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それ行け!!基礎情報第1科  作者: インテリジェンス分析所
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情報員の嗜み

情報員の嗜み


「先任、書類全部終わりました」と、有賀は杉本の席に近づいてから言った。

「早いな。流石は動態の作情経験者だな。昼飯までシステムの中身を見といて」

 端末から目を離さずに杉本は応じた。有賀はその席の上に中国海軍やソ連海軍の書籍があるのを目にして、「ソ連海軍の本も分析に使うんですか」と驚き交じりで口にした。

「あ、それは武器の分析よりも中国海軍の戦略分析に使う奴ね」と言ってから、杉本は有賀の方を向いて、「今の司令は結構顔が広くてね、統幕や海幕に行って中国海軍の話を聞いて来るんだけど、それが学者の煽る書籍や雑誌なんかの話が多いんだよね。シンクタンクの防研や幹部学校なら議論のネタだろうけど、現場としては疑問符が付くことが多い。まぁ、こっちは実際の衛星画像や現場の写真、レーダーや音声などの収集記録なんかも分析してるからね。しかし、そのまま学者の妄想話に上が引っ張られるのは危険だから。で、情報に理解のある司令に、統幕や海幕で情報サイドの見解なんかを言って貰わなくてはと。これは静態でオープンソースを扱う基礎情1科の話だと科員は皆考えてる」

「ここは詳細な分析だけでなく、戦略までカバーするんですか」と有賀は落胆する。

「まぁ、これは司令用の話で、幹部や各班の先任がメインだね。でも、戦略を直接分析はしないけど、戦略分析にも使うベータベースを1科は作成してるから、予備知識としてね」

「情報部隊は部隊毎に必要な知識の内容や量が違いますよね」

「分析対象と配布先が違うとね。でも、情報員としてのベースはそんなに変わらない。だから一定練度の情報員は、その部隊の要領を掴めば直ぐ戦力になる。という訳よ有賀3曹」

「あっ、これが加藤さんの言う先任のプレッシャーですか」

「どうだか。でも、乗組手当みたいに分析員手当があっても罰は当たらないと思うけどね」

 最後は独り言のようになった杉本に、有賀は引っ掛かった事を打つけた。

「先任、先任が言うその情報員のベースってどういうもの何ですか」

「成程ね。まぁ、人によって表現は異なるかもしれないけど、端的には知識と瞬発力かな。例えばさ、グッドな検索エンジンってのはどんなのだい」と杉本が返す。

「検索エンジンですかぁ…少ない検索ワードで欲しい情報のサイトが一番に速く出て、それが詳細なことですかね。二番目三番目なんかもいいサイトが表示されれば比較もできます」

「それと同じようなものかな。詳細で豊富な知識、問題と知識をリンクさせて即座に回答する瞬発力。まぁ、それは海士レベルだけどね。幹部や海曹はそれに加えて予測や見積りまで出すことが要求される。それで、瞬発力ってのを例えれば、職人の勘とかスポーツ選手なんかの先読みのプレーみたいな感じになるのかな。そんなの聞いたりするでしょ」

「しかしですね、海曹はどうやってその瞬発力を養うんですか」と有賀はさらに聞く。

「人によるけど、競技性のあるスポーツは応用できるかな。それと、昔先輩に何か趣味あるかって聞かれたことがあったけど、多分それもだね。趣味って人に強要されることなく自発的に広く深く探求する。その結果、その分野では鼻が利くようになるでしょ、それね」

「予測や見積りの瞬発力ですか…」と有賀の声は小さくなる。

「慣れよ、慣れ。でも…有賀3曹の分析がそのまま海幕に行くこともあるからね」

「また先任のプレッシャーですか…」

「でもないね、客観的事実かな。ま、話は戻るけどさ、実際に真実は当事者にしか分からない。お友達だって分析結果を訂正することがあるんだから。学者の言う事だって正解ではない。実際、北朝鮮は体制崩壊してない、中国経済はまだ破綻してない、トランプ大統領は実際にいる訳だしね。防衛政策の参考程度ならいいけど、学者は予測や見積りを外しても責任を取ることはない。しかし、我々の失敗は海上自衛官の死に直結する可能性もある。だからさ、納得の行く分析結果を配布先に出さなくてはならないし、情報サイドの見解は機会があれば示すべきだと思う訳よ。まぁ、だから手当があってもいいよね…」と最後は独り言に。

「その手当もないのに、先任のモチベーションは何なんですか」と有賀は問う。

「自衛官としての仕事であり、サラリーがあるからプロとしての責任は当然ある。でもね、真実に近づくってのは刺激的でもある。しかも分析が結果的に正しかった時の充実感は病付きになる。さらに言えば、情報員の能力や努力次第で、正直情報は米軍に追付ける分野だと考えてる。個人的にはね、同じ対象を追っている米軍の情報機関はライバルだと思ってるんだよね」と杉本が答えながら、その顔に不敵な笑みを浮かべているのを、有賀は目にした。

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