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2-7 救いのヒーロー

 7章 救いのヒーロー



ローゼルピスニカの中央には商店などが立ち並んでおり町の北側にカジノがあった。ケルトたちは借りた宿を拠点とする。宿は町の南に位置し、スラム街の中に建っている。治安が悪く、よっぽどのことがない限りこの地区に近寄る者はいない。ケルトたちは町の中央を抜け、カジノまで辿り着く。カジノは隣に森が隣接しており、身を隠しての偵察にはもってこいであった。ケルトとクランの2人は2手に別れることで1日かけ、外からの偵察を粗方終わらせたのだった。

「なぁ、情報屋かなんかを頼って地図とかさ、なんかいい情報とか収集する方が手っ取り早いんじゃね?」

ケルトの言葉にクランは笑って肩を叩く。

「そうだな、それが一般人の考え方だ」

その言葉にケルトは首を傾げるのだった。

「情報屋に金を払ってガンザについて聞いたとする。すると簡単にガンザの情報を仕入れることができる。これがメリットだよな。だが、物事はそう簡単にはいかない。その理由が分かるか?」

「ん?嘘を言うかもしれないってことか?」

「それもあるな。俺たちの知らない情報屋だ、ホラを吹いてもその場限りだしそいつらには何の影響もないだろうな。それでこちらはその嘘の情報に踊らされて――崩壊。それも有り得る話だ」

「だろ!俺って賢い」

「だが、それよりももっと大事なデメリットが存在するんだよ」

「ん?金か?金が勿体ないってことなんだろ」

ケルトの回答にクランはため息をつくのだった。

「確かに…、細かく言えば、だ。言えば、そりゃ、勿体ないな。だが、そんなことじゃない。情報屋にガンザのことを聞くってことは、だ。ガンザにも俺たちが嗅ぎまわってるってことを知られるってことなんだよ。情報屋は自分の情報を高く売りたい。ガンザならば俺たちなんかよりいい取引ができるだろうからな」

「なるへそなぁ」

ケルトは手のひらをもう一方の拳でポンと叩きながら納得の意志を示す。

「相手はSランカーだ。勝率を上げる為にも、正面切っての戦闘は極力避けたいんだよ」

「なるへそなぁ」

「入り口は2つだな。正面入り口と関係者用の入り口。裏の方は警備が厚くて、しかも全く手薄にならない。裏からは忍び込めそうにないな」

「なるへそなぁ」

「おい、ケルト…」

「なるへそなぁ」

「…」ボフッ。

「いってぇ、何すんだよ!」

ケルトはクランに殴られたのだった。

「お前、どさくさに紛れて寝てただろ」

「寝てねぇって。ちゃんと返事してただろうが!」

「なるへそなぁ…って、無限に連呼してただろうが」

「寝てません、目を閉じて深く考え事をしていただけです」

「それを世間一般では寝てるって言うんだよ!!」

クランは片手でケルトの両頬を押し潰そうとする。

「うおっ、うおぉっおっ…」

クランはため息を吐くと、ケルトの頬から手を離す。

「今日はここまでだ。とりあえず宿に戻ろう」

そう言って2人して宿に帰還したのだった。

「おっ、遅かったな。もう飯はできてるぞ」

ミゲウの言葉にケルトとクランは首を傾げる。

「宿だぞ、飯は頼めばくるだろ」

ケルトの言葉にミゲウな首を振るのだった。

「ここはそこまでのサービスをやってなかった。素泊まり専門の宿だった」

「なんと…」

ケルトは驚きの表情を見せる。

「つーか、普通、宿に飯のサービスなんて付いてないだろうが。ここは悪魔の世界だぞ。飯を食う方が少数派なんだって」

2人の会話に呆れるクランだった。

「あっ、そう言えばそうだったな。飯を食う生活に慣れすぎて忘れてたわ」

ミゲウは後ろ髪を掻きながら照れ笑いしている。悪魔は基本的に食事を必要としない。この世界には人間界にはない店が存在する。それがブロードショップ。血を売る専門の店だ。血さえ飲んでいれば悪魔は死なない。

