見開いてしまった。
ザキルの言っていたシルヴィーという女。彼女はフォードの仲間である。そして、特徴も一致する。だが、戦いで疲弊し、連戦は避けたいところである。フォードの居場所も分かっていることから、ここでシルヴィーを突いてもあまり得は無いだろうと考えるのだった。
だからこそ、知らないふりをしてそのまま通り過ぎようとした。
「くくっ、やっと会えたわ」
通り過ぎる間際に銀髪の女性はそう呟いた。ここは森の中。その場にいるのはケルトたち3人だけ。しかも、女性はわざとケルトたちに聞こえるようにそう呟いたのだ。
(会えた?誰にだ?)
不可解な言葉を発してはいるが、今のところ特に何かされたという訳でもない為、そのまま通り過ぎようとする。だが、銀髪の女性の隣にいる男性がケルトたちを呼び止める。
「おい、ちょっと待てよ」
その言葉にケルトたちは足を止め、振り返った。森の出口を目の前にして捕まってしまったのだった。
「連れないなぁ。無視して通り過ぎていくことはないんじゃないのか。こちとらずっとここでお前等を待ってたんだから」
「待ってた…か…」
ケルトはそう返答する。恐らくはザキルと合流しケルトを始末する為にここで待ち伏せていた刺客なのかもしれない。殺気が尋常じゃないのはすれ違う前から既に分かっていたことであった。特に隣の銀髪のシルヴィーだ。
そんな中、クランがボソッと呟く。
「あいつら知り合いか?」
クランの問いにレイナは首を横に振った。そしてケルトもすかさず「知ってたら無視しないっつーの」とごまかす。町へ出れば派手な戦闘行為はできないだろう。だからこそ最優先するのはここから町への即時撤退である。ケルトは隙を探す。
「じゃあ、ここの誰かがあいつらの恨みを知らずに買ってるってことだな」
そう言ってクランは2人をジッと見据える。
「殺気の量からして相当強いわよ、あいつら」
レイナは若干冷や汗をかいていた。そんな中張り詰めた空気を割ったのはケルトだった。
「なんか、変なことしたんなら謝るわ、ごめんなさい」
ケルトは向かい立つ2人に深々と頭を下げた。
「ぷっ、フハハハハハ」
ケルトの行動に赤髪の男は笑い出した。
「状況を理解していない割には潔いことするじゃねぇか。バカでもこの力の差は分かるってか、なぁ混血」
赤髪の男は後ろ髪をかき上げながら冷静に言葉を返す。だが、隣にいる銀髪の女性は殺気を一向に収めようとしない。
「ケルト、あんたに用はないわ。用があるのはそこにいる女、レイナだけだから。その女を置いていけばあなたたちは見逃してあげる」
(ほぅ。)
ケルトはシルヴィーの発言の後、レイナの方を向き首を傾げた。
「私はあなたのことなんか知らない。只の人違いなんじゃないの?」
レイナの言葉にシルヴィーは口元を緩める。
「人違い?タンダスの結界を解いたのはあんたでしょ。ちゃんと知ってるんだから。私はあなたたちと面識があるのよ。だってタンダスで婆になりすましてたんだから」
巫女の話から、そしてザキルの話からケルトだけは知っていた。だが、クランたちは知らない。ミヤをあんな目に合わせた張本人が目の前にいる。怒りが今にも噴火しそうなクラン。だが、ケルトがドウドウとクランを宥める。と、そんな時、レイナが一歩前に出るのだった。
「いいのよ。私に用があるんだから、ケルトたちはこのまま森を抜けて」
レイナは構える。そんな姿にクランは冷静さを取り戻したのだった。
「レイナ…。俺たちも加勢する」
クランはレイナの横に並び立つのだが、「いいんだって。私の願いはケルトとクランが叶えてくれたから。もう思い残すことなんて何もないから」レイナはクランにニッコリと笑ったのだった。
「何をバカなことを言ってんだ。自己犠牲なんて全然カッコよくないからな」
クランがレイナを掴み怒鳴り散らす。そんな中、「もう1人でも2人でもどうでもいいから」そう言ってシルヴィーはレイナたちに向けて手をかざす。
【火放】ケルトは即座にその場に煙幕を張った。それに呼応するようにクランは大剣を地面に置きその上に乗った。腕を掴んでいたレイナを引っ張り上げ、ケルトが乗ったと同時に大剣は森の出口に向かって飛び進むのだった。
