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3-6 エルの為に

  6章



行動は開始された。

「やっと仲間らしくなったな」

クランはケルトの肩を叩くとそのままレイナとは別の方向に歩いて行った。

「うるせぇ、失敗したらプンプンだからな」

笑っているクランの後ろを呆れ顔でエルと女の子がついていく。

「あの人の言う通りにして大丈夫なの?あの人絶対に頭おかしいよ」

女の子は不安そうにエルに話した。

(聞こえてるっつーの。誰が頭おかしいじゃ、コラ!)

内心文句を言いつつ、ケルトも役割を果たすべく森の中へと消えていった。3組に分かれ各々が作戦を実行する。果たして上手くいくのやら。


                  ・



ここは村の中にある婆様の屋敷である。屋敷の居間にあたるスペースの中央のいろりのある付近で銀色で長髪の女性が横になりダラダラしていた。

「はぁ、ダルい。早く終わらないかしら…」

女性はそうボヤキながらため息を連発していた。

トントン。

ノックの音に女性は少し笑顔になるのだった。

「婆様、お客様が参られました。ザキル様です」

女性は待ちわびたかのように背伸びをする。

「ザキルか、通せ」

女性はこの屋敷の離れに住んでいる巫女にそう伝えた。そしてしばらくしてザキルが居間に入ってくる。

「シルヴィー、何でそんなにダラけてんだよ」

ザキルは部屋に入るなり、横になっている女性、シルヴィーに向かってそう言った。

「いいでしょ、暑いんだから。この村、嫌なのよね。昼間は暑くて、夜は寒くて。気候おかしいんじゃないのって感じよ。まぁ、それより――準備は完了したの?早く、詳細伝えなさいよ」

シルヴィーの催促にザキルはやれやれといった表情になる。

「はぁ、分かったよ。ロペスが言うには、作戦内容も完璧。実行するタイミングは1カ月後がベストだそうだ。あと、これはロペスからの手紙だ」

ザキルはそう言うと、シルヴィーに封のされた手紙を手渡した。手渡された瞬間シルヴィーはジト目でザキルを見る。

「開けてないでしょうね」

「開けてねぇよ!大まかなことはこの耳で聞いてんだ。その中身はお前の今後の予定が書かれているらしいぞ」

ザキルの言葉にシルヴィーはふーんといった顔をする。

(予定ねぇ…。)

シルヴィーが上の空になっていると、ドカッとザキルが座ったのだった。

「何よ?用件済んだなら出ていきなさいよ」

ザキルはじれったさそうにシルヴィーを見る。

「あのさ、この前うやむやになった話なんだけどさ。今回フォードさんは来るのか?」

その問いにシルヴィーは面倒くさそうな顔になる。

(また、その話かよ…。話を流した時点で話す気がないって気づいて欲しいわよね。…でも、まぁ、ちゃんと働いてはいるみたいだし、少しくらいなら教えてやるか…。)

「そうね、来るでしょうね」

シルヴィーの返答にザキルは分かりやすくテンションが上がっていた。

「マジかぁ…。俺との約束、忘れてないだろうな」

ザキルは少し前のめりになりながらシルヴィーに詰め寄っていく。

「あー、ウザい、ウザい。近寄るな、暑いんだから。覚えてるから。あれでしょ、フォードの部下になれるように口添えするんでしょ」

「そうだ。忘れてないなら良かった…」

ザキルは安堵の息を漏らす。

「ふーん。というより、何であんたはフォードの部下になりたいのよ。私の部下じゃ不満な訳?」

「不満っつーか、やっぱ伝説の男の部下ってのは憧れるだろ」

「伝説の男?」

シルヴィーは首を傾げる。

「しらばっくれるなよ。俺の家をどこだと思ってんだ、天下のメイビス一家だぞ。フォードさんの一夜で一国を潰したって話を聞いたときは鳥肌が立ったぜ。しかもその当時はまだ子供だったんだろ、やっぱすげぇよ。フォードさんの部下になる為だったら、お前の下でも頑張れる」

その何もオブラートに包まないザキルの言葉にシルヴィーの顔が引きつる。

(何…、最後の言葉。マジ失礼極まりないんですけど。フォードに会うための駒なんですか、私は…。)

