2-16 全てが報われる
16章
カジノ、そして奴隷売買は順調だった。メルケス指揮の下ガラフとドルガンが働いている。カジノに関してはハイズが用心棒として働き、ティアは内部監視も兼ね、ディーラーをさせていたのだった。
奴隷はグエンサの奴隷船に高値で買ってもらう。メルケスを仲介役として立てているためガロンの存在がバレる心配はない。そして、こっそりとガロンがグエンサ兵に金を渡す。ガラフは未だに見つからないがその金で上手く上には言っといてくれと仲間に取り込んでいたのだった。
と、不審な女がカジノをうろついている。バースに報告すると、そいつは以前捕まえ、今はカジノ地下の娼婦館で働かせている女(ライア=リヴェール)の妹だと言った。
少しお灸を据えてやる必要があるから家を探索し脅しをかけろと言われた。ガロンはバースに言われた家へ行ったのだがそこに家は存在しなかった。その女(レイナ=リヴェール)の後を付ける。
すると、女は道場に住んでいるようであった。他にあった情報である妹と姉の姿はなかった。そこでガロンはその道場に圧力をかけたのだった。
そして道場での生徒はゼロとなった。レイナがいる限り、ここでは商売させないと脅す。すると道場主はレイナを追い出したのだ。ガロンに素直に従ったことに気分をよくしたので、商売は許すことにした。
バースに報告すると、「女は近々ここに来るだろうから、その時は俺を呼べ」そう言われたのだった。
それからしばらくが経つ。メルケスから伝えられていたティアがランプ武闘大会へ出場する日だった。ガロン的にはどうせ偽物なのに無駄な事を、などとも思いながら、少し自由を与えるのも悪くないと許可したのだった。
ティアは準決勝でクラン=イーザスという人間に負けた。だが、戦ってはいない。情報の対価として負けを選択したのだった。その情報とは生命の大樹の樹液の情報。クラン曰く、現在その所持者はヘルジャス王国にいるらしい。その人物とはとても有名な人物、フォード=ヤンクムだった。寄合所でのSランカーだった。規格外の大物。
確かにそれだけの人物ならば持っていても不思議ではない。だが、名前は知っているが顔は知らない。だが、その樹液を売ってもらえれば確実にガンザは助かる。もしかすれば、メルケスの予想は外れ、獣王の杖は今回も偽物である可能性だって有り得る。それならばと、クランの話に乗ったのだった。
ティアはローゼルピスニカへ帰るなり、敗北したとガロンに報告する。ガロンは笑いながら残念だったなと言っていた。そして、部屋を退室して直ぐにメルケスを捜した。だが、見つからない。代わりにドルガンを屋上で見つけたのだった。ドルガンにその話をしたところ、まだ間に合うかもしれないと言った。杖を横取りすると言ったのだった。
ドルガンの考えはこうだ。フォードを捜すというのも手ではあると。だが、現状においての確実は獣王の杖。それが手に入ればフォードを捜すということはしなくてよくなる。それに、きっとそのことをガロンに進言しても許してくれないだろうとドルガンは考えたのだ。
「奴は信用できない」
それがドルガンの答えだった。ドルガンはガロンに進言し、獣王の杖の強奪の許可を貰うと、その場にいたティアを行かせたいと願い出る。ガロンは呆れながらも好きにしろと言った。
ティアの報告により優勝者である混血(ケルト=バラモント)はガンザを捜しているということが発覚する。敵となり得る人物である。そんな場所にこれ以上ティアを置いてはおけないと、ドルガンは真夜中にランプへと向かう。
その場にいたガラフにカジノの用心棒を任せ、ドルガンは一路ランプへ向かう。そして、店の屋根から偵察していたティアに話しかける。何故か隣にはハイズがいたのだった。
「お前の心配性は昔から変わらないな」
ドルガンはハイズにそう言い、笑っていた。
「お前だって変わらないだろ」
そう言ってハイズも笑うのだった。
そこから話に花が咲く。昔は幸せだったと。
そして、ティアにはローゼルピスニカへ帰れと言う。後は俺達がやるからと、ドルガンとハイズが後を引き継いだのだった。
店が開いた瞬間、ドルガンは入店し、店の様子を伺う。外で待機しているハイズの入店のタイミングを伺っていたのだ。ハイズの入店はケルトが現れてからと考えていたのだが、ケルトが現れる前にガンザの詮索をする者たちが現れたのだった。ドルガンはハイズを入店させ、その者達にお灸を据えるよう指示を出したのだった。予想外に暴れすぎた為、「後は俺がやる」と言い、ハイズをカジノへと返したのだった。ハイズと入れ違いでケルトが入店する。
店内ではケルトの仲間が叩きのめされており、ケルトは怒り狂っていた。だが、聞き込みを開始した直後、最初の女性客に瞬殺されたのだった。だが、新たに店に入ってきた客、恐らくはその女性客の仲間が死んだと思っていたケルトを回復させたのだった。
これは!
