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3-9 ヘルジャス軍侵攻

    9章



クランとバーレンの戦闘の最中である。

(隙が無い、避けきれないのか…。いや…、あいつの斬撃が飛ぶんだったら…、俺だって。このビリビリの能力だって雷なんだ、飛ぶはずだろ。)

クランは強く念じ、斬撃に向かって思いきり大剣を振るった。

「飛べ、俺のビリビリ!!」

ズドーン。すごい轟音が鳴り響いた。クランは剣を振り終えた状態で止まっていた。

(一体どうなったんだ?)

クランは目を開け、現実を受け止めるのが怖かった。感覚がないだけで、もしかしたらクランの体はズタズタに斬り刻まれていて目を開けた時には無いんじゃないのか。虫の息なのではないか?もしくは、もう死んでいるのではないか?そんな恐怖心に支配されている。

クランは恐る恐る自分の腕の感覚を確認してみる。

(腕は…、あるようだ。)

続いて足の確認。

(…ある。)

クランは思いきって目を開いた。何が起こったのかは分からない。でも、目の前ではバーレンの真横の大木が黒焦げになっていた。

「ほぉおお、すごいじゃない。私の血を飲ませて私の分身にしてあげたいくらいだわ。そしたら魔剣の力は使えなくなるけど、今の能力が更に上昇して最強の混血が出来上がるかもしれない」

バーレンは感心しながらクランを見ていた。

「分身?生憎俺はそんなものに興味は無い。悪魔に転身する予定はないんだよ」

クランはバーレンを一喝した。

「えー、いいこと思いついたと思ったのに。あなたにもメリットしかない提案だったのよ。でもそれが嫌だって言うんなら仕方ないわね。あなたはもう死ぬしかない。興ざめだわ」

バーレンはため息をつきながらクランへとゆっくり歩み寄る。だが、クランは諦めない。今までの現状から言えば勝機はゼロではない。隙をつけさえすれば必ずバーレンに勝つことが出来るのだから。警戒を解くことなくクランはバーレンを見据える。まだ希望を捨てていないクランの姿を見てバーレンは笑い出すのだった。

「今までの戦いはただの悪魔との戦い」

そしてニヤリと笑う。

「これから先はオリジナルとの戦い」

バーレンが肉体強化の魔法を唱える。【極力】一気にバーレンの圧力が変わる。バコーン。クランは突然吹き飛ばされてしまう。


クランには何が起こったのか、全く理解できない。


「何が起こっているのか理解できていないようだな」

体を起こすクランの目の前にバーレンはいる。

(いつの間に…。)

「私は攻撃などしていないぞ。お前にただ近寄っただけだ。お前が勝手に私から離れただけだろ」

バーレンの言葉が理解できない。確かにクランは強烈な何かに体を突き飛ばされた。あれがバーレンの攻撃でないはずがない。

「信じていないようだな。私は闇族だ。闇族特有のオーラによって、お前は私には近づけないのだろう。お前にとっては見えない壁になっているのだろうな。もっと面白いことを教えてやろう。このオーラを切って、お前の付近でオーラを発動させるとどうなるでしょう」

バーレンはクランを見下ろしながらニンマリと笑う。何が起こるのかに感づいたクランは即座にその場から離れようと駆ける。

ブチャッ。急にバランスを崩し、倒れこむクラン。と、右足に強烈な痛みが走る。見ると、右の太ももから先が無くなっていたのだった。

「ぐぅっ、ううう…」

無い右足の付け根を押さえ悶絶しているクラン。足からは血が大量に流れだす。押さえてもその隙間からどんどん流れ出る。

「辛いか?そうだろうな、見たらわかる。だが、これは罰だ。お前は即座に私の提案を受け入れるべきだったんだ。報いはちゃんと受けないとな」

バーレンはゆっくりとクランに近寄る。

「さて、ここで更なる問題です。この位置でオーラを発動させたら、お前はいったいどうなるのでしょうか」

バーレンの質問に対し、クランは答えられない。足の痛みで頭がいっぱいだったのだ。それ以外に何も考えられなかった。質問に対しうめき声しか返ってこない状況にバーレンはため息をつく。

