表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/146

第十二話 火縄銃の改造

長くなるので二話に分けました。その一話目になります。


父から墨俣築城を献策した褒美に火縄銃を貰ったものの、生駒屋敷では試射など出来る訳もなく、時々眺めるだけの詰まらない日々を送るものと思っていたのだが、何故か墨俣築城で名を上げた柴田権六と木下藤吉郎の二人が生駒屋敷を訊ねて来てくれるお陰で、俺は権六と藤吉郎の二人が立ち会う時だけ火縄銃の試射を許してもらえるように母と八右衛門殿を説き伏せることに成功し、寛太と五右衛門を引き連れて火縄銃の試射を繰り返していた。

とは言え、まだ体が十分に成長していない俺や寛太たちが火縄銃を撃つと、その反動で手元から火縄銃が吹き飛んだりしてまともに的に当てることは出来なかった。


「茶筅さま、やはり我らが火縄銃を扱うのは早いのではないでしょうか。こんな調子ではいつか大きな怪我をすることになりは致しませぬか?」


「寛太の言う通りだ。俺たちの体じゃ火縄銃の力に負けちまう。まぁ手だけで持つんじゃなくて抱え込むようにして持てればちったあ違うのかもしれねぇがな。」


火縄銃からの反動で筒先が跳ね上がり後ろに吹き飛ばされそうになって踏鞴を踏む俺に寛太と五右衛門が火縄銃を扱うのは時期尚早だと言ってきた。

確かに二人の指摘通り、まだ十歳にもなっていない俺達の体では火縄銃の反動を押さえ込むのは難しい。しかも、火縄銃を構える際には台木(銃床)と台かぶ(銃把)を握って撃つためすこぶる安定感が無い。

 現世では学生の頃に友人に誘われてサバイバルゲームに参加したことがあったが、その時に使った米軍で採用されていると言う自動小銃(M16)には、銃把グリップから延長した床尾ストックを肩に当てることで銃を構えた時の安定感が格段に違っていた。

 火縄銃は銃身が長く、銃身下部の台木を持つとはいえ床尾が無い分安定しないのだ。

でも何故火縄銃は床尾が無いのか?南蛮から伝わった形がそのまま受け継がれているのだと言ってしまえばそうなのかもしれないが、安定しない形状で使い続ける理由が分からなかった。


「権六殿。藤吉郎殿。お二人にお訊ねしたいのだが、何故火縄銃はこのような形なのでございますか?」


「火縄銃の形でございますか?南蛮から渡って来た時からこのような形をしていたと聞き及びます。その理由はと問われましても…」


俺の問い掛けに権六は困惑したように眉間に皺を寄せ言葉を濁し、藤吉郎も俺が何を聞きたいのか分からないと言ったような顔をして首を傾げた。


「某たちが未だ体が小さいために火縄銃を持て余している事は紛れも無い事実であることは分かっております。しかし、台木を持つとはいえこの長い銃身の火縄銃を台木と銃把の二点だけで保持し続けるのは大人でも大変なのではないのですか?」


俺の言葉に二人は何を問われているのか分からない様で一層困惑の度合いを深めていった。そんな二人に俺はどう説明したものかと暫し思案し、


「藤吉郎殿、火縄銃を持ちこれから某が言う通りにしてもらえませぬか。」


「分かり申した。茶筅様が何を疑問に思われているのか分かりませぬが仰せとあれば。」


俺の依頼に藤吉郎は快く了承し、火縄銃を手に取った。


「それでは藤吉郎殿、火縄銃に火薬と鉛玉を入れて、槊杖で突き固めて射撃準備を整え火縄銃を構えてください。」


俺の言葉に合わせて藤吉郎は火縄銃に火薬と鉛玉を込めて射撃の体勢に構えた。それから暫くそのままの体勢を維持していてもらうように何も言わずにいる俺に、藤吉郎は困惑するような表情を浮かべていた。


