表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/65

3-4 謎の集団

  4章



ケルトは多少冷や汗をかきながらもクランからヴォルドに視線を移した。

「マントは邪魔だな」

ヴォルドはそう言うと、全身を覆っていたマントを脱ぎ捨てた。

容姿から男だと分かる。緑色の髪に頭に何か巻いている。短剣を逆さに持ち左手には緑色に光る何か、水晶の様な丸い石を持っていた。

「動きは速そうだな」と、クラン。

痩せ型で、とても身軽そうだった。

「そうだな」

(あの左手の玉は何だ?迂闊に近寄れねぇな。)

「あれは風魔石。相手は風属性よ」

と、レイナが後方から叫ぶ。

「風魔石だと、なんじゃそりゃ!!」

ケルトはとてつもないオーバーリアクションをかました。

(風魔石って何だ。見たことも聞いたこともないんだけど。スッゲェ気になる。何、その便利そうなアイテム。スッゲェ欲しいんだけど。)

「レイナ、あれってどこで売ってんの?」

ケルトは今後の為に、今すぐにでも情報収集したかった。

「売ってない」

ケルトはレイナの言葉に絶句した。

「え?売ってないんだったら、何であいつは持ってんの?」

「ヘルジャス兵士だったわよね。この大陸の6つの王国は特別に魔石を保有することが許されてるの」

「誰にだよ。俺にも許してくれよぉぉおおお!!!」

ケルトの叫び声が森の中に響き渡る。

「ヘラレス王国。この大陸で最強の国。でね、魔石は貴重で、一般人が強力な力を得てしまうのは良くないと言って、一般には流通させてないの。王国は国を守るという名目があるから取り扱うことが出来るんだよ。国王の許しを得た者だけが魔石を持つことができるわ」

「何、その差別みたいな条例。意味不明に突っかかってきて、戦闘になったら魔石を使いますって…、横暴すぎだろ。…まぁいいや、あいつから奪えばいいんだし、簡単じゃん」

ケルトは指をポキポキと鳴らし始める。

「それは無理ね。魔石は最初に持ち主の登録を行うの。そして、1度登録されればそれは永遠にその人にしか使えない。魔石はその持ち主の命に呼応するの。他人が持ったところであの魔石はただの石でしか無いわ」

「呼応する…」

クランは自分の剣を見ながらボソッと呟いた。

「知識だけはいっちょ前だな。今度からレイナを博士タンと呼んでやろう」

「呼んだら殺すから」

レイナの殺気はヴォルドではなくケルトに向けられていた。だが、ケルトはそんなことは気にしない。魔石のことで既に頭がいっぱいなのだ。

「でも、いいなぁ。魔石かぁ、いいなぁ」

ケルトは夢見る少年のように目を輝かせていた。

「うるせぇ、ケルト。相手に集中しろ」

クランはだらしないケルトに喝を入れる。

「い…」

ケルトがクランをチラ見すると、クランの敵が今ヴォルドからケルトにすり替わろうとしていた。

(あっぶねぇ…。)

ケルトは喋るのを止め、ヴォルドに集中することにした。

「そんな女の子のファンシーグッズみたいなので強くなったつもりか!」

ケルトは妬み満々でヴォルドに暴言を吐きながら突進していった。

「欲しい、欲しい、俺もそれが欲しいんだよぉぉおおお!!!」

そんな異常なケルトの様子を見たクランは固まるのだった。

(あいつには俺も持ってるなんて絶対にいえないな。)クランは内緒にしようと心に誓うのであった。

ケルトはヴォルドに接近すると、渾身の右フックをかました。だが、ヴォルドには当たらず空を切る。

「えっ?」

当たったように見えた為、ケルトは驚きを隠せなかった。

「魔石は自分の能力を格段にアップさせてくれる」

ケルトの真横からヴォルドはボソッと呟いた。

(そんなこと…、そんなこと分かっとるわい!何故、わざわざ言った。ワザとだろ、俺が欲しがっていたから、ワザと言ったんだろ。)

