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1-5 弱者の末路

 5章 弱者の末路




次の日の朝を迎える。ミリはいつもより少し早めに起きた。足についている鉄球を持ち上げると、忍び足で、賊長の部屋へと侵入する。そして、足かせの鍵を盗み、速やかに部屋を出た。そして、何食わぬ顔で、朝の仕事を始める。

足かせのせいで多少時間は掛かったものの無事、朝の仕事を終わらせた。多少、足かせを外して仕事していたのは内緒の話だが。

今日までは何一つ失敗してはならなかった。誰かの機嫌を損ねようものならば、たちまち、今日の約束は延期にするなどと言われかねないからだった。

昨日からの徹底したいじめにも耐え抜き、やっとのことで今日を迎えることがきできた。

そんな自らの完璧な振る舞いに、満足感が込み上げてきたのだった。

ミリは外へ出ると、今まで稼いでいたお金を隠している場所へと向かった。それがなければ、ローゼルピスニカへ行く意味がないのだから。

時刻は7時を回る。皆が起き始めた。ミリは出会う人皆に元気よく挨拶をしていく。

「ミリ、分かってるだろうな。9時にはここを出るからな。それまでに準備しとけよ」

ヌカンドは半笑いでミリに伝える。時刻が9時を回り、ミリとヌカンドは出発する。と、後ろに信じがたい人物が立っている。ポポイだった。何やら不快な表情になるミリだったが、ヌカンドはミリに説明する。

「ここから先は危険な森の中だ。怪力のポポイは必須なんだよ。そのくらい分かれ」

表情を隠しきれてなかったのか、ヌカンドはミリの考えを察し、叱咤する。


「すみません」

その言葉にミリは素直に謝った。

ローゼルピスニカに向け、森の中を進む3人。ミリが足かせを付けているせいで、進む速度は遥かに遅い。ずっと付けていたせいで、右足は内出血を起こしていた。だが、それを心配する者はいない。自業自得だろ、そういう目でしかミリを見ていなかった。

歩き続けて4時間ほどが経過しただろうか。歩く力がほとんどなくなったミリを見かね、ヌカンドはしばし休憩をとることにした。

「座って休め」

そう言われ、ミリは座ると、足かせを少しずらし、内出血部を手でさすっていた。

「ローゼルピスニカで薬を買うんだってな」

不意にヌカンドがミリに話しかけてきた。ヌカンドの行動にミリはビックリする。今までがゴミ=自分というような扱いであったため、普通に話しかけられるなんてことはなかったからだ。

「はい。このために今まで頑張ってきましたから。やっと念願が叶います」

ミリはこれで目的が達成できるんだと思うと、不思議と表情が和やかになる。

「もう少しだったな」

「はい、もう少し・・・」

もう少しですね。もう少しでローゼルピスニカに着きますね。そう返答しようとしたミリの口が急に止まる。聞き間違いでは。そう思ったのだが、次第に背筋がゾッとしてくるのを感じる。恐る恐るではあるが、勇気を振り絞り、もう一度聞いてみる。

「え?」

その言葉にミリが真意を察したように見えたヌカンドはニヤニヤが止まらない様子だった。急に背後に嫌な気配を感じる。


ミリは咄嗟にその場から離れた。すると、自分の第六感が正しかったことを、視界に入ったものによって確認する。

ポポイが覆いかぶさろうとして失敗したようだった。その行動に激昂しだすヌカンド。

「おい、お前。何故、足かせが外れてんだ。また、規則を破りやがったのか」

睨みつけながらこちらに歩み寄ろうとするヌカンド。一定の距離を保つように離れるミリ。

「これはどういうことなんですか」

既に裏切られていることは明白である。だが、もしかしたら間違いだったかもしれない。そう思いたい自分がいたのであった。

「どういうこと?そのまんまだが。早く金を渡せ」

ヌカンドは歩くのを止め、ミリに向かって突っ込むように走る。ミリも十分に警戒していたため、ヌカンドが走るのと同時に逃げるように足を動かす。足かせを付けていたせいで痛む右足に顔を歪めながら。

