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2-13 2nd round

13章



港では着々と取引の為の奴隷を船に入れ込んでいる。

「世の中腐ってるな」

フードを全身に纏う男は遠くからその光景を眺めていた。

「あいつ…生きてたのか。少しは強くなったみたいだな。まぁ、元気そうで良かった」

男は暫くすると立ち上がった。

「さってと、そろそろ仕事の時間か、…ん?」

異様な気配に男はそちらを振り返る。すると、港へ猛烈な勢いで走るケルトがいたのだった。

「女?あの女は確か…、悪魔。何故あいつは悪魔なんかとつるんでんだ?」

しばし様子を見ていた男は、その後森へと姿を消したのだった。

「まぁ、そこらへんも含めて、今度確かめるか」


                    ・


ケルトとの戦闘により家屋が破壊され荒れ地と化した場所にハイズとティアは待機していた。

「近いな」

ハイズはそう呟くのだった。

「そうなの?もう待ちくたびれちゃったよ」

寝転がっていたティアは起き上がる。

「予想通りだな」

「そうだね、メルケスの予想は当たってたね。混血、次はどんな作戦でくるのかな?」

「さぁな、俺たちはここで奴等を叩き潰す――それだけだ」

タッタッタッ。2人の前にはケルトとレイナが現れる。

「お前たち2人か?」

ハイズの言葉に「悪いか?」そう返答するケルトであった。

「いや…、悪いってかよ、学習しねぇのかよお前は?」

「学習?それならしたさ。次はフルマックスだ」

「ふっ、呆れたね」

呆れ顔のハイズとは対照的にティアは驚きの表情だった。

「え?私の技をくらって元気だなんて…、おかしいでしょ」

「お前、ノータイムで撃っただろ?」

ハイズの言葉にティアは先ほどの状況を思い出す。

「あ…、怒っててタメるの忘れてたかも…」

「はぁ…、そういうところだって…。今度はミスんなよ」

「はぁ!?ハイズだって人のこと言えないでしょ」

ティアの怒りがフツフツと上昇していた。

「あ、あぁ…、そうだったな。今度はちゃんとやるから。これでおあいこでいいだろ」

「まぁ、それで許す」

ハイズは何に対しておあいこなのか分からなかったが、とりあえずティアが暴走するよりはマシだと自分が折れる選択をとるのだった。

「私が混血の方でいいの?」

ティアの問いにハイズは首を振るのだった。

「すまんな、ティア。あっちは俺を所望のようだ。とりあえず隣の女を倒してからこっちに加勢に来てくれないか?そしたらあの混血はお前に譲ってやるから」

ハイズの言葉にティアは頬を膨らませる。

「んー、しょうがないな。約束だからね」

「あぁ…」

ケルトはレイナに指示する。

「巻き沿いは不本意だから俺は少し離れて戦うから。全力で頑張れ!!」

ケルトはレイナに自分の小手を貸したのだった。そして、ハイズに歩み寄る。

「俺に何か恨みでもあるのか?他の奴を見る目と違うみたいだが」

「あぁ、何度殺そうとも足りないくらいに恨んでるな」

「そうか…、じゃあ、気張れよ」

そう言うとハイズは豪快に近くの家屋の壁を叩き壊したのだった。

「何してんだ?」

「気にするな、ただの開始の合図とでも取ってもらえればいい」

「そうか」

【速移】ケルトは速度上昇の魔法をかける。ケルトは猛スピードでハイズに突進する。

「さっきの戦いでのダメージはないと思っていいようだな」

【鋼力】ハイズは自身に肉体強化の魔法をかける。そして近づいてくるケルトに対し拳を大振りする。

「甘いな」

ケルトはいとも簡単にハイズの攻撃を避け、少し距離を取る。

(あっぶね。あんなの当たったら粉々になるっつーの。)

