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2-2 ケルトーズ

2章 ケルトーズ




「まだ寝てていいのか?」

ここはランプのミゲウ宅。ケルトはミゲウの家に居候していたのだった。ケルトは眠たい目をこすりながらミゲウの問いに答える。

「あぁ…、もうそんな時間か」

「町役場に行くんなら一緒に行くぞ」

ミゲウは町役場から依頼を受けてお金を稼ぐ何でも屋だった。今日は週に一回の顔合わせの日であった。そこで依頼があれば引き受け、なければそのまま帰るといったものだ。

「わかった。今準備するから」

ケルトはそそくさと着替えを済ませると、ミゲウと一緒に町役場へと向かっていった。大会の後、ケルトは大会優勝という結果をランプの町長に評価されとある仕事を任されたのだった。

町役場へ着くとミゲウは役場の建物へと入っていく。

「後でな」

ミゲウにそう言われ、ケルトは役場の隣にある新しく作られた建物へと入っていくのだった。

「おはようございます、ケルトさん」

大きな声で皆があいさつする。

「あぁ…、おはよう…。ってかこんにちはの時間だな、どっちかっつうと」

ケルトは寝起きに響いた音に耳をさすりながらそう答える。そこには6人の男女がケルトの前で整列しているのだった。彼、彼女らは皆悪魔である。だが、どうやらあの大会で感銘を受けたらしくこうやって混血のケルトに指導を申し出たのだった。その諸悪の根源となったのはガスという男であった。彼は…、そう…、前にケルトが山賊のアジトを探しているときに案内を頼んだ人物であった。そいつは寄りにもよって町長の息子だったのだった。ガスが親父に頼み込みこんな施設を作ったのだった。

ランプの町を自らの手で守りたい。そういう奴らが集まったランプの自警団の面々である。

ケルトはその発足したての自警団の指南役を町長から頼まれたのだった。ケルトにはミリの母を石にした人物を捜すという目的があったため、内容としては都合がよかったので承諾した。全員が1段階の悪魔で戦力としては終わっている。ケルトはとりあえずと、武器を持たせ戦闘の訓練に付き合っているのだった。

「今日も困っている人を救うための見回りに行くんですか?」

ケルトにキラキラの目でそう訴えるのはエドガーという男である。と、そこに役場の人が姿を現す。

「あの、すみません。何か町の方で騒動が起こってるとの連絡を受けました。至急そちらの方へ向かってもらえませんか?」

ランプでは隣町であるローゼルピスニカからの難民を快く迎え入れているそうだ。その難民の大半は奴隷であり、その人たちの大半は保護という名目上町役場で働かせているのだとか。まぁ、そんな話はいいとして、ケルトーズの出発である。

そう――この自警団はケルトーズという名前になったのだった。ケルトが冗談で言ったことを皆真に受けてそのままこのチームの名前になってしまったのだった。

「そうですか。では行きましょう、ケルトさん」

ケルトよりも年上の女性がそう職員に応対する。ここはガスが、町長の息子がリーダーとして引っ張っていくんじゃないの――とか思ったが、ガスは見た目からして頼りないし、今応対している女性の方がリーダーには向いているとケルトですら思う。だからケルトは何も言わない。それに皆もそう思っているのか、特に何かをいうこともしないのだ。

「了解。じゃあ、皆行くよー」

町の見回りに関してもそうなのだが、この自警団だけでは現状トラブルには対処しきれない。だから、今のところはケルトが付きそう形で何かと行動している。気の抜けたケルトの掛け声だが、それはいつものことなので皆気にする様子はない。

騒ぎとなった町の広場に辿り着いたケルトーズ。だが、騒動はひと段落したらしく野次馬たちが散っているところだった。皆には野次馬などから聞き込みを行ってもらい、犯人が誰なのかを突き止めてもらうことにした。――と、何やら聞き覚えのある声が聞こえる。

「ケルトぉ!!」

その声に振り返ると、そこには見知った少女の姿があった。

「ミリか」

ミリは母と手を繋ぎ歩いていた。笑顔一杯で、ケルトは幸せそうに暮らしているミリを見て少し晴れやかな気持ちになる。

「ここで何しているの?」

隣にいるミリの母に会釈されながらそれを返すと、ミリへ返答を返す。

「見回りだよ。お前も知ってんだろ、町の自警団のことは」

ケルトの言葉にミリは大きく頷く。だが、それ以上のことをミリに言うつもりは全くない。ミリの母を石に変えた人物の捜索に関してだ。変に心配をかけたくもないし、後ろめたい気持ちになってもらっても困るからだ。これはあくまでもケルト自身が勝手にやっていること。自分が次のステップへ上がる為には、と自身に課したものなのだから。

「へぇー、でももう終わってるみたいだよ。暇なら一緒にデパート行こうよ」

ねぇー、などと言いながらミリは母と笑い合っている。

(まぁ、別段俺がいないといけないような仕事はここにはなさそうだしな。)