どんどん怒りのボルテージが上がっていくケルト。ヴォルドはケルトにハイキックをくらわし、吹っ飛ばしたのだった。ケルトは木にブチ当たったが、すぐに立ち上がった。

「くっ、ただのドーピング野郎じゃねぇかよ、ったく」

そして今、ヴォルドを挟むようにケルトとクランが立っていた。

「レイナ、危ないからそこの木の影に隠れてろ」

クランはヴォルドから目を反らすことなく、そう言った。

「う、うん」

レイナはそっと木の影に隠れる。

(くっそ、動きが速いんだよ。あの明かりがなかったら、完全に負けてたかもな。)

2人が構えていると、ヴォルドの方から飛び出す。(1人ずつ仕留めようってことか。でも、残念ながら、クランもなかなか強いんだよねー。)

クランはヴォルドの動きに合わせて大剣を右上から左下に振り下ろした。

ガキーン。クランの剣は振り下ろしている途中で止まった。

「な、に…」

クランは目を見開き、驚いていた。クランの両手で振り下ろした渾身の一撃をヴォルドは片手に持った短剣で受け止めていた。そして、左に持った風魔石を握りしめ、クランの顔面に強烈なパンチをお見舞いする。

「グハッ」

ヴォルドの動きが速すぎる為、まともに攻撃を受けたクランは顔を押さえ、ふさぎ込んだ。

(クリティカルだな、ありゃ。立てないかもな。一瞬の油断が致命的なものとなる。それを分かってて、何故それでも人間という枠にこだわるんだろうな。一種のプライドなのか?)

ケルトはそんなことを考えながらも、ヴォルドとの距離を詰める。

(出し惜しみなんかしてる場合じゃなくなってきたな。)

ケルトは肉体強化の魔法を唱える。【鋼力】そして、ヴォルドに急接近するとその力をフルに発揮させた。

「んん…」

いきなり今までと動きが変わったケルトを目で追うことが出来ず、ヴォルドは一旦後退する。

(ふっ、かかったな。いきなりこんにちは作戦。)

ケルトは右手に炎を纏わせ、強烈な右フックを放つ。

スカッ。

ヴォルドはギリギリのところでケルトの攻撃をかわした。そして、それを好機と見たのか、ヴォルドは後退を止め、一気にケルトに突っ込んできた。

「ありゃっ…」

一瞬で形勢が逆転したケルトは大振りした拳のせいでヴォルドの攻撃に対して隙だらけになっていた。ヴォルドは右手を振り上げ、短剣を構える。

(こりゃ、首の位置だわ。え?あなたは俺を、全く見ず知らずの俺を、戸惑いもなく殺そうと言うのですか?)

だが、その状況に笑ったのはピンチのはずのケルトだった。

(なんつてー。)

ケルトのさっきの右フックは攻撃をする為の動作ではなかった。左フックを放つための極限なまでの振りかぶりだった。そしてそのまま右手の短剣に意識を集中させ、今にも振り下ろしそうなヴォルドの無防備な左手を強烈に殴った。

「な…」

ヴォルドの左手に握られていた風魔石は森の彼方へと飛んでいったのだった。そして、ケルトはそのまま体を一回転させ、ヴォルドに強烈な後ろ回し蹴りをくらわせた。ヴォルドはその蹴りで吹っ飛ぶと、その場に倒れこんだ。

「勝負ありだな。もうお前の身体能力じゃ、俺には勝てない」

倒れこみ唖然としているヴォルドにケルトはそう言ってやった。

「くそっ…」

ヴォルドはそう言うと、一目散にその場から逃げ出していった。

(そう、俺の完全勝利。そして、犠牲者1名。)