「最初に俺の背後を取った技は使わないのか?」

ケルトの問いに対し、ハイズは笑った。

「気が向いたら使ってやる」

ハイズはゆっくりとケルトに歩み寄る。




                    ・


ティアはレイナを見る。

「またあんたなの…。もう実力差は分かったんだから降参しなさいよね。じゃないと…、本当に殺しちゃうよ」

ティアの言葉にレイナは身震いを起こす。1度目の戦いとは明らかに雰囲気が変わっていたからだ。【破力】ティアは肉体強化の魔法を唱える。【速移】更にティアは速度上昇の魔法も重ねてかける。

「どう、見えないでしょ。ほら」

ボコ。レイナは殴られ、吹き飛ばされるのだった。即座に立ち上がるのだが、ティアの姿は視界には入っていないようだ。全く明後日の方向を見ている。

「つまらないなぁ…。何で私がこんな雑魚の相手をしないといけないのよ」

ティアはレイナを無視してハイズの方を見る。中々の戦闘を繰り広げている。

(楽しそうだな…。)

「ハイズ、頑張れー」

レイナそっちのけでティアはハイズの応援をしていたのだった。

「何無視してんのよ!」

レイナは怒鳴り散らし、ティアとの距離を詰める。

「おっと」

レイナは豪快に拳を振るう。

「邪魔だって…。いつあっちに参戦しようか様子を伺ってるのに」

「そんなの関係ないでしょ!」

ひたすらにレイナは拳を振るっていたのだが、ガツン。レイナの拳はティアとの間の何もない空間で止まってしまった。

「…何?」

レイナは驚きの表情を浮かべる。それを見て、ティアはニヤリと笑った。

「【エアウォール】って言うんだよ」

「エアウォール?」

レイナの頭の中にはハテナが駆け巡っていた。

「見えない、か、べ」

ティアがそう発した瞬間、レイナは危険を察知したのか即座に後退しようとした。ガツン。

「うっ…」

「閉じ込められちゃってるし。ハハハ」

ダンダンダン。

「出しなさいよ!」

レイナは四方を見えない壁で囲まれ、閉じ込められてしまったのだった。

「大丈夫。後でちゃんと相手してあげるから」

ティアはレイナにニッコリと笑いかけると、その場を後にした。


                     ・



(ん?)

ケルトがレイナの方を見ると、そこにティアの姿はなかった。

(あいつ、どこ行きやがった。)

「よそ見するなよ」

ハイズが拳を振り下ろす。ケルトはハイズの拳をしゃがんで避けると、そのままハイズの横を走り去った。【火放】ケルトは手の平から火炎を地面に向かって放つと、くるくるとその場で回り始めた。

「くっ、煙幕か」

ハイズは手で顔を覆う。

「ガストぉ!!」

ズドーン。空から真下に向かって突風が吹き荒れた。巻き込まれたものは粉々に砕け散る程の威力で。

(あれがマジもんのガストかよ…。技名叫んでんじゃねぇよ。)

ケルトは冷や汗が止まらなかった。ケルトは煙幕を作り上げると、すぐにその場から離れた。

(まぁ、あれだ。俺が倒されるまではレイナは安全みたいで、良かった。)

【火放】ケルトは上空から落ちてくるティアの姿に標準を合わせ、火炎を放った。

「ちっ…」

ケルトは舌打ちすると前方に飛び出した。

「反射神経はなかなかだな」

ハイズはケルトの背後を取ったのだが、すぐにケルトに距離をとられてしまった。

「力は劣りそうだが、喧嘩じゃ負けねぇかんな」

「戯言を、無敗とでも言いたげだな」

「いいや、負けたことはある。俺の親友なんだがな」

「ほう、だが、ここは人間界ではないぞ」

「変わらないさ」

(そろそろ煙幕も晴れそうだな。もう1人も気にしないといけないが、常に動いていれば遠距離攻撃は避けられるかな。)