とドルガンの中で激震が走る。ケルトを回復させた女性はパルと言った。ドルガンの考えていた2案、獣王の杖もフォードから生命の大樹の樹液を買うというのもいらなくなった瞬間だった。
パルに協力してもらいガンザを治療してもらう。それですべては解決するのだ。金ならいくらでもある、そう思い、ドルガンはパルに話を持ち掛けようとしたのだが、近づこうとして、金髪の女性に殴り飛ばされたのだった。
ドルガンは暫くして意識を取り戻すと、今はいないパルを捜してラクトスの森へと向かっていったのだった。
そしてそれと同時に動き出した店内の人物。店内にいたのはガロンの息のかかった山賊だった。彼はドルガンの動向を探るように命じられていた。風を切るようにガロンに現状を報告に向かう。
「奴はガンザの治療法を見つけた」と
報告を受けたガロンは即座に行動を開始する。山賊と共にラクトスの森へと向かったのだった。ドルガンはラクトスの森でパルを見つけるが、酒場同様に話も聞いてもらえずに意識を飛ばされたのだった。そして、しばらくして、誰かに揺すられている。目の前にはケルトがいたのだが、どうやらドルガンの記憶が無いようである。そして突然のケルトの規格外の魔力にあてられ、意識がまたもや朦朧とし、飛んでしまったのだった。
それから1日が経つ。意識を取り戻したドルガン、横にはケルトが倒れていた。
「こいつはいったい何者なんだ?」
と思っていると付近に気配を感じ、即座に身を隠したのだった。
ガロンはドルガンを見つけるが罠の危険を感じ、山賊たちを囮に使ったのだった。ガロンは木陰に隠れたドルガンを背後から毒のナイフで一刺し。止めをさそうとしたのだが、その前に山賊によってケルトが起きてしまった。ここは危険な森、余計な騒動は極力避けたい為、ガロンはドルガンに止めを刺さずに撤退するのであった。だが、致死率は申し分ない毒であるためドルガンの死は確定している。この目で見れなかったことが残念でならないだけであった。
・
大変だった過去を走馬灯のように思い出し、懐かしんだガロン。メルケスの隣まで行くと、その労を労うのだった。
「お疲れさん。お前のおかげで全て上手くいった。礼を言う」
大金をメルケスより受け取り、ガロンは満足そうな顔をしていた。
「お前の指示には従ったんだ。次はこちらの要求を叶えて貰おうか」
メルケスの言葉にガロンはニコニコしている。
「そうだな。本来ならばそうしてやりたいところだったんだがな。仲間じゃない者に対して俺はやさしくしないんだ」
その言葉にメルケスはため息を吐く。
「やはり…か。最初から約束を守るつもりはなかったのだろ?」
ガロンはメルケスの真意が分かっている。だから、こうまどろっこしい言い方をしているのだった。メルケスが奴隷売買の裏で何をしていたのか。それを知っているからこそ、ガロンはメルケスの要求に応えはしない。
「約束は守る男だよ。だけど…、最初に約束を破ったのは君なんじゃないのか?」
ガロンの言葉にメルケスは動揺したりはしない。メルケスもまたガロンの動向、そしてガロンが隠している真相のすぐ近くまで辿り着いているのだから。
「そうか。じゃあ、取り繕う演技はもう必要ないな。お前は最初から私たちをハメていたんだな。あのガンザは偽物、だろ?」
「どうしてそう思う?仲間を疑うのは最低だと思うが」
「ガンザの金の首飾りだ」
「首飾り?」
「昔は編み込んだ紐だったんだよ。ガンザが本物なら知らない訳がないだろ」
「くっくっく。だそうですよ、ガンザさん。やっぱりバレたのはガンザさんのせいじゃないですか」
ガロンの言葉にガンザが姿を現す。
「お前は何者だ?」
「お前がここで死ぬのならば教えてもいいが、奴隷として生きていくんだ。知る必要はない」
ガンザはそう言うとメルケスを殴り、気を失わせた。【呪拳】
この技は全体のライフの半分を削る効果を持つ呪いの拳だった。
「か、はー。そんな単純な質問でバレるなんて…、ツイてないなぁ…」
ガンザ改めバースはそのままガンザの姿で奴隷船にメルケスも引き渡すのだった。薄れゆく意識の中、メルケスは望みを託すのだった。
ローゼルピスニカで一番有名な混血に。
