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1-13 一回戦

13章 1回戦―サラ=ミカラス




新たなる部屋に案内された16人。すると、ラグは適当に指を指しだす。

「1回戦1試合目は君たち4人ね」



その言葉に唖然とする選手たち。その後も2試合目、3試合目と指名していく。

(てか、抽選とかじゃなく、お前が独断で決める感じなのね。)

ケルトは理不尽極まりないと渋い顔をラグに向けていた。

「1回戦はステージに4人で上がって貰います。ステージから落ちても負け、ギブアップ、戦闘不能、そして死んでも負けとなります。その中で残った1人が勝ち抜けで次のステージへと進めます。自分の順番が来るまではここで待機するなり、観客席へ行くなり自由です。ではまた後ほど」

そう言ってラグはケルトの横を通りすがるときに不適な笑みを浮かべた。

「待合室で我慢したご褒美だ」

ラグの発言の意味をケルトは十分に理解していた。

「おお、すまんな」

ケルトもまたラグと同様に不適な笑みを浮かべていた。1回戦、ステージ上にあがったのはサラ、ネイビス、アレン、ケルトだったのだ。

(アレンね。)

「頑張れよ。イジメっこ2人も相手にいるけどよ」

ミゲウはケルトの肩を叩きながら活を入れた。あいかわらず、ケルトはふざけた態度のままだった。

「やれやれ。さっきの恨み、晴らしてきますよ」

ステージ付近からミゲウが離れていった。ステージ上の4人は係員の指示により正方形のステージの4隅に配置される。そして、ステージの中央に審判らしき者が上がってくる。来賓席にはラグが座っている。ラグはオレンジがかった髪の男と親しげに話をしていた。ケルトには獣王が誰なのかまでは分からなかった。ただ、ラクトスは獣王が杖を届けに来たと言っていた。だから、恐らくはこの中に獣王もいるだろうと思うのであった。



(獣王。・・・獣族の王か。)

「では、1回戦第1試合、始めます」

コールと共に盛大に鐘が突かれる。

「おいおい、さっきのチビがいんじゃねぇかよ」

アレンは笑いながらステージの隅より歩き出す。そして、もう1人の金髪の大男の元までたどり着いた。

「相手は人間と女のようですね。この1回戦俺たちのどっちかが行くこと間違いないっすね」

金髪の男は腕を組んだ状態で相手である2人を白けた目で見ている。

「なぁ、ネイビス。ちゃっちゃと2人をやっつけてしまおうぜ。それからじっくりと戦おうじゃないか」

アレンは不適な笑みを浮かべながら隣に並び立つネイビスに提案する。

「了解です。じゃあ、最初はあのチビから。その後で女が逃げてなかったら次はそいつってことで」

「おーけー」

アレンとネイビスはゆっくりとケルトへ歩み寄ってくる。その間、サラという女はというと、ステージに座ってこちらを眺めていた。

(何だ、この、学校でよくあるイジメの風景的な状況は。そして、俺がイジメられっこ役って訳か。打破しなければ。)

ケルトはため息を吐きながら、近づいてくる2人に視線を向ける。

「おいチビ!今ならまだギブアップって言えば助けてやってもいいぞ」

アレンはヘラヘラとした顔でケルトに尋ねる。ケルトは大きく息を吸い込むと、腹に力を入れ、思いっきり叫んだ。

「そこのあなた!手を出して無くてもイジメなんですからね。見ているだけでもイジメられている方は傷つくんだから。どうだ!助けにこいや!」



ケルトは目の前で話していたアレンをガン無視し、ステージの端に座るサラに訴えかけた。

「はは、こいつ。女に助け求めてやんの」

アレンとネイビスはケルトの行動に大笑いし始めた。そして、それを見ている観客も笑い出す。だが、サラだけは少し微笑んだだけで、立ち上がろうとすらしない。

(くそ、作戦失敗だ。己の良心に問いかける作戦は上手くいかないか。ならば・・・、もっと良心に問いかけてやる作戦だ。)

「おりゃー」

ケルトは情けない声を出しながら、目の前にいるアレンにヘナヘナなパンチを繰り出す。それがアレンに当たってもダメージすら負っていない様子だった。と、ケルトはアレンに胸倉を掴まれ、持ち上げられた。

