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1-16 覚醒者

16章 覚醒者




とどめだと思われたキースの一撃に対しミゲウは立ち上がっていたのだった。唖然とするキース。

(バカな・・・。もう死んでもおかしくないはずだぞ。)

瞬時に距離を詰めたミゲウによる壮絶なラッシュ。頭が混乱しているキースはかわすことができず拳を受け続ける。

(くそ、こうなりゃ自棄だ。)

キースは覚悟を決める。己も死ぬ覚悟をしたのであった。全ての血を魔力に変換するかのごとく力を発散させる。壮絶な打ち合いである。防御を捨てた者同士が殴り合っているのであった。目が霞み倒れそうになる。だが、それを根性だけで耐える。だが、ふと違和感を覚えたのであった。先ほどまでの辛さが消えていっているようだった。何故かは分からない。だが、ないはずの魔力が内から内から溢れ出してくる感覚に包まれたのだった。血はもう空っけつである。恐らくは3段階に上がることで2段階の頃より血の燃費がよくなったのかもしれない。体を流れている血の消費をしているにも関わらず先ほどよりかは辛さが消えているのがその証拠かもしれない。

(これか・・・。)

キースは確信を得たかのように笑った。と、ミゲウの動きが少し鈍くなってきている。

「ありがとな、ミゲウ。俺の3段階への踏み台になってくれて。感謝の意味を込めてお前には苦痛なき死を贈ってあげよう」



「―炎鞭―」キースの手から炎を纏う鞭が現れる。そしてその鞭でミゲウの首を狙う。

ドーン。

突然の爆炎によりキースの視界がさえぎられる。何が起こったのか分からないキースは身構える。爆炎が晴れる足元にミゲウが横たわる姿を確認する。だが、そこにはもう1人の足を確認する。姿が見えた瞬間にキースの怒りは爆発した。

「てめぇが何で出てくるんだ!」

キースの目の前にはケルトがいたのだった。恐らくキースの最後の攻撃はケルトによって受け止められたのであろう。だからこそ腹立たしい。キースはケルトとの距離を詰めるために地面を蹴る。

「勝負ありだ」

ケルトを攻撃するために手を尖らせ炎を纏わせて放った突きはラグによって止められたのだった。納得のいかないキースはキリッとラグを睨む。だが、ラグの気迫に押されキースはその場に尻餅をついてしまったのだった。そして、ラグはもう一度告げる、勝負ありだと。

「ふざけんな!」

戦意のないキースに対し、ケルトはラグを押しのけてでもキースに迫ろうとしている。

「勝手にステージに上がるな。次は失格にするぞ」

ラグはケルトの手を掴むとそう告げる。だが、完全にキレているケルトには正常な判断ができるようには思えなかった。

「どかねぇなら殺すぞ」

ケルトはラグをジッと睨む。ラグもまたケルトを睨み返している状況であった。

「そこまでにしなさい」と、一触即発の場にニッコリした笑顔の女性が割って入る。

「あなたの友達、このままだともうすぐ魔物に変わっちゃうわよ。治療して欲しいのなら今やることは戦うことではないでしょ?」



その言葉にケルトはハッとしたのか後ろにいるミゲウに視線を送る。すると、横たわった状態でうめき声をあげていたのだった。

「だそうだが」

そうラグがケルトに問いかける。チッとケルトは舌打ちすると踵を返しミゲウの元へと歩を進めた。そして、そのままミゲウは医務室に運ばれた。治療が終わる頃にはキャルたちも治療室の入口に駆けつけてきていた。

「もう魔物化の心配はないけど、血の欠乏が激しいの。あなたたちで輸血と生命維持のため魔力を供給してもらえる?」

そう言って係員であろう女性は部屋の前から立ち去っていった。女性と代わるように中に入るケルトたち、そこには他のスタッフもおりケルト以外の3人がミゲウへの輸血を行い、ケルトは生命維持のために魔力の供給を任せられた。


