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第百四十六話 東国騒乱~去就~

更新が遅くなり申し訳ありません。


武蔵国 利根川河川敷 佐竹常陸介義重


「申し上げます!北条方の陣に動き有り、軍を動かしている模様にござりまする!!」


利根川を挟み陣を構え、我らの背後から迫る奥羽の諸大名の動きを我らに覚らせまいと弓を放っていた北条方に動きがあったと物見の言葉に、陣内は騒然となった。

北畠兵部大輔殿が送ってくれた北畠軍の精鋭・五千を奥羽の動きに対応させようと後方に置いたが、奥羽の諸大名の動きに合わせて北条方が一気に利根川を渡り我が軍に攻め寄せてくれば、我らは前後からの挟み撃ちに遭い危機的な状況に置かれる事になる。そうなれば、佐竹家・宇都宮家・里見家といった兵部大輔殿と誼を通じた各家だけでなく此度の戦に際して合力を約した那須家や小田家・結城家などの兵の寄せ集めである我ら坂東諸将の軍が一纏まりにて踏みとどまれるかは些か懐疑的であり、最悪の場合は統制が取れず軍が瓦解する恐れがあった。

騒ぎの中、結城左衛門督晴朝殿が物見の兵に詰問の声を上げた。


「北条方の陣に動き有りと申したが、詳細を申せ!」


「はっ!北条方は先程と変わらず我らに対し弓による牽制を続けているものの、俄に土煙が上がりましてござります!!」


「土煙じゃと!?ついに利根川を渡り攻め寄せてくるつもりかぁ!」


物見の兵の言葉に、結城左衛門督殿は北条方が攻め寄せてくると考え興奮しているのか顔を紅潮させたが、


「いえ、土煙が上がったのは北条方の後方からで、北条方は引いているのではないかと…」


と思いもよらぬ言葉を物見の兵は口にし、その言葉に声を上げていた諸将はピタリと騒ぐのを止め、物見の兵を凝視した。

そんな中、落ち着き払った言葉で、


「北条方は小田原に向かったのでござろう。しかし、無駄な事を。今さら小田原に駆け付けたところで既に城は落ち、武田太郎殿を与力にされた織田右近衛大将様が入城され、間もなく駿河から徳川左衛門佐信康殿が北条相模守殿を伴い到着し、北条家は右近衛大将様に臣従することとなろう。

今さら坂東の諸将に弓を放ち、奥羽の諸大名の動きに合わせて退き、小田原に向かった所で何もならん。寧ろ、坂東の諸将に対して敵対し更に合力すると約した奥羽の諸大名を裏切り死地に引き込んだとなれば、“卑怯者”との汚名を残すだけであろうに…。」


驚きの内幕を語ったのは、北畠軍五千を率いる奥村助右ヱ門永富殿の補佐役として同道された大河内左少将具良殿であった。

大河内左少将殿は、織田家と戦に於いて織田三介と名乗っていた兵部大輔殿と戦い、左腕を失った。戦の後、兵部大輔殿が北畠家に養子に入られ家督を継ぐ事となった際に、左腕を失いもう戦働きは出来ぬと隠居を申し出たが、兵部大輔殿が戦は出来ぬとも北畠家の臣下として出来る事は数多あると隠居を許さず、以後は兵部大輔殿に心酔し、此度の様な補佐役といった裏方仕事を務めれられている御仁だと聞いている。

そんな古強者の言葉が陣内に染みて行った。と、


「「「「「「「「「「ドン!」」」」」」」」」」


唐突に鈍い爆発音が聞こえて来た。何事かと周囲を見回す坂東の諸将に対し再び左少将殿が、


「御案じ召さるな。後方より迫る奥羽の諸大名の軍に対し奥村助右ヱ門殿率いる北畠手筒隊による砲撃が開始されただけにござる。」


事も無げに告げられた。告げられた言葉の意味が理解できない多くの武将たちは疑いの眼差しで左少将殿を見るが、


「ドン・バン・ボン・バン・ドン・ボン・ドン・ドーン!」


けたたましい爆発音が響き渡ると間もなくして奥羽の諸大名の動きを見張っていた物見の兵が慌てた様子で陣内に駆け込んで来る。


「も、申し上げまぁす!迫りつつあった奥羽の諸大名の軍に対し、奥村助右ヱ門様の下知にて北畠軍の手筒隊が攻撃を行い、奥羽軍の先陣は壊滅状態となり奥羽軍は統制が取れぬ様子にて、助右ヱ門様からこれより追撃に入る。奥羽軍撃退の功を我らのモノとするが宜しいか?との事にござりまする。」


