1-14 それぞれの想い
14章 それぞれの想い
(ふはー、マジ勘弁だって。簡単に優勝なんて言ったが・・・、俺、勝てるのか?)
ズン。ケルトが歩いていると、頭に何かがのしかかってきた。
「よくやったじゃないか。実は強かったんだな、ケルト」
頭にのる手を振り払い、後ろを振り返ると、そこにはミゲウがいた。
「ったり前だろうが。自信がなくちゃ、出る訳ないだろうが、ったく」
(てか、今更言うことかよ、ミゲウ。ってことは、今まで俺は弱いと思われてたってことか・・・。)
「さっき、客席でミリからお前がこの大会に出てる理由を聞いたぞ。安心しろ、俺が優勝しても杖はミリに渡すからよ」
ミゲウは笑っている。それを聞いたケルトは少し口元が緩んだ。何がこれからは敵同士だよ。という過去の話を思い出しながら、ケルトはミゲウに笑顔を向ける。
「次は俺の番だ、行ってくる」
ミゲウは手を上げながらステージに向かっていく。
「頑張れよ、ミゲウ」
「おうとも」
ミゲウは右手を肩からクルクルと回しながら、ステージ上にあがる。ケルトはそれを見送ると、ふと、視界に来賓席のラクトスが映りこむ。
(ラクトスの奴、椅子に座って寝てんじゃねぇかよ。見てるだけの奴は気楽でいいよな。なんかムカつく。)
そんなことを思いながらも、ケルトは1回戦を無事勝つことができ、安堵していた。ミゲウも協力してくれると言っていたので、ケルトの肩の荷も多少軽くなった気がしている。心配してヒヤヒヤしていたであろうミリに自分の元気な姿を早く見せたくて、ケルトは小走りでミリの元へと向かっていった。
「おかえりぃ」
ケルトの目の前には椅子に座り、ポップコーンを頬張るミリの姿があった。その横では同じ状態のキャルも座っている。
「お、おう・・・」
そこにいる2人からはケルトを心配していたような気配をかけらも感じられなかった。ただ、武闘大会を観戦しに来た格闘技ファンにしか思えなかった。
(完全にキャルとミゲウの呑気さが移ってんじゃねぇかよ・・・。)
ケルトはミリの横の空席に座る。と、キャルの視線を感じる。
「ケルト、みずくさいじゃないの。ミリちゃんのために大会に出たっていうじゃない。そう言うことは先に言ってよね」
キャルはもう、なんて言いながらミリの背中越しにケルトの背中をバシバシ叩いていた。
「いてぇよ。ってか、そんなこと言ってる暇なかったじゃねぇかよ」
ケルトの言葉にキャルは朝のことを思い出し苦笑いをしていた。
「・・・そうだったわね」
すると、ミリがステージの方を指差し、ミゲウの試合が始まることを教えてくれた。ケルトとキャルもミゲウを応援するためにステージ上に視線を移す。
「1回戦、第2試合、キース、ミゲウ、グレアス、イルマの試合を始めます」
(改めて思うが、やっぱりミゲウはデカイ。俺が待合室で見上げていたキースでさえ、ミゲウを見上げている。あんな巨人のどこがいいんだか。飲兵衛だし・・・。)
ケルトはそんなことを考えながら横目でキャルを見る。キャルはというと、ニッコリしてステージ上を見つめていた。
見た目だけでいうのなら、ステージ上の誰よりも群を抜いているのはミゲウであった。余裕そうに見えるのも風格があるせいだろうか。流石、経験者と言わんばかりの態度でステージに立っている。
(まぁ、ミゲウなら大丈夫だろうな。にしても、そのポップコーン美味そうだなぁ。)
ケルトは勢いよく席を立つと、自分の分のポップコーンを買いに行こうとする。
「あたしとミリの分もよろしくね」
ケルトが去ろうとしたとき、キャルはすかさずケルトに伝える。
(何故分かったし・・・。)
「あ、あぁ」
キャルの要領のよさに驚き、少し声が裏返ってしまった。その声にキャルとミリはクスクス笑っているようだが、ケルトは何も無かったかのような素振りを貫くようにその場を後にした。
(あっ、ポップコーンどこに売ってるか聞くの忘れた・・・。まぁ、戻りたくないから自分で探すか。)
ケルトは自分の臭覚を頼りに、クンクンと臭いを嗅ぎ分けながら先の道を進むことにした。
・・・
1回戦第1試合、ケルトに負けたサラはステージを下り、外へと繫がる通路を歩いている。歩くにつれ、人の気配がなくなっていく。そして、サラは辺りを伺い誰もいないことを確認すると大声で泣き出した。サラがランプに来た目的を、ケルトが見事に潰したからだった。
悔しくて悔しくて堪えられない気持ちを出し惜しむことなく表に出す。
(カイル・・・、あなたは今、どこで何をしているの・・・。)