「皆、お疲れ様。ご飯を食べたら、風呂に入ってちゃっちゃと寝ることね。どうせ、明日も偵察なんでしょ」

キャルの言葉に皆はテキパキと行動するのだった。とりあえず、今日の偵察の報告も終えたところで、キャルは隣の部屋へと移動するのであった。

「男4人はむさいな。ミゲウはデカいから邪魔なんだよな」

狭い部屋に男4人が川の字になって寝る。ケルトの文句は皆が思っているところであった。

「ミゲウはキャルと仲良しなんだろ。あっちの部屋で寝ろよ」

ケルトの言葉にミゲウはケルトに裏拳をかますのだった。

「一応、男と女で別れた方がいいだろ。モラルは大事だぞ」

「だが、この状況だと寝不足になって明日に差支えがでるかもしれん」

「じゃあ、キャルに言って隣の部屋に寝せてもらえよ」

「いやいや、あんさん…。俺が行ったら、俺は帰らぬ人になっちゃうからね。まだ死にたくない」

「じゃあ、我慢して寝るこった」

「そうだな」

「うるさい、早く寝ろ」

我慢の限界を迎えたクランがそう言う。

「だって、狭いんだもん」

「ドルガンを見てみろ。静かに寝てるだろうが」

「いや…、あいつはずっと無言だろ」

「いいから寝ろ!!」

そう言って、皆が寝静まろうとしていた時だ。バタン。

勢いよく扉が開いたのだった。

「誰だ、最後に入ったのは。ちゃんと鍵閉めろよなぁー」

ケルトは目を擦りながら起き上がる。

「皆、大変!!レイナがいた、多分だけど。赤髪で腰くらいの長さの女性だよね」

「そうかぁ…。それは良かったな。今日はもう閉店だから、また明日よろしく」

そう言ってケルトは再び布団に潜り込むのだった。

「グホッ…」

キャルの飛び蹴りがケルトの腹に刺さったのだった。キャルの異様さにミゲウが問いかける。

「どうしたんだ、そんなに慌てて?」

「レイナを見つけたんだけど。その、何か様子がおかしかったの。後ろから数人がレイナの後を追ってたのよ」

「それはまずいな」

クランはボソッと呟く。

「まずいでしょ。どうしよう?」

「ケルト、そいつは味方なのか?」

クランの問いにケルトは渋い顔をするのだった。

「敵の敵は味方だろ、普通」

「「「はぁ…」」」

ケルトの言葉に全員がため息をつくのだった。

「何だよ、その反応!!」

「俺も以前ランプでレイナと会ったんだが、味方…とは言い難い感じだったぞ」

クランの言葉にミゲウは少し考え込むしぐさを見せる。

「だが、レイナはガンザを1人で狙ってるんだろ。しかも俺たちよりも弱いのにだ。今のままだと、犬死だ。仲間になるかは別としても、見過ごせないだろ」

「助けに行って、こちらもダメージを受けるのは避けたいし、情報があちらに漏れるのも避けたいんだがな」

クランはレイナを助けることには否定的だった。

「まぁ、追われてるってんなら時間もないんだろ?キャルはどうしたらいいと思うんだ?」

「絶対に助けて!!」

ミゲウの質問にキャルは即答したのだった。

「よし!じゃあ、さっさと助けて、明日の為に早く寝る作戦だ」

「何だ、その全く内容が理解できない作戦は?」

ケルトの言葉にクランは呆れながら返答する。

「あんたら、早く助けてきなさい!」

そう言ってキャルはケルトとクランを引っ張り、立たせるのだった。

「ミゲウは?」

「ミゲウさんは護衛だからここで待機してもらうの」

「えー」

「うるさい、ケルト。文句言わずにさっさと行く!」

ケルトとクランはキャルに部屋から蹴り出されたのだった。

「おいケルト。お前のせいで俺まで蹴られたぞ」

「うるさい、クラン!文句言わずにさっさと行く!」

キャルの言葉に2人は無言で外に出るのだった。

「どっちに行ったのかとか、全く聞かなかったな」

「まぁいい。もう俺は蹴られたくないからな。適当に捜すぞ。…おい」

クランの言葉にケルトは駆けだそうとしたのだが、クランに奥襟を掴まれる形で静止させられた。

「お前、絶対迷子になるだろ。2人で一緒に捜すぞ」

「ふぁーい」

ケルトは口を尖らせながらやる気のない顔で返事するのだった。



                 ・レイナside


レイナは一歩ずつ、着実にガンザを殺すための手順を踏んでいるのであった。自分に力がないことは百も承知。でも、どんなにレベル差があろうと相手が気づいていないタイミングでならば誰が相手であろうが殺すことは可能だ。分かりやすい例をあげるなら寝ている時。毒薬、呪符、いろんなものを所持し、機を伺っている。ガンザの部屋はカジノの4階にあるらしい。2階はレストランや休憩スペースなどが主であり、3階は客室となっている。4階はビップルーム、そしてその他幹部の部屋があると言われている。表の入り口から行ける最上階は3階であるのだが、ある部屋には4階へと通じる階段があると言われている。それさえ分かってしまえば、下準備は完了である。後は、ガンザが寝静まるタイミングを見計らって、闇に紛れるように暗殺を遂行するだけである。

「今日の手下は有益な情報を持ってくれてるといいのだけど…」

レイナはボソッと呟きながら、ガンザの手下らしき男を尾行するのであった。彼は中央の商店街を抜けると、そのままスラム街へと進むのだった。

スタッ。男は急に立ち止まると、後ろを振り向く。だが、レイナは建物の陰に隠れており姿は見えていない。

「おい、ねぇちゃん。尾行バレバレなんだが」

レイナはハッと驚き、その場から立ち去ろうとする。だが、レイナが逃走するために振り返ると、そこには数人の影があったのだった。

(ここは路地裏。3差路の2方向は人影が複数ある。ならば、つけていた男の方向が1人で逃げやすいか。)

レイナは思い切って敵が1人しかいない方向へと駆ける。

(!!!まずい…。)

