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2-17 仲間

   17章



ガロンはバースと共に歩くのだった。

「じゃあ、先に成功報酬を貰っておこうか」

バースの言葉にガロンはお礼を言い、成功報酬を渡す。

「ありがとうございます。全てはバースさんのおかげです。この町での件はひと段落した訳なのですが、バースさんはこれからどうされるんですか?」

「そうだな、少し用事を思い出したからこの町からはおさらばだな」

「そうなんですか。それは少し残念です」

ガロンは少し期待していたのだった。バースがガロンを配下としてくれることを。だが、それは叶わないようだ。それでも、バースさんには十分にお世話になった。あとは自分で、グエンサ王国に帰り、ガラフを引き渡せばいい。次の密輸船が来るまでの間はのんびりとこの町で過ごすことにしようと決めたのだった。

呪符タルタントが1枚残っている。それを使いガラフを石にしてグエンサに帰還するとしよう。

「これも何かの縁だ。ガラフを連れて帰るまでがこの計画なんだろ。じゃあ、その邪魔になりそうなハイズはここで潰しておく方がいいか?」

その言葉にガロンは感動するのだった。

「できれば、よろしくお願いします。追加の資金というのであれば――」

ガロンが金の入った袋を開けようとした時、

「いい、いい。もう金は十分に貰ったんだ。これはサービスだ」

そう言って、ハイズたちが待機している場所へと向かうのであった。ハイズたちが視界に入った瞬間だった。

「よう、ハイズ」

バースはハイズに駆け寄ると、そのまま殴り飛ばしたのだった。【呪拳】

ケルトによってダメージを受けていたハイズはバースの攻撃によって瀕死近いダメージを受けたのだった。

「おい…、ガンザ。これは何の真似だ」

片膝をつき、苦しそうにハイズは問う。

「ガンザ?それは誰のことだ?とりあえず、俺のことではないな」

「なん…、だと」

【速移】ティアは瀕死のハイズを担ぐとそのまま速度を上げ、撤退するのだった。【テレ】

バースは転移し、ティアの撤退を阻止する。ボコン。そのままハイズを蹴り飛ばしたのだった。

「あんた、いったい誰なの?」

バースはティアに顔を近づける。

「ガンザではない。それだけだ。ガロン、こいつはどうするんだ?」

「そいつは娼館堕ちさせるんで大丈夫ですよ」

「そうか。じゃあ、殴れないな」

そう言って、後ろを向いた瞬間、そのまま回転しティアの足の骨を蹴り砕いたのだった。

「ギャー!!」

「逃げられちゃたまらないからな。一応言っとくが、殴ってはいないからな」

そこに這うようにハイズが戻ってくる。

「ティアに手を出すな」

芋虫のようなハイズに対し、ガロンは足蹴みする。

「何言ってやがる。お前は大人しく転がっていればいいんだよ」

タッタッタッ。

そこに新たなる闖入者が現れる。

「ガンザ=レミラス。やっと見つけた」

「おやおや、お前は…、誰だ?」

「私はレイナ=リヴェール。あなたに殺されたライア=リヴェールの妹」

それを聞くとガンザは笑い出した。

「仇討ちか、随分と遅かったな」

ガンザの言葉にレイナは唇を噛みしめる。そして、ガンザとの距離を詰めるのだった。

「お前に殺せるかな」

ガンザは自分の服をめくり、笑ったのだった。

「そ、それは…」

ガンザは服の下にレイナが持っていた竜のチェーンシャツを着ていたのだった。

「こいつの力はお前が一番分かっているだろ。勝てないと分かっても立ち向かうのか?」

「くっ…、それでも」

「おい、何やってんだ?ボーっとしてんなよ、開始の合図なんてないんだから」

ボコーン。レイナは蹴り飛ばされたのだった。ガンザが近づいた形跡はない。いきなり消えたのだった。かと思えば脇腹に痛みが走り、吹き飛ばされたのだった。瞬時にレイナは立ち上がる。

