震える少女と見下す伝説
なぜだろうか角堀先輩のそんな態度が気に入らなかった。
僕は頭の中の不可解な思考回路を断つために必死になってかぶりを振った。
僕が角堀先輩に思うところがあるはずも無いのに……
「なんなんですのあの態度。どこの誰だか知りませんが今思い出しても腹が立ちますわ!」
狐来乃はあの軽薄男のことが気に入らないらしい。僕もそこには同意するほかない。
すると桂葉が僕の顔を覗き込んできた。
「うおっ!?」
綺麗な黒髪やほのかに汗ばんで赤くなっている頬が目の前にあった。それになぜかいい匂いがしてドキドキして大声が出た。
桂葉は僕の大声に驚いたのかビクッとした。
「びっくりしたなぁ~。どうしたんだよ急に」
桂葉の目が怯えるような眼をしていたから気になって訪ねていた。
「あんたこそどうしたの?今にも人を殺しそうな殺気を放って。そんなにあの男が気に食わなかったの?あなたらしくないんだけど」
僕は桂葉の言葉に驚きながらも無視していまだに震えている角堀先輩のところに行くと彼女のことを上から見下ろした。
角堀先輩は僕のことを弱々しく見上げた。
「惨めですね先輩。あんな底辺の人間のクズに言い寄られただけであそこまでになるとは。その程度の人とは思いませんでしたよ」
きっと周りから見れば僕はさぞひどい奴に見えることだろう。
自分よりも大柄なヤンキーに絡まれて怖がっている女の子に対してきつい言葉を投げかけてさらに追い込もうとしているのだから。
ただ僕には確信があった。角堀先輩が求めているものは決してやさしい言葉での慰めではないと。
「僕は先輩のことを信じていたんですけど、期待外れでしたか。昔戦った時のあの強さはもうないんですね」
すると彼女はバっと顔を上げると僕の顔を不安げに見上げてきた。
僕は彼女を一瞥するとわざと狐来乃のところに黙って歩いた。
「やめて私を見捨てないで……お願いもうあなたしか私にはないの……」
「ならどうします先輩?僕は強い人が好きなんですよ。桂葉や狐来乃さんみたいな、あきらめないことが出来る人が。もう一度聞きます、先輩どうしますか?」
読み通りに怖がってきてくれた角堀先輩に再度疑問を投げかけた。
その怯えた表情からはなにも感じることはない。
心の内で何を考えているのか想像のしようもない。
もともと少し無理してキャラを作っているような気がしていたがここまでだとは思わなかった。
多少荒療治だけどこうしなければいけない気がした。
するとうつむいた角堀先輩は不安げな表情でこう切り出した。
「私の話を聞いてくれる?もちろん二人も。それを聞いた後協力してほしい。悪夢を終わらせるために」
「その話乗りました。やっと本音で話してくれましたね。場所を移しましょう、あんまりお店には迷惑かけたくないですから。二人もそれで良い?」
狐来乃と桂葉は黙ってうなずいていた。
それから数十分後僕たち四人は僕の家に集まっていた。あのままカフェで話を続けるのもお店の人に迷惑をかけてしまうと思ったからだ。
その後行く当てもなかった僕たちは比較的近くて一人暮らしをしている僕の家に来ることになったのだ。
僕は三人に座布団を進めながらカフェからここまでくる間一言も喋っていない角堀先輩にわざと感情を押し殺しながら声をかけた。
「さあ、先輩話してもらいますよ。一体過去に何があったのか。僕たちに何をしてほしいのか。洗いざらい全部」
僕の言葉にビクッと反応すると恐る恐るうつむいていた顔を上げた。
その弱々しさには今日の部活中のような優雅さはなかったが、部活中よりも美しく感じた。
これから真面目な話をするであろうに一体何を考えているんだ僕は……
「あのね、今から話すことはだれにも言わないでほしいの。お願い」
本当に角堀先輩なのか不安になるようなか細い声だった。
僕を含めてこの場にいる全員がゆっくりとうなずいた。