【火放】ケルトはハイズに向かって火炎を放つ。【跳返し】ハイズは向かってくる火炎をフルスイングでブッ叩いた。

「な…、に…」

自分の放った火炎が戻ってくるという異様な光景にケルトは思わず目を見開いた。

「覇属性特有の相手の属性技を跳ね返す技だ」

「何だそれ、イカサマじゃねぇかよ!」

「負けでも認めるか?」

「ふっ」

【速移】ケルトは一瞬にしてハイズの懐に潜り込んだ。

(多少の煙幕もある。まだ俺のスピードにはついていけてないようだな。)

ケルトはそのままハイズの横を走り抜ける勢いでハイズの顔面をブッ叩いた。

「ん?」

ケルトは嫌な汗が流れる。ケルトの攻撃にハイズは微動だにしていない。それどころかケルトの手がハイズの顔面に引っかかった様な形となりケルトの体が浮く。

(こいつ、ビクともしねぇのかよ…。)

ハイズがケルトの手を掴もうとした瞬間、ケルトは手を離し、肘を立てると、もう片方の手を空に向け火炎を放った。ドーン。ケルトは火炎の勢いを利用してハイズの脳天に肘鉄をくらわせたのだった。ハイズの頭がそのまま地面に沈む。

「こんなのくらったらひとたまりも――」

ズドーン。ケルトはハイズの振り下ろした拳を脳天に食らい、吹っ飛ばされた。ブルブル。ケルトは頭を振るとすぐに立ち上がった。

「何でビクともしねぇんだよ」

「力の差だろ」

「ふっ」

ケルトはニヤリとした。

「柔よく剛を制す」

ケルトはそう言うと、ハイズに向かって飛び上がった。【火放】ケルトは再びハイズに向かって火炎を放つ。

「同じだ」

ケルトの火炎に対しハイズは拳を振るった。

「チェストぉ!!」

(顔面もダメ、脳天もダメ、じゃあ顎から脳を揺らすしかないだろ。)

ケルトは自分の火炎の影に姿を隠しながらハイズの懐に潜り込むと、渾身のアッパーを放った。ガツン。ケルトは拳を振り抜いたのだった。

「くそっ」

ハイズは倒れる間際にケルトの腹に前蹴りを放ちケルトをブッ飛ばした。ズズズズー。ブッ飛ばされたケルトは倒れることなく着地した。

「さすがに立てないだろ」

片膝をついたままのハイズ。

「何のこれしき」

立ち上がろうとするがハイズの足には力が入らず、立ち上がれない。

「こっからは俺のターンだ。アデルナの仇、今ここで取らせてもらう」

そう言うとケルトは肉体強化の魔法をかける。【鋼力】ケルトは拳を大きく振りかぶりハイズに向かって走り出した。

「待ちなさい!!」

その時、大声でティアが叫んだ。

「ん?」

ケルトがティアの方を向くと、ティアの手には黒いオーラが集まっていた。

(ちっ、またガストかよ。)

「でもよ、そのまま撃てば仲間も巻き沿い食うぞ」

「そうはならない」

ティアは笑いながらオーラを溜めた手を横に向けた。ケルトはそれを追うように見る。

(レイナ!!)

「誰が死ぬのかな」

「ふざけるなぁぁぁあああ!!」

【速移】

「どっちが速いかな」

【ガスト】ティアはレイナに向けて今日一番の突風を放った。一方のケルトは速攻でレイナの元へと向かう。【火放】火炎を後ろに放ちながら更に勢いを増す。そして渾身の力でレイナを囲っていた壁を叩き割った。

「サヨナラ」

ズバーン、スドドーン、ドドド。

(くそっ…。)

ケルトは咄嗟にレイナを抱き込み、ガストから守るのだった。そして突風に巻き込まれた2人は遥か彼方へと飛ばされていったのだった。

「ふぅ…」

ティアは攻撃を追えると、尻餅をついた。

「本当に勘弁して。限界まで必殺技使わせないでよね」

「ハ、ハハ…、あいつなかなかだわ。足に全く力が入らん」

「呆れた。でもハイズをここまで追い詰めるなんてね、なかなかの相手だったってことね」

「そうだな。あいつはもうここには来ないだろう」

「そうね」

「じゃあ、奴隷船の仕事でも手伝うかな。肩貸してくれ、ティア」

「はぁ…、少し休んでからにしなさいよ。というか、結局合図は送ったのにメルケス、来なかったね」

「そうだな」

ハイズとティアはしばしその場で休むのであった。


                    ・



(ん、んん…。)

「もういいよ、ケルト」

意識を取り戻したレイナはケルトに抱きしめられたままの状態を振りほどく。

(ん?)

