2-12 奴隷船
12章
ケルトたちは森を突っ切り港へと出たのだった。奈落の森――特に何も危険なところはなかった。魔物もいないし、ただの噂だったのかもしれない。港には堂々と奴隷船が停泊している。最優先事項は奴隷船の出航を止めること。ケルトとレイナは一直線に奴隷船へと向かうのであった。だが、相手もそう簡単に通す訳がない。ガラフはこちらの動きを知った上で俺たちを通したのだ。ならばこの状況は敵の罠にハマっている真っただ中なのだろう。
(誰が出てこようが関係ない、押し通るだけだ。)
【火柱】ケルトは少しでも奴隷船の出航を遅くするために奴隷船に向けて火炎の柱を放つ。ドーン。火炎の柱が激突し爆発音がこだまする。
「いやっふー」
船は煙に包まれ、辺りは大慌てだった。
「ドーン。これで満足か、浅はかな犯罪者諸君」
ケルトの背後にはメルケスがいるのだった。
「あぁ、これで時間を気にせずに戦えるからな」
「そうですか。でも余裕とはいったい何のことでしょうか?今一度周りを見回して見ては?」
ケルトはメルケスの言葉に周りを見渡す。
(あと2人いるのか。)
ケルトの付近にはメルケス以外にも2人いる。ケルトたちは今、囲まれている状態であった。
「そろそろ煙も晴れるころでしょう。さっ、ショータイムです」
メルケスの言う意味を理解したケルト。
「な…んだと…」
その光景にケルトとレイナは愕然とする。
火炎で燃やしたはずの奴隷船はかすり傷ひとつなくその場に停泊している。
「残念でしたね、船は壊れず、時間に余裕が生まれることはなかったみたいですね」
そしてケルトの後ろにいる大男が口を開く。
「お前たちはこの取引が済むまでここで大人しくしていればいい」
「何故、船は壊れていないんだ?」
「そんなの分かり切ってることじゃないですか。最初に船を狙い動揺を誘う、あなたたちが一番してきそうなことじゃないですか。だから、奴隷船の付近には結界をあらかじめ張っておいたんですよ」
メルケスはため息を吐きながらそう答えるのだった。
「ちっ。危なくなったら逃げろよ、レイナ」
「ケルトは?」
「逃げるに決まってるだろ。それが指揮官からの命令なんだからな」
「でも私は…」
「逃げろ、キャルたちが待ってる。死ななきゃ何度でも家族を救うチャンスは訪れるんだからな」
「…分かった」
「よし」
ケルトはメルケス目掛けて一気に走りだす。
(ん?後ろに気配?)
「ハイズ、殺しても構わないから」
ケルトの後ろには大男のハイズが迫っていた。
(お前がハイズか。会いたくて会いたくて…、待ちわびたぜ。)
【バーニングオーラ】ケルトは急に足を止めると振り返りハイズに目掛けて拳を繰り出す。【背取り】ハイズは一瞬で拳を放ったケルトの前から姿を消した。
「は!?」
ケルトは驚きの表情を隠せない。
「こっちだ」
その瞬間、ケルトは片手で後頭部を掴まれ、下に叩きつけられた。バコーン。地面をえぐる程の威力だった。
(くっ…、悪魔になって正解だよ。人間だったらもう死んでるし…。)
【速移】ケルトは速度上昇の魔法を唱えると、その場から一旦離れることにした。
(あれ?)
だが、ケルトの体は動かなかった。
「そうはさせねぇから」
ハイズはケルトの足を掴んでおり、ケルトは距離をとることができなかった。ハイズはそのままケルトを真上へとブン投げる。
【火放】ケルトは火炎を横に放ち、強制的に自身の飛んでいる軌道を反らす。
「あれ?」
ケルトの吹っ飛んだ先にいたのはティアであった。
(こいつもガンザの仲間か。…ん?こいつ…、ランプ武闘大会に出てた奴じゃねぇかよ。)
ケルトはふと思い出したのだった。驚いているティアの横にはレイナがいるのだった。
「お前、ボロッボロじゃねぇかよ。無理なら逃げろっつーただろうが」
「逃げられないんだからしょうがないでしょ!!」
ケルトの言葉にレイナは半ギレで答えたのだった。
「お生憎様」
ボコーン。不意に現れたメルケスによってケルトは殴り飛ばされたのだった。
「よっ」
そこには何故か殴り飛ばされる前にいたティアがいたのだった。
「じゃあね、ガァストォー!!」
ティアの手からは黒い風が生じそれによりケルトは吹き飛ばされたのだった。
「レイナ!!」
ケルトは手を伸ばし、レイナを道連れに吹き飛んでいったのだった。
「【ガスト】、人をズタズタにする突風だよ」
ティアは自慢げに誰もいないその場で説明をしていた。
「ティア…、何をしているんですか?」
メルケスはティアの計画にない行動に問い詰めるのであった。
「え?悪いのはメルケスでしょ」
ティアは当然と言わんばかりの顔をしている。
「あの混血はここで確実に潰しておく必要があったのですが…」
