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第四話


 思案しながら走っていると次第に翔以外誰もいなくなっていき地面に浮かび上がっている線も紫の発光が強くなっていった。


 建物だけが通りすぎおそらく中心部には近づいたはずだが、まだ破壊者やそれらしい者は見えない。


 すると、急に一つの轟音が響いた。


「うわっ」


 瓦礫が崩れる音が近くで響き思わず足を止めてしまう。


 翔は音のした方、右側に視線を向けると煙に包まれながら建物にすっぽりと大きな穴が空いていた。


「な、なんだ……?」


 そして煙が引いていき一つの人影が映る。


「ったく、ちょこまかと逃げ回って……」


 若い男の声、さらに影から男が身の丈ほどの大剣を持っていることも分かる。


 この者が仲間なのか、それとも破壊者の方なのか。


「いい加減、追いかけっこはやめようぜ。逃げ回る敵を相手にするのはしんどいんだからよ」


 煙が完全になくなり男の姿が現れる。茶色の短髪で頬に特徴的な十字の傷跡がある男は大剣を肩に置き言葉を投げた。


「……だったら私から手を引きなさい」


 呼応するように今度は翔の左側の建物の屋上から女の声が響く。見上げた先には白い長髪をなびかせ深紅の眼を光らせている翔と同い年くらいの少女がいた。


「そういうわけにもいかないだろ、あと少しで仕留めれるっていうのに、ん?」


 男はちょうど二人の間に立っている翔に気がつく。


 その視線がなぜここにいるのかと伝わってくるが、翔自身も自分がこの場所にいることが不自然なのは理解している。


「まだいたのか。危ないからここから今すぐ離れろよ」


 男はそれだけ言うと力強く踏み出し、重い音とともに空高く飛び上がった。男の狙いはもちろん少女であり無垢な身体めがけて大剣を振り下ろしにいく。


「おらぁ!」


 空気を裂く音が翔の位置まで聞こえ、次には爆発音にも近い瓦礫の崩れる音が街に響いた。


 翔の方にも小石が空から飛んでき片腕で防ぐ。


「な、何が起きてるんだよ? どっちかが俺の仲間なの!?」


 一人の男が一人の少女を全力で殺しにいっている光景に翔は驚きを隠せない。

 そして少女が無事なのかどうかも気になる。あの一太刀をまともに受ければ死は確実だ。


 すると小石とともに上空から少女が落ちてくるのが目に映った。


「ちょ、これはヤバいって!」


 このままでは少女が地面に衝突してしまう。

 翔は少女を助けるため両手を広げ受け止めようとする。もちろん受け止めれるかどうかは分からないが、そんなことを考えている暇はない。


 しかし少女の体から魔法陣のような青色の円がでてき、受け止める前に空中で止まるとそのままゆっくりと翔の前に着地した。


 出てきた魔法陣は消滅し、少女は翔に一瞥もすることなく屋上の男に視線を向ける。


 その背後で意味もなく両手を広げている翔は客観的に見れば今にでも少女を襲いそうな格好だ。


 とりあえず両手を戻し声をかけてみる。


「……え、えーと、お怪我はありませんか?」


 が、少女は振り向きもしない。


「あれ、もしかして言葉が通じないパターンとかあるの。それともただ声が聞こえてないだけなのか? いやでもこの距離でそれは……」


「うるさい」


 苛立ちを含んだ声で少女は一言放った。


「死にたくなかったらここから立ち去りなさい」


 翔の方へは向かないが冷たい声で少女は答えた。しかし翔は言葉が通じた喜びと自分と同じ境遇の者に出会え、気にする事なく話を続ける。


「なんだ、やっぱり言葉が通じてるじゃんか。あのさ、聞きたいことがあるんだけどあんたもこの世界に飛ばされたの? 実はこの世界に飛ばされたばっかりで困ってるんだけど」