「あーうるさい、うるさい。もう気が済んだでしょ。さっさと出てってよ。これから、手紙の中身を見るんだから」

シルヴィーは手でシッシッとやりながら、ザキルを追い払った。

「分かった。まっ、この作戦が成功したら絶対に頼むからな」

念を入れたザキルの言葉を無視して、シルヴィーはザキルが屋敷から出ていくのを待つ。気配を感じ取りながら屋敷を出た瞬間に手紙の封を切る。

(バッチリ封も開けて中身確認してんじゃんかよ。封がしてあるシールの呪印が消えてるっつーの。まぁ、それでも残念でしたとしか言えないわね。中身をそのまま読んでも意味がない。表向きは作戦決行日に私への熱いラブレターになってるけど…。)

シルヴィーは手紙に魔力を込める。すると、書いてあった文字は消え、新たに文字が浮き出てきた。

「ふふ…」

シルヴィーはその内容に目を通すと、少し笑顔になった。

(フォードから直接じゃんか。何が皆で来るだよ…。お祭りじゃないっての。しかも今すぐ合流って…、何やるつもりなのよ。)

シルヴィーは手紙を読み終えると立ち上がった。

「じゃあ、私のお住まいだったタンダスをすぐに解約してやらないとね」

シルヴィーは笑いながら部屋を出ていった。

(作戦は順調。バースのアホがいないだけでこんなに見違えるなんてね。ヘルジャス軍もザキルのアホを尾行してタンダスまで辿り着いたみたいだし。私はここでしか作れないアイテムをもう既に完成させている。あとタンダスにやってもらわなきゃならないことは、タンダスの外で張っているヘルジャス軍にザキルを殺してもらって、この件の主犯は全てザキルだったってことにしてもらう。後はタンダスで家宅捜索的なことをやってヘルジャス城の地図とダミーの結界生成装置を発見させる。それでこの件は一時的に警戒が解かれる。ヘルジャスにいる私の部下2人が仕事しやすいように彼らの注意をタンダスに引き付けられたってことになるかな。)

シルヴィーは思い通りに事が運びついつい悪い顔になる。

「これから、地獄のタンダスが開幕する訳ね」

シルヴィーは外に出て大きく深呼吸をした。素顔で外に出るのは久々であり、婆様の格好の時はローブで全身を覆い、顔にはマスクまでしている為、誰にも気づかれない。

(まぁ、気づかれようが今更どうでもいいんだけど…)

シルヴィーはハッとする。嫌な違和感を感じ、次第にイラだってくる。

(私が解除するはずの結界を…、どうして先に解除されてる訳?誰なのかなぁ、私の邪魔をしてるのは。邪魔はもうバースのクソッタレだけで十分なんですけど…。)

イライラは次第に限界点を越える。そして、プチン、と頭の中で何かが切れる音がした。

(誰だ…、私の邪魔をしているのは…。ヘルジャス軍?いや…、違う。ヘルジャス軍は知っているはず。ラクトスの森と上手く付き合わなければ隣国であるヘルジャス王国はラクトスに呑み込まれる。だから、タンダスに直接手を出すことはない。

じゃあ、誰が…。

心当たりがない。

ちょっと前に旅人が来ていたようだが、あんな雑魚にこんな大それたことができる訳がない。ていうか、結界を解く理由がない。

じゃあ、誰が…。

絶対に突き止めてやる。

そして、見つけ出して、


…殺す。)


                  ・



【解除】レイナは結界破壊の魔法を唱えた。

「やった、どんなもんだいっての」

レイナは1人、森の中でガッツポーズを決めていた。場所はタンダスから少し離れた森陰で、そこからタンダスの結界を破壊したのだった。レイナの想いに呼応したのか、ローゼルピスニカでティナにやられた【光の壁】とやらのショックからか、防御結界を破壊する魔法を使えるようになっていたのだった。

「もう2人が戦っている時に後ろに隠れてろなんて言わせないんだから」

レイナはそう独り言を呟くと、すぐにクランと合流する為に村の入り口へと向かった。

「まず、ケルトの作戦の第一段階は突破ってことね」


                   ・



同じ森陰ではあるが、レイナとは違う場所。ケルトはタンダスの入り口付近でじっと結界が解かれるのを待っていた。

(…はやっ、レイナさん。もうちょっと躊躇っても良かったんじゃ…。タンダスを長年守ってきた結界ですよ。あんたは鬼ですか。

…っと、そんなことを考えている暇は無かった。俺も作戦開始っと。)

