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伝説と異名

本日二話投稿の二話目です。

その日の夜僕の部屋に予想外の来訪があった。

狐来乃が一人で訪ねてきたのだ。

僕はだれとも話したくなかったから狐来乃に帰るように何度もドアの中から叫び続けた。

「お願いします。入れてくださいまし。わたくししかいませんわ」

僕は狐来乃を入れるつもりはなかった。狐来乃だけじゃなく誰とも話したくなかったのだ。

狐来乃とも、桂葉とも、愛花先輩とも、だれとも話したくなかった。

何度か問答を繰り返していると急に狐来乃が静かになった。ついにあきらめたかと安どしていると狐来乃が酷く困惑した声で、

「なんであなたがここにおりますの!?≪狂獣≫虎徹さん!」

虎徹そのフレーズを聞いた途端僕は全身から冷や汗が噴き出るのがわかった。

「狐来乃危ない!!」

僕はとっさにドアを開けて狐来乃の前に躍り出た。そこには誰もいなかった。

僕は訝しんで狐来乃の方を見るとほほ笑みを携えた狐来乃が一人でそこに佇んでいた。

「これはどういうことかな狐来乃?もしかして虎徹がいたっていうのも……」

「もちろん嘘ですわよ。そうでもしなければ貴方出てこなかったではありませんの。とりあえず中に入れてくださいまし」

多少の呆れを含んだとげのある言葉で返されてしまった。

僕は溜息をつきながらあきらめて狐来乃を部屋に招き入れた。

「それで何か用だったの?狐来乃が一人で来るとは思わなかったけど」

少しとげのある言い方になってしまったがそれも仕方ないことだろう。

しかし僕は来訪者が来ることについては予想していた。

桂葉ならお隣さんだから来やすいし、愛花先輩はこの前の時のこともあったから来るかもと思っていた。

その中で一番可能性が低かった、否全く読んでいなかったのが狐来乃の来訪だった。

狐来乃はしばらく神妙な顔をしていたが、やがて意を決して口を開いた。

「わたくしがここに来たのは、いくつか伝えたいことがあったからですの。聞きたいことも山ほどありますがわたくしからは聞きませんわ。御安心なさいな」

正直驚いていた。

今日のことを根掘り葉掘り聞いてくるのかと思ったがそれはしないという。

そんな僕を見て何か察したのか狐来乃は苦笑した。

「人間聞かれたくないことの一つや二つありますわよ。わたくしにもあるのですから。それを無理やり聞き出すのは良いことと思えませんので。あなたが自発的に話してくれること以上のことは追及しません。たまに質問位はするかもしれませんが」

僕はありがたさで心がいっぱいだった。僕と虎徹の関係はあまり知られたいものではない。

僕はそんなことをおくびにも出さず狐来乃に本題を話すように促した。

「分かりましたわ。まず言いたいことは大会は五人でエントリーしたことですわ」

「最後のメンバー決まったの?どんな人?」

「五人目のメンバーは三年生の先輩ですわ。名前は山田(やまだ)小絵(さえ)さん、名前は女の子らしいですが殿方でしたわ。振り飛車党の本格派で最近転校してきたらしいですわ。桂葉さんと同じくらいの実力者で足手まといにはならないと思いますわよ」

どうやらまだ見ぬ実力者が潜んでいたらしい。

詳しく聞くと僕が先に帰った後三人も帰ろうと準備していたら飛び込んできたらしい。

桂葉と同じくらいの実力があるのなら全く問題はないだろう。

僕が一人で納得していると狐来乃がけげんな表情をしていることに気が付いた。

「どうかしたの?変な顔して。せっかく綺麗なんだからその表情はどうかと思うよ」

するとみるみる狐来乃の顔が赤くなっていった。

「きゅ、急に何言いだすんですの!?本当にあなたという人は!まぁどうせいつも通り無自覚なんでしょうけど!それに変な顔をしていたのは貴女の方ですわよ!って、それよりも虎徹さんの所属している高校とそのメンバーがわかったんですのよ」

前半部分はともかく後半部分は軽々しく聞き流せる内容ではなかった。

「それであいつの学校はどこなの?」

少し声のトーンが落ちてしまったがそれを無視して狐来乃に尋ねることにした。

「急に怖くなりましたわね。まぁいいでしょう。あの人の所属している学校は庵曇あんどん高校ですわ。わたくしたちにとっては最大の障壁となるでしょう。メンバーは≪狂獣≫を筆頭に全員が異名持ち。その中にはあの軽薄男もおりますわ」

あの軽薄男が異名持ちで虎徹と同じ学校とは思いもよらなかった。

「ほかのメンバーの異名はわかる?」

「あら、そんなことを気にするんですわね」

僕が異名を気にするのは、その異名が棋士の棋風を加味して考えられていると思うからだ。

僕はその旨を狐来乃に伝えると彼女も納得したようで丁寧に教えてくれた。

「なるほど理解しましたわ。実際にその通りですからね。彼らの異名は、≪狂獣≫、≪鬼人≫、≪絶氷≫、≪要塞≫、≪無形≫と呼ばれていますわ。前もお伝えしましたが≪鬼人≫はこの前の軽薄男ですわね。≪絶氷≫は元名人のご子息でその差し回しは父親を彷彿とさせる極端なまでの受け将棋ながら冷徹な寄席を武器としている棋士ですわ。≪要塞≫は気の弱い少年という井出立ちですがその見た目とは裏腹にかなり強情な差し回しで相手の攻めを全て受け止めて相手の心を折りに行くかのような棋譜が多いですわね。≪無形≫は何もかもが異質ですの。見た目は勿論のこと棋風にこだわりがないまさに無形といった人ですわ。居飛車、振り飛車関係なく奇襲戦法須あ平気な顔して指してきますので要注意ですわね。わたくしに良く突っかかってくるのでよくわかりますがあれは人間ではないですわね。ちゃんとしたら可愛い女の子ですのに嘆かわしいですわ」

僕は狐来乃に聞いた彼らの情報からある仮説を思いついていた……

その時狐来乃がこちらを心配そうに見てきた。

「わたくしが知っている事はこの程度ですが大丈夫ですの?それに……」

僕は彼女の言葉を最後まで聞くことが出来なかった。

僕の家のインターホンが鳴ったからだ。

誰が来たんだろうと訝しんでいると狐来乃が出てくれるといって玄関に向かっていった。

そして狐来乃はリビングに二人で戻ってきた。

「狐来乃誰だったって桂葉か。どうしたのこんな時間に」

「あんたが帰った後のことを伝えようと思ったのだけど先客がいたみたいね。まさか狐来乃ちゃんを部屋に連れ込んでるとは思わなかったけどね。これは言い逃れできないわよね両馬?」

その顔は笑っているのだが、目が据わっているのであった。

……これ、僕死んだかな?

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