「藤吉郎殿、敵はこちらに火縄銃があるのを見て慎重になっていますが、いずれは近づき火縄銃の射程に入ります。それまでは射撃体勢を保ちご辛抱を!」


俺の言葉に藤吉郎は何時でも射撃が可能なように火ぶたを開き俺からの『放て!』号令がかかるのをジッと待った。しかし、いつまでも号令をかけない俺に藤吉郎はチラチラと横目で俺の方を窺うようになる。それでも俺は号令をかけず時間が経つのを待っていると、次第に重たい火縄銃を構えたままの姿勢を保つのが辛くなってきたのか藤吉郎の額には薄っすらと汗が吹き出し、構えていた火縄銃の筒先が揺れ出した。


「これ!藤吉郎その様に筒先を揺らしては的を外すぞ。しっかりと構えぬか!!」


俺の隣で成り行きを見守っていた権六が火縄銃の筒先が揺れ出したのを見て藤吉郎に叱咤する言葉を掛けたが筒先の揺れは止まらず、


「親仁様、そうは仰いますが火縄銃を構えたまま姿勢を維持すると言うのはなかなかに大変でございますぞ。茶筅様ぁ~まだでございますかぁ!」


藤吉郎は泣き言を口にした。その言葉を聞きもう十分だと感じた俺は直ぐに次の指示を出した。


「放て!」


いきなりの射撃命令に藤吉郎は狙いも定めず引き金を引いてしまい、火縄銃から放たれた鉛玉は的を大きく外すこととなった。


「藤吉郎殿、ご苦労様でした。権六殿も見ておられて分かったと思いますが、火縄銃は筒先が揺れると的には当たりませぬ。しかし、火縄銃本体の重さによって長く構え続けるとどうしても筒先が揺れてしまう。これは揺れぬように鍛錬すれば良いという物ではありません。人は重い物を持った状態で体勢を維持し続ける事が出来ぬものです。では、どうしたらよいのか?」


「う~ん、射撃体勢を長く維持するのが出来ぬとなれば、構えさせたら直ぐに射撃を行えばよいのではございませんか。」


俺の問い掛けに権六は射撃体勢を長く保つのではなく、敵の接近に合わせ素早く構えて撃てば良いのではないかと応えた。


「権六殿、火縄銃の射程は如何ほどかご存じか?」


「そうですなぁ…五町(五百メートル)から七町(七百メートル)ほどではありませぬか。」


「それは曲射を用いた時の最大射程でございましょう。ただ撃つだけならばそれでも構いませぬが、敵を殺傷するのが目的であれば半町(五十メートル)から一町(百メートル)が有効射程となりましょう。敵が押し寄せる中、有効射程に入ったのを見定めて構え撃つことが実際に可能でございましょうか?」


俺の問いに、権六は言葉に詰まり藤吉郎は顔を青褪めさせて首を横に振った。


「権六殿ほどの剛の者ならば出来なくは無いのでしょうが、実際に火縄銃を扱うのは足軽たちにございます。足軽に権六殿と同程度の胆力を求めては酷と言うもの。となれば予め構えた上で敵が有効射程に入るのをジッと耐えるしか手はございますまい。」


「で、では如何したら宜しいとお考えなのですか茶筅様!」


俺の指摘に悲鳴じみた声を上げたのは藤吉郎だった。藤吉郎は墨俣築城の功績で足軽大将に取り立てられたばかりだったため、つい先日までの同輩たちの身を案じ声を上げたのだろう。そんな藤吉郎に俺はニコリと笑いかけ指を二本立てて見せた。


「策は二つ。一つは火縄銃を扱う鉄砲隊を守る防護柵や馬防柵を設け、敵の接近から鉄砲隊を守る工夫をする。もう一つは火縄銃の形状を射撃体勢を執り易い物に変える事でござりましょう。」


「鉄砲隊を守る防護柵を行く様に設けるか、火縄銃の形状を変えるでございますか・・・」


俺が提示した案をオウム返しする権六。一方、藤吉郎は俺が上げた案について思う所があったようで、


「それであれば防護柵を設けるがよろしいかと!」


と声を上げた。俺はそんな藤吉郎にニヤリと笑い、


「防護柵の設営は墨俣の築城で藤吉郎殿が手掛けられたお働きが参考になりましょう。さらに言えば、防護柵から一歩踏み込み戦場に防御陣を設けて敵を誘い込むことが出来れば、一方的に敵を打ち破る事も可能になるかもしれません。」