(くそ・・・。騙された。あと少しだったのに。)そう、それはヌカンドが最初に発した言葉と同じものだった。

ミリは山賊の仲間になると決めた日のことを思い出していた。あの頃は、ローゼルピスニカへ行く手段が皆無だった。町の人たちは皆、モンスターに怯え、町から出るなんて、と、そんな発想自体しなかった。

(だから・・・。)

だから、私が頼れたのは唯一山賊だけだった。

一生働く代わりにローゼルピスニカまで私を連れて行く。確かに賊長は約束してくれた。だが、これは私にとっても幸いなのかもしれない。山賊として生活をしていく中で、大幅に体力はついた。


根性だって並大抵ではないくらいついた。逃げようと思えばヌカンドを撒くこともできる。そのくらいに能力も上がっている。

こうなったら、後はそんな自分を信じ、一人でローゼルピスニカまで走り抜けるしかない。帰りのことは、・・・、それは帰りに考えればよい。大事なのは今を切り抜けること。

ミリは全力を足に集中させて走った。幸いなことにヌカンドとの距離は縮まる気配はなさそうだった。後はシンプル。ただ走ればいいだけ。体力の続く限り、ひたすらに。

と、一瞬頭の中が真っ白になった。昨日から何も食べてないせいだろうか。そんなことを思った瞬間、足かせ、飯抜き、ローゼルピスニカ。全てのワードがミリの頭の中で繫がった気がした。その答えは頭上で感じた異様な気配。

ミリの目の前に木から人影が落ちる。その人物が視界に入った瞬間、というか、もう気配を察した瞬間にミリの希望は絶望へと変わったのだった。

目の前にはニタニタと笑う賊長。心がへし折れるには十分すぎる存在がそこにはいた。どれだけ体力が付こうが、どれだけ能力が上がろうが、どれだけ根性が付こうが。到底太刀打ちできない相手。

ミリは走るのを止め、地面に膝をついた。

「金をよこせ」

賊長は近づき、そう言うと、ミリの髪を掴み、持ち上げる。それと同時にジャラっという音がする。賊長はミリの腹の辺りを探り、金を見つけると次第に顔が綻んでいった。


「お返しだ、有難く受け取れ」

賊長はそう言うと、金と交換だと言わんばかりに、腰の辺りに下げていたものを取り出した。それは、2つの鉄球だった。30キロの鉄球が2つ。それは再びミリの足に取り付けられた。

「朝、ドキドキしただろ。バレずに足かせの鍵、盗めるかな、って」

賊長は大笑いしている。何故だろうか。溢れんばかりに涙が止まらない。食べてもない、飲んでもない。そんな体のどこからこの水は出てきているのだろうか。

すると、遅れてやっと追いついたヌカンドが手には木の棒らしきものを持っていた。

現在ミリは足かせを両足に取り付けられ、四つんばいの姿となっていた。ヌカンドは手に持っている棒を大きく振りかぶると、そのままミリの尻に向かってフルスイングした。

バシン。その音は森中に響き渡った。バシン、・・・バシン。何度も、何度も。その音が止むことはなかった。

「死ね、死ね。このゴミくずが。ケツバット1000回じゃ!」

ヌカンドは狂気に駆られたように木の棒を振り回し、ミリを罵倒する言葉を言い続けた。

「おい、ポポイはどうした?」

暫くヌカンドの様子を見ていた賊長はヌカンドが少し疲れたのを皮切りに、ふと気になった疑問を投げかける。

「あれ?」

そういえばと、ヌカンドも賊長の言葉に我に返った。と、誰しもが予測しなかった事態が起こった。

「あのデカぶつ、ポポイっていうのか。そいつなら、今気持ちよさそうにお昼寝してるぞ」

ヌカンドが声の主の方を振り返りきろうとした瞬間だった。ゴキッ。


「振り向きざまのニークラッシュ。これぞ、まさに芸術」

振り返った瞬間、ヌカンドの顎の砕ける音が森中に響き渡った。男は自画自賛しながら、自分の行った行動の説明をしていた。

「おい、少女。よく頑張ったな。後は俺に任せろ」

突然現れた男はそう言いながら、ミリの頭を撫でた。

「貴様、何者だ」

賊長であるジャン=ララクは今、自分では到底制御できないくらいの怒りを目の前の男に放っていた。


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