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3-11 ファーメンドル=ブロコ

  11章



カイルに邪魔されたファーメンドルは怒りを露にする。

「ちゃんと理解した上での行動なんだな、カイル。一応お前は仕事のお得意さんだからな、最後にもう一度だけ警告してやる。この件に関わるな。でないと、お前もまとめて殺すぞ」

ファーメンドルはじっとカイルを見据えるのだが。

「ねぇ、君、名前何て言うの?」

レイナは今カイルの腕の中にいる。ファーメンドルをフル無視してカイルはレイナから名前を聞き出そうとしていた。

「ゲホッ、ゲホッ。わ、私はレイナっていいます」

「そう、レイナちゃんかぁ…。大丈夫、レイナちゃんは俺が必ず守るから」

そう言い、レイナをおろしたカイルは一歩前に出てファーメンドルを見据える。

「さっき何か言ってたみたいだが、聞いてなかったからもう一度頼む」

カイルは堂々と言い放つ。いつも無表情であり冷徹と呼ばれているファーメンドルの顔が歪んだ。怒りを露にするファーメンドルを見た兵士たちは一歩、また一歩と後ずさりするのであった。

「それがお前の答えということでいいんだな」

「答え?何言ってんだ?お前が何を言ってるのかは知らんが、俺の辞書にこんな可愛い子をほっとくなんて文字は無い!!」

カイルは腕組みしながら自信満々に言い放った。

「そうか」

ファーメンドルはそう言った瞬間、自分から距離を詰めるように走り出す。先ほどまでのエルやレイナとの戦闘スタイルとは打って変わり、全く相手を舐めている感じがない。

(そりゃ、そうなるよな。)

カイルは向かってくる敵に対し、口元を少し緩ませる。ファーメンドルは走る勢いを殺さないように一気に右ストレートを放った。ブウォン。風を切り裂くようにファーメンドルの拳がカイルに突き刺さる。【テレ】カイルはファーメンドルの拳が当たる前に転移魔法を念じ、姿を消した。ファーメンドルの拳は無情にも轟音を奏でながら空を切るのだった。

「ちっ…」

ファーメンドルは消えたカイルを捜すように辺りを見回す。

「ここだよ」

カイルは転移によりファーメンドルの真上に姿を現した。そして、そのままファーメンドルの頭を掴むと、地面に叩きつけた。

「術属性風情が、覇属性の真似事なんてしてんじゃねぇよ!!」【魔界の手】

ファーメンドルは右手を巨大化させ、地面に叩きつけられた状態のままカイルがいるであろう場所に拳を放つ。【テレ】カイルはすぐさま転移し、ファーメンドルの攻撃から逃れる。

「ちょこまかと!」

カイルの攻撃は全くファーメンドルに効いていない。少し離れた位置に姿を現したカイルはファーメンドルを観察する。【鋼力】カイルは肉体強化魔法を唱える。

「ふっ」

ファーメンドルはカイルが肉体強化魔法を念じているところを見て少し口元を緩ませた。

【魔力】同じくファーメンドルも肉体を強化する。そして更にファーメンドルは目を青色に発光させる。「残念だな、挑発しているつもりなんだろうが。俺、魔力開放しない派なんだ」

「この俺にハンデでもやってるつもりか?」

ファーメンドルはギラついた目でカイルを睨む。そして、カイルに急接近する。【超速移】ファーメンドルは速度上昇魔法を念じ、一気に加速してそのままカイルの顔面に右ストレートを叩きこんだ。

ボコォン。

カイルは吹き飛ばされ、遥か後方にあった木に叩きつけられた。

「飛ばされながら転移するかと思ったんだが、まだまだ未熟。心が乱れていては魔法も念じれないか」

ファーメンドルはカイルを見据え、大地を蹴りこむと、そのまま一直線に追撃に向かう。

「ふはっ…、いってぇなぁあ」

カイルは突進してくるファーメンドルとは逆方向の森の中へ入っていく。

「正面からだと分が悪いか?」

カイルを挑発しつつ、最速でカイルを追い、森の中へと入っていった。

周りでは巫女達が今もまだ兵士たちと戦っている。そんな中地面にへたり込んでいたレイナはファーメンドルと対峙した時に抱いた恐怖で今もなお震えていた。レイナの耳には家屋を破壊する音、そして戦闘による音が鳴り響く。