「まぁいい。罰はこれで終わりだ。そのまま安らかに潰れて死ね」

そう言うと、バーレンはクランの側でオーラを発動させる。

「ん?」

オーラを発動させたにも関わらず、クランは潰れなかった。後ろに気配を感じ、バーレンは振り向く。

「もういいだろ、バーレン。お前の勧誘を断ったからってそこまでしなくても、なぁ」

「ラクトス…」


                    ・



タッタッタッタッタッ。

ケルトたちに敗れたヘルジャス軍3番隊副長ヴォルドは今、ラクトスの森をヘルジャス方面に走っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

魔石がないせいで走る速度も遅く、極端に疲れる。そして、ようやく軍の待機所に辿り着く。

「隊長はどこだ?」

ヴォルドはすぐさま隊長がいると言われたテントへと向かった。天幕をめくった先には隊長が椅子に座っている姿があった。

「ヴォルドか。スパイの尾行、何か進展があったか?」

ヴォルドがテントへ入るなり、隊長はそう尋ねた。

「申し訳ありません。スパイと思わしき者達を捕まえようとしたのですが、失敗しました。タンダスまで尾行した悪魔1名、それと新たに混血1名、悪魔の女1名、人間1名を確認しました。恐らくは奴等で全員かと思われます」

「そうか、ご苦労だったな。お前は魔石を無くしているようだが、仲間は見捨てたか」

隊長の言葉にヴォルドは額から嫌な汗が流れる。だが、ここで嘘をついても仕方ない。意を決しヴォルドは進言する。

「はい。逃げるのは恥であるとは思いましたが、私の今回の任務は偵察に報告。だから、絶対に戻らなければと思い、ここまで帰ってきました」

ここで殺されようとも悔いはない。そんな目をして言葉を発したヴォルドの心中を察した隊長。

「それでいい。別に敵に背を向けることは恥ではない。生きて戻ることこそがヘルジャスの為だ。後は私が引き受けよう」

隊長の言葉にヴォルドは頭を下げる。

「力及ばず、すみません。ファーメンドル隊長」

隊長の名前はファーメンドルというらしい。

「お前はこのまま王国へ戻れ。今の状態じゃ戦力にならない」

「分かりました。では直ちに戻ります」

「うむ。それでいい。胸を張れ」

言葉の内容的には温かさを感じるのだが、声のトーンというか、喋り方、そこには感情が一切こもっているようには感じなかった。冷徹のヘルジャス王国軍3番隊隊長、それがファーメンドル=ブロコだった。隣がラクトスの森だったからだろうか。ヘルジャス軍の軍事力はかなり高かった。常に隣には最強の悪魔がいる。その危機感がこの国をここまで大きくさせた。

「行ってくる」

ファーメンドルはヴォルドにそう告げると、テントを出て兵を集めだした。

「ヘルジャス兵士たちよ、これよりタンダスへ侵攻する」

「「「おおぉぉおおおおお!!!」」」

ヘルジャス兵たちは気合の雄叫びをあげた。これより3000の兵がタンダスへと進軍することとなる。


                      ・



ところ変わって、今レイナはタンダスの中央の広い通りを真っ直ぐに突っ切り、目の前に見覚えのある青年を見つけていた。かなり険悪な目つきでその青年は先を見据えている。その視線の先にいるのは巫女の格好をした5人の女性であった。

「エル、クランとケルトは?」

今にも戦闘を開始しそうな臨戦態勢をブチ壊すようにレイナはエルに話しかけた。

「レイナ…、今、説明できるような状況に見える?」

エルは呆れ顔でレイナをチラ見した。ここはババの屋敷跡地。今は爆破され跡形もない。

「じゃあ、この人たちは?」

レイナはエルの話を聞いていないようで更なる質問を投げる。

「この人たちも敵。ババは当の昔に死んでいたんだ」

「えっ、えぇぇええええ!!!」

レイナは今の心境を余すことなく全力で表現した。

「恐らくこいつらを倒せば村を救うことができるはずだ。もう生贄なんて野蛮な真似はさせない」

エルは尚も巫女達を見据えている。

「でも、この巫女さんたちが本当に黒幕だって言ってたの?そうは見えないんだけど…」

レイナは渋い顔をしている。

「え?黒幕か聞いたかだって?普通聞いたって自分からは言わないでしょ。フハハハハ、私が黒幕だあ!みたいな感じ。無いよ、絶対に。何で知ってるかってのは、ここへ来る途中で親切な人に出会ってね、その人が全部教えてくれたんだ。後でレイナにもお礼が言いたいって言ってた」