「! また、別の世界から来たの……」


 翔の言葉を切るように少女は振り向きながら言った。

 その表情はどこか悔やんでいるように見える。


「一体何を言ってるんだ……?」


「……ここはあなたが居ていい場所じゃないのよ」


「い、いやー、それは百も承知なんだけど、俺の居ていい場所に戻れないっていうか、戻り方も分からないっていうか……」


「! 退きなさいっ!」


 突如、少女は叫び赤色の魔法陣が少女の体から浮かび上がると、翔の体が正面から衝撃を受ける。


「っぐ!」


 まるで見えない壁に押されるように後ろに飛ばされてしまった。受け身の取り方も知らない翔は地面にぶつかり不恰好に転がりながら横たわる。


「ごほっ、ごほっ……、ど、どういう事だよ。なんで、急に攻撃してきて……」


 どういう原理で飛ばされたのかは分からないが、少女によって飛ばされたのだけは理解している。


 だが、どうして攻撃してきたのか。敵対するような行動はとったつもりはない。


「もしかして馴れ馴れしく話したせいなのか」


 翔は四つん這いになりながら顔を上げると、思わぬ光景が広がっていた。


「なんだよ……あれ……」


 そこには歪な黒い球体があった。翔がいた位置、つまり少女がいた場所を包み込むように黒い球体は不自然に存在している。


 ほんの数秒前まではなかった、それに変わった音も聞こえなかった。それなのにどのようにして生まれたのか。


 眼前にある不気味な球体に翔は思考が止まりかけたが、一つのことに気づく。


「そういえばあいつは……?」


 あいつとは少女のことであり、嫌な予感がしてしまう。


 すると黒い球体の近くに大剣を持った男がドスンと空から着地した。


「ふぅー、やっと捕らえることができた」


 男は悠々と大剣を地面に突き刺し首だけを翔の方へ向ける。


「ありがとな。まさかまだ一般の奴が残っているとは思わなかったが、まあお前に注意が向いたおかげでこいつを捕まえることができたよ」


「こいつって……。まさか、その中にさっきの少女がいるのか?」


「そうだが」


 男は当然のように答え、翔は先ほどの少女の行動を理解した。


 少女が攻撃してきたのも翔を助けるためであり、自らが捕まることを顧みず黒い球体から遠ざけた。そのことが分かり自責の念に駆られる。


「さてと、長かった戦いも終わったことだし戻るとするか」


「あ、あのさ」


 男が大剣を持ち上げたところを翔は立ち上がりながら呼び止めた。


「どうした? 何か用があるのか?」


 男は振り向くと不信そうに翔を見た。


「そいつを、どうするつもりなんだ?」


「どうするって、馬鹿な質問をする奴もいるもんだな。しばらくはこの空間に閉じ込めておくつもりだが。けど、お前にはこいつがどうなろうが関係ないだろ」


 男の言う通り翔には関係ない。

 この異世界に来たばかりで見ず知らずの赤の他人である。男と少女のことも知らないし、この異世界のことも全然理解していない。


 だが、このまま何もせず少女を見逃していいのか。少女は犠牲になってまで助けてくれたのに見過ごすようなことをしていいのか。


「聞きたいことはそれだけか? 無いなら俺は行くぞ」


 男の右手が黒い球体に触れようとした瞬間、


「ま、待て!」


 翔は男に向かって走り出す。


 見逃していいわけがない、どこの誰かもわからないのに助けてくれたんだ。だったら今度は自分が助ける番だ。


「おいおい、まさかとは思うがこいつを助けるつもりか?」


 男の言葉は聞こえているが翔は答えない。ただ大剣を持ち直し身構える男に向かって走る。


「ったく、面倒なことが増えやがって」


 大剣を振りかぶる男だが翔は正面切って戦うつもりはない。


 翔の目的は少女を助けることであり、そもそも戦闘経験ゼロの翔が勝てる見込みも少ない。初の実戦だが神であろう者からもらった能力を使えば逃げることはできるはずだ。


「『能力創造』、黒い空間を無くす能力!」


 翔の声で一瞬にして黒い球体は無くなり、中から少女が現れ背中から重力に引かれるように倒れていく。


「!」


 突然消失した空間に男は驚きの表情を浮かべた。

 この隙を逃すわけにはいかない。


「『能力創造』、敵を吹き飛ばす能力!」


「ぐっ!」


 男の体が不可視の衝撃により大きく飛ばされる。そして翔は解放され地面に倒れる前に少女に近づき上体を抱えあげた。


「大丈夫か、どこか怪我とかしてないか?」


 薄く目を開ける少女と目が合う。


「あなた……」


 翔に驚く少女だが説明する前にひとまずあの男から逃げなければならない。あの攻撃だけでやられているはずもなく、おそらく何かしらのチートの能力を持っている可能性が高い。


 急いでこの場から去らなければと翔が考えたと同時に、


「お前、この世界の奴じゃないな」


 男の声が響き慌てて顔を向ける。

 そこには十メートルも離れていない位置に無傷の男が立っていた。


「これまでの行動と言動からしてこの世界に来たばっかだろ。悪いことは言わねえからそいつを助けることはやめろ」


 男の言葉は嘘をついているようには聞こえず、ましてや翔を騙すために言っているようには思えない。

 真剣な眼差しで言う男の真意は分からないが、それでも少女をこのまま何もせず放っておくことはできない。


「それは聞けない相談だな」


 強がるように翔は作り笑いを浮かべた。


「そうか……。なら、力づくで分からしてやるよ!」


 グッと、男の右足が地面にめり込みと、瞬時に翔の眼前に移動してき大剣を振り下ろしてくる。


「の、『能力創造』!」


 翔は大剣が振り下ろされる直前に目を瞑りながら能力を発動した。

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