1 式神さんは優しくない
ーーうちには式神さんがいる。
ピピピピ……カチ。
朝の目覚めは毎度このアラーム音から。
だが、止めたからといってちゃんと起きるとは相場は決まっていない。
だから俺は伸ばした手をそのまま布団の中に引っ込めると、ぬくぬくと丸まって布団を被り、再び眠りにつこうとした。
「……アラームが鳴ったでしょう。起きてください」
頭上から、冷たい声が降ってくる。
聞き慣れた声だ。
まだ声音的に、言うほど怒ってなさそうだと見積もって、とりあえず「あと5分だけ……」と粘ってみる。
「ダメです。今日は始業式でしょう? 進級されたのですから、クラス替えもあるのでは?」
「そーだけどー……」
相変わらず正論をぶつけてくる。
白い長い髪は錦糸のようで肌も透き通るように美しく、芸能人にも引けをとらない整った顔。
いや、むしろそれ以上の美人で、甘やかしてくれそうなおっとりお姉さん系の見た目だというのに、その見た目に反してめちゃくちゃ頑固で融通が効かない。
もう少し柔軟に物事を考えてくれれば、可愛げがあるというのに。
「希生様」
「んーーーー?」
「仕方ありませんね。では、実力行使に参ります」
そう言うやいなや、バサっと布団をひっぺがされる。
寒い、めちゃくちゃ寒い。
まだ4月になって間もないのだから、日射しこそそこそこ強いものの、そこまで室温は上がっていないので結構冷える。
だが、そんなことくらいでへこたれる俺ではない。自分の身体を最大限縮めこんで暖をとる。
まるで猫のようかもしれないが、今の俺にできうる手段はこれしかない。
こうして意地でも寝る態勢をとる俺に、はぁ、と大きな溜息が聞こえてくる。
そして足音が遠ざかり、「やった! 諦めてくれたようだ」とニヤニヤしながら再び眠りにつこうとしたときだった。
じょぼぼぼぼぼぼぼ……
「へぶっ……あぶ、ちょ……っぶ!」
顔に水をかけられ、慌てて飛び起きる。
まさに寝耳に水である。
てか、普通に耳に水が入った気がする。
とにかく、一体何てことしてくれるんだ! と目の前にいる式神さんを睨みつける。
だが、彼女は全く意に介してないかのように、にっこりとわざとらしい頬笑みを浮かべたあと「おはようございます、京極希生様」と言うやいなや階下へ降りていく。
俺は彼女を追いかけるように、慌てて部屋をあとにした。
「いくら何でも手荒すぎるんじゃないか!?」
「そうですか? ですが、こうでもしないと起きてくれそうにもなかったものでして」
ぐぬぬぬぬ……!
図星だから下手に言い返せない。
わざとやっているのかどうだか知らないが、彼女はとても俺に辛辣だ。
態度が悪いというべきか。
仮にも俺の式神だというのに。
「とにかく早く支度なさってください。遅れますよ? そういえば、今日は天音様もいらっしゃる予定ではありませんでしたか?」
「天音? あー、そういえば今日は部活ないから一緒に行こうとかなんとか言ってた気が……」
「でしたら、ほら。その寝癖やら顔についてるよだれのあとやらを直して来てください。彼女に嫌われますよ。朝食も早くしないと冷めますから」
「あーあーあー、わかったから。……本当ねーちゃんみたいに小煩いんだから」
ぼそぼそと「……別に、天音になんて言われようが俺は気にしねーし」なんて大きな声で言う勇気はないが文句を言いながら、俺は洗面所へと向かう。
そして鏡を見ながら身なりを整え、制服に袖を通し始めた。
はじめまして、鳥柄ささみと申します。
初めての現代ファンタジー小説で、公募応募作品です!
毎日更新予定ですので、お楽しみいただけたら嬉しいです。
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