「遅いって…」

起き上がった瞬間、目の前には足の裏があった。ボコーン。顔面を蹴り飛ばされ、再び吹き飛ぶ。ガンザはレイナが起き上がる前に髪を掴むと走り出した。ジャイアントスイングで勢いよくすぐ横の壁に投げつける。バコーン。

「グハッ…、痛い、痛い…」

レイナは泣きながら髪を掴まれたガンザの手を掴んでいる」

「ははは、言っただろ。次視界に入ったら殺すって。ゆっくり反省してもらって、それから死んで貰おうかな。さながら、今は反省の時間」

そう言うと、ガンザはガロンを呼ぶ。そして、レイナを動けないように押さえつけるように指示を出す。ガンザとガロンの2人に羽交い締めされたレイナ。

「さて、反省の時間ですよ、レイナちゃん」バキッ。

ガンザは下半身の服を全部脱がすと足の指を掴み、左の小指を折ったのだった。

「いやぁぁぁあああ!!!」

泣き叫ぶレイナ。

「嫌じゃないから。下から1本ずつ折っていきましょうね。何本目で死ぬかな」

ガンザは笑いながら薬指、中指と順々に折っていく。

「いやぁぁぁあああ!!!」

西の港では奴隷船が出航したのだった。船の動く音、そして、レイナの叫び声とガンザの笑い声が響いているのだった。



                 ・



クランは自身の大剣に乗り、拠点へとたどり着く。拠点にしていた宿は襲撃を受けた後であり、建物自体が崩れかかっていた。宿主などはおらず、ミゲウたちがいるのかも定かではない。

「ミゲウ、いるか?」

クランは外から叫ぶのだった。

「クランか」

窓からミゲウが顔を出したのだった。とりあえずと、クランは宿の中へと入るのだった。中にはミゲウとキャル、そしてドルガンがいたのだった。どうやら、敵の襲撃はミゲウが何とかしてくれたようである。

「予想通りか。怪我とかはないのか?」

クランは心配したのだが、襲撃に関しては問題なく蹴散らしたとミゲウは報告してくれたのだった。襲撃に関しては――。

「少し問題が発生した」

「何だ?」

「ドルガンが脱走した」

ミゲウの言葉にクランはドルガンを見るが、ドルガンはクランたちが出発する前と変わらず拘束されている。

「まぁ、脱走したとしても拘束具を外せないんだ。問題になるのか?」

「あぁ…」

ミゲウは神妙な面持ちとなる。そして、その時の状況を教えてくれた。ドルガンは一度拘束具を外して逃げている。だが、ミゲウが発見した時には再び拘束具をされ、気を失わされた状態だったらしい。訳が分からない。ミゲウもドルガンに問い詰めたのだが、ドルガンは何も話さなかったらしい。それどころか、もう逃げる気力さえ失っている状態なのだとか。

とりあえず、ダメもとではあるが、聞いてみる。

「ドルガン、何があったんだ?」

ダメ元だった。予想通り、聞いたが返答はなかった。だが、ここでゆっくりしている暇はない。即座に戻り、ケルトの加勢をしなければならない。1人ではSランクの相手など務まるはずがないのだから。

「とりあえず、ここは危険だ。ミゲウはキャルとランプに戻れ。ドルガンは俺が連れて行く」

「どこにだ?それに危険は承知でここまで来たんだ。今更戻れない」

横には震えるキャルがいたのだった。キャルには荷が重かったようである。ケルトの想いを伝える、それだけが今のクランにできることであった。

「ランプを守れ。それがケルトの言葉だ。前に占い師が来て、ランプの住民全員に死ぬと言っていたらしい。それがこの騒動と関係あるのならば見過ごせない。ミリを、町の皆を守って欲しい。だそうだ」