レイナの言葉にケルトは反応しなかった。

「ケルト?」

レイナはケルトを揺すり起こそうとする。ゴロン。ケルトはそのまま仰向けに転がったのだった。

「ケルト!!」

レイナは焦りからか、仰向けになって動かないケルトに馬乗りになり激しく大副ビンタをするのだった。

「…い、…生きてる、から」

目を瞑ったままだったが、小さくケルトの声が聞こえた。

「良かった。じゃあ、いくよ」

レイナはケルトの手を引き起こそうとする。

「先に行ってて、くれ…」

「え?何で?」

「体が、全く、動か、な…、い」

ケルトは辛そうな喋り方をしていた。

「え!?…あ、ケルトズタボロじゃん」

レイナの言葉にケルトは軽く笑うのだった。レイナは自身の次元空間を開き、ケルトの荷物を取り出す。

「おぉ、俺のマイ…、リュック」

レイナはリュックの中身を漁り、何か治療に役立ちそうなものがないか探す。そしてあるもので手が止まるのであった。

「あっ、これいいね」

レイナはリュックから一升瓶を取り出したのだった。

「や、やめ、ろ。勿体な、い」

「はぁ、勿体ないじゃないでしょ。今は消毒液としてがベストなんだから」

そう言うとレイナはケルトのシャツを脱がせたのだった。そして、一升瓶の蓋を開けると、全身に満遍なくかけたのだった。

「くっ!!」

ケルトの全身に力が入る。

「あっ、しみた?」

かと思えば即座に力が抜け、ヘナヘナになった。

「ケルト?」

レイナはケルトを揺さぶるが、反応がない。

「あれ?気絶しちゃったみたいだね」

レイナは笑いながら処置を始めた。

「気絶しているならしょうがない。全身治療してあげましょうね♪」

鼻歌を歌いながらレイナは近くの草などを調べる。薬草など体に効きそうなものを探しているのだった。

ガサガサ。

「何?」

レイナが辺りを見渡すと、魔物たちが2人を狙っていた。ここは森の中。まさか…とレイナは思うのであった。

(ここが噂の奈落の森…。)

レイナはすぐにケルトの近くに戻り魔物を警戒するのであった。

(人が行方不明になる森…。)

レイナは襲い掛かってくる魔物を殴り飛ばす。ケルトが回復するまでは何としてもこの場を守らないといけない。森影に隠れていた魔物たちが一斉に飛び出してきた。

「ただじゃやられないんだから!」

レイナは複数の魔物たちに対して奮闘する。狼型の魔物で顔面を殴れば少しは怯んでくれる。だが、四方から飛んでくるその魔物たちを全て殴り飛ばせる訳もなく、「いっ…」レイナは魔物に噛みつかれたのだった。

それでも…、レイナはケルトを守るために噛みつく魔物を引き剥がし、地面に叩きつける。痛いのを我慢してレイナは魔物を殴り続ける。だが、どうやら血を流しすぎたようである。レイナの視界は朦朧としているのであった。

だが、それでも体は否定する。疲れてもう限界であるにも関わらずレイナは魔物を殴り続けたのだった。すると、次第に魔物はレイナに怯えだしたのか攻撃をしてくるものが少なくなっていったのだった。

パチパチパチ。

レイナの耳には拍手のような何かが聞こえる。

「素晴らしいわね。悪魔の進化をこの目で見られるなんて、何て運がいいのかしら」

レイナのぼやけた視界に映るのは女性の姿だった。

「あなたは運がいい。そう、ラッキーガールね」

その言葉を最後にレイナは意識を失ったのだった。


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