2-10 再調査
10章
・レイナside
次の日、レイナとミゲウによる情報収集が開始された。ミゲウは公の場での聞き込みを行うらしかった。レイナは顔が割れており裏での情報収集を担当することとなった。
『カジノの周辺1キロ圏内には近寄らないこと』
それがクランからの指示であり、
『全員でひとつ。レイナの死はみんなの死。だから、絶対に危険な真似はしないこと。皆を信じなさい』
そうキャルに言われたのだった。レイナはいつもの情報屋の元へと向かう。
「おう、レイナじゃないか。今日はどうしたんだ?」
「今この町に来ている大物について聞きたいんだけど。詳しくわかるかしら?」
「モチよ。いくらかなぁ、いくらがいいかなぁ」
そう言って、もったいぶるようにレイナを見上げる情報屋。
「名前だけで構わないから。いつも使ってやってんだから少しは安くしなさいよ」
「まぁそうだねぇ。お得意様ってことだからぁ、30万eってとこでどうだ!」
「高い、却下。他あたるわ」
レイナが呆れ顔のまま他所へ行こうとする。
「ま、待った、待った。嘘だって、嘘。そうすぐ帰ろうとすんなよ。教えるからさ」
「いくらで?」
「5万eでいい」
「何人教えるつもりで5万なの?」
「そこまで問い詰めなくてもいいだろ。俺とお前の仲じゃないか。全部教えるからさ」
「そう、それならいいわ」
そう言ってレイナは情報屋に5万eを支払った。
「ここに来ている一番の有名人と言えばだ、それはニスルという町の寄合所チーム『パースキン』だろうね。黒髪の赤い帽子をかぶっている女がそのリーダーで、デスラ=パースキンというらしいんだな。仲間を合わせると10人ってとこだろうな」
「ふーん。なるほどね」
「それから次に、オトベという町を知っているか?」
「知らない」
「なんでも、グエンサ王国領の町から来てるんだが、リッタ=ゴルマイン。グエンサ王国のお偉いさんらしいぞ」
「何でいるの?」
「皆、カジノだよ。それ目当てで来てる。観光で来るなんてのはこの町ではカジノくらいしか目玉になるものはないからな」
「他には?」
「他にかぁ…。最近謎の混血が現れたって話なんだよな。そいつらは寄合所で魔力を測定して、そのまま出て行ったんだとか。何がすごいかっていうとだな、その魔力を測定する水晶が割れたんだとよ。つまりはレベル5千以上の化け物だってことなんだろうな」
「そう、他には?」
「他かぁ?そうだなぁ…、ガンザが運営している奴隷船がそろそろ出航らしいぞ。どうやら奴隷が定員数集まったみたいだな。っと、どうやらここまでだ。俺は用事があったんだ。だから、話はここまでだ。じゃあな、レイナ」
そう言って路地裏で座っていた情報屋は立ち上がり、姿を消してしまったのだった。
(まぁ、それなりに有益な情報もあった。後はミゲウに任せるとしよう。)
レイナは満足した顔で路地裏を歩く。
「おい、犯罪者。何呑気に裏路地なんて歩いてんだ?」
(この声には聞き覚えがある!!カジノでケルトをコテンパンにした奴…、デスラだ。)
レイナは咄嗟に走り出す。捕まれば100%勝ち目はない。死ぬなと言われた。だから今の自分は死なない努力をする、それを最優先させるんだ。
「待てよ。どうせ逃げ切れやしないんだからさ、潔く諦めるこった」
(くそっ、どうする。このままじゃ、潜伏先もバレる。)
レイナは逃げることを諦めるのだった。振り返り、応戦の構えをとる。
「おっ、やっと諦めたか。でも、ただじゃ倒れないって訳ね。面白いじゃん」
レイナを追うデスラは腰から長い刀を抜き放つ。
「どうして私を追うの?カジノの奴等から頼まれたの?」
「いいや、頼まれてなんかいないさ。ただ、ね、わしの邪魔をしたってのが腹立たしくてね。おかげでカリーブの奴に賭けで負けちゃったんだから。八つ当たり兼落とし前ってやつよね」
「もしかして、あなたがデスラってこと?」
レイナは知ってはいたが、あえて時間を稼ぐために会話をする。
(早く、デスラから逃げ切るいい方法を考えないと…。)
「そうだよ。あの情報屋から聞いちゃったんだね」
「情報屋とグルだったってこと?」
「そう、お前と親しい情報屋ってことで、聞いたら足止めしといてくれるって言ってたからさ」
「くそっ」
「死んで詫びなよ」
デスラが刀を振り下ろす。
ガキン。
レイナの腕にはめていた小手がデスラの刀をはじき返す。
『ケルト、あんた小手持ってたでしょ。レイナは丸腰だと危ないんだから。それ!貸しなさいよね』
『えっ、これは形見だから、貸したくないんだけど』
『ほぉ…、じゃあ、ケルトはこれから飯抜きってことでもいい訳ね』
『いいえ、それは困ります、キャルさん!!』
『じゃあ、貸しなさいよ』
『了解しました』
そう言ってケルトが貸してくれた小手だった。デスラの上段からの振り下ろしを軽々と無力化したのだった。
(何、この小手?)