「最初にあの混血は私とハイズで潰すって言ってたでしょ。それなのに勝手に計画を変更したのはメルケスが先なんだから」
「それでも臨機応変という…」
その時ハイズがメルケスの肩をポンと叩いた。
「おい、メルケス。諦めろ。スーパー短気のティア相手に口喧嘩は――この町が消し飛ぶ結果にしかならないぞ」
その言葉に噴火しそうだった怒りが鎮火される。
「そうでしたね。私が悪かったです、次があればその時はティアにお譲りしますね」
「そうだね」
ティアはニコニコしながらそう返答したのだった。
・ドルガンside
ローゼルピスニカ、町の中にあるケルトたちの拠点は今大勢に囲まれている状況であった。
「大人しくケルトたちの帰りを待ってるって訳にはいかないか」
ミゲウはそうぼやく。
「ミゲウさん、1人で大丈夫?」
キャルは心配そうにそう呟く。
「俺は俺の責任を全うするだけだ。ミリの話を聞いた以上、絶対に敵を許すつもりはない」
そういうとドルガンを入念に縛り上げ外に出る。
「危険なことはしないでね」
「あぁ、俺は大丈夫だから、安心して待ってろ」
ミゲウの言葉にキャルは頷き、ミゲウを見送るのだった。
「さぁて、やりますか」
ミゲウの周りには数えきれない程の敵の姿があった。かかってくる敵を次々と殴り倒していく。圧巻の光景ではあるが、全くもって終わりが見えない。倒しても倒しても次から次から押し寄せてくる。
「俺が加勢してやろうか?」
そう問いかけるのは厳重に拘束されたドルガンであった。ガタガタ。宿の外ではミゲウが戦っている。誰かが宿に入った気配がするのだが、恐らくは敵。キャルは外の様子を伺うが、ミゲウにこちらを気に掛ける余裕はなさそうである。
「どうするんだ?お前が戦えないんなら、俺を解放するしか手段はないぞ」
「でも…」
キャルは苦悩するのであった。
(皆、一つの目的の為に戦っている。私だけ、逃げるような真似は…。)
「死ぬなって言ったんだろ。そんな奴が率先して死を選ぶのはおかしいだろ。俺を解放しろ」
ガタガタ。
もう迷っている余裕はない。ドルガンを解放しなければキャル1人ではどうにもならないことは分かり切っている。
「分かったわよ、信じるからね」
そう言ってキャルはドルガンの全ての拘束を解いたのだった。
「ありがとな」
そう言うとドルガンは入り口から入ってきた敵を殴り飛ばしたのだった。
「あ、ありがと――」
キャルがそうお礼を言うと、ドルガンはキャルを抱え、そのまま2階の窓から放り出したのだった。
「え!?」
驚いたキャルだったのだが、既にキャルは落下していた。
「何だ!?」
気配を感じ、ミゲウが上を向く。真上からはキャルが落ちてきたのだった。
「キャル、どうしたんだ?」
「ミゲウさん…、ごめんなさい…」
キャルは泣きながらそう言っていたのであった。ミゲウは咄嗟に上を向く。すると、ドルガンが窓から顔を出し、手を振っていたのであった。
「ドルガン、貴様!!!」
「約束は守ったからな。じゃあ、俺は行くから」
そう言うとドルガンは転移したのだった。
「キャル、俺の後ろから絶対に離れるなよ」
「うん…」
キャルは泣きながらミゲウの後ろで小さくなっていたのだった。ボコン、ボコン。
「すぐに終わらせるから…」
ミゲウの言葉にキャルは泣くばかりであった。
ドルガンは宿から奴隷船の港まで転移する。すると、目の前にはメルケスがいたのだった。
「やはり、お前だったか…、ドルガン…」
「メルケス、丁度良かった。俺はガロンに殺されかけたんだ。あいつは敵だ。早く、皆に知らせないと」
「知らせても、もう遅いんだよ」
メルケスは下を向き、そう答える。
「あっ、あの手紙、メルケスが入れたんだろ。手紙の意味、理解したんだ。今ならまだ間に合うだろ」
だが、メルケスはドルガンと目を合わせようとはしない。
「もういいんだ」
メルケスの言葉にドルガンは怒りが湧いてくる。
「諦めるなってハイズが言ってただろうが!俺とお前がいれば何とかなる――だろ?」
ドルガンはギュッとメルケスの袖を掴むのだが、メルケスに引き剥がされる。
「お前は死んだことになっている。そのまま自由になれ」
そうメルケスに言われるのだった。
「あのガンザは偽物なんだろ、皆で逃げれば――」
「もう遅いんだよ、知らないことが皆の為になる」
全てを諦めたようなそんなメルケスがそこにはいたのだった。
「何だよ…」
ドルガンは下を向くのだった。メルケスはドルガンの手を取ると、その手に封魔のリングを取り付ける。
「何してんだ?」
メルケスの行動が理解できないドルガンは目を見開く。メルケスは魔法を唱えローゼルピスニカの町へと転移したのだった。