1人しかいないと思われた方角にも数人の人影があるのだった。レイナは覚悟を決めると構えをとる。指にはサックをはめており、攻撃力には些か自信がある。

「いい度胸じゃないか。9人相手にどこまで耐えられるか、見ものだな」

ゲヘへと笑いながら、男たちはレイナへと襲い掛かる。

バコ、ドコ、ブチ、ブギャー。

8人の男たちが瞬時に伸されたのだった。

「なかなか強いじゃねぇかよ、ねぇちゃん」

震えてはいるが、男にはまだ余裕があるようだ。

「取引しない?あなたの持っているガンザの情報を私にくれるのであればこれ以上の追撃はしないであげるけど」

男はニヤリと笑うと、後ろを向き必死で逃げ始めたのだった。

「待て、この!!」

逃げる男を必死に追いかけるレイナ。

「このスラムは俺の庭なんだよ、簡単に追いつけると思うな!」

威勢のいい男に対して、レイナはニヤリと笑う。

「生憎ね、私もこのスラムは庭なのよ」

レイナはこのスラムに住みだして10年近くになる。だから、どこに何があるのかまで詳しく把握している。

「どうやらあなたの負けね」

悔しそうな男に対して、完全に勝ちを収めたレイナは顔が綻んでいた。そのまま男の胸倉を掴むと、上へと持ち上げるのだった。

「さぁ、どうするの。痛い目に合いたくなかったら知ってること全部吐きなさい」

「す、す、すみまっせん。もう無理です、助けてください」

そう叫ぶ男。

「まだ何も答えてないじゃないの、そんなんじゃ許されないんだからね。殴られたいの?」

と、レイナが拷問にかけようとするその時、こちらへと近づいてくる足跡が聞こえてくるのだった。

「9人がかりで1人の女も仕留められないとは、情けないぞ、お前たち」

こちらに近づいてきた大柄の男は額に手を当て、ため息をこぼしていた。

「は…、ハイズ…」

レイナは持ち上げていた男を放り投げると、即座にその場から離れようとする。

「ハイズさん、そいつ、ガンザさんの情報を欲しがってました」

手下の男はハイズに向かって叫ぶ。

「ほう、だからか。この前カジノで暴れてたってのもそういう狙いがあったからか」

ハイズは逃げるレイナの腕を掴むとそのまま横の壁に叩きつけた。

「思ったよりもダメージがないようだな。楽しめそうだ」

ハイズはニヤリと笑っている。レイナは逃げられないと判断し、即座に切り替える。

(防御には自信がある。後は何とか動きを止められる一撃を加えて、逃げる。)

レイナはハイズの動きが見えるように十分な間合いをとる。

「それだけで足りるのか?」

ハイズは即座に距離を詰め、レイナの脇腹に蹴りをぶち込む。「ぐっ…」再び壁に叩きつけられるが、即座にハイズから距離をとる。そのまま突進し殴りかかってくるハイズ。

(動きが単調すぎる。これなら…。)

レイナは伸びた拳を掴むと、そのまま一本背負いでハイズを投げ飛ばした。

(チャンス!!逃げるタイミングは今しかない。)