・
メルケスはガンザとちょっとした話をしたのだった。それが、金のネックレスの話。
「その金のネックレス、そろそろ買い替え時なんじゃないのか?」
そうメルケスは言ったのだった。昔からネックレスをつけていたから今更首に何も無いのは首が少し寂しいと前にガンザは言っていた。だが、それでも、何の思い入れもない金のネックレスを大事そうに何年も付けておくことはないと思うのだった。
「そうだな、新しいのを買うか」
ガンザはそう告げるのだった。汚れているし、どうせなら体を癒してくれる効果のあるネックレスを買えばいいとメルケスは提案するのであった。
「これなんかどうだ?」
そう言って、メルケスはガンザに笑いかけるのだった。冗談半分で紐を編み込んだだけの首紐を見せたのだった。
「いや…、それはいいわ。今が金だから、次は銀にするわ」
「そうなのか」
そう言って、メルケスは仕事があるからとガンザと別れたのだった。
編み込んだ紐にガンザは反応しなかった。何故だ?という思いがメルケスの中で交錯する。前も何度かこのくだりの話をしたことはあった。その都度、
「母の形見という想い入れがあるからいいんだよ。それに、金のアクセサリーは皆で買ったお揃いの物だしな。千切れたとしても修理して使ってやる」
と言っていたのだ。それが今回は違った。性格もあんな遊び人のようなものじゃなかった。死を間際にして気が触れたのかとも思っていたのだが、戦いにおいても属性技を使わなかった。そして、今回。母の形見に反応せず、仲間とのお揃いということにも触れることがなかった。
メルケスはなるほどな、と思うのであった。
奴はガンザではない、と。
だが、今やこの町はガンザの息のかからない場所がない。自分ひとりで動こうにも目立ちすぎる。誰かを雇うにしても寄合所を通せば、即座にガンザへと知れ渡るだろう。秘密裏に動く為に最も有能な人材――。
メルケスはハッとするのだった。この町には1人、偏屈な奴がいる。誰とも組むことがなく、それでいて依頼は確実にこなす。だが、それ以上の情報が洩れてこない。そんな男が1人いたのだった。
その男の名はアラル=バラシン。
混血である。何度か聞き込みを行うことでアラルという男がどんな男なのかを掴むことができた。アラルの過去の仕事を調べ、現地へと行くのだが、誰一人アラルを知らなかったのだ。ターゲットには家族だっていただろうに。家族の影すら残っていなかったのだった。そこから推測できることは一つ。
皆殺し。奴は確実に悪魔を恨んでいる。殺していい悪魔がいれば迷わず殺す――そんな奴なのかもしれない。奴にとって悪魔は皆同じなのかもしれない。それ程に憎んでいるのであれば、こちらとしては逆に都合がいい。ガンザの偽物は奴隷船に力を注いでいる。悪の権化だと言っても何ら違いない。粛清という言葉を盾にして殺しを正当化できるだろう。
メルケスは早速アラルに会うために寄合所へと向かう。だが、いくら待っても彼が寄合所に現れることはなかったのだった。中へ入ってどこに行ったのかなどが聞ければ、もっと円滑に事は運ぶのだろうが、それはできなかった。ガンザたちに知られればそこでメルケスの思惑は終わってしまうのだから。ガロンだけならば自分たちだけでなんとかできる。だが、ガンザの偽物には全員でかかったとしても勝てないだろう。それに、奴はどこかにオリジナルを隠している。そいつまで出てこられると…、完全に詰みの状態であった。戦って勝つことは恐らくあの混血でも不可能。ならば…、とメルケスは考えを巡らせる。
ガンザの偽物を排除するのではなく、本物のガンザを奪取する。そして、この町を離脱する。越えられない壁を無理に越える必要などないのだ。道は無数にあるのだから最善を模索すればいい。ガンザの救出を最優先させる為に警備はできるだけ手薄にさせよう。
気になるのは地下だが、奴ならきっと気づくだろう。私には地下を探索して情報を渡せる程の力も、…時間もないだろうから。
仕事の合間を縫い足繁く通った。だが、アラルと出会うことはなかった。誰が敵なのかも分からないこの町で不用意に人を宛にはできない。帰ろうとしたその時だった。
(ん?)