それからケルトたちが医務室にこもる中1回戦第3試合が開始された。だが、会場は騒然としていた。ステージ上には予選を通過した4人が揃うはずなのにそこには1人しか現れない。数十分が経ち、それでも現れなかったためその場にいたティアが不戦勝として2回戦へと勝ち進んだのだった。

そして1回戦第4試合。この試合もまた同様の結果であった。ステージ上に上がったのは一人のみ、予選でラグに指差されたクランという人間であった。

ラグと親しげに話していたオレンジ色の髪の男は呟く。

「これはアリなのか?」

「アリだろ。ルールに謳われてないだけでやってはいけないとは誰も言ってないんだからな」



そうラグが返答する。するとその後ろの席に座る赤と黒の入り混じる長髪の男が口を開く。

「雑魚らしい戦い方だ。この先の醜い戦い方で更に楽しませてもらおうじゃないか」

そう高らかに笑う。と、その男の後ろから抱きつく形で先ほどの係員の女性が口を開く。

「じゃあ、せっかくだし誰が優勝するのか予想してみない。勝者には私からの贈り物ということで」

その言葉にこの大会に興味を示さず目を閉じたままであった面々も反応する。

「じゃあ、やりましょうか」

白い長髪の女性が胸を高鳴らせながらそう発した。


医務室に入ってから2時間ほどが経過したであろうか。ノックの後扉が開かれる。

「おいケルト、そろそろ2回戦だ」

そう声を掛けたのはラグだった。

「まだ、ミゲウが・・・」

ミゲウはまだ意識を取り戻せずにいた。だからこそケルトはここから離れるわけにはいかないと判断したのだろう。ラグの言葉に動こうとしない。

「行ってきなさいよ。ここは私達3人でなんとかするから。それに何かあればここのドクターがすぐに来てくれるって言ってたし」

キャルは微笑みながらケルトを見ている。

「だがよ、俺がミゲウに魔力を送ってないと、・・・今が山場なんだろ」

するとミリがケルトの背中に手をおいた。「私も手伝うから、安心して」

それにセリカも口を開く。「私も精一杯頑張りますから、ケルトさんは大会のことだけを考えて下さい」

「そうそう、私達も悪魔の端くれなんだから、ミゲウさんのことは心配しなくてよろしい」

どうしても試合という気分にはなれない。ミゲウが死ぬかもしれないのに一人だけ試合にでるなんて、ケルトには出来るわけがなかった。

「その代わり早く試合を終わらせてきてね。私の魔力なんか微々たるもんなんだからね」

ニッコリと笑いながらミリがそう告げる。

(そうだよな。ミゲウも優勝するために全力で戦ったんだ。ここで俺が台無しにしてどうすんだってんだよな。)

「・・・分かった。じゃあ、少しの間頼んだぞ」

ケルトは皆にそう告げると、ラグと共に医務室を出ていった。

「ケルト、忠告しておく。キースは強いぞ、お前が戦った連れなんかとは段違いだからな」

ラグの言葉に対しケルトは返答することもなく両手で自分の両頬を叩き、気合を入れた。

「シャッ!!」



                ・・・


ステージ上には既に待っていたであろうキースがケルトを出迎える。先ほどの戦いで疲弊していたとは思えないほどにキースは回復している。

(相手も万全だってことか。)ケルトも気合を入れる。ミリの為、そしてミゲウの仇討ち、両方の意味合いを含んだ戦いになるからであった。

「それでは第2回戦第1試合、ケルトとキースの試合を始めます」

審判のコールと共に会場内は湧き上がる。それぞれが1回戦で壮絶な戦いを見せており、観客の更に面白い戦いが観れるのではという期待が顕著なまでに表れている。ステージも補修されており綺麗な、大会が始まる前と同じ状態となっていた。両者が向かい合う中、キースが口を開く。

「混血君、じゃあさっきの続きをやろうか」

キースはにこやかに笑っている。さっきの続きとは恐らくケルトがミゲウを庇うためにカットインしたときのことだろうとケルトは踏む。フランクな態度のキースとは相反し、ケルトが返答することはない。無言のまま足に力を入れ、思いっきしステージを蹴る。既に試合は始まっているのだ、先手を譲り合うようなそんな紳士な間柄ではないことは先ほどの試合でキースも理解しているだろう。