「うーん…」

レイナはエルの話を聞いて、何やら難しい顔をしている。

「どうしたの?」

「えっ?世の中にはいい人もいるんだなって感動してた」

レイナはその親切な人を疑っていたのではなく、ただ感動しているだけだった。そして、レイナはエルの横に立ち、戦闘態勢をとる。

「大丈夫なの?レイナは戦えないでしょ。無理はしなくていいからね」

エルの言葉にレイナは若干ムッとした。

「私だってやれるんだから!」

レイナはそう言って肩を回し始めた。

「準備運動してるの?」

「そうだけど」

エルは若干引き笑いをしていた。

「まぁ、危ないと思ったらすぐに逃げてね。人数が多いから隙を突かれないように」

エルはそう言うと、いきなり魔力開放する。エルの目は青く発光し、最初から全開であることが伺えた。

(エルってこんなに強かったのね。威圧感がハンパないじゃない。)

レイナは隣にいるエルに対し驚いていた。巫女達もエルの意思に呼応するように各々が戦闘態勢をとる。

「誰にも負ける訳がねぇだろうがぁぁあああ!!」

(エル…、人格変わっちゃってるし。)

レイナがドン引きしていると、エルはそのまま巫女に突進していった。巫女達の体に青いオーラが纏いだす。

「これは確か物理防御魔法の2段階。…えっとここは私の力でこの防御魔法を解除してあげないと」

共闘経験のないレイナはあたふたしながら解除する魔法を唱えようとするが、巫女がレイナにも迫っており上手く魔法を発動できない。エルはレイナのそんな状態を気にすることなくそのまま巫女達を腕で薙ぎ払った。

「腕太っ!」

エルの腕は【魔界の手】という魔法で巨大化していたのだった。

(しかもゴリ押しだし。防御魔法も関係ないってか!)

レイナは心の中でそうツッコむと目の前にいる巫女との戦いに集中することにした。ドカーン。レイナの後方で家屋が盛大に破壊されたのだった。

ドカーン、ドカーン。

それは何度も続き、鳴りやむことがなかった。

「エル!!」

レイナは謎の異変に対し、巫女達と戦っているエルにそう叫んだ。

「何故?」

エルは1人の巫女の胸倉を掴むとそう尋ねる。

「何故お前たちはこの村を破壊するんだ?」

エルの問いに巫女は、「わ、私たちじゃありません。あなたこそこの村を破壊しにきたんじゃないのですか?」

巫女の発言にエルは背筋が凍る。

「ちょっと、…ちょっと待て。このババの屋敷を破壊したのはお前たちじゃないのか?」

「違います。犯人を捜して表の通りに出た所、あなたが待ち伏せていたんです」

巫女の答えにエルは先ほどの銀髪の女性を思い出す。

「まさか…」

エルは認めたくない考えがよぎる。

「はめられたのか…?」

「はめられたとは?」

「銀髪の女性に言われたんだ。巫女達が敵だと」

「…そうだったんですか」

エルの言葉に巫女は下を向き黙り込んだ。すると、戦闘の意志を無くしたエルと話をしていた巫女に気付いた他の巫女達が恐る恐るエルに近づく。

「あなたの目的は何ですか?」

巫女はそう尋ねる。

「俺はエル=ベースナー。過去にこの村を追われた者だ。だけど、この村を守りたくて――皆と和解したくてここに来たんだ。それとこの村を潰そうとしている奴らの話も聞いたから一緒にそれも阻止してやろうと」

