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1章 ケルト=バラモント

             1章 ケルト=バラモント




ここは神魔区と呼ばれる土地の最奥、正義の島にある大監獄ヘルヘパセティック。

古魔区において神に牙を向くという重罪を犯した者達が収容される牢獄。

今しがた死刑宣告を受けた者が1人。その名はバーニスト。

罪名は元神の暗躍に手を貸し、現神に仇なそうとした。

「俺を封印するのか」

炎に覆われた魔物バーニストはそう口にする。

「いや、残念だが、お前は封印の適用外だ。今、ここで殺すことにする」

相対するのは右手がドロドロに解けている魔物だった。

「殺すとは穏やかじゃねぇが、本当にそれでいいのか?神でもあろうお方がミスミス罪人を逃がすなんて失態、許されないだろ。なぁ、カーティス」

バーニストが相対しているのは現状の神の1人であるカーティスだった。

「お前の素行調査はすでに完了している。力を全てだとして生きていたことが今まさに仇となったな。お前に復活の余地はない」

「ほう。封印を超える力で俺を殺せると」

「無論。塵も残さずに消し飛ばしてやる。こんなことめったにできないんだがな。だいたいの奴は血を分け分身を作って保険をかけてる。だから殺せばその分身に乗り移り再び復活する。だが、お前にはそれがない。殺されるリスクより、分身を作ることによる自身の魔力の低下の方を嫌がった。だが、お前の100%の力なんて取るに足らないんだよ。この世から消え去れ」

「俺を殺した所で何も変わらないと思うがな。だが、まぁ、ここでミスって捕まった俺にも責任がないわけではない訳で。諦めるしかないか」

「物分りが良くて助かる。では、お前を見せしめにしてやる」

【ディスグランシア】

「もし、次ぎ会うことがあればそのときは俺のターンだ」

カーティスは水属性の最大級の魔法を放った。その攻撃に対し抗うこともできずにバーニストはカーティスの目の前で消滅した。

意味深な言葉を一言残して。



                  ・・・


ケルト=バラモント。

そう。何の前触れもなくこの名前が最初に出るということは、つまるところ彼がこの物語における主人公であるということだ。彼に関する話を少々。彼は町ではない、町の付近の山に住んでいる。人里離れたそこは、外界との接触を遮断するにはとても便利な環境であった。だが、便利なのはその1点だけ。後は全てが不便と言えた。欲しいものがあったとしてもそこは山の中。腹が減れば食料を調達しにいかなければならない。風呂に入りたいと思えば、川から引いた井戸の水をくみ上げ、薪で火を起こし。そんな環境だ。だが、そんな不便な生活ではあったが、不幸ではなかった。彼の中の世界は幸福である。何もない、ただ生きるだけのその生活こそが。外界との接触を遮断することにより訪れる幸福。それは得てして何を意味するのか。

世界は混沌としているということだ。そして、平和とも言いがたいということであろう。この世界は悪魔の支配する世界。悪魔によって創り上げられた、悪魔にとって住み心地の良い世界。では、彼もまた悪魔なのか。それは半分正解で、半分は間違っているということ。半分間違っているからこそ、彼は人里を拒絶している。

彼は人間・・・、だった。そう。だったというのが事実であり正解だ。人間と悪魔との力差は3倍違うとされている。だが、それは一番弱い悪魔の話だ。そんな世界で人間が生きられるはずが無い。一方的に殺されて終わりなのか。


それでは、ケルト自体も既にこの世にはいないであろう。悪魔は自我を持ち人間と同様に思考能力を有している。その他で存在する魔物と言われるものは別なのだが。だからこそ、上手く搔い潜れば細々とはしているが生きていくことは可能である。それが例えどんな形であろうとも。でも、先にも言ったように、主人公であるケルトは人間ではない。ではいったい彼は何者なのだろうか。ケルトは混血である。悪魔の血と人間の血をどちらも有しているということだ。では、悪魔と人間の間にできたハーフ的人種なのか?それは違う。ケルトは元々人間だったのだ。人間にも悪魔と対抗する手段はある。それは悪魔の血を一定量飲むことで起こる覚醒。それにより、混血という人種になるのだった。先ほど言った悪魔と人間の間にできたハーフは混種という種族として分類されるらしい。つまりケルトは混血種の悪魔だということになる。

