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1-18 決勝戦

18章 決勝戦―クラン=イーザス




「マジかよ・・・」

来賓席で見ていた一同は唖然とする。2回戦第2試合、そこに現れたのはまさかの人間だけだったからだ。1回戦と同様に戦いが行われることなくその人間は勝ちあがっていったのだった。

「これ・・・、まさかの1回も戦わずに優勝とかあるんじゃねぇか」

その言葉に大会の主催者である獣王はさすがにないだろうと言うが、顔には少し苦笑いしている表情が浮かんでいた。獣王の隣に座るラクトスも満更ではない顔をしており、おもむろに立ち上がるとどこかへと行ってしまった。



                ・・・


ケルトはキースとの戦いから1時間ほど眠っていた。

(う、うぅ・・・。)全身がダルい。できることならこのまま眠っていたい。だが、ケルトは知っている。まだ、戦いは終わっていないのだと。非情に重たい瞼を根性で開くケルト。ベットに寝ていることから推察して、目の前には白い天井・・・、いや、ミリの顔があった。

「バカケルト―!」

その声は医務室内の窓ガラスが割れんばかりの大声だった。目覚ましとしては十分すぎるほどの役割を果たしてくれた。ミリは泣きながらケルトの寝ていたベットの脇にうずくまった。そんな状況に体を起こし周りを見渡すが、キャルたちの姿はない。

(まだ、ミゲウは回復してないんだろうか・・・。)

ミゲウに対する一抹の不安を抱えながらも、ベットにうずくまり泣いているミリの頭をポンポンと優しく叩いてやる。

「おい、ケルト」

ミリを慰めていたケルトは医務室の入口から聞こえた声に反応し、視線を向ける。

「何だよ、ラクト・・・うぷっ・・・」

ケルトが言い切る前に即座に男によって口が塞がれた。

「俺はラグだ」

そう静かに言い切るラクトス。設定上、この大会ではラグとして通さなければならないらしい。実に面倒くさい。ケルトは自身の感情をそのまま顔に出しながらラグをジト目で見る。

「もう決勝戦の開始の時刻だ。だが、特別にあと1時間だけ待ってもらえることになった。出るか、出ないかはお前が決めろ」



ラグはケルトの口から手を外すと再び元いた医務室の入口のドアに寄りかかった。

「因みになんだが、相手は誰だ?」

その言葉にラグは少し間をおいて返答する。

「人間だ。長い剣を持った」

「あいつか」

「戦意を削ぐような話だが、聞け。奴はまだこの大会において1度も戦っていない。体力に関してはお前とは真逆だ。奴にとってはこの決勝が初戦だ」

は?という表情をするケルト。ここは武闘大会の会場。1度も戦わずに決勝に上がれるわけないだろ、そう思ったのだが。

「奴の力は未知数。それに奴の持つ剣は魔剣。油断すれば一発で首が飛ぶ可能性もあるからな。だからもうこれ以上は何も言わない。出場するかも踏まえて、これはお前に任せる」

ラグはそう言うとそのままケルトの返答を聞くことなく医務室を出ていった。

立ち上がろうとするケルトだが、それを止めようとミリがケルトの手を掴んだ。

「ダメだからね。出血多量、命に関わる程の魔力消費、これから1週間は絶対安静だって先生に言われたんだから」

ミリは掴んだ手に力を込めている。絶対にこの医務室からは出さない、そういう意思がダイレクトに伝わってくる。

(だよなぁ・・・、キースとのあの戦いは壮絶だったもんな・・・。)ケルトは改めてキースとの戦いを思い返す。ゲロを吐きそうになる記憶しかないことに、途中で回想にひたることをやめてしまった。