『―鋼力―』ケルトは距離を詰めながら自身に肉体強化の魔法をかける。そしてかけ終えたタイミングと同時にキースに対し拳を打ち込む。

「お前も覇属性かよ。『―炎壁―』」

切れ味鋭い拳を見定めたキース。バカの一つ覚えのように突っ込んでくるケルトを返り討ちにしてやろうと目の前に炎の壁を作り出す。不用意に突っ込んで焼かれればいい、そういう意図を含ませて。

「ハズレー」



間の抜けたケルトの声が聞こえる。それと同時にキースの作った炎の壁の影響を全く受けることなくその内側へと侵入してきた。予想外の出来事に一瞬息をすることすら忘れるキース。

「な・・・!?」

驚きのあまり声にならぬ声が出てしまったようだ。だが、それもそのはずであろう。キースは1回戦第1試合を観戦していない。控え室で待機していたのだ。だからこそ、サラとの戦いでみせた火属性の技を知るはずがない。キースは初手を選び間違えてしまったのだった。ドオーン!!炎の壁をすり抜けたケルトの拳はそのまま一直線にキースの顔面を捉えた。体重の乗ったこれ以上にない一撃によりキースは吹っ飛ばされる。だが、キースもまたそれで終わるような人物ではなかった。戦闘に関する訓練は日々行っている。不意を付かれた際の対応も、体が覚えるほどまでに叩き込まれている。地面に打ち付けられる前にキースは受身をとり、即座に立ち上がる。だが、頭はまだ混乱しているようであった。ケルトの初手の一撃、それは明らかに覇属性の技であった。それなのに、魔力による防護壁を体に纏わせることなく無傷で壁を貫通した。信じられない、だがもはやそれは目の前で行われたことだ。受け入れるしかないということ。

「てめぇ、まさか・・・」

キースは興奮し、思わず叫んでしまった。

「そう、俺は火属性だ」

「だが、さっきの技は覇属性特有のオーラを纏っていたぞ」

その答えを知っているケルトは少しの笑みをキースに向ける。

「あの技は鍛錬によって身に着けた覇属性の技だ。奇襲成功せりー」



ケルトは自身の考えた作戦がこうも上手くいったことにご満悦であった。そのせいで別に明かさなくてもいいことまでついつい喋ってしまったのだった。キースは口内に溜まった血を吐き出し、今とてもバツが悪そうな顔をしている。

「ちっ、鍛錬だけで他属性が使えるようになるだと・・・、ふざけんな」

この世界の常識、それは他属性の技を使うことができないということ。だからこそ自身の属性を磨き上げ他属性に勝る技とする努力をする。だが、目の前にいる混血はその常識をあっさりと否定した。鍛錬すれば身につく。そんなことができるのは多属性能力者くらいであり、そもそも能力のない技を開花させるなどゼロに掛け算していくのと同じくらいに無意味なことであった。

「どうやった?」

キースは興味からそうケルトに尋ねてしまった。その手段さえ分かればこの先自分も更に強くなれるかもしれないとそう思ってしまったからであろう。だが。

「え?わかんねぇ・・・」

キースの期待はあっさりと裏切られたのであった。残念な気持ちはこれっぽっちもない。言わないのが当然といえば当然である。敵に有益な情報を与えるなどバカまっしぐらであるのだから。改めて構えなおすキース。

『―火放―』ケルトはキースに向け、手の平を広げた。そしてそこから火炎を放出する。だが、キースはそれを避けようとする素振りは見せない。そして、そのままケルトの放った火炎に飲み込まれる。ボフッ。火炎の中から伸びてきた拳がケルトにクリーンヒットし、ケルトは大きく後方へ吹き飛ばされる。



「は・・・!?」

吹き飛ばされたケルトは驚きを隠せない。

(俺の火炎に紛れて、姿をくらませたってことなのか?)ケルトは無傷のキースを見上げながらそう考察する。だが、おかしい。ケルトが放ったのは攻撃魔法である。さきほどのキースの魔法は防御魔法であり、火属性であればなんらダメージを負う心配はなかった。でも今回の魔法は違う。攻撃魔法であり、火属性であろうとも多少なりはダメージを負うはずだ。