では、人間は目の前にいる誰彼かまわずに噛み付き血を啜ればいいのか。それは違う。悪魔も実のところは2種類に分類されるのだ。旧悪魔、俗にオリジナルと呼ばれている存在と新悪魔、一般的に悪魔と呼ばれる存在だった。オリジナルとはこの世界が創造されたときからいる元々の悪魔たちのことであり、人の体と悪魔の体の2種類を持ち合わせる存在だった。そして、新悪魔とはその後現れた、オリジナルの能力だけがコピーされた悪魔体には変身できない人型生物のことだった。


何も無い状態で生まれ、成長するごとに悪魔の能力が開花していく、そんな人種であった。

この世界に蔓延するのは新悪魔であり、オリジナルはごく少数であった。人間が混血になるために必要な血はそのごく少数であるオリジナルの血を啜るということなのだった。だから、ケルトが混血になれたのはひとえに運がいいということだったのだ。彼は現在混血としてこの世界で生活している。だが、一人ではない。同居人として悪魔と2人で暮らしている。外界を拒絶しているといったケルトが何故。そんな疑問を抱くはずだろう。彼は悪魔に拾われた、いや、救われたという方が正しいか。瀕死の状態で森の中に倒れていたケルトを同居人の悪魔が拾い、介抱したのだった。だからこそ、ケルトは今、生きているのである。

「おい、爺さん。もう体は大丈夫なのか?」

ケルトは今、山の中の自宅にいる。そして、とある一室の入口から、もう一人の同居人に話しかけているのであった。

「おお。じゃから、こうして畑仕事に行く準備をしておるじゃろうが」

同居人とはお爺さんだった。ケルトは青年。歳をいえば20歳そこそこ。

「じゃからって・・・。まだ風邪治ったばっかだろうが。せめて今日までは安静にしろや」

だが、ケルトの忠告も虚しく、爺さんは聞く耳を持たない。せかせかと準備をし、動きを止めようとはしない。

「よう言うわい。まだまだ若い者には負けんぞい」

爺さんは身支度を終え、勢いよく立ち上がると、ケルトに向かって歩み寄る。というよりは、ケルトが部屋の入口に立っているだけであり、爺さん自体は部屋から出ようとしているだけであった。


「何イキがってんだよ。畑仕事なら俺が代わりにやるから」

ケルトは部屋を出ようとする爺さんを必死に止める。

「お前には別の仕事があるじゃろうが。つべこべ言うな」

爺さんを心配し、労わる気持ちで言っているにも関わらず、ケルトは爺さんに叱咤される。そして、そのままケルトを押しのけ、家を出ていってしまった。肩にクワをを携えて。

「全くよぉ・・・。頑固ジジイが」

ケルトはひとつため息をつくと、自身にも仕事があったのだろう。準備を始める。ケルトは家を出て離れの倉庫へ行くと、大きな籠を準備し、その中に倉庫に保管してある野菜を詰めだした。これで良しと。ケルトは籠いっぱいに野菜を詰めると、それを背中にからう。どこに行くのかといえば、それは町だった。人里離れた山の山頂から麓の町まで、時間で言えば片道1時間という道のりであろうか。ほぼ毎日ケルトは通っている。町で野菜を売り、完売すれば帰る。それがケルトの日常だった。元々はこんな仕事、嫌だった。人里を拒絶したケルトは人と、いや、悪魔とは会いたくなかった。だが、生活をする上ではどうしてもお金は必要である。服を買ったり。そういうことはお金がなければできないのだから。同居しているのは見ての通りの白髪の爺さん。毎日山を上り下りさせるのは少々酷だ。だから、これは適材適所といえるのだろう。渋々ではあったが、ケルトは仕方なくこの仕事を担当している。