サラは獣王の杖をカイルのために使いたかったのだ。カイルとはサラの幼馴染の男性であった。現在消息不明。だが、生きていることだけは知っている。それは何故か。寄合所に行けば誰だって知りえる情報であった。カイルの首には今、賞金がかけられているからだ。その張り紙がある以上はカイルは死んでいない。だが、それも時間の問題である。いずれ捕まり処刑されるであろう。その前に賞金首となった理由を確かめたかった。カイルは本当に仲間を殺したのか。幼少を共に過ごしたサラにはそんなことをやるとは到底思えなかった。本人に聞くのが一番だが、今は雲隠れしていて聞くことができない。それにサラもまた少しは名の知れた賞金稼ぎであった。カイルに賞金が掛かっている以上もしかすればカイルはサラのことも警戒しているかもしれない。だからこそサラは獣王の杖にすがったのだった。
仲間殺しの真意をその杖で確かめたかったのだ。だが、誤算が起こったのだった。ケルトというノーマークの混血の手によって。
(全て完璧だったはず。)
サラはラカラソルテの寄合所で事前にランプの武闘大会の傾向を調べていたのだ。それでも飽きたらず情報屋にも立ち寄り入念に調べ、その上で大会に臨んだ。サラの魔力レベルは1000である。過去の優勝者のレベルは例年300前後。だからこそサラは大会に出場したのだ。そして、会場の待合室でも気を張っていた。だが、いたのはせいぜい300前後の魔力レベルの持ち主だった。アレン、ネイビス、彼らはサラからすればとるに足らない存在であった。そして、そこにいた混血も。魔力レベル的にはアレンたちにも劣る程の微弱なものだったのに。そんな遥かに劣るものに何故負けたのか。不意を付かれた訳でもない。正面からぶつかり、それでも負けたのだった。混血の存在はこの世界では未だに謎だ。そして、更には隻眼。そんな究極にレアな者と当たってしまった不運。こればっかりは自分を呪うほかになかった。
途方に暮れるサラ。最善であった手段を失ってしまったのだ。だが、ひとしきり泣いてスッキリしたのか、サラは気持ちを切り替える。
まだ、終わった訳ではない。何としてでもカイルに会う、と。
そう意志を固め、新たなる手段を模索するため、颯爽とサラはランプを去っていったのだった。
・・・
医療室で目覚めたアレン。彼は状況から理解する。負けだのだと。だが、腑に落ちない。あの時混血に殴られて負けたのか?一瞬殺気を放ったようだったが、それからの記憶がない。果たして自分はどうやって負けたのだろうか。しばし考えるが、考えれば考えるほどにステージ上での記憶が蘇ってくる。小ばかにされたように混血にあしらわれる自分。
「混血の分際で・・・」
アレンは立ち上がると救護班の人に礼を言い、部屋から出ていった。向かう先は受付。彼は会場へ入場する前に奴隷を1つ受付に預けていたのだ。アレンは受付で奴隷を受け取ると、会場内の人気のない場所を探した。
そして、その暗がりで今溜め込んでいる怒りを全て奴隷にぶつけるがごとく殴る蹴るの暴行を加え始めた。
「ははは。死ね、死ね」
全く抵抗しない奴隷は次第に体を丸めるようにうずくまる。そんなことはお構いなしに罵声を浴びせながら全力でボコボコにしていた。
・・・
ポップコーン部隊のケルト隊員は今、猛烈に会場をうろついていた。会場内に蔓延するポップコーンの香り。その根源を辿れずにいたのだ。
(どこだ、・・・どこなんだ。俺のポップコーン。)
と、耳に何やら聞こえてきた。それは女性の泣き声だった。鼻を啜るような音と、震える声で何度も謝るようなそんな音。
ケルトは気になり少し覗いてみようと思った。壁に張り付きアサシンのような動きで壁の向こう側を覗き見る。すると、そこには第1試合で戦ったアレンがいたのだ。そして、その前には下にうずくまる下着姿の女性がいたのだった。女性は一方的にアレンに暴行を受けている。アレンの声に耳を傾けると、どうやら第1試合の憂さ晴らしをしているようだということに気づいた。お前のせいで負けたんだ、など、もう訳の分からない事を言っている始末。
ケルトはため息をつきながらアレンの前に姿を現した。
「もうそのくらいにしとけよ」
ケルトは殴られる女性を痛々しく思い、アレンにそう告げる。だが、アレンは振り返りケルトの姿をチラッと確認すると再び視線を女性に戻し、蹴り始めた。どうやらケルトは今アレンにとっては空気になっているようだ。空気は己の存在意義を否定するが如くアレンに近寄り、女性を殴るために振り上げられた手を掴み静止させた。
「あ゛!お前には関係ないだろ」
アレンは掴まれた手を振りほどこうと暴れる。だが、ケルトがアレンの腕を離すことはなかった。
「痴話げんかもそこまでいくとやりすぎだぞ。もうその辺にしとけって」
「痴話げんかじゃねぇ。これは俺の奴隷だ。俺の物なんだから俺がどうしようが自由だろうが」
アレンの言葉にケルトは目を見開く。奴隷というワードにカチンときたようだ。
「奴隷だぁ?お前、クソだな。人ってのはな、上も下もないんだよ。故に人は皆平等だ」