「おい、カス。俺に触れんじゃねぇ」

「助けてくださーい!」

ケルトは一生懸命サラに助けを求めるが、サラは全く反応しないどころか、もう明後日の方を向いていた。

(ジ、エンド。この世には良心がそもそもない人もいるということが立証されました。)

アレンはケルトを持ち上げたまま睨みつけている。その状況においてケルトはため息を一つ吐き、頭をリセットする。

「おい、触れて欲しくないんなら、自分から触りにきてんじゃねぇ」

アレンの目の前にいるのは先ほどまでの情けない姿の男ではなかった。態度を180度変えたケルトがアレンに持ち上げられた状態のまま睨み返していたのだった。

「ふっ、助けが期待できないから、今度は強気で脅してみるってか。マジ笑えるわ、こいつ」

アレンはそう言って、ケルトを地面に叩きつける。尻から盛大に叩きつけられたケルトはいてて、と、自分の尻をさすっている。



「最後通告だ。この場で土下座しろ。そしたら、ギブアップってことで許してやる」

アレンは下等生物を見るような素振りでケルトを見下す。隣ではそれを笑って見ているネイビスの姿があった。ケルトは正座をし、ため息をつく。

「はぁ。ギブアップ・・・、・・・、なんて言っても俺はお前らを無傷で帰さねぇよ」

ケルトは瞬時に立ち上がりアレンの胸倉を掴むと、そのまま後方に投げ飛ばした。少し遅れて隣にいたネイビスが構え始める。ケルトは倒れているアレンをチラ見する。

「くっふっふ。人間が。悪魔様に楯突いたことあの世で後悔させてやる」

アレンは立ち上がり頷くようにしてネイビスに合図を送る。今、ケルトはアレンとネイビスに挟まれた状態にある。前方と後方からの敵となればかなりの不利な状況と言えるだろう。2人は息を合わせたようなコンビネーションで打撃を放ってくる。

【破力】

アレンとネイビスは両者肉体強化の魔法を唱える。『破力』とは通常の3倍まで肉体を強化する魔法である。目の色も気づくと赤色に発光していた。壮絶な前後からのラッシュ。だが、ケルトには当たらない。ケルトは息を弾ませることなく最小限の動きで2人の攻撃をかわしていた。



まだ、1度も手を出していないケルトはそんなラッシュの中であくびをする始末。

「・・・まだ当たんないの?」

くたびれた様子のケルトに対し、アレンとネイビスは汗だくで息も弾みきっている。

(そろそろ潮時だな。終わりにしよう。)

退屈な時間を終わらせるため、ケルトはアレンたちに対して攻撃に転じようとした。だが。

(何・・・!?)

咄嗟の横からの拳にケルトは身を反対方向に大きく回避させる。(あれ?)ケルトは眉間に皺を寄せる。確かに拳がとんできた気配を感じ取り、ケルトは回避した。はずだった。だが、そこには誰もいなかったのだ。隙を突きサラが仕掛けてきたと思ったケルトであったのだが、サラは先ほどと同じ場所に同じ態勢で座っている。視線に気づいたサラは笑顔でケルトに手を振ってくる。

(あいつやべぇんじゃねぇか。早くこっちを片付けて・・・。)

ケルトはそんなことを考えながらアレンたちに視界を戻す。

「は!?」

ケルトは驚きのあまり大声を上げてしまった。目の前で戦っていたアレンたちは今、2人とも氷付けになっていたのだった。謎の現象にフリーズするケルト。

(なんじゃこりゃ・・・。)

ケルトは我に返り、再びサラの方を見るが、そこにサラの姿はなかった。

(まずい・・・。)



ケルトは見失ったサラを捜すために周辺をキョロキョロと警戒する。と、氷付けになったアレンたちの方から間の抜けた声が聞こえてきた。

「ヤッポー」

ケルトは瞬時に声のする方を振り返る。すると、氷の影からサラがひょっこりと姿を現したのだった。

(こ、こいつ、いつの間に・・・。)

ケルトは警戒心からか少し後ずさりをする。正面から見て、隙があるようで隙がないようで。今飛び込めばすぐに噛み付かれるだろうと踏んだケルトは少し、相手を探ることにする。

「お、お前、この町の者か?」

(あれ?何か、町の長老のセリフみたいになっちゃったよ。)

ケルトは自分で自分にツッコミを入れて、げんなりとなっていた。

「違うよ。この町、何もないじゃん。住めないよ」

(くっ。サラっとこの町の人に失礼なことを言いやがって。アブノーマルが好みなの?)