「驚いているようだな」

ケルトの顔からそう推察したキースはケルトを嘲り笑うようにそう言葉を発する。

『―火放―』今度はキースがケルトに向けて火炎のビームを放つ。

「ぐあぁぁあああ!」

ケルトもキース同様に攻撃を避けずに受けたのだった。だが、結果はキースの時とは全く違う。ケルトは全身を焼かれるような感覚にさいなまれ、咄嗟にその火炎の中から離脱する。

「これはほんの挨拶代わりだ。本番はこれからだ、混血」

キースはそう言うと、『―鋼力―』を唱え、肉体を強化しだす。そして、目の色も青色に発光させたのだった。だが、それでは終わらない。

『―ディージールーム―』キースは何もない空間に穴を開ける。そしてその中から自身の武器である双剣を取り出したのだった。

「何だ、その謎の空間は?」

ケルトは驚きのあまりそう叫んだ。

「ふっ、お前は混血だからできないのか。これは悪魔のスキルだ。異次元ボックスってやつだな」

そう言うとキースは双剣を握り締めケルトとの距離を詰めるべく走り出す。



(相手は双剣を持ち、肉体強化し、魔力も開放し、おまけに火属性が無効・・・。勝てる訳ねぇだろうが!)

ケルトは向かってくるキースに対して攻撃の手段が皆無であった。極めつけに相手は武器を持っており迂闊には近づけない。というか、受けることすらできない状況にあった。だが、時は待ってくれない。キースが剣を振り下ろす。それを回避すべくケルトはキースの剣に集中する。1本の剣を避けても間髪いれず次の剣撃がケルトを襲う。双剣であるために攻撃の隙が極端に少なくケルトは剣を避けることに全ての集中力を裂いていた。ボフッ。ケルトはキースに蹴り飛ばされたようだ。キースの3段構えによる攻撃。剣を避けることで精一杯のケルトには対処できない。そのせいでキースの蹴りに対しては全く反応できず攻撃を食らってしまうのであった。離れてもすぐに距離を詰めるキース。

(マジかよ。まだ序盤だぞ、もう決めるつもりだってのかよ。)

「手も足もでないか」

キースは嘲り笑いながらケルトに言う。その間も剣撃を止めることはない。今のケルトに攻撃の手段はない。それどころか攻撃に転じる隙さえも与えて貰えない。防戦一方の戦いとなっていたのだ。ジリジリと追い詰められていくケルト。最悪なことにこのステージは円形ではない。正方形である為に気を抜けばすぐに端へと追い詰められてしまうのであった。

「てめぇがその気ならこっちだって本気でやってやる、必殺!!」

ケルトはそう大きく叫ぶ。その言葉に反応し、キースの行動に隙が出たのを逃さずケルトは大きく距離をとることに成功する。



「何だ?」

キースは不可解なケルトの言葉に警戒する。不用意に近づけばもしかすれば噛みつかれるかもしれないと少しの恐れを抱いたのだった。そして、少し離れたケルトはというと、自身のポケットより何かを取り出しているのだった。

「何をしている?」

キースはケルトの不可解な行動にそう言葉をかける。だが、現在一生懸命のケルトには応える余裕がないようである。ケルトはポケットより篭手を取り出し腕に取り付けていた。そして、手にもメリケンサックを装着したのだった。

「これでよし!」

自信満々のケルトに対し、キースは少し呆れたような、そんな笑いをこぼす。

「お前、・・・原始的だな」

その言葉にケルトは顔を赤面させる。

「しょうがねぇじゃねぇか。俺も出来れば使いたくなかったよ。空間を切り裂いてカッコよく武器を取り出した奴の相手はポケットからメリケンサックを出しました。・・・とか、マジ屈辱」