(カイルさんは戦っている…。)

何の縁もない他人同然のカイルが戦っているのに自分はいったいここで何をしているのか。震えているだけ、怖くて今にも逃げ出したい思いでいっぱいなのだが。

レイナはここに何をしにきたのか。それを思い返す。怖い思いを跳ね飛ばすイメージを精一杯に思い浮かべる。

(私は…、この村を救いたい…。生贄なんて野蛮なことしかできないこの村のしきたりから皆を救いたい。エルを…、小さい頃に村から見放されたエルを救いたい…。)

想いは行動に現れだす。ゆっくりではあるがレイナは立ち上がる。そして、俯き、震えているエルの胸倉を掴んだ。

バコーン。

レイナは思いきりエルの頬を殴った。

「えっ…」

エルはレイナに叩かれ、訳も分からずフリーズした。

「あんた男でしょ。私だって足が震えて仕方ないの。それでもちゃんと立ってる。あんたも男見せなさいよ。あんたの決意ってそんなもんだったの?いいの?このままラクトスモドキだなんて舐められたままで」

話をするにつれ、徐々に下を向いてしまったエルを見て、レイナは胸倉から手を離し、腰に当てた。

「相手に圧倒されすぎ。私たちと会った当初はもっと威勢があったじゃない。それを見せてきなさい」

レイナはエルの背中を思いきり叩き、喝を入れた。

「れ、レイナ…?」

エルは未だ唖然としているが、レイナはニッコリと笑い、ファーメンドルの向かっていった方角を指さす。

「この村は誰が守るの?」

エルはその言葉を聞き、体中に力が漲ってくるのを感じた。エルの目が再び青色に発光しだす。

「僕でしょ!」

エルは立ち上がると叫びだす。

「うわぁぁああああ!!!」

そのままファーメンドルを追うように森の中へと走っていった。

「もう…、世話が焼けるんだから…」

レイナはエルを見送るとその場に尻餅をついた。足の震えは未だに止まらない。

(私だって、立てないくらいに足が震えてるっつーの。早く来てよ、ケルトにクラン。)

レイナはへたり込んだまま空を見上げた。

「ひゃっはー!」

カイルは今全速力でファーメンドルから逃げていた。ファーメンドルは進行方向にある木々を次々と薙ぎ倒し一直線にカイルを追いかける。

(ふぅ…、やっと復活かよ…。遅せぇわ。)

カイルは少し口元を緩ませると、逃げるのを止め、ファーメンドルの攻撃を最小限で避けるように転移を繰り返した。

「さっきからちょこまかちょこまか…。魔力が尽きるまでそうするつもりか!」

ファーメンドルは両手を巨大化させ、一撃でカイルを仕留める威力の攻撃を連発する。だんだんと攻撃が当たりそうになってくる。

(俺のパターンを読みだしてきたな…。こりゃ、マズイ。)

カイルの転移してきた先にファーメンドルの次の拳が準備されているような感覚だった。

(しょうがねぇな!)

ファーメンドルのアッパーに対して、カイルは逃げることを止め応戦する。少し体を後ろに反らせアッパーを回避する。だが、すぐに左フックがとんできた。カイルはたまらず転移してしまう。

(何でこんなにキレッキレなんだよ。お前はボクサーか!)