【鋼力】ケルトは肉体強化して一瞬で村長の家まで移動する。すると、タイミングよく村長が自宅から出てきたところで、ケルトと鉢合わせる形となった。

「今、婆さんに頼まれてな、婆さんの知り合いを呼び止めておいてくれないか。何かまだ用事があったみたい」

(ヴォルドがタンダスに来たのは、誰かを尾行していたから。だとすれば、この村で一番怪しい婆さんと繋がっている可能性は高い。一か八かだ。)

ケルトは賭けに出る。村長にハッタリをかまし、引っかかればよし、そうでなくてもそれはそれで、という感じだ。

ケルトの言葉に村長はたった今タンダスを出ようとしていた青年を呼び止めた。

「ザキル様、お待ちください」

ケルトは唖然とする。

(ドンピシャ!!マジ、ご都合主義ハンパないんですけど。)

村長の言葉にザキルという男はこちらを振り向いた。

「村長、何だ…」

ザキルは村長に呼び止められた訳を聞こうとしたのだが、村長の後ろにいたケルトと目が合った瞬間、言葉が止まった。それを見たケルトはザキルに対してニヤリと笑った。ザキルはケルトの異様な殺気に気付くと、咄嗟に逃げ出したのだった。

バッコーン。

ケルトは逃げるザキルの後頭部を片手で鷲掴みすると、そのまま顔面から地面に叩きつけた。

「客人、何をされるのですか?」

村長はケルトの異様な行動に驚き、後ずさりするのだった。

「それはこいつに聞かないと分からない」

ケルトは赤く発光する目で村長を睨みつける。そして、気を失ったザキルを引きずり、森へと消えていった。

エルにはあんなに偉そうに言ってたにも関わらず、ケルトは自分の感情を抑えることができず、最初からフルスロットルだった。ケルトはタンダスから少し離れたところまでザキルを連れ出すと、ザキルを側の大樹に叩きつけた。

「お前等は何を企んでいる?タンダスをどうする気だ?」

大樹に叩きつけられたザキルはそのまま下にへたりこんだ。そんな状態ながら、ザキルはケルトの問いに笑い出した。

「混血の分際で俺に尋問するとは、反吐が出る」

ケルトのこめかみがピクリと動くのだった。

「次は無いぞ。ちゃんと質問に答えろ」

ザキルはケルトの言葉を無視して、立ち上がろうとした。

ズドーン。

ケルトはザキルの顎を鷲掴みにし、ザキルのもたれかかっていた大樹に叩きつけた。

「もうお前に用はない、死ね」

ケルトはザキルの顎を掴んだまま、その手に力を込めだした。

「んー、んー、んんー」

ザキルは首を横に振りながら、ケルトに必死に何かを訴えかける。

「今更遅せぇよ」

ザキルの顎を粉砕しようと、ケルトは更に力を強める。すると、さっきまでもがいていたザキルは降参したのか両手を挙げだした。ケルトはそのしぐさを見て、ザキルの顎から手を離した。ザキルはその場にぐったりとへたりこんでしまった。

「はぁ…、はぁ…」

「どうした?喋る気になったんだろ?」

ケルトはザキルを見下ろしている。

「あ、あぁ…。タンダスはヘルジャス軍に潰される予定だ」

「そうか。タンダスの婆さんは、あれは何者だ?答えろ」

「それを知ってどうする。知ったところでお前には何も関係ないだろ」

「いいんだよ、早く言え」

ケルトが再び顎を掴もうとする仕草を見て、ザキルは慌てて話し出す。

「あいつの正体はシルヴィーだ。シルヴィーはフォードの側近だ。俺たちの目的はヘルジャスを潰し、俺たちの力を鼓舞することだ」

(フォード…。)

フォードという言葉にケルトの殺気が増すのだった。フォードとは何者か。それはケルトがこの世界に来た時、友人を攫った男のこと。つまり、ケルトの仇の名であった。

「素直に喋ったら解放してやろうと思ってたんだが、お前は運にも見放されたようだな。…フォードの仲間は皆殺しだ」

ケルトがザキルに天誅を加えようとした時だった。

ドカーン。

村の方で爆発音がした。

(もう始まったのかよ…。)