その言葉にミゲウはこれ以上反発は無意味だと理解したのだった。そしてドルガンを見る。

「こいつは危険だ。注意を怠るなよ」

「ああ、後は俺たちに任せとけ」

ミゲウは横で震えるキャルを抱き寄せるのだった。

「すまんな、恩に着る」

そう言うとミゲウはキャルと共にローゼルピスニカを出立するのだった。それを見送ったクランはドルガンに向き直る。

「さて、次はお前の相手だな。正直お前に何があったのかは知らん。興味もない。だがな、ケルトはお前の助けが必要だと言っていた。戦いは非常だ、キャルがああなるのも普通だ。殺し、殺されるそんな中で弱ければ死ぬというのは当たり前の話なんだ。だが、どうやらあいつは違うみたいだ。全員救いたい、例え己が死のうとも。バカだよな、ほんとっ」

クランはドルガンに笑いかける。だが、ドルガンは無表情である。クランは立ち上がり、ドルガンに近寄ると、腕に付けてある枷を外したのだった。

「何故、お前に協力を仰ぐのか。そして、何故そんなケルトの言葉に俺も賛同しているのか」

クランは一呼吸置くとケルトの言伝を思い出すように再び話し始める。


「ガンザは大昔に呪いをかけられている。かけた相手はフォードだ」


「昔と今では人が変わったようだと町の人は言っていた」


「ガンザは術属性なのか?転移してたぞ」


「手を貸せ、呪いを受けた者は呪符を使えないって知ってたか?つまりガンザは俺の仇じゃない」


「だったら今お前たちの前にいるガンザはいったい誰なんだろうな」


その言葉にドルガンは顔を上げるのだった。だが、それでもドルガンにできることは何もない。メルケスには諦めろと言われ、突き放されたのだった。きっと、お前がいると作戦に支障が出るから邪魔だということなのかもしれない。だが、あの言い様からして、残る者に支障が出るからお前はもう俺たちの前に姿を現すなというような感じだった。無駄な足掻きは所詮無駄だということ。

「お前がどう思おうが関係ない。ただ、伝えるべきことはちゃんと伝えた。後はお前が考えろ。俺は俺のやるべきことをやるだけだ。分かるだろ、お前も一瞬だったが、熱い一面を俺たちに見せたのだから」

よっこらしょとクランは立ち上がる。そしてドルガンの腕を掴むと、そのまま2階の窓から飛び出す。

「ケルトの元に連れていく。もう一度言うが、お前が必要だとケルトが言っていたからな。それに、お前の人生観も変わるかもしれない、ケルトはそういう男だ」

その言葉にもドルガンは無言。大剣に乗ったクランとドルガンはそのまま西の港への街道を突っ切ろうとした。

「そっちじゃない。森の中を進め」

ドルガンの言葉にクランは首を傾げる。

「港だぞ、目的地は。森の中って…、死にたいのなら後にしてくれ」

「いや…、違う。ケルトは港にはいない。森の中だ」

「何で、分かるんだよ」

「俺のスキルだ、信じろ。人生観を変える男か、この際だ、お前の言葉を信じてやる。ただ死ぬのは勿体無いしな。ケルトと話をしてやる」

その言葉にクランは笑った。

「森だな、道が悪いからな、掴まっとけよ」


                    ・



ここは森の中、激しい戦闘の最中にあった。

「逃げるのが上手いようで。でも、それだけじゃ…、ねぇ」

バーレンは笑いながら、大鎌を振るう。

「そうだな。同感だが、まぁ、準備運動はどんな時も必要だろ」

「準備運動、何かするつもりのようね」

「あぁ、期待しとけ。戦闘狂」

「ふはっ」

バーレンは笑いながらもその手を止めない。

恐らくあの時、俺は飲まれた――俺の中にいる何かに。【浸食】というスキル。キースと戦った時には飲まれなかった。自我を保っていた。だが、ドルガンを追った時、恐らく発動したのだろう。自我を保てなかったから、覚えていない。ただ、体の痛みから発動したのだろうなということは分かった。分岐条件が分からない…。だが、こいつはオリジナル、余力を残して勝てるような相手ではない。

(自我を保つ、自我を保つ、しっかり、冷静に、尚且つ発動条件であるマックス怒りを出す。…無理くねぇ?考えれば考える程意味不明なんだけど。怒らずに怒るっていったいどういう状態?)