「何だ、その小手は?煩わしい」
ガキン。デスラの横なぎをレイナはわき腹にくらい、壁に激突する。
「何故、両断されない?」
デスラは不思議そうな顔をしている。
『クラン、あんたもよ。早く脱ぎなさいよ』
『えっ、キャルさんってそういう趣味が?』ボコン。
ケルトはそのままキャルに殴り飛ばされたのだった。
『あんた着てるんでしょ、チェーンシャツ。レイナに貸してあげて』
『あ、あぁ』
クランも渋々、レイナに自身のチェーンシャツを貸したのだった。
「じゃあ、首」
デスラはレイナの首を狙い、横なぎを放つ。
ガキン。
「何で…!?」
クランから貸してもらったチェーンシャツは着ると透明になるのだった。それが首まで守ってくれていたのだった。だがしかし。
「ぐっ…」
両断はされないものの、完全に攻撃を無力化してまではくれないのだった。
「でも…、斬れはしないけど、ダメージはあるみたいだな」
デスラは四方八方から刀を振るい、レイナをコテンパンに叩きのめす。
「ぐっ、ぐっ…」
吹き飛ばされても即座に立ち上がり、防御を固めるのだった。
「何か、これはこれで気持ちいいかも。サンドバックってやつよね。ストレス発散にはもってこいだわ。カーカッカッカ」
そう言い、デスラは笑いながらレイナを刀で殴り続ける。
(やばい…、そろそろキツイかも…。)
「分かるよ、分かる。もう限界だよね。倒れたら終わりってことにしようね。カジノまで連行してあげる」
デスラは邪悪な笑みを浮かべながら、それでも尚、刀で殴り続けるのであった。
「いじめはよくないよぉー」
表通りより、そう声がしたのだった。姿を現したのは女性であり猫耳のフードをかぶっていた。何やら食べている様子であり、口をモグモグさせているのだった。
「邪魔するなら、お前から殺すぞ。…っと、お前は混血か」
「そだよぉー。でも、殺すとか物騒だから口にしないでね」
「舐めた口を」
デスラは混血に刀を振るう。
「な…」
デスラの体に冷や汗が流れる。デスラの渾身の一振りは刀の後ろから摘ままれる形で止められていたのだった。そして何より、引き剥がそうにも刀は微動だにしないのだった。
「貴様、何者だ!?」
「えー、何者とか面倒くさいー。とりあえずいじめっ子にはお仕置きねー」
そう言うと混血はデスラの頬を平手打ちしたのだった。ボコーン。
一瞬でデスラの姿が消えたのだった。平手打ちされ、そのまま路地の彼方へと吹き飛ばされたのだった。
「あなたもちゃんと気を付けないとねー。こんな暗い場所通るからそんなことになるんだよー」
「すみません。ありがとうございます」
「いいから、いいから。私も人を捜してて、忙しからもう行くねー」
「最後にお名前を聞いても?」
「ダグザだよー。じゃあねー」
「ダグザさん、ありがとうございました」
そう言ってレイナは深々と頭を下げたのだった。助かった、本当に危ないところだったのだ。もし、ケルトと会って、混血に対する意識改善をしていなければ、私もデスラと同じ目に合っていたかもしれない。そう思うと、レイナはケルトに後でお礼を言っておこうと思うのであった。
現状、歩くこともままならない程にデスラに打ちのめされたのだった。だが、歯を食いしばり立ち上がる。
「ぐっ…」
(ここにいちゃ危険なんだ。早く…宿に帰らないと…。)
レイナは路地の壁にもたれかかりながらも一歩、また一歩と宿へ向かったのだった。
・ミゲウside
ミゲウは悠然と町の大通りを歩く。そして、目当ての場所へとたどり着いたのだった。そこは、ローゼルピスニカの寄合所である。