「じゃあ、何故この大会に出たんだ?」

「獣王の杖だよ。前から欲しかったんだよね」

サラは相変わらず笑顔のままケルトに返答する。

「因みにだが、何に使おうと思ってんだ?」

ケルトの質問に顎に指をあて考え出したサラは思いついたのか再び笑顔をこちらに向ける。

「言ってもしょうがないでしょ。あんたには関係ないし」

サラはそう言うと、アレンたちを固めている氷をケルトに投げつけてきた。ケルトはそれをヒラリとかわす。すると、氷は場外に落ち、叩き割れた。アレンたちは意識を失っているようでピクリとも動かなかった。



(いきなり投げつけるとか、マジドSだろ。)

「ゼロ距離から投げたのに避けちゃうなんて、中々やるね」

「ずっとこの町にいたせいか、久々に骨のありそうな奴に出会ったわ」

ニッコリと笑うサラに対し、ケルトもニッコリと笑顔を返す。

「混血さん、お名前何て言うの?」

「ケルトだが」

ケルトの返答にサラは何やら考え込む。その間、ケルトは放置状態にあった。

(このドS女が!)

ケルトはじっと待っていることに我慢ができずに、考えている最中のサラに拳を叩き込んでみた。

「なっ・・・」

ケルトは自分の拳を見て唖然とする。ケルトの拳はサラには届かず、すぐ手前の氷の塊にぶち当たった。さっきまではなかったはずだが。どうやらサラは瞬時にケルトからの攻撃を受け止めるために氷の壁を作ったようだ。距離も詰めなくていいようなまわいで?ケルトはこの状況に寒気が走る。明らかに格上であると確信できたからだ。

「えへっ、考えてる最中にそれはないよぉ」

最大限に警戒をしているケルトに対し、サラは顔をプゥーっと膨らませながら言う。

「うーん。やっぱり分かんない。ケルトなんて聞いたこと無いね。これでも強い人は結構知ってるんだけどな。田舎の人だからかなぁ」



グサッ。ケルトの心に何やら刺さった気がした。どうやらケルトは精神的ダメージを負ったようだ。

「傷つけたくないので、ギブアップしてください」

ケルトの言葉にサラは満面の笑みを浮かべる。

「優しいんだね。でも、まだ、触れてすらないよね」

サラは優しくケルトにそう告げる。

「あなたはどっちかっていうと、喫茶店とかバーとかで働いたほうが似合ってると思うぞ」

「あらあら。お褒めの言葉ありがとね。でも、こっちも退けないんだよね。獣王の杖は何んとしても手に入れなきゃいけないんだ」

その言葉の後、サラの周りを冷気が包みだす。突如現れた異変にケルトは咄嗟にその場から離れる。

【魔人力】

サラは肉体強化魔法を唱えだした。『魔人力』とは通常時の肉体を15倍に強化する魔法である。そして、目も青色に発光している。サラの笑顔は先ほどまでの愛くるしかったものとは打って変わり、怪しげな雰囲気をかもしだしている。

【氷矢】

サラはケルトに向け片手を広げると、そこから氷の矢を飛ばしてくる。既にケルトの拳をガードした氷の壁は消えていたのだった。矢の軌道は見えている。だが、いかんせん数が多すぎる。かろうじてかわす中、数本はケルトの体をかすって傷を作り出していた。



「これも避けるんだね。スゴイじゃん」

サラはそう言うと、瞬時にケルトへと詰め寄りハイキックをかました。

「おへっ」

サラのハイキックを腕で受けたケルト。驚くべきことに受けた腕が氷付けになってしまっていた。

「カッチカチやないかーい」

ケルトがそう大声を上げていると、サラは目を丸くした状態でケルトを見ていた。

「全身が凍ると思ったんだけどな」

予想外の結果にサラは少し機嫌を悪くしていた。

「しょうがないか。そっちがその気だってんなら、こっちも容赦しないんで。よろしく」

ケルトはそう言って、ガチガチに凍った腕を地面に叩きつけ、氷を割った。

「こちらこそ」

ケルトは返答を聞くや否や、サラに向かって突進する。余裕の表情を見せるサラはケルトに手のひらを向ける。

【氷壁】

ケルトの目の前に氷の壁が出現する。

(そんなもん。)