頭の中がグチャグチャになっているケルトであったが、バーレンの攻撃はしっかりと躱している。どうやら相手もそこまで本気という訳ではないようである。恐らくは先ほどのケルトの言葉に期待しているのかもしれない。

(時間をかけすぎるのはまずいな。いろんな意味で。)

ケルトは考えることを諦めるのだった。なる様になる――それでいい、と。

バーレンの攻撃を躱しながら徐々に後退し、レイナの人形が転がる側のリュックから血の入った小瓶を素早く取り出す。

「さぁさぁさぁ、ご注目。ここにあります一本の血の入った小瓶。これを飲むと私、人が変わります。世にも珍しい変身術をとくとご覧あれ」

そう言ってケルトは一気に血を飲み干す。

(2分の1、変わるなよ!)

ケルトは祈る。ケルトは飲んだ血が体に染み渡る感覚を感じる。

「よーい、ドン」

その瞬間、飛び出す。そしてそのままバーレンを殴り飛ばす。ボコーン。

即座に接近してくるケルトに対して、バーレンは大鎌を振るう。【一閃】ケルトは全身に炎を纏う【バーニングオーラ】そして飛んできた斬撃を殴り消した。逆光の中、赤色に光る2つの目。バーレンは息をのむのだった。こいつは隻眼だったはず。何故…、両目光っているんだ…。

隻眼は呪いの一種だ。魔力を食らいつくす呪い。解呪の方法はないはず。本来の力を出すことができず弱者として一生を終える。それが隻眼の悪魔の末路だ。常人の魔力の10分の1それが隻眼の悪魔の魔力だと言われている。どれだけ努力しても絶対に常人に辿り着くことはないとされている。なのに、何だ、何なんだ、常識を逸脱した目の前の混血は。

断罪の時、そんな感情を抱かせるような違和感。

だが、そんな絶望感は気のせいである。目の前にいるのは混血。決して神などではない。バーレンは気をしっかり持ち直すとケルトの拳に合わせて大鎌をカチ上げる。

もしどちらかが神だとするのならば、それはこちらだと言わんばかりに。

「引導を渡すのは私だ」

「真剣白刃取り!!」

ケルトは殴るのをやめ、両手で鎌を受け止めたのだった。バーレンは鎌を受け止められた瞬間、鎌を振り上げるのを止め、柄の方でケルトの頭を殴ろうとした。

「へいへい」

ケルトは向かってくる鎌の柄を掴むと、バーレンの力の威力を殺さないように鎌を振り上げたのだった。

「ちっ…」

バーレンは鎌を手放し、その場から離れる。

「一閃!!」

ケルトは手に持つ鎌を豪快に横に振った。

「な、に…」

バーレンは驚き、腕を顔前でクロスに組むと足を踏ん張る。

「…」

ヒュルルー。風の音が聞こえる。爽やかな森の風切り音。

「は!?」

ケルトの振るった鎌からは何もでていない。少し鎌を振った時のブンという音が聞こえただけ。

「嘘だよ!」【鋼力】

ケルトは肉体強化の魔法を唱え、そのまま状況を掴めずにフリーズしているバーレンに拳を叩きこんだのだった。顎を貫くその一撃にバーレンは崩れるようにその場に倒れる。

「ふぅ、世話かけさせやがって。折角頑張ったんだから、死ぬんじゃねぇぞ」

レイナの人形は淡い光に包まれ消えていっている。

『お前には誰も救えない』――これはフォードに言われた言葉だった。もしその時にバーレンがその場にいたのだとしたら、聞きたいことは沢山ある。だが、それよりも今は大事なことがある。


「はぁ、仲間…、ねぇ…」


ケルトは目を瞑ると、少し笑った。

「おい、ケルトぉおおお!!」

ケルトの前に大剣に乗ったクランとドルガンが現れたのだった。

「おいおい、お前等…、遅いわ」

ケルトは笑いながら言った。

仲間はいらない。そう思う自分もいる。だが、いて欲しいと過去の自分は思っていた。そして、今、そう思っている自分がいるのであった。


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