「追わなくていいの?」

レイナは木陰からケルトにそう尋ねる。

「いいんじゃね。だって、俺、迷子になりたくないもん」

「そうなんだ…」

レイナはケルトの変な理由に呆れ顔をした。ケルトは全く動かずに終始うずくまっていたクランが気になり、視線を送った。クランは鼻をつまみながら仰向けで寝転がっていた。

そんなクランをジト目でケルトは見る。

「決死の戦いの最中ですよ。何故クランさんは呑気に寝っ転がっているんですか?」

ケルトの問いにクランは呆れた目で見返す。

「どう見たって止血中だって分かるだろ」

ジト目をジト目で返され、ケルトのやり返したい魂に火が灯る。

「うわぁ、この草気持ちいいぃぃぃ。これはまさか、まさか、俺は大地と一体化する魔法を覚えてしまったのかぁぁあああ!――とかいう妄想に浸ってるのかと思った」

ケルトの言葉にクランはそっと目を閉じる。

「止血が終わったら絶対に殺す」

「うほっ」

レイナはもう慣れてしまったかのように2人のやりとりを見て笑っていた。

「ついさっきまで生死の戦いをしていた人とは到底思えないんだけど」

そしてクランの止血も終わり、恐らくはヴォルドが俺たちをおびき寄せる為の罠として使ったであろう明かりの方向へと行ってみた。

「なんか、怪しい洞窟だよね」

明かりのすぐ側には洞窟があった。クランも恐る恐るその洞窟を覗き込む。

「早く先に行くぞ。ここはヴォルドが罠でただ明かりを置いただけだろ。関係ないって」

ケルトがそう言うと、クランがケルトを止める。

「いや…、まぐれかもしれないが、ここかもしれないぞ」

クランの言葉にケルトは首を傾げる。

「うんうん。何か奥で物音もしてるしね」

(風でしょ、レイナさん。)

「でも、祭壇だぞ。もっとドーンとしてるだろ。見たら一発で分かる、みたいな。洞窟は祭壇じゃありません」

「でも、ヤンムは噂でしか祭壇を知らないって言ってたんだぞ。遠目から見ても分かる物だったら、そんな確証のない答え方はしないだろ」

クランの言葉にケルトはうーん、と考え込んでしまう。

「まぁ、いいじゃん。調べるだけ調べても損はないって」

「そうだな」

レイナの言葉にケルトは同意する。警戒している2人と相対して、ケルトはズカズカと洞窟を進んでいく。

「お、おい…」

クランはケルトを止めようとするのだが、

「いいじゃん。ケルトはラクトスと友達なんでしょ。警戒する必要ないって」

レイナはクランを止めるのだった。そして、2人もケルトの後に続いて洞窟を進んでいく。

「うわっ、な、何だ!!」

ケルトはいきなり体のバランスを崩し、その場に倒れこんだ。その行動に後ろの2人が警戒する。

「ケルト…」

レイナは一通り辺りを警戒した後、ケルトを見てため息をついた。

「先に行くわ」

クランはそう言うと、ケルトを見捨てて先に進んでいった。

「ケルトがリーダーになったらこのチームは一瞬で破滅。確信できたわ」

レイナもそう言葉を吐き捨ててケルトの横を通り過ぎていった。レイナの捨て台詞にケルトは何も言い返せず無言となった。ケルトはただ、洞窟の小さな穴に足をとられ、バランスを崩しただけであった。

(あなたたちは鬼畜ですか。確かに、少しリアクションがオーバーだったかもしれない。まぁ、それは認めよう。だが、あっさり切り捨てて先に行っちゃうことは無いんじゃないの。ただ、ただ、この躓いて転ぶという現象に全力で立ち向かっただけなんですよ…。出来心だったんです…。誰か…、誰か私を助けて下さい。)

ケルトは片足が穴にハマった状態で反省していた。だが、1人になるのは寂しかったので、即座に穴をブッ壊し皆に合流したのだった。

ガサガサ。

「音がだんだん大きくなってる」

レイナはクランの後ろで警戒している。

「もうそろそろ、音の正体も分かりそうだな」

クランにレイナに返答する。真っ暗な洞窟だが、奥に行くに連れて薄暗さに変わってきている。恐らくはこの先に明かりが存在している。90度に曲がっている道のその先に何かがいる。

(何がいるんだ?)