ケルトは自身のストレスを叫び、その場で発散させると、改めて構えなおす。

「悪かったな、待たせたみたいで」

そんなケルトに対しキースも再び構えをとるのだった。

「いや、いい。ダサ男への同情だと思え」

プチッ。ケルトの心の何かが音を立てて切れてしまったようだ。それと同時に先ほど発散させたストレスは再びマックスへと到達するのだった。

「てっめぇー、言わせておけば!」

ケルトは即座に距離を詰め、右ストレートを放つ。だが、キースの剣撃の方が速く、ケルトは攻撃を中断し篭手で剣を受ける。どうやら先ほどよりは余裕が出てきたようだ。避ける以外の回避の術がなかったケルトは、現在受けることもできるのだから。キーンという音と共にキースの剣はケルトの篭手に弾かれる。



「ただの篭手ではないようだな」

キースは篭手ごとブッた斬る予定だったのだ。だから剣の軌道を変えることなくまっすぐに篭手へと振り下ろしたのだった。だが、その結果はキースにとっては予想外過ぎた。篭手の強度もそうなのだが、斬れなくとも剣の衝撃でケルトの肩などにダメージを与えることができると思っていたのだ。それが、キースの剣が弾かれ、キースが逆に態勢を崩してしまったのだった。

「おあいにく様」

離れ際に放った横からの剣撃も難なく篭手に阻まれたのであった。ボフッ。余裕の笑みを零していたケルトだったが、安堵したのも束の間、ケルトはキースの突き上げるようなハイキックをくらい吹き飛んでしまった。

(・・・くっ、今のは見えなかった。)キースの蹴りはケルトの顎を捉えていたようで、すぐに立ち上がったのだが、足に思うように力が入らず、ふらついていた。

(まずい・・・)ケルトは自分の足に活を入れようとしたのだが。ザクッ。キースは既に距離を詰めており、上段よりケルトに剣を振り下ろしていたのだった。ケルトは剣が触れた瞬間に回避を始めた為、体の正面にザックリと切り傷を受けてしまう。ケルトは体から血が噴出し、脱力からか膝を折ってしまう。

「ぐはっ」

(何故だ。確かに一瞬だけキースから目を離した。だが、近寄ってくる気配は感知できたはずなのに、気が付かず、あまつさえ斬られるはめになるとは。)

ケルトは膝を付いた状態でキースを見上げている。すると、キースは不適に笑っていたのだった。

「俺の必殺、瞬撃だ。見えなくて当然、感知できなくて当然。現状から3倍の速度で斬り込めるのだから。お前が鉄板をつけてるときに力を溜めさせて貰った」



(なんてこった。あの時待っていたのは紳士だったからではなく、そういうことをするためだったのね。)ケルトは自分の考えの甘さに腹が立ったのだった。

「人間ごときにこの俺が負ける訳がない。なんたって俺はヘルジャス王国、ベルオルルフ学校の代表としてわざわざここまで来たんだからな」

「お前が勝ちにこだわる理由はプライドだけか?」

ケルトは俯き、そうキースに問いかける。

「あぁ、そうだ」

少し考える仕草をしたものの、キースはそう応えた。

「まぁ、お前は殺そうと思っていたのだがな。お前の相棒には世話になったからな。死にたくないのならばここで高らかに宣言するといい、ギブアップと」

キースはミゲウとの戦闘により以前からの悩みであったレベルアップの停滞期を克服したのだった。これからは3段階の悪魔として更なる成長をしていける、学校では天才と呼ばれる部類への仲間入りを意味するのだ。それだけでも既におつりがくるくらいの贈り物だ。それに加えてこの大会で優勝し獣王の杖を持ち帰れば、ヘルジャス王国においてもう両親にも迷惑をかけることはなくなるだろう。これからは親孝行もできる、迷惑をかけることに罪悪感しかなかったキースの心は霧が溶けたように晴れ渡っていた。だからこそ、もう、この目の前にいる混血に固執する意味はない。昨日の因縁は全て水に流してもいいくらいであった。

「ギブアップ?」

ケルトはキースに疑問系で問い返す。

「あ?そうだ、ギブアップだ。人間の得意技だろ、命乞いってのは」


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