ケルトの力説。対してアレンはというと腕を掴まれている状況下において、今度は足で自身の奴隷に暴行をはたらいていた。ケルトの言葉に関しては完全にシカトしている。
この世界には奴隷制度というものが存在している。それはこの世界の者からすれば普通のことであり、今のアレンのように奴隷に暴力をはらたいていようが特に気にする者はいない。それはひとえに奴隷とは人ではないという認識になっているからだ。奴隷とは物であるということ。だから、そう。アレンは別段特に悪い事をしている訳ではないのだ。物に八つ当たりする。壁を蹴るなど、それと同等のことをしているだけであった。ただそれはこの世界に生まれ育った者の常識であり、今この場にいるケルトにとっては非常識でしかなかった。ケルトは過去、この世界に来たばかりのときに友を攫われている。唯一人間のままであった友を奴隷として攫われたのだった。だからこそ、奴隷というワードには人一倍苛立ちを覚えるのであった。ケルトをシカトし尚も蹴り続けるアレンにため息をつくケルト。
「おい」
堪忍袋の緒が切れたケルトは掴んだ腕を強制的に引っ張り、アレンをこちらに向き直らせる。その勢いのままケルトはアレンの顔面に目掛けて渾身の左ストレートを振り抜いた。脳震盪を起こしたように膝から崩れ落ちるアレン。そのまま意識を手放してしまったのだった。
「大丈夫か?」
ケルトは優しく声を掛ける。そして震える女性の首輪に目をやる。
(こんなもの・・・。)
ケルトは女性につけられた鉄の首輪に対し苛立ちを隠せない。それは奴隷の証であった。この世界での常識はひとしきり爺さんに教わっていた。だから知っている。ケルトは女性の首輪に手をかけ、引きちぎった。
「もうお前は奴隷じゃない。とりあえず、ここではあれだから・・・、皆のいるところに行こう」
ケルトは自分の上着を脱ぎ下着姿の女性に着させてやった。女性の手を引きケルトはキッチリポップコーンを買ってミリたちのいるところへと戻っていった。
「は・・・?」
開口一番、キャルはケルトを見るなり間の抜けた声を漏らす。視界には傷だらけの女性を連れたケルトが現れたのだから。
「あ、あの・・・」
言葉に詰まるケルトであったが、ミリが首をかしげながら問いかけてきた。
「ケルト、その人は?」
「えっと・・・」
ケルトは女性にまだ名前を聞いていなかったことに気づく。
「お名前は何ですか?」
その問いに恐る恐るではあったが、口を開く。
「セリカ=レコスです」
「だそうです」
その言葉にキャルはため息をつく。そして、立ち上がるとセリカの肩を抱き自分の座っていた席にミリを移動させると、ミリとケルトの間の席へと座らせた。
「これから私はセリカの服を買ってくるから。それまでちゃんとセリカを守ってあげてね」
そう言うと、キャルは足早にその場を後にした。
ミリは下を向いているセリカの顔を覗く。
「ポップコーン、おいしいよ」
ミリはポップコーンを一粒掴むと、セリカに差し出す。暗い顔のままのセリカ。首に首輪をしていたような痣を見つけ、ミリはセリカの胸に抱きついた。
「もう大丈夫だよ。セリカは奴隷じゃない。私もね、少し前までは奴隷ではなかったけど、それに近いような境遇にいたの。でもね、もう安心していいんだよ。ケルトが守ってくれるから」
何やら山賊との生活を思い出したのか、ミリはセリカの胸の中で泣き出した。いきなり泣き出したミリに困惑するセリカ。何故かは分からないが、胸の中でなくミリを優しく抱きしめてあげていた。ケルトはそんな二人をただただ見つめるだけであった。
しばらくし、キャルが帰ってきた。キャルは帰ってくるなり、セリカを連れて行った。そして、服を着せ再び戻ってきたのだった。2人で何を話したのかは分からないが、ケルトはセリカが大分落ち着きを取り戻しているように思えた。キャルは何故奴隷になってしまったのか、セリカから聞いたことをケルトに話し出した。
セリカはヘルジャス王国の隣にある町、ミケラルの出身であるらしい。だが、半年前にミケラルは消滅してしまったのだとか。原因は氷の女王と呼ばれる者によって町ごと消滅させられたらしい。それから、そこには人攫いが大勢現れ次々に攫っていったのだとか。セリカもその1人で、ヘルジャスの奴隷オークションの店に売られたらしい。その後、セリカはアレンに買われ、ここに来たらしい。ケルトはその話で気になったことをセリカに質問する。
「氷の女王ってどういう奴なんだ?」
「氷の女王は化け物です。触れたものを消し去っていました。それは物も人もその対象らしく、私もその光景を目にしたので確かです」
「それ、怖いなぁ。是非とも遭遇したくないものである」
その発言にミリはケルトをジト目で見つめる。
「ケルト、デリカシーなさすぎ」
「あっ、笑いを誘ったつもりだったんだが、・・・すまん」
ケルトはガックリ肩を落としながらミリの言葉に反省した。