【鋼力】

ケルトは肉体強化の魔法を唱え、目を赤色に発光させる。

「な・・・。隻眼・・・。呪われた悪魔・・・」

サラはケルトを見て驚きのあまりそう呟いた。そう。ケルトは他の悪魔と目の光り方が違うのだった。一般的な悪魔は両目共に発光する。だが、ケルトに関しては片目しか発光しないのだった。それが何故なのか。それは現在この世界において解明できない謎なのだった。



故に、悪魔たちは隻眼の悪魔のことを呪われた悪魔と呼んでいるのだった。

ケルトは魔力を全開に出し目の前を阻む氷の壁に向かって頭突きをかました。バコーン。頭突きと共に氷の壁は粉々に砕け散ったのだった。

「な・・・」

氷の壁を壊されたのが予想外だったのか、サラの表情が曇る。そこに最大のチャンスが生まれる。

(世の中の皆さん。美人を屁とも思わない態度の私をどうか後で闇討ちするなんてことはしないでください。)

ケルトはそう祈りながら、サラの顔面にめがけて渾身の拳を繰り出した。そして、力いっぱいに振りぬく。・・・。スカッ。サラは空中に跳び上がり、ケルトの拳を避けたのだった。強烈な勢いで空をきったケルトの拳。体勢が崩れきったその隙をサラは見逃さなかった。

『――氷矢――。』

頭上より無数の氷の矢がケルトを襲う。これこそがピンチがチャンスに変わった瞬間であった。勝利を確信したサラは『氷矢』を止め、今のケルトの状態を確認しようとする。

「な・・・」

サラは目の前の光景に唖然とした。あの状況下では『氷矢』の全てがケルトを貫いている。防ぐことも逃げることも不可能だったはず。なのに・・・。サラの目の前にいるケルトは無傷で立っていたのだった。



「あなた、いったい何をしたの!?」

現実を受け止めきれずにサラはそう叫んでしまった。

「すまねぇ」

ケルトはサラにそう言うと、足元に落ちている氷の矢を拾った。矢はケルトの手の中で瞬時に溶けて消えてしまったのだった。

「本当は使いたくなかったんだけどさ。あの状況は本当にヤバかったから、ちょっとズルしちゃった。実は俺も負けられないんだよね」

ケルトは本当に申し訳なさそうな顔をしながらサラにそう告げる。

「火属性・・・。だから、今まで属性技を使わなかったっていうの・・・」

サラは自分の置かれていた状況に気づき、唖然とする。それは、自身は氷属性で、相手は火属性。属性不利はサラの方だったからだ。

「属性技なんて使ったら俺の勝ちが100%になっちまうじゃねぇか」

ケルトは頭を掻きながら、照れくさそうに言っている。

「人間にしては、男気あること言うじゃない」

サラはケルトの雰囲気を感じ取ったのか、自然に構えをとる。

「じゃあ、行くぜ」

そう言うと、ケルトはサラの顔面に拳を繰り出す。

「私、学校では体術もトップクラスだったんだからね」

サラはとんできた拳を左手で外に払い、その動作に同調させるように右ハイを繰りだす。ケルトはサラの右ハイをチラッと確認し、払われた左手をそのまま地面に付くように下げサラの右ハイの後ろに被せるように左ハイを放つ。



「やるわね」

サラはケルトの左ハイを確認すると、軸足である左足に力をこめ、その場から跳び上がりケルトの左足に乗った。

「運動神経抜群じゃねぇかよ」

ケルトは目の前で起こったサラの行動に度肝を抜かれていた。ケルトは左足に乗っているサラにそのまま攻撃を加えようと右足で地面を蹴り、胴回し回転蹴りを試みる。

「ふふふ」

サラは笑いながら、バク宙して、ケルトの蹴りを回避した。

「あなたが本気をださないのはあなたの勝手だからね。私はこれから本気でやらせてもらおうかな」

そう言うと、サラはケルトに向かって突進をかます。

「な・・・。これからが本気だと・・・」

サラの拳をケルトは横に避けようとするのだが、

『――氷塊――。』

サラの拳を氷の塊が何重にも包み込む。氷の塊で膨れ上がった拳は最小限の動きでかわそうとしたケルトにはもはや回避不可能であった。ドーン。ケルトは豪快にサラに吹っ飛ばされたのだった。