「何を考えてんだよ、メルケス。俺にも教えろ、…教えてくれよ…」
だが、メルケスはドルガンの言葉に無言のままだった。そしてそのままドルガンの首を叩き、ドルガンを気絶させたのだった。
その後、敵を一掃したミゲウは敵の中で気絶しているドルガンを発見したのだった。ドルガンを回収したミゲウはケルトたちが帰ってくるからと、居場所の割れている拠点から離れることをせずにそのままその拠点にてケルトたちを待つことにしたのだった。再び宿にドルガンを監禁したのだが、腑に落ちない点が多かった。
ドルガンは転移した。なのにすぐ側にいた。しかも気絶した状態で。そして、外したはずの封魔のリングが再び取り付けられていたこと。ドルガンに何が起こったのか、ミゲウはキャルと首を傾げるのだった。
・
ズドーン。
西の港のすぐ近くの森で強烈な爆音が鳴り響く。森一帯がはげあがる程にぐちゃぐちゃになっていた。
「大丈夫か、レイナ?」
ケルトは抱えていたレイナにそう声を掛ける。
「うん、私は大丈夫」
「え?」
第三者の声にケルトとレイナは声のした方向を振り返る。
「何してんだ、ケルト?」
声の主はクランだった。
「あー、クランか。ガラフは倒せたのか」
「あぁ、当たり前だ」
だが、クランの体はボロボロであった。レイナはガラフを倒したクランに驚きを隠せないでいた。
「ガラフは…、え!?ガラフを倒したの?」
「あぁ、そうだが」
「信じられない…」
「まぁそんなことはいい」
そう言うとクランは倒れこんでいる2人の横に座った。
「何がどうなってここにいるんだ?」
クランの問いに思い出したかのようにレイナが起き上がる。
「ケルト、あんた何無茶苦茶やってんのよ!!」
そう言うとレイナはケルトの耳を掴み、そのまま横たわっていたケルトを引っ張り上げた。
「いててー」
「どうしたんだよ」
訳の分からないクランはレイナに問いかける。
「こいつ、自分のくらった技に私も巻き込んだのよ」
怒り奮闘中のレイナにケルトはやれやれといった表情を示す。
「あのまま1人になってたら絶対にやられてただろうが。ここは『ありがとうございます、ケルト様』って言われる場面だからな」
その言葉に少し冷静になるレイナ。あのまま1人残されたならば確実に殺されていたかもしれない。
「ありがと…」
「ん?ケルト様が聞こえないんだけど…いいい…」
レイナの耳を引っ張る力が増した。
「調子に乗りました、すんません」
「もういい、早く事の成り行きを話せ」
クランの催促にケルトは先ほどのことを話したのだった。
「3人が奴隷船の手前で待ち伏せしていたのか…。これで幹部は全員出払ったって訳だな。だが、肝心の奴隷船に誰もいないってのはおかしいな」
そこにケルトがカットインする。
「つまり、ガンザは奴隷船の付近にいるってことだな」
「あぁ、それが濃厚だな。3人で落とせそうか?」
クランの問いにケルトは首を振るのだった。
「無理だな、ありゃ…。加勢が必要だ」
「加勢?誰か手を貸してくれる奴に心当たりがあるのか?」
「ある!そいつの名はドルガン!!」
「は…?」
レイナは下げずんだ目でケルトを見る。
「ドルガンは敵なの。私たちの味方をして、自分の仲間を倒す訳がないじゃないのよ!!」
「いや…、何かイケそうな気がするー」
そんなケルトを真剣に見つめるクラン。
「本気で言ってるのか?」
「あぁ」
「どう言いくるめる気だ?」
「それはね、ゴニョゴニョゴニョ…」
ケルトはクランに耳打ちしたのだった。
「全員で一度撤退するのか?」
「いいや、その大剣、2人くらい乗れるだろ。レイナと2人で戻ってくれないか?」
その言葉にレイナはハッとする。
「あんたはどうすんのよ」
「大人しく偵察――」「してる訳がないでしょ。また勝手に動く気でしょ!」
「へへへ…イギー」
またもやレイナに耳を引っ張られたのだった。
「私も残るから。1人で行く方が更に早いでしょ?」
その言葉にクランは首を縦に振るのだった。
「危ない真似だけはするなよ。俺は応援を呼んですぐ戻ってくるからな。絶対だぞ」
その言葉にケルトはグッドサインを送るのだった。
「クラン、任せた」
「あぁ」
そう言うとクランは大剣に乗り、颯爽とローゼルピスニカへ戻っていったのだった。
「さて、行きますか」
ケルトの言葉にレイナは首を傾げる。
「どこに行くってのよ?」
「え?2ndラウンドだよ。ハイズは絶対にブッ倒す」
ケルトの気合がこちらにも伝わってくる。
「いやいや…、クランに危ない真似はダメだって言われたばかりじゃん。しかも念も押されてたよね」
「そうだな、絶対なんて…。絶対、絶対ダメだからね。フリじゃねぇか!」