「心配すんな、この通り元気いっぱいだ」

ケルトは満面の笑みをミリに向ける。だが、ケルトの笑顔に対してミリが笑顔になることはなかった。

「ダメ。もうケルトの様態は全部先生から聞いてるんだから。お母さんのことはもういいから。ケルトは自分の体を大切にして」

ミリはケルトに対し、優しい笑顔を見せる。ケルトの想いは十分伝わった。だからもういいんだよ。そんな言葉を笑顔で表現しているような気がした。

「ああ、分かった。助けるつもりが、心配かけちまったな。ありがとな」

ケルトはミリに抑えられていないもう一方の手でミリの頭を優しく撫でる。

「もう十分だよ」

ケルトは目頭が熱くなり、ミリとは逆の方を向いていた。

「ミゲウもまだ起きてないんだろ。キャルもセリカも疲れてるだろうから、手伝ってやんな」

「で、でも・・・、ケルトだって」

「俺はいいんだよ。寝てりゃ、治る。だから、行ってやれ。俺も試合終わったらすぐに行くとか言ってたけどよ、その約束は守れそうにないからな」

「う、うん。じゃあ、ここでちゃんと寝ててよ」

ミリの言葉にケルトは笑顔を向け返答とする。ミリはそんなケルトに安心したのか、ケルトのいる医務室を出ていった。

(『もう十分だよ。』・・・そんなこと言うんじゃねぇよ。ガキのクセしてよ、クソッ。)

誰もいない医務室。ケルトの瞳からは今までミリがいたことで我慢していた分の涙も一緒に流れ出す。



ステージ上ではケルトの相手となる男、クランが既にステージ上に座り、試合の時を今か今かと待ちわびている。

「ケルトの不戦敗なんて面白くねぇな」

ラクトスはステージ上に座る、既に勝ち誇ったような顔をしているクランを遠めに見ながらそう呟いた。

ケルトは深呼吸をしながらそっと目を閉じる。

(なぁ、じいさん。じいさんだったらどうするよ。歩くので精一杯なこの体でよ。)

そんな考え事をしていると、ケルトはふと笑ってしまった。

(まぁ、ちょっと聞いてみたかっただけかもな。答えなんて端から決まってんだ。頑固一徹、・・・絶対じいさんと暮らしてたせいだわ。じいさんの性格がうつってるわ。・・・ミリ、お前は必ず俺が救ってやるからな。)

閉じていた目を開き、ケルトは全身に力を込める。勢いよくベットから飛び降りると、そのまま医務室を後にした。



                   ・・・


「来たのか、大人しく寝ていればいいものを」

既にステージ上で待機していた男は今しがたステージへと上がったケルトに向かってそう言う。

「悪かったな、待たせちまって。つか、俺が寝てないと都合悪かったか?ミスター不戦勝」

ラクトスが振るいがけしていた待合室で見て以来なので、正直こいつの力は不明。だが、不戦勝だろうが、力がなければ絶対にできなかったことであろう。特徴的なのは背中に背負う長剣。今は鞘に収まっているためにどんな剣かは分からないが、身の丈ほどありそれを振るうとなれば豪力であることには変わりない。

(また剣かよ・・・。)ケルトはキースとの戦いを思い出し深いため息をついた。

人間に魔剣の組み合わせ。ケルトには絶対にできなかった選択を目の前の人間はとっている。そして、悪魔がひしめくこんな大会に堂々と出場し、まさかの決勝戦まで勝ち進んでいるのだ。それだけでも世界の常識はひっくり返っている。人間は餌。そんな世界の常識を目の前の人間はあっさりとひっくり返しているのだから、ケルトには敬意の念しか浮かばない。もし、ただ単に力試しで出場したのであればケルトもまた不戦勝とし、相手に勝利を譲ってあげたことだろう。だが、そうでないからこそ、ここでの勝利をそう易々とは譲れない。

両者が出揃ったのを確認し審判がコールをかける。

「では今から決勝戦、クラン=イーザス選手とケルト=バラモント選手の試合を始めます」

(ん?何だ?)

クランは試合が始まったというのにまだ胡坐をかいたまま座っていたのだった。

(何だこいつ?バカ?)

相手に付き合う気のないケルトはクランに向かって歩を進めようと前に出る。

「悪魔になるってのはどんな気分なんだ?」



そう余裕そうに話しかけてくるクラン。(え?試合ってまさか・・・討論会?)