前から歩いてくる人物。それは昨日も、その前の日も見た男だった。青髪の青年。だが、今日は纏う匂いが違う。昨日までは悪魔の匂いだったのだが、今日は混血の匂いがするのだった。容姿等、メルケスの調査した人物と合致する点は多かった。だが、悪魔だった。だから今までスルーしていたのだった。
(こいつか…。こいつが…、アラル=バラシン。)
メルケスはアラルに会釈するのだった。
「メルケスといいます。今日はあなたに依頼をしたくてここで待っていました」
アラルは何も言わず、メルケスを見ていた。
「あなたのおうわさはかねがね耳にしています。その力を見込んでのことなんですが、とある人物の捜索、そして救出をしていただきたいのです」
「うわさねぇ。何でもするが、面倒はごめんだ。依頼なら寄合所を通してくれ」
「少々事情があって寄合所は通せないんですよ」
「じゃあなおさらだ」
「あなたの依頼の大半は悪魔の殲滅でしたよね。偶然なのか。もしくは狙って悪魔を殺しているのか・・・」
「脅してるのか」
「いいえ、私の依頼を引き受けてもらえれば、それはあなたの目的にもつながるかもしれないですよ」
「内容は誰にも知られてはいけないってことなのか」
「そうですね。寄合所に依頼すれば、相手にも筒抜けになるので」
「ほぉ、ここでそんな力を持ってる奴なんて限られてるぞ」
メルケスは笑った。
「ガンザ=レミラスか」
「恐らく、私と会うのは今日が最初で最後でしょう。わたしの不穏な動きはすでに相手方にばれている。全額を前金で払います」
「全額か。トンズらするかもしれないぞ」
「あなたはそんなことしない。だって、それがあなたの悪魔との契約だから」
これはハッタリだ。確かな確証がある訳ではない。それでもトンズラさせない為にダメ押しは必要である。彼は寄合所での解呪の儀を受けていない。つまりはレアなオリジナルの血を飲んだということだ。レアということは恐らく契約の際に命を繋ぐための約束をしているはずである。普通ならばそれにまい進するはずだ。彼の行動がそれに関するものだとすれば悪魔の殲滅、ないしは奴隷解放のいずれかに約束の中の重要なものが含まれていると考えられる。
「ふっ、まぁいい。俺にも損はなさそうだ。引き受けてやる」
どうやら、メルケスの推測は当たっていたようだ。
「本物のガンザを捜して救出してください。そして、私の仲間にドルガンという奴がいます。そいつにガンザを引き渡してください」
「本物のガンザねぇ、高いぞ」
「お金ならいくらでも」
「おまえの命だって言ってもおまえは依頼するか?」
「私の命なんて安いものです。それでよければ、どうぞご自由に」
「そうか、分かった。今回は金にしとくかな」
「では、よろしくお願いします」
そう言うとメルケスは手にあらかじめ持っていた大金の入っているかばんをアラルに渡し、その場を去っていった。後はあからさまに怪しい動きをしてガロンたちの目を自分に向けさせ、自分を排除できれば、それで解決なのだと勘違いさせる。
アラルの動きも少しは補佐できるというもの。
やれることはやった。これで良かったんだ。誰も傷つかずに済む方法、これが最善だ…と。
メルケスはまだ解決はしていないのだが、達成感に満たされたのだった。




