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3人目の所有者と伝説のAI

「ありがとうございました」

僕は相手に合わせて頭を下げた。

本当ならここで感想戦が始まるのだが、狐来乃は俯いており微かに震えているようだった。

このような場合勝者側から声をかけるのはマナー違反。

だから僕は狐来乃さんが落ち着くまで何もできない。


「このような戦法見たことがございませんが……」

狐来乃さんは自らの肩を抱き、恐る恐る訪ねてきた。

それもそのはず、だってこの戦法はーー

「この戦法は僕が昔研究していたものだよ。来光らいこうを使ってね」

「来光!?それってあなたが倒すまで無敵と言われたソフトのかしら?確かあれは製作者と連盟会長しかもってないんじゃなかったかしら」

驚いたようにそれに食いついてきたのは隣りで対局しているはずの角堀先輩だった。

先輩は相当衝撃的だったのか口を半開きにし固まっていた。

そこに対局前のおっとりとした印象は皆無だった。


「その来光ですよ。使うことができたのは偶々ですけど」

僕は嘘ついてはいない。本当に偶々運よく使うことが出来たのだ。

「それと来光をもっているのはもう一人いますよ。世間的には知られていませんけど」

角堀先輩は二回ほど瞬きをし、

「それってもしかして…」

「もちろん僕ではありません。今はだれが持っているのかはわかりませんが」

「ねえ、ちょっといいかしら?」

僕たちの顔を交互に見ながら桂葉がこの手の話題に珍しく割り込んできた。

その口調はどこか震えているようにも感じた。

「どうかしたの?」

僕が尋ねると、

「その来光?だっけ、それ多分持ってるもう一人って私だと思う」

その言葉に僕と角堀先輩だけではなく狐来乃までもが唖然とした表情をしていた。

「それ本当なの?桂葉」

僕が恐る恐る訪ねると、

「その来光って来る光って書いてあるやつでしょ?それなら一年ぐらい前に道場のおじいちゃんが譲ってくれたわよ?最も強すぎて参考にも練習相手にもならないけどね」


桂葉はさも当然といった口調でとんでもない爆弾を放り投げてきやがった。

その瞬間角堀先輩と狐来乃の目が獲物を前にした肉食獣のような眼に変わった。

「桂葉ちゃん。私に使わせてくれないかしら~」

「桂葉さん。わたくしにそれを使う許可をいただきたいのですが」

ほぼ同時に二人は声を上げた。


僕にはその後の展開が目に見えるように分かった。

彼女たちは生粋の棋士で勝負師でもあるのだから。

二人は少しの間睨み合うと来光の所持者である桂葉を置いてきぼりにして

「「どちらが使うか将棋で決めましょう(ますわよ)」」

この二人はお互いに話を聞くつもりがないらしい。


駒を並べなおそうとする二人に慌てて割って入る。

「ちょっと落ち着いてください二人とも。まだ桂葉も使わせるとは言ってませんし、今日はもう時間がないんですよ」

そう、忘れかけていたが今日はまだ部活決めのための週間で、一年生は本入部でなければ17時までしか部活に参加できない規則になっているのだ。

ちらりと部室の時計を確認する。

現在時刻は16時45分。もう一局指す時間はない。

桂葉も二人の剣幕に押し負けそうにたじたじとなっていたが(かなりレアで思いのほかドキドキした)僕が割り込んだかいもあって少し冷静になれたらしい。

「そ、そうですよ。私もまだあまり来光を使いこなせていないのに奪おうとしないでくださいな。三人で一緒に研究するのに使うのなら貸しますから」

僕はその桂葉の言葉に違和感を覚えた。

「待って桂葉三人ってどういうこと?」

僕は恐る恐る桂葉にたずねた。

すると桂葉不思議なものを見たような顔をしながら、

「うん、おかしなことはないよね?私、角堀先輩、狐来乃ちゃん。ほら三人じゃん」

僕は入っていなかった。


「僕だけ仲間外れ?」

「違うわよ。あんたはもう来光を倒しているし、来光を使って研究もしてる。一人だけずるくない?そ・れ・に、女子会に参加する権利は女子にしかないのよ?何なら切り落として参加する?」

「そうですわよ。殿方は絶対に侵してはならない聖域がございますのよ」

「私は三人がかりでも両馬君を倒すための手がかりを探しに行くわ~。そこにあなたはいてはならないの~」

三人は口々に僕を研究から遠ざけようとしていた。

理由はわからないが何故か焦っているように見えたが気のせいなのだろうか。

「わ、わかったよ。でも人手が必要なら声かけてね?それもないとさすがにもう立ち直れないと思うから」

僕は少し不安になりつつもそういった。

「「「もちろん」」」

三人は顔を見合わせて大きくうなずいてくれた。


その後僕たち四人は学校を後にし、近所のカフェに向かっていた。

角堀先輩がどうせだから親睦会でもしようと言い出して他の二人がそれに乗ったのだ。

それにしても男一人に対して女子が三人。

しかも三人が三人ともタイプの違う美少女なのだ。

周りの男たちの目が痛い。

注目されることが嫌いな僕は先に帰りたくなってきた。

「どうかしたの~」

僕の右側を歩いていた角堀先輩が心配して話しかけてくれた。

「いえ……すごい注目されてるなと思いまして」

僕の言葉で角堀先輩は周りの視線に気が付いたようだ。

「本当ねぇ~。なんでなのかしら~?」

「多分三人が可愛いから一緒にいる僕が恨めしいんでしょうね」

そう、三人とも美少女なのだ。

一緒にいる男が恨めしく思える気持ちはよくわかる。

僕だって逆の立場ならリア充消し飛べ位は思うかもしれない。

そんなことを考えていると、前を歩いていた桂葉にぶつかった。

どうやら立ち止まっているようだ。

「どうかしたの?急に立ち止まって」

そこで僕は桂葉以外の二人も驚いたような顔をしてこちらを見ていることに気が付いた。

え、僕何か言った?

一番顕著な反応を示していたのは狐来乃だ。

顔を真っ赤に染めてこちらをにらみつけながら、

「か、か、可愛いなんてそんにゃこと……貴方はどうしてそんなに空気が読めないんですの!?」

なぜかすごい剣幕で怒られた。

ちなみに少し噛んだところで保護欲をそそられたが、後でそれを伝えたら追加で説教を食らった。

ほめたつもりだったのに……

「あんたって昔から思ったこと全部言うわよね。それやめた方がいいと思うわよ」

桂葉にまでダメ出しされてしまった。

そこまではっきりと言われると少しは凹む。

そんなことがありながらも僕たちはカフェについていた。

僕たちが座っているのは窓際の一番奥の四人かけの席。

ちなみに席順は僕の横の通路側の席に桂葉、正面に角堀先輩。

なぜか先ほどのやり取りの後から僕を避けているようなそぶりのある狐来乃がその横に座っている。

僕が一体何したって言うんだ。

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