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第六話


 自らを破壊者と名乗る少女はおもむろに口を開いた。


「で、この世界のことを聞いてあなたはどうするの? 私を止めるつもり? それとも私に協力してくれたりするのかしら」


 皮肉めいたように少女は口角を上げる。


 しかし翔は少女の問いに答える前に自らの疑問があった。


「あのさ、一つ聞きたいことがあるんだけど……」


「何? どうせ何で世界を滅ぼそうとするのか聞くんでしょ」


「いやそうじゃなくて気になることがあるんだけど……、本当に世界を壊そうとしているの……? あんまりそんな風には見えないけど」


「……何を言ってるのよ」


 何気ない一言だったが少女はほんの少しだけ表情を崩した。


「なんか本気で世界を破壊しようとしてないっていうか、そこまで悪人に見えないんだよな……」


「意味がわからない。この世界に来たばっかで初めて出会ったくせに私を知っているようなことを言わないで」


「その初めて出会った俺を助けたのに世界を壊そうとしているのか? 矛盾しているように思えるんだけど」


 男の攻撃を察知し、自分の体よりも翔を優先して助けた。そのこともありどうしても少女が世界を壊そうとしているとは思えなかった。


「そ、それは……」


 少女は言い淀んでしまう。


「別にお前が心の底から世界を憎んでて壊したいって思ってるならいいんだけど、……いや、よくはないか。でもとりあえず俺にはそう思えないんだよな」


 言い返す言葉が見つからないのか少女は視線を下に向けて黙りこんでしまう。


「あ、えと、別にお前をいじめたいわけじゃなくて、そのなんて言うか、事情があるなら俺にも手伝わせてくれよ。一応助けてくれた恩もあるしさ、今度は俺がお前を助けるから」


「…………さい」


 小さく発せられた言葉だったが翔の耳には届かない。


「自慢じゃないんだけど神みたいなやつにチートの能力をもらったし力にはなれると思うんだよな。前の世界では平凡だったけど今じゃ神になれたようなもんだから、足手まといにはならないからさ。だから」


「うるさい!」


 急に少女は声を荒げ翔は思わず言葉を切りながら驚いてしまう。


「ど、どうした?」


 翔の慌てる様を見てか次には少女は口調を戻した。


「……どうせあなたも他の奴と同じなくせに、勝手なこと言わないでくれる」


「か、勝手なことって……、俺はただお前を助けたいだけで」


「それが勝手なことなのよ。私には迷惑だし、できもしないことを言わないで」


 翔を突き放し少女は吐き捨てるように言った。


 だが翔にはどうしてもそれが本心だとは思えなかった。わざと自分に近づけさせない、そして悲観しているように感じる。


「もしかしたらできることかもしれないだろ、さっき言ったチートの能力もあるからさ」


 すると少女は悲哀を纏った視線を翔に向けた。


「…………じゃあ、この世界を壊して私を助けてよ」


 先ほどとは違う、それは何かにすがるように少女は言った。


 本当に少女は世界を壊そうとしているのか。この世界があることによって少女は苦しんでしまっているのか。

 そのように思えるほど少女の言葉は重かった。


「世界を壊してって……、まず理由を教えてくれ。どうしてお前は世界を壊そうとしているんだ?」


「理由を話したら絶対に世界を壊してくれるの?」


「そ、それは……」


 絶対、という言葉が返答を躊躇させる。


「やっぱり、あなたもそうなのね」


 まるで分かりきっていたように少女は出口へ歩き出した。


「ま、待てよ!」


 しかしこのまま少女一人でいかすわけにはいかない。それはこの世界のことを聞くためではなく、純粋に少女を助けたいという気持ちからだ。


「理由を聞かずに答えることなんてできないだろ。そもそも何でお前はさっきから突き放すような態度をとってるんだよ。それだとずっと独りじゃないのか?」


 翔が煩わしく感じたのか少女の右手の拳が強く握られる。


「……知ったようなことを…………」


 そして勢いよく翔の方へ振り向くと右手は開きながら向けられ、手のひらに赤色の魔法陣が浮かび上がった。


「私の苦しみも、痛みも……、無力さも知らないくせに言葉を並べないでっ!」


 瞳に少しの涙を浮かべ、辛辣に少女は吐いた。


「私にはこの世界を壊すことしか方法はないのよ! そうすることしか……、もう私には残されてないのよ……」


 一体何が少女をここまでさせるのか、少女の勢いもあり翔は言葉が出ない。


 少女は涙を拭うように左手で目をこすると、次には先ほどの鋭い視線を翔に向ける。


「あなた、私が助けたことと世界を壊そうとしていることが矛盾していると言ったわよね? だったら……、今ここで私があなたを殺してあげるわよ」


 突然の殺意に思わず翔は両手を前に出してしまう。


「ちょ、ちょっと待て待て! 何でそうなるんだよ!」


「私が矛盾していないことの証明よ」


「いやいやいや、売り言葉に買い言葉になってないか! 確かに俺は矛盾してるって言ったけど、それはお前の本心が知りたかったわけで。決してお前を怒らせるために言った言葉じゃないから!」


