2章 序章
1章 序章
「ここがライアの家か」
突然家へと入ってきた男は中にいる女性3人に告げる。いきなりの訪問者に警戒する3人。そんなことはお構いなしに男は暴れ始める。家屋内にある物を破壊し始めたのだった。
「ちょっと、やめ・・・」
女性の1人がそう声を出したのだが、最後まで言うことはなく口を噤んでしまう。それは暴れる男に睨まれた為だ。殺意のこもる眼光に晒され女性は後ずさりする。聞きたいことはある。だが、それを口にすれば即座に殺されるかもしれない。自分ひとりだけならば勇気を振り絞り、問いただしたであろう。だが、側には2人の妹達がいたのだ。あまり相手を刺激するわけにはいかない。男が来てすぐに言った言葉、ライアという単語。それは自身の姉であり、数日前に両親と出かけてから未だ家には戻っていない。ライアは自身の誕生日を祝うために両親とプレゼントを買いに行ったのだった。姉達に何かあったのであれば、それは妹達の不安を取り除く為にも即座に知りたい情報である。だが、簡単にそれをさせてくれそうにはない。妹達を誘導しながら男との距離をとり、家の隅へと身を寄せる。
男は暴れることに満足したのか、こちらへと向き直る。
「ここはライアの家で間違いないな?」
確かめるようにそう問いただしてくる。だが、釈然としない。好き放題暴れて、その後に確認する男の人格を疑ってしまう。だが、口を噤んでいる訳にもいかない。相手は今にも自分達を殺しそうなほどに目を殺意でギラつかせているのだから。
「は、い」
その答えに満足したのか、男は少し唇を緩ませた。そして近くにあった椅子を持ち出し、ドスンと腰掛ける。しゃがんでいる自分達を上から見下ろしながら男は口を開く。
「ライアは僕を不快にさせた。だから、両親共々殺してやった。ライアに繫がるものが視界に入るだけで僕は不快でたまらない。全てを消しに来たんだよ」
なぜ男がここに来たのか、そしてここで暴れだしたのか。全ての謎が解けた。それに姉達の消息も理解できた。万事休すだった。ライアに繫がるもの、それは恐らく私たちも含んでいるのであろう、それは容易に推測ができる。
「私はどうなってもいい。だけどこの子達は助けてください」
女性は怯える妹達に背を向け、守るような位置をとる。ハハハと男から笑い声が聞こえる。
「僕はね、何も殺しが好きなわけではないんだよ。人は反省することのできる生き物なんだ。そうだね、この家はどうしようもないから跡形もなく破壊させてもらうが、君たちに恨みはない。だからこうしよう」
男はパンと一つ手を叩くと何を閃いたのか立ち上がる。
男の言うことが本当であるのならばここで殺されることはないのかもしれない。であるのならば、もう何も言うことはない。黙って男が口を開くのを待つ。
「君たちにもライアの面影がある。今回は見逃すが、次僕と遭遇したときは、・・・殺すから」
そう言うと男は再び椅子へと腰掛ける。
「今から3分間の猶予をあげよう。その間に僕の視界から消えてくれ。君たちが助かる唯一の道だからね。じゃあ、数えるよ、1,2,3・・・」
男は楽しげに数を数え始めた。全身に怖気が走る女性は後ろにいる妹2人の手を引っ張り上げ立たせる。そして、振り返ることもせずに無我夢中で妹たちと家を出て行ったのだった。生き残る為、妹達の手を引き、行く宛てもない夜町へと消えて行ったのだった。
「ハハ、笑える。必死すぎだろ、全く・・・」
男が3分を数え終えた後、外に出たがそこに人影はなかった。男は一瞬にして2階建ての建物を破壊するとそのまま夜の闇へと消えていった。