と告げると藤吉郎は我が意を得たりとばかりに大きく頷いた。


「確かに、殿は足軽に三間半の長槍を持たせ遠くの間合いから敵を攻撃することで味方の死傷者を減らそうとされておる。より遠くからの集団で攻撃を加えることを考えれば、防護柵を用いた火縄銃の運用は殿の意にも叶うかもしれん。しかし…」


「戦の花形であった騎馬や長槍隊による突撃などには防護柵は邪魔になる。でしょうか?権六殿」


防護柵に一定の利を理解しつつもこれ迄とは異なる戦になるのではと言葉を濁した権六の言いたいことを敢えて明らかにした俺に、権六は渋面を浮かべた。そんな権六の不安を払拭するように俺は敢えて大きな笑い声を上げた。


「わっはっはっはっは、ご心配はご無用にございますぞ権六殿。幾ら火縄銃で敵に先制を加えようとも、最終的に戦の趨勢を決定付けるためには長槍隊や騎馬での突撃は不可欠となりましょう。これまでの戦では弓隊による遠距離射撃に続き長槍隊の叩き合い、そして騎馬隊の突撃と推移していったものが、弓隊と長槍隊の間に火縄銃を用いた鉄砲隊の射撃が入り敵により多くの打撃を与えた上で長槍隊と騎馬隊を用いて戦を決定付けると言う流れになるのではないかと考えております。」


そう話すと、権六は誰もが一目で分かる様な安堵の表情を浮かべたため、俺だけでなく藤吉郎も共に話を聞いていた五右衛門なども笑い声を上げたために、羞恥から顔を赤く染めその場を和ませた。


「となれば、茶筅様は如何するのが良いとお考えなのでしょうか?」


場が和む中、俺の話を真剣な顔で聞いていた寛太が訊ねて来た。俺は、緩んだ表情を引き締め寛太の方を向き、横目で権六と藤吉郎を見ながら話を進めた。


「防護柵を用いることも一つの手としてこれからの戦では有用だと思うが、それはあくまでも鉄砲隊を守るためで戦陣を組んだ際は一部に設けるに留めることになると思う。そう考えると、防護柵のみで火縄銃の運用は万全とは言い難い。やはり火縄銃自体に手を入れることも考えるべきではないかと思う。」


俺の言葉に寛太は大きく頷き、権六と藤吉郎も思案顔を浮かべた。


「防護柵については実際に戦場に出られたことのある権六殿や藤吉郎殿にその運用を考えていただいた方が間違いは無いと思います。時に藤吉郎殿、お手前の御舎弟小一郎殿を某にお貸しいただけませぬか?」


防護柵の扱いは権六と藤吉郎に任せると告げると二人は互いに視線を交わしてから力強く頷いたが、その後に告げた俺の言葉に藤吉郎は驚いたようだった。


「小一郎にございますか?貸せと申されればお貸しいたさぬ訳には参りませぬが…」


自分の右腕ともいえる小一郎を貸せと言う俺の言葉に明確な返答を渋る藤吉郎。俺はそんな藤吉郎を見据えるように笑いかけながら続けた。


「火縄銃に手を入れるなどという上手くいくかどうかも分からぬ事をお二人にお願いする訳には参りませぬ。某が仕出かしたことならば、父に『たわけ!』と一喝されるだけで、後は笑い話となりましょう。しかし、某が火縄銃に手を入れようと考えても、それを成してくれる職人に伝手がございませぬ。顔の広い藤吉郎殿の御舎弟殿ならば某の与太話に付き合ってくれるような物好きな職人をご存じなのではと思いまして。」


そう告げた俺を見て藤吉郎は表情を引き攣らせながら小一郎を貸すことを了承するのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 銃架(銃を支える杖。あるいは槍)です? 銃床は鎧の使用に支障出ますよね。 銃架も嵩張り邪魔なので良し悪しですし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