「そう。……で、遺言はそれだけ?」


 冷たい言葉とともに少女の右手の魔法陣が大きく展開された。


 翔は魔法陣の原理も仕組みもわからないが第六感が危険だと訴えてくる。


「マジでこれはヤバイって……」


 だが翔が逃げ出そうと一歩生み出した瞬間、床が弾け飛んだ。


「っつ!」


 爆風により翔の体は飛ばされてしまう。


 そして宙を舞い自分が上を向いているのか、下を向いているのかさえ分からない中、一つの衝撃が翔を襲った。


「ってぇ……!」


 痛みに堪え、冷たく固い感触に翔は地面に横たわっていることに気がつく。


 あの一瞬で壁は壊され外に投げ出されてしまった。


 今まで生きていた中で感じたことのない危機感と激しく脈打つ心臓、翔は初めて死んでしまうと思ってしまった。


「はぁ、はぁ……、あいつは……?」


 荒い息を吐きながら一体どこまで飛ばされたのかと辺りを見渡す。


 すると回りには様々な見た目の者が多数おり、異質を見るような視線が翔に突き刺さる。


「な、何でここで……?」


「この街はもう安全じゃなかったのか?」


 それぞれが口々に言葉を吐く。


 翔はそれに対し不信感に近い一つの疑問を感じてしまう。確かに翔は別世界の者であるが、なぜ誰も翔を助けようとしないのか。


 いや、問題はそこではないのかもしれない。争いごとに首を突っ込まないのは分かる。しかし何故、全員が同じような反応を示しており、全員が同じように翔から遠ざかって行くのか。


「意外と運がいいのね」


 と、頭上の声に気がつき首をあげると、半壊した建物の二階から少女が冷たく見下ろしていた。


「でも次は外さないわよ」


 再度、少女は右手を翔に向け赤色の魔法陣を展開する。


 今は周囲の反応よりもこの場から離れないと、このままではまた辺りが弾け飛んでしまう。


「逃げななきゃ……、っつ!」


 が、右足に激しい痛みが走った。


 先ほどまでは感じなかったが痛みで右足は動かすことができず、もしかしたら折れているのか。二階から放り出され地面に叩きつけられたので当然といえば当然だ。


 翔は痛みと焦りから汗が頬を伝う。

 この状況を切り抜けるにはどうすればいいのか、少女は確実に攻撃してくる。逃げることも説得する暇もない。


「これで終わりよ」


 ならば思いつく行動は一つだ。


「の、『能力創造』、俺に攻撃できない能力!」


 翔の声が響くと、辺りが弾け飛ぶことはなく何も起きなかった。


「なっ、何で……?」


「ま、マジで危なかった……」


 少女は何が起きたか分からず困惑する。


「あなた、一体何をしたのよ!」


 どうにか能力がうまく発動し翔は一つ息をつく。


「ちょっとチートの能力を使って俺に攻撃できなくしてもらったから」


「また、あいつの……!」


「あいつの?」


 どこか知っているような口調に眉をひそめた。


 この世界に飛ばされた時に出会っているのは分かるがそれ以上に神であろう者を知っている、もしくはそれ以前から出会っているような口ぶりに感じた。


「お前、あの神みたいな奴のこと」


「そこまでよ!」


 突然、翔の言葉を遮り少女ではない一つの女性の声が響いた。


 翔は声のする方へ首を向けると、そこにはミディアムに切りそろえられた金髪とエメラルド色の瞳、そして耳の長いエルフのような女性が立っていた。


「何でここにいるのか分からないけど、この世界のためにあなたを捕まえるわ!」


 エルフのような女性は強く言葉を放った。


「……この街にもいたのね」


 少女はエルフのような女性を一瞥すると足元に緑色の魔法陣を展開した。


「他の仲間が来ても面倒だからここは一旦引くとするわ」


「待ちなさい!」


「そこの奴にこの世界のことについて説明しといて。……特に私がどんな者かってことも」


 それだけ言うと少女の足元の魔法陣が全身を包むように上がり、一瞬だけ翔と目が合う。


 そして次には少女はいなくなってしまった。


「消えた……」


 ポツリと翔は呟いた。

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