ファーメンドルは無呼吸でひたすらカイルに拳を打ち込む。カイルは再び少し後ろに下がる回避方法でファーメンドルの左フックを右手で掴むと、体を左回転させファーメンドルの左手の上から後ろ回し蹴りを放った。だが、ファーメンドルは体勢を低くし、カイルの蹴りをあっさりと避けた。

「ひいっ…」

カイルにとっては左手を死角にして放った見事なカウンターのハズだったのだが、軽く避けられ少しテンパってしまった。明らかに隙を見せてしまった瞬間だった。

(これ…、まずい系じゃない。)

目が合った瞬間、ファーメンドルは笑っているように見えた。

ボコーン。

激しい音が森一帯に広がる。威力は大地を揺らす程のもの。しかし、地面に這いつくばっているのはファーメンドルだった。カイルの前にはファーメンドルを背後から叩きつけるように殴った少年の姿があった。

「お、お前…目の色黄色なんだね…」

カイルは初めて見る発光色に少し驚いていた。

「えっ…?さっきまで青だったんですけど」

その答えにカイルは今の状況を理解するのであった。

(マジか。急成長したからファーメンドルはこいつの攻撃をもろにくらった訳ね。納得、納得。)

「おい、少年。2人でこいつを叩きのめすぞ」

そう言って起き上がったファーメンドルに対して2人は構える。

(さっきまでは1対1。だが、今は2対1。俺にとってはこれ以上にない状況となった訳だな。)

「おい少年、十分にあいつを引きつけといてくれよな」

カイルはそう言うと両腕に力を込め始めた。

(頼んだぞ。)

「えっ?」

エルは2人で倒そうと言われたのだと思っていた。だが、即座に1人で頑張れ的な事を言われ少しテンパってしまう。だが、カイルの様子を見て自分がどうすべきなのかはすぐに理解できた。

「お前はさっきの…。大人しく逃げておけばよかったものを…。どうしても死にたいようだな」

ファーメンドルはカイルそっちのけでエルに対して怒りを露にしていた。エルはチラッとカイルを見る。カイルの体の肩の部分が黒いオーラに包まれていた。

「僕はお前を絶対に倒す!」

エルは捨て身でファーメンドルを迎え撃つ。だが、先ほどとのズレを即座に修正したファーメンドルはエルの顔面に右フックを放つ。エルはもろに攻撃を受けたにも関わらず怯む様子を見せない。

「覚悟はできているようだな」

エルはすぐに右アッパー、左フックと放つが、ファーメンドルは体を少し後ろに下げ、思いきり右足を上にあげると、そのままエルの首元に叩き落した。グラッ。その攻撃により一気にエルの体勢が崩れる。

「まだ…だ…」

エルは崩れそうになる足に喝を入れ、踏み止まると、カイルをまたもや確認する。カイルの腕は今、肩から手の4分の3くらいまで黒いオーラに包まれていた。

「粘るなぁ、サンドバックのようだ」

ファーメンドルはエルに前蹴りをかまし吹き飛ばした。

「まだまだ…」

吹き飛ばされたエルは倒れることなく数m先に立っていた。足がふらついていたエルは両腕で大地を押すようにしてファーメンドルに突進する。

「もういい。次で終わりにしてやる」【破壊玉】

ファーメンドルの手に魔力を凝縮させた球体が発生し、それをそのまま真っ直ぐに突進してくるエルへと投げつけた。

ドカーン。

「な…」

ファーメンドルの破壊玉はエルに直撃した。だが、それでもエルは足を止めることなくファーメンドルに向かってくる。

「こいつ…」

ファーメンドルはエルに向かって渾身の右ストレートをお見舞いした。ボコーン。

「何だんだ、お前は!?」

吹き飛んだはずのエルはファーメンドルの服を掴んでおり、後方へ吹き飛ぶことは無かった。そのままファーメンドルの真下に崩れてしまったのだが、それでもまだ立ち上がろうともがいているのがエルの手から伝わってくる。

「ま、まだだ。僕の故郷は絶対に潰させな――」【テレ】

「ありがとよ、少年」

カイルはボロボロになっているエルを転移で救い、横たわらせたのだった。カイルの腕は肩から指先まで黒いオーラに包まれている。薄れゆく意識の中、カイルの姿を見たエルは笑顔を見せたのだった。

