表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それ行け!!基礎情報第1科  作者: インテリジェンス分析所
3/5

情報員の視点

情報員の視点


 昼食を終えた有賀が1科の事務室に戻って来ると、加藤が厚目のファイルを読込んでいる姿が目に入った。

「加藤さん、昼休みですけど仕事ですか」

「シラバスの勉強。早くパスしないと2曹に見合った仕事を任せて貰えないからね」と加藤はそのままの姿勢で有賀に答えた。

「シラバスですか、ここのチェックは厳しいんですか」

「要点を押さえて頭を整理しとけば大丈夫。多分どこの部隊でも一緒でしょ」

「要点ですか…ここの要点って何ですか」

「2曹の場合は…情報員としての視点かな。まぁ、マクロとミクロの視点って皆言ってる。それで、その両面の分析から妥当な結論を導き出す事が最終的に要求される」

「マクロとミクロ。何か矛盾している様にも感じますね」と有賀が言うと、話を聞いた加藤は、読んでいたファイルを閉じながら、有賀の方を向いて応えた。

「そうかもね。国際関係なら理論分析と地域研究、経済ならマクロ経済とミクロ経済に分かれてるからね。でも、学術でなく情報だから。議論じゃなく真実に近づくのが目的。手法でなく正確性と信頼性が問題。確度の高い情報資料が出揃えば分析も要らないから、情報は」

「真実ですか…それは中国海軍増強とか北のSSB開発とかですね」と有賀が言う。

「それは事実ね。で、それ等の目的とは何」と加藤は即座に返した。

「えぇ、その…米海軍との均衡とか米本土攻撃能力の獲得で、目的は政治的安定を図るみたいな…本や雑誌では大筋そんな感じじゃないですかね…んっ、違うかな」と有賀は狼狽する。

「成程ね。まぁ、中国海軍は確かに右肩上がりの予算を貰って隻数を増やしてる。今は空母もあるし、外洋海軍という評価もある。これはマクロの視点として。で、ミクロの視点ではどうか。 現状、潜水艦はSSNよりSSが多く、主力DDのサイズはイージス艦よりソブレやウダロイ並み。航空部隊や支援部隊の規模は米海軍と比較に成らない」

「確かに、米海軍相手に太平洋で戦闘行動ができるのかと言えば疑問ですね」

「SSBがあれば相手の本土攻撃が可能性という話はミクロの視点。でも、潜水艦運用というマクロの視点なら。写真でも見たでしょ、あれで射程圏内まで米本土に近づけると思う」

「まぁ、あれでは…」

「現状では試験、外交カード、朝鮮半島周辺での軍事使用が妥当かな。北朝鮮の潜水艦が太平洋上での長期オペレーションに耐え、SLBMを確実に発射して米本土を攻撃できるのか。勿論、米海軍の対潜能力も勘案してね。北朝鮮付近での運用ならかなり長射程のSLBMが必要になる。彼是考えると、安易に米本土攻撃という見解には疑問符が付くのよね」

「成程…」

「で、私達への要求はオペレーションに必要な現状分析」

「そうですね、現場の情報が十年後二十年後の予測をしてもあまり意味ないですからね」

「とは言え、日米同盟が前提だけどね」

「それはそうです。それを外して海自のオペレーションは成立しませんから」

「まっ、日米同盟は安全保障や経済とかにプラスって事で」

「確かに…ですね」

「で、話は戻るけど、情報員としては片端な学者や評論家、記者の見解に囚われないで、現場に必要で的確な情報分析を出すって事ね。学者の中には武器関連の分析をオタク話って切捨てて、自分は防衛白書やミリバラ程度の知識で軍事を語ってる輩が居るから。まぁ、学者の存在は否定しないけど現場では半端かな。兎も角、情報員はリアリストとして即した分析方法をマスターするのが肝要って事ね。だけどそれにも関わらず、そんな学者風情の研究を鵜呑みにするベタ金や金筋連中が居る事も一寸ね。それは学者の本質を解ってない証拠。もし、学者の与太話とこっちの情報分析を同レベルで考える幹部がトップの方に就いたら、友達は自衛隊の情報を軽く見る可能性が高くなる。その煽りは現場が面倒を被る事になるし。情報オンチの幹部って無自覚だからねぇ、迷惑。情報を出世の条件にしてほしいわね」

「加藤さん、結構言いますね」と有賀は驚きを持って言った。

「あら、そお。…まっ、ささやかな文句は海曹の特権って事で御勘弁を」と加藤は言ったが、その表情を見た有賀には一片の申し訳なさも感じられ無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