ケルトは気晴らしも兼ねてミリたちについていこうかと思う。

「ケルトはいい年なんだから、フラフラしてないでちゃんと仕事見つけて働かないとね」

何故かケルトはちびっ子に説教されていた。

(いや・・・、うるせぇわ、ちび。――てか、自警団のこと知ってんなら俺が仕事してるって分かるだろ。)

などとも思うがそれは心に留めておく。

「ケルトさんはこの町で生活しているんですか?」

ミリの母にそう問われ肯定する。「ランプでの生活などで困ったことがあったら、何でも頼って下さいね」とケルトには返しても返しきれない程の恩を感じている様子であった。ケルトは笑いながら他愛無い世間話をする。セリカのことなど、たまにミリが居酒屋に遊びに行っていることもセリカたちの話から知っている。

「ケルトは力もちだからいっぱい買っても安心だね」

ミリの言葉からはケルトが荷物持ちとしてこき使われることが確定しているようであった。ケルトが苦笑いしながらミリの頬をつねっていると、何やら視界の端でいざこざが起こっているようであった。中心にいる人物が自警団の面々と揉めているようである。

「何だろう?」

ミリがケルトに頬をつねられながら心配そうに野次馬が一帯を埋める現場を見ている。

「心配すんな。俺がパパッと解決してきてやる」

ケルトはミリに笑いかけ、ミリの母に巻き込まれないようにそのままデパートへ行ってくださいと告げる。そんなケルトにミリの母は会釈をしケルトのことを気にして足を止めていたミリの手を引きデパートへと向かっていったのだった。

ケルトは野次馬の群がる中を縫うように通り抜け騒動の中心へとたどり着く。

ある特定の1人に対し皆で口撃している。それを宥め、場を円滑に収める立場の自警団までもが野次馬たちと一緒に攻め立てていたのだ。

(やれやれ…。)

ケルトはため息を吐きつつ皆の様子をうかがいながら近づいていく。

「こいつは俺が近いうちに死ぬと大ボラ吹いた上にそれに対して5万eも請求してきやがった」

被害にあったであろう男性がそう訴えている。すると、野次馬の中から1人が声を発する。

「俺もだ、俺も昨日そいつに同じ事を言われて金を払ったぞ」

その言葉に中心にいる男は更に態度を強くする。

「こいつ、全員に死ぬなんていって金を巻き上げているのか、このインチキ占い師が!」

散々叩かれ、金を返却せざるを得ない立場となった男は観念したのか、肩を落としながらランプで稼いだ金を返却していく。

そして返却し終わると、それに満足したのか、男はその場から去っていった。「早くこの町から出て行け」そう捨て台詞を吐いて。再燃した事態が収まったことでそこにできていた人だかりが次々と解散していく。気づくとそこにはもうケルトーズしかいなかった。目の前には簡易のテーブルに椅子。そこで彼は占いの商売をしているようであった。

男はため息をつきながら店じまいをしていた。こんな光景はよくあることだ。ケルトもまた爺さんと暮らしていたときは適当な場所に店を出し、野菜を売っていた。その頃もよくクレームを言われその場から立ち去っている者がいたのだから。彼も同じ類なんだろう。店の道具一式を異空間にしまいこむと、肩を落としながらその場から去っていこうとしていた。

「ちょっと待ってくれ」

ケルトは疲れきっている被害者なのか加害者なのか分からない男に声をかけた。

「なんですか?」

ケルトは今煮詰まっている。こうやって自警団の面倒を見つつ、情報が集まることを期待していたのだが、全く進展がない。藁にもすがりたい思いでいたのだった。

「俺も占ってくれないか?」

その言葉に男は深いため息を付く。そして、近くで聞いていた自警団の面々も驚いた顔をしている。

「さっき見てたでしょ、もうこれ以上私の評判は落ちませんよ」

その言葉に男はケルトもまた先ほどの男と同じだと思っているようだ。

「違うんだ、5万eだろ、払うから、だから俺の頼みを聞いてくれ」

「頼みって・・・、一応先に言っときますよ。私は占い師です、未来を占うだけで確証なんて何もありませんからね」

男はケルトに念を押す。

「分かってる。分かった上で言ってるから大丈夫だ」

「そうですか、では先に御代を頂いときますね、返しませんよ、絶対に」

男は必要にその言葉を強調する。

「あぁ、分かってるから」

ケルトは男に御代を払い、男が異空間から再び出した椅子に腰掛ける。

「いや…、ケルトさん。さっきの話聞いてましたよね。この人はインチキ占い師だって言ってたじゃないですか」

自警団のリーダー格であるアデルナという女性がそう訴えかける。ケルトはそれに面倒臭そうに返答する。

「いや…、皆の言うことを鵜呑みにするのもどうかと思うしね。まぁ…、嘘だとしてもそれを了解した上でのことだから…、大丈夫だって」

ケルトの返答に口を尖らせながらアデルナはそれ以上言うことはなく、ケルトのことを見守ることにした。それに追従するように他の面々もケルトを見ている。

(いや…、こっちを凝視すんなよ。恥ずかしいじゃねぇか。)