「ファーメンドル!!」

カイルは一直線にファーメンドルとの距離を詰める。

「術属性が覇属性に対して真っ向から勝負を挑むとは、気でも狂ったか?」

ファーメンドルはあざ笑いながらカイルに対して構える。

「狂ってんだぁ?そんなの最初から分かってんだよぉおおお!!!」

ボコーン。首がもげるかと思うくらいの一撃をファーメンドルから受ける。だが、カイルは一歩も引かない。ずっと見ていたんだ。一歩も引かず、真っ向からぶつかる少年の姿を。

カイルは真っ黒に染まった両腕をファーメンドルに突き出すと、ある言葉を念じる。

「――【大嵐】――」

「な…」

ファーメンドルは度肝を抜かれたように目を見開いた。そのままカイルの手から発生した黒い突風はファーメンドルを飲み込み、遥か彼方へとブッ飛ばした。

「ふぅ…」

カイルはそのままボロボロになったエルの横に腰を下ろした。

「お疲れ、少年」

カイルの言葉にエルは笑顔になり、緊張の糸が切れたのか、そのまま目を閉じたのだった。

「疲れたな、帰るか」

カイルがそう言い、エルの体を起こそうとした時だった。

「あの、さっきの腕を黒くしてたやつって、一体何だったんですか?」

その問いにカイルは笑った。

「お前…。知らないで協力してたのかよ…」

カイルはエルの言葉にビックリした表情を見せる。

「あ…、はあ…」

「あれはな、大嵐っていう俺の必殺技だ。この技は本来、十分に魔力を圧縮してこそ、一撃必殺の効果を発揮する技なんだ。それを知らずに使っている奴らは可哀想としか言いようがないよな。まぁ、そう言うことなんだ。だから、助かったよ」

カイルは笑いながらボロボロになったエルに肩を貸し、そのまま村へと戻っていく。

「転移しないんだ…」

「魔力ゼロ」

目が合った2人は笑い合ったのだった。そして、2人が村へ戻って来た。

「エルぅうう!!」

レイナはボロボロの姿のエルを見て、すぐさま駆け寄った。

「レイナちゃん、こいつの根性すごかったよ。おかげでファーメンドルを無事に倒せた」

カイルの言葉にレイナはエルを見て笑った。

「よかったね、エル。あなたの想いは届いたんだよ」

レイナはエルのボロボロの服を掴みながらそう言った。

「…レイナ。僕、まだ死んでないから…」

エルはレイナの態度に違和感を感じ、そう声をかけた。

「ええぇぇえええ!!」

レイナはいきなり喋りだしたエルに驚きまくっていた。カイルはその光景を笑いながら見ていた。

「じゃあ、俺はこれで行くから。ラカラソルテに来ることがあったら是非とも俺を訪ねてくれ。俺はカイル=ラントマス、レイナちゃんならいつでも大歓迎だから」

カイルはそう言いながらレイナに笑顔を見せると、手を振りながらその場を去ろうとする。

「誰を倒しただって?」

その声に全員の息が止まった。倒されたと思って戦意を無くしていたヘルジャス兵が息を吹き返す。

「隊長、ご無事でなによりです」

「ああ、それよりだ。おい、カイル。まだ勝負がついてないだろ。勝手に帰るなよ」

レイナの横を風が走った。髪がなびいたかと思ったその時。ボコーン。後ろにはファーメンドルが立っていた。そしてそこにさっきまで立っていたカイルの姿が消えているのだった。砂ぼこりを巻き上げ、カイルは豪快に大木に打ち付けられていた。

「ぐはっ…。何故…、俺の技は確かに当たったはずだ…」

血を吐きながらカイルはファーメンドルとの戦闘を思い出そうとする。

「当たったな、確かに。だが、俺にもちゃんと奥の手があるってことだ。お前の一撃必殺だって俺には効かないってことだ」

「くっ…」

悔しがるカイルであった。ゆっくりと歩み寄ってくるファーメンドルだが、カイルにはもう立ち上がる力さえ残されていなかった。

「お前には再三警告を発した。これが聞き入れなかったお前の末路だ」

ファーメンドルは大木を背に座り込んでいるカイルに向けて拳を振り上げる。


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