一瞬会場を間違えたんじゃないかと辺りを見渡すが、そんなことがあるわけもない。

「俺と話がしたいのなら、この試合が終わってからにしようぜ」

ケルトは篭手とサックをつけた状態で準備は万全だった。

「試合が終わったらお前はもう喋れないだろうから先に聞いとこうと思ってな」

(俺が負ける前提で話してやがるよ、コ・イ・ツ。)

「随分と上からなんだな。世間知らずのお坊ちゃんに教育的指導をしてやらないといけないな」

ケルトはクランを威圧するが、そんなもの全く効いていない様子であった。

「そりゃそうだろ。お前の傷は2時間やそこらで治る傷じゃないだろ。動けば傷は開き、それをカバーするはずの魔力もそんなに回復しているとは思えない。ここで人生を終わらせるつもりなら話は別なんだがな」

クランは大笑いしている。

「一丁前に俺を分析しているみたいだな」

「そうだとも。俺も殺人を好む愉快犯じゃないんだ。お前にも人生があるだろう。一応お前も元は人間だったんだ。そのよしみで今なら戦わずして負けを認めることも許してやるぞ」

その言葉をケルトは鼻で笑う。

「そうか。ところでよう、お前はいつまで座っているつもりだ?勘違いしてるようだから教えといてやるが、ここは討論会の決勝の会場じゃないぞ」



その言葉に静かにクランはその場に立ち上がる。

「笑える。討論会でもいいが、武闘大会でもお前に負ける気はしないな」

そう言うとクランは剣を抜き、構える。刀身を青色に染める剣。

(確か魔剣だって言ってたよな。ということはこいつの剣の属性は水だったりするのか?)

ケルトは青色から連想できる属性について考えると、少し警戒のレベルを上げることとする。この期に及んで属性不利なんかも上乗せされ不意をつかれたらたまらない。ケルトは一気に距離を詰めるように走る。恐らくは見えているのだろう、クランはケルトの動きに合わせて突きの構えをとる。

(突っ込んできた相手を串刺しにするって訳ですかい。)ケルトはクランの突きの瞬間を見極めそれをかわすように上へと飛ぶ。

「きっ!!」

ケルトは思わず声が漏れる。突いてきた剣が軌道を変えケルトを追従するように追ってきたのだった。咄嗟に篭手でブロックする。

(キースほどの力はないか。)剣の勢いに多少押されるものの吹き飛ばされるまでの威力はない。(やはり、人間か。)『―火放―』ケルトは篭手で剣を押し返すべくもう片方の手を後ろに向け火炎を放出する。その勢いでクランの剣を押し返すのだが。

「いぎぎ・・・」

ケルトは突然全身に痛みを感じ危険だと判断すると、そのまま力を抜き、クランの剣に吹き飛ばされる選択をとる。

(何だったんだいったい。全身にビリビリと・・・。)だが、考えさせてくれる余裕は与えてくれないようである。クランは離れたケルトに追撃を仕掛けるために既に距離を詰めていた。気づいて直ぐに回避を試みようとするケルトだがクランの剣が見えない。



(持ってないはずがないだろ。)

ケルトは口から火を吐き、クランに目くらまし程度の攻撃をする。

「ぎっ!!」

痛みからケルトは咄嗟に距離をとる。どうやらケルトは足を斬られたようだ。目くらましのおかげで両断されるまでには至っていない。左足から血が噴出している。服を破り止血の応急処置をしたいのだが、これまたクランがそれを許さない。ケルトは止む終えず痛む左足に全力を込め、筋肉の圧力で止血するのだった。

「タフだな、お前。化け物は人間の常識で考えたらいけないようだな」

クランのほめ言葉も今の余裕のないケルトには雑音にしか聞こえない。目の前に迫り来るクランが次、どのような攻撃に転じるのかそれを真剣に見据えている。

(座ってたかと思えば、間髪なしの攻撃か。極端すぎだろ・・・ったく。)

クランはケルトには届かないだろう距離から飛び上がる。

(何すんだ、こいつ。剣でも投げるってんじゃないだろうな。)

ケルトはいつでもかわせるようにフットワークを軽くさせる。だが、クランはその場に勢いよく剣を突き刺したのだった。

(え?ミスったの?)目の前で起きた現象にケルトは唖然とした。確実に届かないだろう距離から跳び上がり届かなかった。おまけに剣がステージに勢いよく突き刺さっている。案外間抜けなんだな、と笑みを浮かべるケルトであったのだが。