と、ケルトの想いとは他所に占い師がケルトに問いかける。

「ではお聞きしましょう。何を占えばよろしいですか?」

「捜し人がいるんだ。男で、3年ほど前の話なんだが、この近くで呪文を使って人を苦しめたやつがいるはずなんだが、そいつが今どこにいるか分かるか?」

その頼みに男は深いため息をつく。

「私は探偵ではないし、情報屋でもない、ましてやそんなサイコメトリー的な力を持っているわけでもないただの占い師なんですけどね・・・。まぁ、できるか分かりませんが一応やってみますね」

男はケルトの手に触れる。そして目を青色に発光させる。何やら魔力を使っているようだ。少しの時間が経過した後、男の目の発光が収まる。

「分かりました。3年前の男、その顔はこんな顔ですね」

男は手から光を発し、その光の中にその3年前の男とやらが映る。その映像にケルトは愕然とする。

「フォード・・・。どこにいるんだ!?」

態度が急変し身を乗り出してくるケルトに驚く占い師。

「どこかまでは分かりませんよ。言ったでしょ、私はただの占い師だと」

その言葉にケルトは少し冷静さを取り戻す。

「すまなかった。でも、頼む。近くにいるのかだけでも分からないか?」

ケルトの頼みに困った顔をする占い師。

「正確には分かりませんよ。だけど、恐らくは隣町のローゼルピスニカ、ここランプ、隣のラクトスの森、その先のラカラソルテ、もしくはヘルジャス王国付近のどこかにはいると思われますね。範囲が広すぎて申し訳ありません」

「いや、助かった。俺1人じゃそれすらも分からなかったんだ。恩に着る」

だが、占い師はケルトの礼に手を突きつける。

「あともう1人いました。女性に呪文をかけている男性ですね。えーと、彼はガンザ=レミラスですね」

占い師の言葉にケルトは唖然とする。

「え?フォードは?フォードは誰に呪文をかけたんだ?」

「えーと、んんん???」

占い師は困惑した表情になる。

「…ガンザ=レミラスです」

「は…?意味不明、理解不能」

ケルトは困惑した表情になる。何がどうなっているのかさっぱりわからない。だが、ひとつだけ分かるのはミリの母を石にした犯人はガンザ=レミラスであるということ。

「これはあくまで占いです。私にはそのように見えたというだけで正しいとは限りませんから、あくまでも参考にする程度で」

「そうだな。因みになんだが、さっきまで皆に死ぬ死ぬ言ってたそうじゃないか。俺も死ぬのか?」

その言葉に占い師は怪訝な顔をするがケルトのまっすぐな目を見て冷やかしではないと察したのだろう。

「あなたは・・・」

そう言って占い師の口が止まる。少し焦りの色が見える占い師に不安になったケルトは「やっぱり俺もか?」と問いかけてしまう。

「い、いえ。・・・あなたに死相は見えませんね」そう言ったのだった。

「そうか」

占い師の言葉にケルトは安堵の息を漏らす。だが、おかしい。皆には死ぬと告げ、ケルトには死なないと告げた。

「この先遠くない未来にここで事件が起こるってことなのか」

ケルトの問いに占い師は首を振る。

「それは私にも分かりません。でも占った人の大半は近い将来、死ぬという結果が出ました。この町で何かが起こることは間違いないかもしれませんね」

「ありがとう。とても参考になったよ」

その言葉に占い師は笑顔となる。

「私は危険を回避するために今日中にはこの町を出ます。あなたもお気をつけて」

「そうだな」

「私は流れの占い師です、名をビルボ=ラクフィンスと申します。以後ごひいきに。そして最後に聞きたいのですが、あなたは何者ですか?」

訳の分からない質問にケルトは首を傾げながら、「ただの混血だけど…」と答えたのだった。

男がどういう意味でそんな質問をしたのかは分からないが、満足したのか、商売道具を片付け、ケルトの前から姿を消していった。

(ビルボか・・・。ランプで何かが起こる。フォードと関係があるのか?)

とりあえず犯人を教えてもらえたケルトはこれからの行動を考えることとする。まずはこの町全体に死を巻き起こす何かが起こるということ。だが、その兆しはまだ見受けられない。ビルボは占い師で預言者ではない。いつかも指定していないことからまだしばらく後のことかもしれない。だが、ランプにはミリの身に起こったことなどが次は町全体に起こる可能性だって否定できない。もしかすればミリの母を石に変えたガンザを見つけ、倒せばこの町の住民の未来も変わるかもしれない。それでもダメならフォードを捜す。原因となりそうなことは今のところこれらくらいだ。ミリは今とても幸せそうである、天国からまた地獄に落とすわけにはいかない。そのために自分がやれること、それは何があるのか。

ビルボは言っていた。この町かその付近の町にいるかもしれないと。であれば、情報をさがすためにはこの町以外の者がいそうな場所をあたるしかない。流れ者が一息入れる場所、そこで情報収集するのが一番得策かもしれない。そう考えたケルトは一目散にその場所へと向かっていくのであった。

「私たちはどうすればよろしいでしょうか?」

アデルナの問いにケルトはとりあえず今日は施設に帰り、自主練をするように指示をだしたのだった。それからケルトは1人別の場所へと向かうのだった。


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