(クランも行ったが、まぁいいだろ。俺はここに知り合いも多いことだし、クランよりは情報を引き出せそうだからな。)
「こんにちは、ミゲウさん。お久しぶりですね」
「あぁ、シャウラも元気そうで何よりだ」
ミゲウは寄合所の受付嬢であるシャウラと挨拶を交わした。
「はい!元気だけが取り柄なんで」
そう言ってシャウラはニッコリと笑顔を浮かべる。
「ところで、今日はどうされましたか?依頼を受けにきたとか?――あっ、ミゲウさん!!なんか前よりも力が増してる気がします。もしかして、レベルの再測定とか、ですか?」
「いや…、ん?…そうだな、再測定もありだな」
ミゲウはランプの大会において3段階に進化を果たしている。寄合所で登録されたレベルはそれ以前のものだったので、どのくらい上がっているのか。気になると言えば気になる。
それに、寄合所で最近の出来事を世間話風に聞いて回れば、それなりの収穫は得られそうである。
「ミゲウさん、本当に申し訳ないのですが…」
「何だ?」
「レベル測定用の水晶が今ここには1つしかなくてですね…。少しお待ちしてもらうことになるんですが、よろしいですか?」
「あぁ、別に構わないぞ。だが、珍しいな。あれが壊れるなんて…、寿命なんてなかった気がするんだが」
「そうなんですよ。混血の方々が来られてですね、魔力を測定して欲しいと言われたんですよ。そしたらなんと!――手をかざした瞬間割れちゃったんですよね。私、水晶が割れるところなんて初めて見ましたよ」
シャウラは少し興奮気味になっており、特に鼻息が荒かった。
「そ、…そう、なんだな…」
シャウラの圧力にミゲウはたじろぐばかりであった。
「ところでなんだが、その混血はどんな奴等だったんだ?名前とか、いろいろ知りたいんだが」
「そうですねぇ。男性と女性の2人組でしたね。年はどうでしょうね、悪魔と人間じゃ年の取り方が違うから何とも言えませんが、若い感じでしたね。大人になりたてって感じの」
「そうか、それで?他に何か特徴的なものとかなかったか?」
「うーん。名前とかは言わなかったので分からなかったのですが、2人共魔力レベルは5千以上ですね。そのおかげで3つあった水晶の内2つが割れちゃったんですから」
「そうか…。危険だな。そいつらはこれからどうするのかとか話してなかったのか?」
「何も話さなかったですね。待ってもらって、登録してもらおうと思ったのですが、何か忙しいらしくて、すぐにここから出ていかれましたね」
「尾行とかは付けたか?」
「いえいえ。そんなことできる訳ないじゃないですか。その方達よりも強い人なんてこの寄合所には常駐していませんからね」
「そうだよな…」
「それよりも、ですよ!ミゲウさんは最近キャルさんとはどうなんですか?」
「どうって?いつも通りなんだが」
「仲睦まじくて、いいですよねー。私もですね、少し気になる人がいるんですけど。どうやったらそんなに仲良くなれるんですか?」
「うーん、そうだなぁ…。まぁ、あれだ。毎日顔を合わせるとか、だろうな」
「そうなんだぁ…。その人はですね、もうすぐこの町から出て行く予定なんですよぉ…」
シャウラは口を尖らせ、下を向いてしまった。
「じゃあ、あれだ。一緒に付いて行けばいい。恋もまた、戦い――みたいなところもあるらしいからな」
「そうなんですかぁ!」
「まぁ、これは俺の意見ではないんだけどな。前にキャルが店で同僚の恋愛相談にのってる時の話が聞こえただけなんだがな…」
「キャルさんが言うなら、絶対に間違いないと思います!!」