と、迫り来る奥羽軍の先陣に痛撃を与え、更に北畠軍が奥羽軍の追撃に入り奥羽軍撃退の功を独り占めしてしまうぞ!という儂ら坂東武者に対する挑発とも取れる文言であった。

北畠軍の手筒隊が如何様な攻撃を為し、奥羽軍の統制を乱したかは分らぬがこのまま手を拱いて奥羽軍の撃退の功まで北畠軍のモノと成れば、坂東武者の名折れ!儂はすかさず、


「奥羽軍先陣を潰された事、まことに見事な御働き。

北条方が陣を引くに併せ我ら坂東の諸将も奥羽の者共に二度と坂東の地に踏み込まぬ様に我らの力を御披露致す所存。追撃は深追いせずゆるりと致すようにと伝えるのじゃ!」


そう物見の兵に北畠軍への伝令を伝えると、陣内で呆けている坂東の諸将に活を入れる。


「各々方!北条が尻尾を巻いて逃げ出た今、打ち払うは奥羽の者共にござる。

これより全軍を上げて奥羽の者共に坂東の地へ我らに断りもなく足を踏み入れたらあいなるか身を以って味あわせようぞ!!」


「「「「「おぉ~~!!」」」」」


儂の檄に呼応した諸将はそれぞれの軍の許へと向かい我先にと追撃の火の手を上げた。

尤も、奥羽の者共は北畠軍が用いた手筒砲によって既に瓦解しており、我ら坂東の諸兵は送り狼の如く逃げる奥羽兵を追い払うだけで事足りてしまった。

それでも、数多の奥羽兵を討ち取る事となった。

討ち取った者の中には混乱する奥羽諸大名の中で最後まで統制を保ち、奥羽の諸大名が逃げる時を稼ぐために殿を務めたのが伊達総次郎率いる伊達軍であった。

伊達の兵はその八割ほどが討ち取られる事となりその中には伊達総次郎の臣・鬼庭周防守良直、遠藤文七郎基信などもいたが、伊達総次郎は残りの二割の兵と共に奥羽へと逃げ延びた。


下野国 山王峠 佐竹常陸介義重


「申し上げます!北畠兵部大輔様、御着陣にござります!!」


奥羽軍を下野国から岩代国へと追い払い山王峠で行軍を停止し、この後は如何するか話し合うために陣を敷き一息いれていると、北条家の本貫・小田原城を攻め落とした北畠兵部大輔殿が着陣したとの報告がもたらされた。

儂や里見権七郎義重などは兵部大輔殿の着陣の報せに笑みを浮かべたが、宇都宮下野守殿や那須修理大夫資胤殿、結城左衛門督殿らは渋面を浮かべた。

兵部大輔殿を直接知る儂や権七郎殿と違い宇都宮下野守殿や那須修理大夫殿、結城左衛門督殿は奥羽軍を追い払った後にのこのこやって来て何のつもりか?と疑心を抱いている事は想像出来た。

 儂らは陣の奥に席を設け各々床几に腰を下ろして兵部大輔殿が現れるのを待っていると、陣の外がザワザワと騒がしくなり間もなくして兵に案内された兵部大輔殿が、北畠軍五千を率いた奥村助右ヱ門殿、大河内左少将殿ともう一人体躯の大きな偉丈夫を従え陣内に参られた。

 久方ぶりに会う兵部大輔殿は小田原城攻めから直ぐに此方に参られたのか、纏う朱色の甲冑には返り血や土などの汚れが薄っすらと見えたものの、依然里見家の居城・久留里城にてお会いした時と変わらず精悍な表情であった。


「小田原城攻めからの転戦、ご苦労にござります。」


「いやいや、北条の兵が北上した事を知っておりながら小田原城攻めを優先した事、真に申し訳なく。遅まきながら奥羽攻めの後詰めとして参陣いたしました。」


「何を申される。兵部大輔殿が小田原城を落としてくれたからこそ北上していた北条の兵は我らを奥羽の者共に押し付けて早々に兵を退いた。

また、我らの背後を突こうとした奥羽の軍は助右ヱ門殿率いる北畠の手筒隊の攻撃に統制を失い我先にと逃げ出し、我らは逃げる奥羽軍を追撃したまでに過ぎませぬ。

言うなれば奥羽の軍を坂東から退けたのは、兵部大輔殿が差配による物と言えましょう。」


着陣早々に我らを労う言葉と共に遅参の謝罪を口にする兵部大輔殿に、儂は兵部大輔殿が小田原城を落とした事で、武蔵国を越えて我らが領国に攻め入ろうとした北条上総入道らが奥羽の軍が姿を現した途端、兵を退いた事。