町ではケルトは社交的であった。


自身の感情なんて、商売する上では邪魔なだけであった。悪魔を憎む。だが、商売相手は皆悪魔である。町では混血が・・・。などと差別するような視線も中にはある。それは悪魔が高貴な者でそれ以外は下等種族であるという考えがこの世の常識であるからだろう。この世界において強さこそが絶対普遍の地位となるのだから。

ケルトは気さくな感じで野菜を売る。タイムセールなどもやったりする。そんなことをずっと続けていれば誰だって興味を惹かれる。顔なじみ、馴れというものもあり、野菜が売れるようになるのは時間が解決してくれた。今ではお得意様まで出来る始末。ケルトはいつもと同じように山を下り、野菜を売るために町を目指す。

山を下る森の中。それはいつも通りの静寂。森を歩く者をケルトはほとんど見かけない。それは、森の中には魔物が住み、他者に害を及ぼすからである。危険だと知っているから、町に住む悪魔たちは森へは近寄らない。だが、それはほとんどという表現であり、全くいない訳ではなかった。ケルトと同じように森に住む者たちだって中にはいるのだ。それは、ここで言えば山賊であるだろう。山賊は森を縄張りとし、身を潜め、稀に町へ出て略奪行為を行っているのだった。町で稀にではあったが、その現場に出くわしたこともあった。だが、ケルトが持っているものは野菜のみ。そんな魅力のかけらもない奴を誰が襲うというのだろうか。襲っても時間の無駄でしかなかった。


故に山賊からすればケルトなんて道端に落ちる石ころと同等の価値にしか値しなかった。

山の麓、それは町の入口である。そこに差し掛かったときだった。ケルトは視界の端に山賊らしき集団を視認する。集団とはいえ4人程度だった。大柄の男2人に小柄の男1人。そしてケルトは眉をひそめる。後一人は小柄の、というか少女だったからだ。あまりにも場違いなそんな存在だった。服装は他の山賊と同じく汚らしい服であり、仲間であることは確実であるのだが、何やら様子がおかしい。少女は直立不動で小柄の男の前に立っている。と、少女は思い切り打たれ、勢い余って後方へと吹き飛ばされた。倒れて暫くすると、少女は再び立ち上がり、またもや小柄の男の前で気をつけの姿勢をとる。小柄の男はまたもや少女をぶち、吹き飛ばす。いったい何をやっているんだ?ケルトはその行動に全く理解がおよばず、眉の間に皺を作っていた。と、またもや少女は起き上がると、男の前で気を付けをする。

(あいつ・・・、頭イカれてんじゃねぇのか。)

ケルトは自分の理解の範疇を優に超えていると判断すると、視線を元に戻し、そのまま町へ向かい歩き出した。だが、町へ向かうということはその山賊たちとは不本意ではあるが距離が縮まっていくということだった。あまり関わりあいたくは無いが、近くを通るだけだと思い、ケルトは静かに行動する。と、ケルトは一瞬鳥肌がたった。

あまりに山賊との距離が近いために、吹き飛ばされた少女がこちら側に転がってきたからだ。それ自体には何の感情も湧かない。


先ほどから見ていた光景となんら変わりはなかったのだから。だが、近づくことによって分かること。それは少女の表情。再び立ち上がろうとしている少女はボロボロに泣いていたのだった。鳥肌がたつとかもうそんな状態ではない。ケルトの背筋は凍っていた。少女の状態に息をすることを忘れるほど、体が硬直した。

(何してんだよ、こいつら・・・。)それでも、少女は立ち上がると、再び男の前へと向かい、走る。

ケルトの頭の中は真っ白となる。何故だろうか。理由なんて分からない。ただ、体が反応する。理性ではない、恐らくは本能が働いていてそれが行動として現れようとしているのだろう。悪魔とは関わりたくない、そんなケルトではあったのだが・・・。ケルトは本能を素直に受け入れ、自分の意思の全てをそれに委ねることにした。


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