シャウラはガッツポーズをしながら、「よし!」と気合のこもった掛け声を出していた。
「あっ、そろそろミゲウさんの順番も回ってきそうですね。2階に上がられて待ってた方がいいかもですね」
「あぁ、そうだな。暇つぶしに付き合わせたみたいで悪かった」
「いえいえ。こちらこそ、有益な情報を貰えて助かりましたよ」
そう言って、ミゲウはシャウラと別れたのだった。2階へ上がりレベル測定の部屋の前の椅子に座る。
「横、失礼するぞ」
「あぁ、構わない」
ミゲウの前に1人順番待ちの奴がいる。匂いで分かる、奴は混血である。だが、シャウラの話しぶりからするとこの混血はまた話の混血とは違うのかもしれない。青髪の男性であった。
「俺はミゲウだ。ランプで町の為に働いているんだ。お前さんは?」
「俺か?名乗る程の者じゃない。先に名乗らせてしまって悪いんだが、名は伏せさせてもらおう。代わりに一つ何か聞きたいことでもあれば、答えられる範囲では答えるが」
「そうか」
ミゲウは知っている。この稼業においては他人に恨みを買うことも少なくはない。詮索することは即ち敵意と取られても仕方ない。それに他人なんだ、気心が知れた奴ならまだしも、そんな奴にペラペラと話す人間じゃないということか。信頼に足りる人物であることには間違いないようだな。
「ガンザってどんな奴なんだ?」
「興味ないから知らんな」
即答されてしまった。ミゲウはそっと目を閉じると全てをリセットするのであった。
「ガンザはこの町のボスなんだろ。興味ないはずがないだろ」
「興味ない。それにガンザはボスじゃない。この町には他にも有力な奴隷商が幾人かいるぞ」
「そうなのか。何か、本当に知らないようだな」
「そうだ」
「じゃあ、聞きたいのはこれにしよう。お前は仲間と組んで仕事してるのか?」
さっきからそうだ。ミゲウは相手を見ながら話しているというのに、当の相手はずっと下を向いて話をしている。
「俺はソロだ。集団には向いていない」
「そうなのか。何でだ?集団の方がもっとやれることの幅が広がるだろ」
「その分融通が利きづらくなる」
「そんなもんかな」
「そういうものだ」
「俺の仲間にもよ、1人で突っ走る奴がいるんだよ。俺が俺がってな。大切なものを守るための犠牲は自分ひとりでいいんだと。お前にもその気持ちは分かるか?」
ミゲウの問いに青髪の男は少し考え込むのだった。
「分かるような、分からないような…」
「どっちだよ!」
その時だった。「はーい、次の方どうぞ」そう呼ばれたのだった。青髪の男は立ち上がるとそのまま中へと入っていったのだった。
「質問…完全に答えずに逃げやがったな…」
ミゲウはやれやれといった表情で、ため息をついたのだった。その後、ミゲウはシャウラからあの青髪の混血の名前を聞いたのだった。
――アラル=バラシン――
それが彼の名で、この寄合所では結構な有名人なのだとか。「初対面だと取っ付きにくい所もありますが、いい人ですよ」とシャウラがしつこく言っていた。
だが、ここへ来たのは失敗であった。ミゲウは後悔の念を押し殺し、暗い顔で寄合所を出たのだった。
『えっ!!えーーーーーー!!』
ミゲウはこの寄合所にあった最後のレベル測定用の水晶を割ってしまったのだった。
『弁償代はきちんと請求させてもらいますからね』
そう係の人に言われたのだった。身元が割れているので逃げる訳にもいかないし、これからも仕事の関係上お世話にならないといけないので、渋々ではあるが首を縦に振ったのだった。
(水晶っていくらするんだよ…、気が重い…。)