更に北条の兵と利根川を挟んで対峙していた我らの背後を突こうとしていた奥羽の軍勢は奥村助右ヱ門殿率いる北畠軍の手筒隊の攻撃によって統制を失い、我らは攻勢の好機を得た事で奥羽軍を坂東の地より追い払う事が出来たのだと告げると、宇都宮下野守は渋面を浮かべ、那須修理大夫や結城左衛門督も面白くなさそうな顔をした。

だが、事実を事実として受け止めめず己の面目を気にして己の都合の良い様に事実を捻じ曲げては、大きな過ちを生む。

乱世の世は帝の御意思に副い右近衛大将様が収めようと動かれ、東国は兵部大輔殿が右近衛大将様の指示に沿い動かれている。

儂らは、兵部大輔殿と共に東国の安定に合力すると約し、右近衛大将様に反旗を翻した北条家に対して動いた。

もちろん、各大名家は己が思惑を腹に抱え此度の戦に参陣しているとは言え…否、己が思惑を抱えているからこそ兵部大輔殿や右近衛大将様を謀る事が慎まねば、と思っていたのだが…、


「常陸介殿、それは余りにも兵部大輔殿に阿り過ぎと言うモノ。確かに手筒にて奥羽の軍は統制を失い我先にと兵を退き申したが、さりとて時を与えれば容易に立て直しを図っていたでござろう。

その為に殿を務めた伊達総次郎めがあれ程の犠牲を出しながらも最後まで崩れずに抵抗したのだ。奥羽の軍勢を此処、山王峠から岩代国へ兵を退いたは我らの働きによる物にござろう。」


と自らの働きを誇張する宇都宮下野守。そんな下野守に同調するように口を開いたのが那須修理大夫で、


「左様!坂東の地に入り込んだ奥羽の軍勢を追い返した我らの働きに対し、右近衛大将様はどの様に報いて下されるか楽しみな事よ。」


そう恩賞を強請ろうとした。


「はて、これは面妖な。奥羽の軍勢を岩代国に退けたと申されるが、そもそも奥羽の動きが怪しき事は御伝えしてあったはず。それを放置し、下野国の奥深く武蔵国との国境である利根川の河川敷まで侵入を許したは、宇都宮下野守殿や那須修理大夫殿の手抜かりではないのかな?」


「「ぐっ…」」


「これ!左少将、その物言いは下野守殿や修理大夫殿に対し失礼であろう。」


恩賞を強請る宇都宮下野守や那須修理大夫に辛辣な言葉を投げ掛けたのは、兵部大輔殿の後ろに控えていた大河内左少将殿であった。

左少将殿の言葉に下野守や修理大夫は何も言い返せず言葉に詰まり渋面を浮かべた。

そんな二人に助け舟を出したのは、他ならぬ兵部大輔殿であった。

兵部大輔殿は左少将殿を叱責すると、


「我が家臣が失礼な事を申しました。どうかお許しを。」


と、下野守と修理大夫に対して頭を下げた。その様子を見た下野守と修理大夫は“してやったり”とニヤケ顔を浮かべたが続く言葉に表情を凍らせた。


「恩賞でござるか…ならばこのまま北へ。

天下静謐をと言う帝の詔に対し反旗を翻した奥羽の諸大名は朝敵となりました。北条家は既に右近衛大将様に服従の意思を示され、此度の企てを主導した者達には相応の罰が下りましょう。残る問題は、右近衛大将様に誼を通じ天下静謐への合力を約しながらそれを謀った伊達総次郎をはじめとした奥羽の諸大名にはその責めを負うていただかねばなりませぬ。

更に此度、北条家の動きに乗じて下野国に侵攻した所業は許せざるもの、御領地に土足で上がり込まれた宇都宮下野守殿や那須修理大夫殿にとってもこのまま捨て置くことは出来ぬと存ずる。

このまま山王峠を抜けて北上し此度の企てを主導した伊達総次郎は勿論の事、奥羽の諸大名を平らげその働きに鑑みて東国平定の恩賞といたそうと存ずるが如何に!」


と、兵部大輔殿はこのまま奥羽の地へ攻め込み一挙に東国の平定をすると告げたのだった。



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