レイナは即座に走り出すのだが、「まだ帰んなよ、遊び足りないんだが」ハイズは腕をしっかり掴んでおり、逃げることができない。

「よっこらしょっと」

ハイズは起き上がると、レイナの片腕を掴んだまま、もう一方の拳でレイナを殴りだしたのだった。

ぐっ…、いっ…、うぐっ…。

ひたすら耐え続けるレイナ。表面上はボロボロであり、立っていること自体を不思議に感じる程だった。

「何で倒れないんだよ。おかしいなぁ…。そろそろ泣きじゃくって命乞いを始めてもいい頃だと思うんだがなぁ…。どういうことなんだろうなぁ…。剝いてみるか」

そう言うとハイズはレイナの服を引きちぎった。

「ほぉ…、これはこれは。こんなの着られてたらそりゃ、俺の攻撃もあまり通らない訳だな。竜の金ビラのシャツか。レアな防具だ」

ハイズは即座にレイナの両肩を蹴りこみ、関節を外したのだった。

「壊しちゃ勿体ないからな。綺麗な状態で持って帰りたい」

レイナの着ている竜の金ビラを脱がせるとそのまま蹴り倒したのだった。

「ぐはっ…」

レイナは勢いよく吐血したのだった。

「肩も外れて、このダメージ。もう立てないし、戦う余力もないな」

そう言うと、ハイズは興味を無くしたのか、レイナから視線を外し、手下の男に話しかける。

「こいつに戦意はもうないだろう。ほらよ、回復薬だ。仲間たちに飲ませてやれ。俺はもう帰るから後はお前たちで好きにしろ」

ハイズは竜の金ビラをジャラジャラさせながら満足気にその場を後にしたのだった。

「よぉ、ねぇちゃん。さっきはよくも好き放題してくれたな。今度は俺たちの番だからな。こっちに来い!!」

レイナは髪を掴まれ、そのまま引きずられるように伸された残りの男たちの元へと連れていかれたのだった。



               ・


ケルトとクランはスラムの路地をひたすら駆け回っていた。

「なんか向こうで大きな音がしたな」

ケルトは音のした方を見る。

「あぁ、恐らくはそっちで間違いないだろうな」

クランはケルトの手を引こうとするが、急加速したケルトに逆に引っ張られるのだった。

「お、おい…。腕が…千切れ…」

クランの悲鳴もケルトは無視して全速力で路地を走り抜けるのだった。音の発生源に辿り着くと、何やらむさい集団を発見する。

「こいつ下着だけだぜ、何考えてんだ。皆で遊んでヤろうぜ」

むさい男たちはそんなことを言っている。

「おい、何ならこっちから先に遊んで貰えないか?」

クランの額には幾筋もの血管が浮き出ている。

「俺たちこう見えて超暇人なんだよ」

クランとは対照的に爽やかな感じでケルトは話しかける。

「うるせぇ、こっちは取り込み中なんだよ!」

「何だ、1人は人間じゃねぇか。お金の方からわざわざ近づいてくるなんて俺たちツいてるな」

「ちゃっちゃと片付けてやるぜ、人間に混血」

バキ、ドガ、ザシュ、ドゴ、ガス、ドーン。

「クランさん、マジ阿修羅の再臨かと思うぐらい怖かったんですけど」

「あー、それな。間違いない。その怒りのきっかけは全てお前なんだけどな」

「それは何とも…。八つ当たりされた方はたまったもんじゃないですね」