「仲間だろ。そんな連れない事言うなよ。残された奴らの気持ちも考えろってんだ」
ケルトは笑いながらレイナの頭をポンポンと叩いたのだった。
「ケルト…」
「ふっ…」
レイナの呟きにクランは安堵したのか息を漏らしたのだった。即座の行動に対してシルヴィーは反応していた。追ってきたシルヴィーに対してケルトは飛んでいる大剣の柄を掴むと後方に手を広げる。
【火放】「ジェットぉおお!!」
ケルトの火炎により大剣は加速したのだった。
「おい、シルヴィー。フォードによろしく言っといてくれ。すぐ殺しに行くからって」
ケルトは笑いながらシルヴィーを見送ったのだった。そんな様子を見て呆れたのか、シルヴィーは追うのを止めた。
「もう追わないのか?」
粉塵が立ち込める中、赤髪の男はシルヴィーにそう言う。
「追えないでしょ、後ろにこの森の主がいたんじゃ…」
シルヴィーの言葉に笑いながら森の主と呼ばれた者が姿を現す。
「よく分かったな。完全に気配を消していたつもりなんだが」
「分かるわよ。この森にどれだけいたと思ってんのよ」
「いい心がけだ。じゃあ、このまま森を去れ。でなければ、今すぐ殺す」
言葉の後、ラクトスからは尋常じゃない程の殺気が放たれる。ラクトスの言葉にシルヴィーは口元を緩ませ、一歩下がったのだが、反対に赤髪の男性がシルヴィーの一歩前に出た。
「いいのよ、ビジャル。ここで無益な争いをしたって仕方ないんだから」
そう言ってシルヴィーはビジャルの肩を掴むのだが。何故か雰囲気が違う。いつもならおちゃらけで終わるビジャルが本気で怒っている。シルヴィーはビジャルのこんな姿を初めて見るのだった。ビジャルの圧力に少したじろいでしまう。
ビジャルの視線はラクトスの後ろにいる女性に注がれていた。
「なんでそいつに首輪をつけてんだ?」
ビジャルの言葉にラクトスは後ろを向くのだった。そして後ろにいる部下に話しかける。
「おい、メシア。お前に質問らしいぞ、答えてやれ」
ラクトスの言葉にメシアと呼ばれた女性はラクトスよりも一歩前に出る。
「これは私の玩具でございますが、何か?」
「玩具だと…。おい、トマーンしっかりしろ。姉貴たちはどこなんだ?」
ビジャルは首輪をつけられている男にそう話しかけるが、男は目に生気が宿っておらず何も返答しない。
「トマーンを解放しろ」
ビジャルがそう言ってトマーンに手を伸ばそうとするのだが、突然ビジャルは地面に押し潰されたのだった。
「汚らわしい、私の玩具に触るな」
そう言ってメシアは這いつくばっているビジャルを見下す。そんな中、気まずそうにラクトスが間に割って入る。
「まぁ、後ろのお嬢ちゃんも話し合いで納得してくれてるみたいだし、こいつのことは任せるから。俺はこいつを連れて帰る。それで、終わり。争いごとはなしだ」
そう言うとラクトスはメシアを連れて森へと姿を消したのだった。ゴツッ。倒れこんでいるビジャルにシルヴィーはチョップをかます。
「ほら、行くわよ。世界に消された記憶なんて忘れなさい。あんたが何しようが相手はあんたのことを覚えていないんだから。それよりも、フォードをこれ以上待たせちゃ可哀想でしょ」
シルヴィーは倒れているビジャルの後ろ襟を掴むと、そのまま転移して消えてしまった。
・
「いーやっふー!」
ケルトは今、クランの後ろに乗り、森を切り裂くように進むスピード感に酔いしれていた。
「もうすぐ森の出口だ。次の町はラカラソルテ、ヘルジャス王国の隣町だ」
一行は光の先へと突き進む。その光に入った瞬間だった。
「眩しい!」
レイナが余りの眩しさに叫んだ。3人を眩い光が包み込むように感じた。
「何だ!?」
異様な感覚にクランも叫ぶのだが、3人はそのままその光に呑み込まれてしまった。
エル…。
まさかな…。
ケルトはこの時、何故かエルと初めて出会った時の話を思い出していた。
『嬉しさの余り母の手を引き、走った少年。そして、ピクリとも動かない母を引きずって走っていた少年。』
森の出口だったんだよな…。