「そうだったんですか。じゃあ、目的は一緒だったんですね…」

「仲間同士で争っていたってことか」

エルはそう言うと巫女の胸倉から手を離した。

「そうみたいですね」

「じゃあ、もう一つ聞きたい。その女はババをお前たちが殺したと言っていたが、それも嘘なんだろうか?」

エルの問いに巫女たちは黙り込む。

「この戦いが終わった後、全てを話す。それでもよろしいでしょうか」

そう、巫女が言った時、そこにレイナが駆け寄ってくる。

「エルぅぅ!何か、こっちに大軍が押し寄せてくる」

「どうやら本当の敵は今から来るようだね」

巫女達はエルの攻撃により大分疲弊しており、戦力にはなり得なかった。レイナも結界関係では役に立ちそうだが、それまでだった。

「早く、ケルト、クラン、来てくれ…」

今戦えるのはエル1人だけだった。祈るしかない現状だが、その祈りは届かない。

「お前が噂のラクトスか?」

大軍の先頭に立つのは長髪で耳の上から角を生やした男だった。

「お、お前は誰だ?」

だが、男はエルに返答することなく後ろを向くと、何やら他の兵たちに指示を出し始めた。

「お前たちはそのまま家屋の破壊を続けろ。ここは私1人で十分だ」

エルはその指示を聞き、すぐにレイナたちに指示を出す。

「レイナは僕の補助を頼む。巫女達は兵士を蹴散らしてくれ。奴らはこのタンダスを全て消すつもりだ」

「分かったぁ!!」

レイナはエルの言葉に元気よく返事する。そして巫女達も頷く。

「頼んだ」

皆はエルの元から離れ村に散らばっていった。

「私はファーメンドル=ブロコ、ヘルジャス軍の隊長である。ヘルジャス王国に厄災をもたらす者として今からお前たちを皆殺しにする。全てはヘルジャス王国の為」

そう言うと、ファーメンドルは構える。

「随分と勝手な言い分だな。だが、お前たちの好きにはさせない」

エルはそう言ってファーメンドルに対峙する。

「情報によればお前は3段階の新悪魔。ラクトスモドキってことだな」

「だから何だって言うんだ」

「はずれだ。ラクトスの森…しかしラクトスの姿を見た者はいない。ラクトス討伐の悲願はまた先送りだってことだ」

ドカーン、ドカーン。

エルとファーメンドルが話している間にもヘルジャス兵の手によって村の家屋が次々と破壊されている。

(巫女達はいったい何をしているんだ。このままだと村が無くなって…。)

エルは焦りの色を隠せず、そのままファーメンドルに話しかける。

「じゃあ、僕から行こうかな」【魔界の手】

エルはそう言うと両手を巨大化させ、殴りかかる。ニヤリ。エルはファーメンドルに最初から本気で臨む。

(あーダメだ。やっぱり僕にはまだ駆け引きし合う大人の戦い方は理解できない。どうだ!って具合にすぐに見せつけちゃいたくなるもん。

…その方が楽しいし。)

「その手は中々にやっかいそうだな」

ファーメンドルはそう言うとろくに構えもせずにエルを見据える。エルはファーメンドルに対してデタラメに腕を振りまくった。

「魔力量は高いようだな。一軍の副長を凌駕する程だ。…が、お前の戦闘は獣向けのようだな。人は技術がある分、何倍も強いということを知らないらしい」

ボコーン。ファーメンドルは攻撃の穴を見極め、エルの顔面に強烈な右ストレートを放った。

「グハッ…」

エルはファーメンドルのパンチに体を仰け反らせた。だが、それほど効いてはいない。

(挨拶代わりなんだね、今の。全然効いてないもんね。)

エルは両手を開き爪を立てる。次はファーメンドルを切り裂く目的で腕をブン回す。

ガシッ。エルの振り抜こうとした右腕がファーメンドルに受け止められる。

「クソッ」

ファーメンドルはまだ落ち着いた様子だ。エルは右手を掴まれた瞬間、左手をファーメンドルに刺すように放った。ボフッ。

「うっ…」

ファーメンドルは体を反らしエルの突きを避ける。同時に右足を踏み込みエルの左脇腹に強烈な右フックをかました。


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