ケルトが考えていると、クランがケルトの服を引っ張った。

「この先だ。曲がった先をマックスで照らしてくれ」

「ふーん、そういうことね」

ケルトが分かった様な口調でクランに答える。

「なになに?」

レイナが不思議そうな顔で近づいてくる。

「とりあえず、目ぇ瞑ってろ」

「ん?」

レイナは首を傾げながらも、ケルトの言う通りに目を瞑った。

(ほらよっ。)

ケルトは道の角に手を突き出すと、1m四方の巨大な炎の塊を作り出した。その瞬間だった。

「きゃーーーー!!!」

道の先から女の子の声が聞こえ、それは洞窟内に響き渡った。ケルトは目が慣れる頃合いを見計らって閉じていた目を開いた。そして、角の先を見ると、目くらましをまともにくらって、目を押さえて倒れこんでいる女の子の姿があった。クランがケルトの隣にくる。

「こいつじゃないのか。あの宿の娘ってのは?」

ケルトは同感だったので黙って頷いた。

女の子の周りを見渡すと、沢山の食糧などが置いてあった。呪符なんかも貼ってあり、単なる魔物の侵入を防いでいるようであった。食糧に関してはこの女の子の為ではなく明らかにその他に対する貢ぎ物であると分かった。女の子は手かせ足かせをつけられており、絶対に逃げられない状態だったし、食糧も女の子からは絶対に届かない位置にあったからだ。

(生贄ねぇ…。胸糞悪いわ。これが村を守る使命を負わされた者の宿命だと…。こんな状況、ヤンムたちには絶対に言えないな。)

すると、レイナも目が慣れたのか側に近寄ってきた。

「サイッテー」

レイナはケルトに一言、罵声を浴びせた。

「この状況はもっと最低だけど、ヤンムの娘がいるかもしれない訳じゃない。ケルトひどすぎ!」

(な、な、なんてことだ…。元はクランのアイディアなのに、何故ピンポイントで俺だけに言った?)

レイナはうずくまっている女の子に駆け寄ると、体を起こし、自分の手で目を覆ってあげた。そして、衰弱している体に魔法を唱える。【ヒール】そして、優しく言葉を発する。

「私たちはあなたを助けに来たの。しばらくしたら見えるようになるから、心配しないで」

「誰、誰なの?」

女の子は怯えた声でそう尋ねる。

「私たちはね、あなたのお父さんとお母さんにあなたを迎えに行くように頼まれたの」

「お父さん、お母さん…」

女の子の涙がレイナの手の平に伝わった。

「もう大丈夫だからね」

レイナは女の子の頭を撫でながら、優しく慰めたのだった。

「問題はこれからだ。どうする?」

クランは女の子を見ながら、ケルトに話しかける。

「娘を連れて帰り、ヤンムとセトを連れてランプへ行こうと思ってたんだがな。何か、それじゃあ、腹の虫が収まらない。この生贄の儀式をさせている奴も、こうすることを受け入れてる村の奴等も許せない」

ケルトは拳を握り、体を震わせていた。

「真っ向から挑んでも、勝てる確証がないぞ。ラクトスもそうだが、村の婆さんだって、村を守る結界を張ってるくらいだから、弱くはないはずだ」

クランは腕組みしながら言う。

「勝つとか、負けるとか、そんなんじゃないんだよ。これは悪いことだって誰かが教えてあげないといけないんだよ」

ケルトの言葉にクランはフッと笑う。

「あと、ラクトス、ラクトス言ってたから忘れてたけど、恐らくこの件にラクトスは関与していない」

「は?」

クランはケルトの言葉にポカンとなる。

「いや…、あのね、セトが言ってたんだが、皆がラクトスって呼んでいた奴って、大鎌を持った女性らしいんだよ」

その言葉にクランはハッと何かに気付いた。

「それ…、確か、つい最近見た記憶が…」

クランの言葉にケルトは苦笑いをした。

「バーレンなんだよね…」

ケルトはため息をつく。

「バーレンって…、オリジナルだろ。ヤバイんじゃないのか?」

「そうだな。かなりヤバイな。ラクトスだったら、手加減してくれそうだけど、バーレンの場合は次は本気で来るだろうな」

「だったら尚更だ。正面からはマズイだろ」

そのクランの言葉にケルトは真剣にクランを見つめる。

「でも、いいんだ。正面からで。あいつにも聞きたいことがあるし、不意打ちで説教なんてカッコ悪いことできねぇだろ」

すると、レイナが話し込んでいる2人の元に近づいてきた。

「泣き疲れて寝ちゃったみたい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