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伝説と弱さ

それでも僕たちの関係をあまり口外することはためらわれた。

「あまり気分のいい話ではないですよ。それでもいいですか」

愛花先輩はそれでもかまわないといい、僕は狐来乃と桂葉にも同じ旨を伝えた。

二人はすぐにうなずいて僕の話を聞く体制になった。

僕の右前に狐来乃が、左前に桂葉が座っている形になった。

ちなみに愛花先輩は電話を真ん中に置く形で話を聞くことになっている。

「もう一度言っておくけど、聞いて気分のいい話じゃないけどいい?」

僕がそう問いかけると狐来乃と桂葉はうなずいた。

電話の向こうで愛花先輩もうなずいているであろう雰囲気は感じた。

「それならいいけど……まずはあいつのことについて話しておこうか。本名を(こう)()()(てつ)、僕が初めて心から敗北を認めた相手だよ」

僕の言葉を聞いた三人が息を飲むのが伝わってきた。

僕もそれなりに強かった自信はあるが、虎徹はそのはるか上を行く強さを誇っていた。

三人はそれが信じることが出来ないようだ。

「虎徹はとても強かった。当時の僕じゃ全く歯が立たない程に。逆に虎徹からしても初めて自分に終盤までついてくることが出来た相手が僕だった。僕たちは互いを認めて共に切磋琢磨して己を磨いていった。今思うと初めてお互いが対等にライバルとして認めた相手だったんだと思うよ。僕はそんな関係が心地よかった」

僕はそこで一度口を閉じた。

これを話すことで彼女たちを幻滅させてしまうことを恐れてしまったのだ。

僕が急に押し黙ったのを訝しんでか桂葉が僕の顔を覗き込んできた。

「ちょっと大丈夫なの?顔色良くないわよ。本当につらかった無理しなくてもいいのよ」

「そうですわよ。わたくしたちの為ではなくご自身の為を一番にお考え下さいまし」

『わたしたちも無理させたいわけじゃないからね~。無理強いはしないわ~』

どうやあ三人は僕のことを心配してくれているみたいだ。

僕は黙って首を横に振る。

「大丈夫だよ。あの電脳王戦の翌日僕は虎徹に呼び出されていたんだ。別に呼び出しだけなら今までもあったし研究会の誘いかと思ったんだよ。で、僕は虎徹の家へと足を運んだんだ。最初は虎徹も僕のことを祝福してくれたんだ。僕も嬉しくて虎徹としばらく話し込んでいたみたいでね。結局その日はだべっただけでお開きになった」

ここまででならばただのいい思い出でで終わっただろうが、そうは問屋が卸さなかった。

「その帰り道僕はマスコミどもに捕まって質問攻めにあったんだよ。僕は怖くなって走って逃げたんだ。目が血走ってるみたいで怖かったんだ。でもあいつらはあきらめずに追いかけてきてね。僕はとっさに虎徹の家の方に逃げていたんだ。それで偶々虎徹が外にいて僕は助けを求めたんだよ。でもその時の光景は今でも忘れることはできない。あいつは全身血だらけになっていておまけに手には包丁が握られていたんだ。よく見ると全身の血は返り血で虎徹本人は無傷だったんだ。あとから追いかけてきたマスコミ連中もそれは唖然とした顔で虎徹を見つめていたよ。誰かは分からないけど記者の一人が虎徹を見て警察に通報したらしいんだ。当然だよね全身血まみれで包丁持った子供が佇んでいるんだから。どのくらいの時間そのままでいたのか僕にはわからない。僕や虎徹は勿論マスコミ連中も動かなかったからね。」

三人はだれも声を出さなかった。

出せなかったのかも知れない。

僕はなるべく普段通りの口調になるように気にしながら話を続ける。

「しばらくすると警察が来て虎徹を連行しようとしたんだ。そんな時に急に虎徹がわめき始めたんだよ。僕に助けろって言ってね。挙句の果てには僕のためにやったとか言い出す始末。正直理解できなかったよ。僕の知っていた虎徹は優しくて気弱な印象だったからね。別人が姿を変えているって言っても僕は信じたと思う。それでも僕は動けなかった。しばらくすると虎徹が僕にお前も自分と同類の怪物だといったんだ。これだけには真っ向から対立した。僕はお前みたいな人殺しと一緒にしてほしくないって。それを聞いた後ぞっとする声であいつは僕に裏切り者と小さく言って警察に連れていかれた。そのまま殺人未遂で少年院送りになったと聞いていたから今日学校で遭遇した時にはひどく動揺してしまったんだ」

僕は恐る恐る三人の気配を探ってみた。

「ねぇ、あえて言わなかったなら深くは聞かないけど被害者が誰かわかる?」

桂葉がおずおずと尋ねてきた。

僕は軽くうなずくと被害者の名前を口にした。

「虎徹に刺されたのは機上花奈きじょうかな。僕の母さんだよ」

僕の言葉に三人とも言葉を失っているようだった。

「桂葉は覚えているんじゃないかな。三年前に母さんが通り魔に刺されて入院したことを。その犯人が虎徹だよ」

桂葉はその時のことを思い出したのかうつむいてしまった。

昔から母さんに一番かわいがられていたのは桂葉だったからその時は夜遅くまで泣いていたと聞いたことがある。

かくいう僕も最初に母さんが刺されているところを見たときは呼吸ができない程だった。

「両馬さんはいったいどうするおつもりですの。復讐でもなさるおつもりなのかどうなのか。はっきりと教えてくださいまし。」

「あいつを恨んでないといえば嘘になるよ。復讐したいかどうかは自分でもわからない。

でも、だからこそ虎徹の相手は僕がする。せめて復讐するにしても盤上ですることにする。それがかつてのライバルにできる唯一のことだと思うから」

「それを聞いて安心しましたわ。もし復讐心にとらわれているようであれば貴方に≪狂獣≫の相手はさせられませんから」

どうやら狐来乃は僕があいつに対しての復讐心から冷静な判断が出来なくなっていることを危惧しているらしいが僕は思ったよりも冷静な自分がいることに気が付いてた。

僕はその旨を伝えると三人とも大きく深呼吸して安心しているようだった。

「それならいいけどあんな態度取られたら私たちも心配するでしょ!全く昔からそうなんだから少しは改善しなさいよね」

桂葉は、安心したのか少しかすれた声でそう言いながら僕の頭を軽く来ずいてきた。

「冷静になれているのでしたらもっと簡単に家に入れてくださいな。余計に心配するではないですか!」

狐来乃はものすごい剣幕で僕を叱りながらもその瞳は笑っていた。

『せめて理由を言ってから帰ってほしかったわ~。両馬君が思っているよりもわたしたちは両馬君のことを大切に思ってるんだから~』

愛花先輩は普段よりも多分わざとおっとりとした口調で僕をいさめてくれた。

僕の言葉は言葉にならなかった。

今までたまっていたものが堰を切ったかのように涙が流れて止まらない。

「あ、あれ、僕なんで。おかしいな、涙が止まらないや……」

僕が涙を止めようと思ってると桂葉が僕を抱きしめてきた。

「あんたもたまには泣いたっていいのよ。それを笑うような奴はここにはいないわ。あんたは昔から自分一人で溜め込みすぎなのよ。これからはつらいことや困りごとがあったら私たちに相談するのよ。仲間なんだからやれることはたくさんあるはずだから。だから今は心の中の者全部吐き出してすっきりしちゃいなさい。落ち着くまでこうしていてあげるから」

そういって桂葉は僕が泣き止むまでずっと頭をなでてくれていた。


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