「ヒャー、ステージギリギリじゃねぇかよ・・・」

ケルトは自身の倒れている場所を確認してゾッとしていた。

「チャオ」

サラは倒れたケルトの頭上に即座に姿を現す。

『――氷拳――。』

サラの氷の塊がくっついた拳を異様な冷気が包み込む。ドーン。サラは真下にいるケルトめがけて自身の拳を地面ごとえぐる様に叩き込んだ。



「間髪なしじゃねぇかよ」

ケルトは獣のように手足の4本で猛烈にその場から逃げる。ボコーン。ケルトの逃げた先にはサラが既に移動しており、サッカーボールのようにケルトを蹴り飛ばした。

「ガードしたのかぁ」

サラはケルトの様子を見て残念そうにする。

「うへっ。また両手凍ってるし」

ケルトは両手の氷を破壊するが、既にサラはケルトとの距離を詰めている。

「まだ1回戦だぞ。このカードは決勝戦までとっとけよな」

恨みの顔を浮かべながらケルトは来賓席に座るラクトスをチラ見する。ラクトスはといえば、興味がないのか隣に座る男とまだおしゃべりを楽しんでいた。

ケルトは立ち上がりサラの攻撃を回避する。

「この暴力女が!」

「あー、言ったねぇー」

サラのラッシュを回避するためにケルトは大きく後方へ跳び下がる。ん・・・?あれ?

『――氷砲――。』

跳んだつもりのケルトはその場で動いていなかった。足元を見るとガッチガチに凍っている。

「足・・・凍ってんじゃねぇかよ。ってかあいつ、どこいった?」

ケルトが下を向いた一瞬の隙にサラはケルトの正面から姿を消す。と、ケルトの目の前には足があった。ぶへっ。サラは胴回し回転蹴りを放っていたのだ。それが顔面にクリーンヒットしたケルトは吹っ飛ばされ、今地面にひれ伏している。と、ケルトの元にサラが歩み寄ってきた。



「まだ、触れてすらないよね。どぉ?ギブアップする?」

地面に突っ伏しているケルトはサラの提案に笑い出した。

「言っただろ。俺だって退けないって。例え死に目をみようともな」

ケルトはサラではなく、客席を見ていた。視界には心配そうにこちらを見つめているミリの姿が映っている。ケルトはむくりと立ち上がると両足の氷を割る。

「もう1回だ。行くぞ、サラ」

「まだ、やる気が残ってるのね。でも、私のスピードについてこれるかしら」

サラは即座にケルトに向かって拳を放つ。

「ははは!」

「何!?」

正面に居たはずのケルトはサラのすぐ後ろにいる。そして、サラの手を掴むと、そのままブン投げた。ステージ上をホームラン級に飛ぶサラ。場外でも負けという言葉がサラの頭をよぎる。

『――氷壁――。』

サラはステージの端に氷の壁を作り上げ、場外に出る前に自身の体を壁で受け止めた。バキッ、クルッ。

「うわぁ・・・」

突然の壁の揺れにサラは驚く。と、サラは目を丸くする。サラの視界が180度変わったからだ。そして、サラはそのまま氷の壁に押しつぶされるように場外に叩きつけられた。咄嗟に壁を蹴り押しつぶされることは回避したのだが、そんなことはもう既に遅かった。サラは今場外に立っているのだから。

「あー、何なのよいったい」

ケルトはステージ上でしゃがみ込み、サラに目線を合わせた。



「ひひ。お前があの状況で場外を防ぐとしたらどうせ氷を使うんだろうなって思ったから。速攻でその真下に行ってみたんだよ。そんで、氷を叩き折って、クルッと回して場外に叩き付けた」

「ふぅ、考え方が野生そのものじゃない」

サラは下を向き深いため息をついた。

「でも、負けは負けだしね。杖はあんたに譲るわ。だから、負けないでよ」

「あぁ、分かったよ」

「あと、私の背中を取ったとき、あなた何したの?」

「ん?あれか?あれは魔法だ。『速移』を使ったんだ」

『速移』とは移動速度強化の魔法であり通常の3倍に強化することができる。

「なんだそりゃぁ。まだ、隠し持ってたのね」

サラは呆れてもう何も言えなかった。そんなサラにケルトは手を差し伸べる。サラはケルトの手を取り、ステージ上に引き上げられた。そして審判による1回戦終了のコールが響く。

「勝者、ケルト=バラモント!」

勝者のコールを聞き終え、ケルトはサラと握手を交わすと、ステージから下り客席に居るミリの元へ向かった。


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