「いぎぎぎぎー!!」



ケルトの全身を電流が走り、体が痙攣しだす。目の前のクランは空中で突きたてた剣の柄を持ったまま手だけで自分の体を支えていた。咄嗟に上空へと逃げようとするケルトであるが、足が痺れて動かない。

「攻撃は最大の防御。お前には1ターンも攻撃の手段を与えない」

クランはステージから剣を引き抜くと、剣を上段から一気に振り下ろす。

(まずすぎ・・・。)ケルトはかろうじて動く口から火を放出し剣撃を後方へと回避する。そのまま豪快にブッ倒れるケルトであった。

「もうあがくな。時間が経てば経つほど、それは恐怖を増大させていくだけだぞ」

「恐怖か。人生最大の恐怖はもう既に経験済みなんだよな」

ケルトの視界には客席に座るミリたちの姿が映る。そこにはミゲウの姿もある。

(どうやら回復したようだな。)ケルトはミゲウの姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。

「もう終わりにしよう」

クランは唖然とする。言っている意味が全く分からないからだ。寝たきりの状態のケルト、そしていつでも攻撃可能なクラン。どちらが終わるかは明白だったからだ。

「何を言っている。電撃で頭もイカれちまったのか」

「お前の願いは何だ?不運にも悪魔の血にめぐり合えなかったというわけではないんだろ」

その言葉にクランは鼻で笑う。

「そうだな。俺はこの戦いに勝ち、人間界へ帰る。お前も同じなんだろ」

その言葉にケルトは口元を緩める。

「俺は・・・、まだこの世界に用事があってな、それが終わらなきゃ帰れないんだ」

「そうか」



「あぁ、そうだ。だから負けられない。この世界で一番不幸なのは人間じゃない。俺たちなんかよりもっと不幸な奴を俺は知ってる」

「それが、あのちっこい悪魔だってのか」

クランの言葉にケルトは笑うしかなかった。(こいつ、どこまで俺のこと調べてんだよ。)

「まぁ、そんな訳だ。お前も力があるんだろ。じゃあ、不幸面なんてしてんじゃねぇよ」

「ふっ、お前の言葉で改心するほど、軽い不幸はこっちも背負ってねぇんだよ」

「そうか。じゃあ、勝負だ。勝った方が正しい。それで文句はなしだ」

ケルトは立ち上がる。まるで先ほどまでの電撃がなかったかのように。

『―鋼力―』そして、魔力を開放させる。

「お前は隻眼の悪魔じゃなかったのか?」

クランの問いにケルトは首を傾げる。

「え?隻眼だが」

「両眼だぞ、お前」

ケルトは鏡を持っていない。故に自分の顔を今すぐに確認することができなかった。

「まぁ、どうでもいいだろ。全身全霊でかかってこい」

その言葉にクランは構える。クランの周囲には電気がバチバチと放出されていた。ボコーン。豪快な音と共にクランが吹き飛んだのだった。クランには全くもってケルトの動きが見えていなかったようだ。

「はは。面白いものが観れた。じゃっ、皆、帰ろっか」

来賓席に座るミゲウを助けてくれた女性がそう口火を切ると、来賓席にいたほとんど者が席を立ち、会場から出ていったのだった。その場に残るのはラクトスとオレンジ色の髪の男性だけであった。



豪快に吹っ飛ばされたクランは唇をかみ締めながら立ち上がる。

「お前にはもう魔力が残っていないはずだった。何故そこまでやる必要があった」

クランの言葉にケルトは2、3日前までの自身の行動を思い返す。

「ミリはな、寝たきりのかーちゃんのためにあの歳で1人で薬を探し、死に目を見ているんだ。そして、無理を承知で望みがあるのなら大会に出るとまで言った。この大会に出てミリに何ができる?何もできないだろ。そんな一生懸命なガキをほっとけるかよ」

「ふっ、そうか。お前は大バカだな。だが、・・・悪くない」

そう言うと立ち上がったクランの足から力が抜け、そのまま倒れこんでしまった。

少しの間様子を見た後、審判がステージ上へと上がる。

「優勝、ケルト=バラモント選手」

そのコールと共にランプ武闘大会は幕を閉じた。(終わったな。・・・ミリ、俺やったぞ。)


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