「俺を殺すのは自由だが、この先最短で事を進めないとこの村は確実に潰れるぞ」

「取引のつもりか」

ザキルはケルトが返答したことに安堵の息を漏らす。生き延びる道を見つけ、出口に向かって走るが如く、言葉を紡ぐ。

「きっとフォードの側近のシルヴィーが暴れだしたはずだ。もうここでやることは終わっているからな。シルヴィーは銀色の長髪の女だ。早く行かないとタンダスは潰れるぞ」

ザキルの言葉を聞き、ケルトはザキルを解放する。ザキルに構っている暇は一秒もないと知ったからだった。ケルトは急いで村へと向かうのだった。


                   ・



ケルトがザキルを拷問しているくらいだろうか。丁度その頃にクランとエル、そして宿の娘は娘のおかげで碌に急ぐこともできず、作戦が少し遅れていた。というよりはレイナの結界解除が異常に早かったせいである。ケルトの作戦では、レイナの結界解除が済むまでは入り口の森陰で待機しておいてくれと言われていた。待機する理由は言うまでもなくエルが結界にはじかれるからだ。でも、残念ながら、入り口に着いたと同時に村の中から物騒な爆発音が聞こえた。

「何だ今の音は。こんなの予定にはないはずだぞ」

クランの驚きにエルは周囲を見渡す。

「予定にないんだってことは、これをやったのは相手方だってこと。まずい、早くタンダスに向かわないと」

エルは非常に焦っていた。だが、クランは手を繋いでいる女の子を見る。

「でも、それでも最優先はこの子だ。両親に会わせてやりたい」

焦る気持ちを抑えられないエルとは対称的にクランは落ち着いていた。それもそのはず。エルは自分の村に起きたことが心配で堪らない。だが、クランは村への思い入れは微塵もなく、女の子を両親に返すという約束の方が重要だと考えているからだ。

「じゃあ、僕は爆発音のした方へ向かう」

そのまま走り去ろうとしたエルをクランは引き止める。

「でも、相手の顔、人数、戦力も分からない今の状況で別行動は相手の思うつぼだろ」

クランはエルを落ち着かせようと必死だが、エルは落ち着く様子を見せない。

「ケルトの作戦に付き合うのはもう終わりだ。僕はタンダスの村人を誰も死なせたくない。父さんの想いをこんなところで潰させない。だから、僕は真っすぐ敵の元へと向かわせてもらう」

クランはため息を吐いた。もうエルを止めることは不可能だと悟ったのだ。

「そうか。だが俺はこの子を連れて戦場に行くことも、この子をほったらかしにして戦場にいくこともできない」

クランの返答にエルは頷いた。

「じゃあ、お別れだ」

「そうだな」

クランは女の子の手を引きヤンムの待つ宿舎へと向かう。エルはそのまま1人全力で走り、爆発音のした場所へと一直線に向かった。

(結界、解かれててくれ。)

エルはそう祈りながら村へと侵入する。結界は解かれており、一安心だった。と、村の入り口で銀髪の女性を見かける。

「お前は誰だ?村の者ではないようだが」

エルは爆発音の関係者かもしれない女にそう問いかける。

「そうね。でも、私はあなたを知っているわ。ラクトスの偽物さん」

女性はクスクスと笑っている。

「な、なぜ…」

エルは動揺し、すぐさま臨戦態勢をとる。

「私はあなたたちに感謝してるんですよ。私はこの奥にある屋敷に監禁されていたんです。でも、あなたたちが村の結界を解いてくれたお陰でババたちの混乱に乗じてうまく逃げることができました」

「そうだったのか。爆発はいったい誰が?」

エルは女性に話の続きを促す。

「ババたちと私は言いましたが、本当はババに反旗を翻した巫女達が黒幕です。私はババが殺されるところをたまたま目撃してしまったんです。その為私は口封じに監禁されていました。ババは偽物でその正体は巫女の1人だったのですよ」

「そうだったのか…。じゃあ、爆発は巫女達の仕業ってことか」

「そうです。恨みのあるこの村を潰すと言ってましたね。もうすぐ巫女達が来ます。すみませんが、足止めしていただけますか?」

女性のお願いにエルは強く頷く。そして去り際にエルに問いかけてくる。

「因みになんですが、結界を解いた方はあなたですか?」

「僕ではないよ。何で?」

「お礼をしないといけないからですよ」

「律儀なんですね。赤色の髪の女性で、レイナというそうです。ここにいては危険なので、全てが済んでからお礼に来てください」

「ご忠告ありがとうございます」

女性はニッコリ笑い、そのまま村から出ていった。

(赤色の髪のレイナ…ね。後で手厚くお礼してあげないとね。生きてたらの話だけど。)

女性は不敵な笑みを浮かべながら、結界を解いた主の情報が入ったことに喜んでいる様子だった。


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