「どさくさに紛れてお前も斬ってやろうと思ってたんだがな。綺麗に避けやがったな」

「え?あれ偶然じゃなかったの?全員敵とかマジカオスなんですけど」

「もういいわ。話が進まんからこの話は終われ」

クランの言葉にケルトはレイナへと向き直る。

「お前がレイナで間違いないな。道場をやってるガロゾさんから聞いた。とりあえず話は宿でしたいからそこまで付いてきてくれ」

そう言うとケルトは上着を脱ぎ、レイナに渡したのだった。

「こんな人間が着たものなんかいるか!」

「えー…」

レイナの拒否発言にケルトは精神的ダメージを受けるのであった。

「まぁ、着たくないならいいや。恥ずかしいだろうなって思ったから渡しただけだし…」

ケルトは口を尖らせながら拗ねるように言葉を吐いていた。

「目的は何だ!!」

レイナの言葉には殺気がこもっている。

「いや…、助けにきたんですけど…」

ケルトはえっ…と思いながらもそう答える。

「笑いに来たのか?それともこれから私を弄り殺すつもりなのか?」

「え…、助けに来たって言ったじゃん」

「人間なんかに同情されるくらいなら死んだ方がマシだ。さっさと殺すがいい」

ケルトは状況がよく分からなくなり隣にいるクランに助けを求める。

「この人はいったい全体、何を言ってらっしゃるんですか?」

「死にたいって言ってるんじゃないのか?」

「助けたのに?」

「助けたのに」

ケルトは頭を振り、とりあえず今までのことをなかったことにする。

「まぁいいから。とりあえず俺たちのアジトで落ち着きなって」

そう言ってケルトはレイナの手を引こうとする。

「私に触るな!汚らわしい」

「汚らわしいとか言われちゃったんですけど…」

「そうだな、お前今日風呂入ってないのがバレたんじゃないか?汚らわしい」

「いや…、入ったわ。汚らわしいちゃうわ!つーかお前も一緒に入ってただろうが」

その場から動くことはないが、レイナはずっとこちらを睨んでいる。

「睨まれてるんですけど。救いのヒーローがまさかのヒロインにメンチきられてるヤーツなんですけど」

「いや…、このままひとつひとつに対応してたら朝になるんだが」

「じゃあ、どーすんの?」

「とりあえず無理やりでも連れて行くしかないだろ」

「救いのヒーローだよ、俺」

「そうだな…」

「ヒーローが無理やりとか――」「あーもう、うるせぇわ!お前はヒーローじゃなかったってことだ。だから無理やり連れていけ。暴れてようがどうしようが、関係ないだろ」

「俺のメンタル的なものが…」

「いい、いい。そんなの安いもんだろ。連れてってそれから考えるしかないだろうが!」

「安くねぇぞ、むしろ高い方だ」

「はいはい。早く抱えろ」

「その役目、俺じゃなくてもよくね?」

「じゃあ、お前はここからの帰りの道案内ができるのか?」

「いえ…、すぐに抱えます」

そう言うとケルトは有無も言わさずレイナを抱え上げる。

「離せ、このゴミ野郎が」

暴言、そして暴力にケルトはアジトに帰り着くまでにメンタルがゼロになったのだった。


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