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第三話


 実験は概ね成功し両手にお金とティッシュを携えていると、翔の耳に話し声が聞こえた。


「さっきからヤバくない?」


「だよね。さっきは急に叫ぶし、ぶつぶつ独り言も多いし、気持ち悪いし、あれ絶対ヤバいわ」


 ギャルのような話し声が聞こえ、内容からして自分のことを言っているのかと思い翔は声の方へ向く。


 すると首を向けた先には耳が長い、一人は金髪のポニーテールでもう一人はミディアムに切り揃えられた、まさにエルフのような二人が立っていた。


「うわっ、こっち見た」


「もしかして聞こえたのかも」


 視線が合うと夢にまで描いていたエルフに冷ややかな視線を向けられる。


 確かに今までの行動を考えれば翔は変人そのものだ。

 気持ち悪がられるのも十二分に分かる。


 しかし話したかったエルフに拒否反応を示されると精神的にくるものがある。どうにかして変人ではないことを伝えなくては。


「あ、あのー……」


 翔が話しかけようと一歩踏み出すが、同時に二人のエルフは一歩後ずさった。


「ヤバっ、近づいてくる」


「逃げないと襲われるかも。あいつ気持ち悪いもん」


 せっかく異世界に来たのに完全にヤバい人として思われてしまっている。


 ここでさらに近づいていったらお巡りさんに連れていかれるかもしれない。

 いや、そもそもお巡りさんがこの世界にいるか知らないが、良い方向へいくわけがない。


 否、ここは異世界だ。


 自分の夢が目の前にあるのに動かないのは男ではない。


 翔は勇気を持って近づいていく。


「もしかして俺のこと……」


「ちょっと、マジで話しかけてきたよ。頭おかしいんじゃないの?」


「ヤバいって、ほんと気持ち悪いんだけど」


 二人の言葉に翔のメンタルがえぐられ話しかける勇気も折られてしまった。

 元いた世界でもここまでキツイ言葉を言われたことがない。


「ねぇ、襲われる前にいこ」


「確かに。気持ち悪いし」


 メンタルがボロボロになり動けない翔を置いて二人のエルフは足早に去っていった。


 というか一人は気持ち悪いしか言ってないような気がするのだが。


 さらに二人のエルフとのやりとりからか周りの視線もどこか痛いものを感じる。

 来て早々に見知らぬ鬼に怒られ、夢に描いていたエルフに気味悪がれ、周囲にも引かれ始めている。主に自分のせいではあるが、異世界で生きていくのがこんなにも辛いと思わなかった。


「…………エルフってあんなに優しくなかったっけ」


 想像していたエルフから拒絶され翔は勝手に打ちひしがれていた。


 一文無しに、周囲に頼れない状況、このままでは元いた世界でのホームレスである。


「はぁ……、幸先最悪の異世界だ……」


 重い溜息を吐きながら行くあてのない足取りでとりあえず歩き出す。

 行く宛などないが立ち止まっているよりかは気が紛れましであろう。


 翔は日常を過ごしている街を眺めながら人の流れに沿うように歩き始めた。


 通り過ぎる者達は姿形は違えどやはり神であろう者のおかげなのか同じ言葉で会話している。

 この者達はそもそも翔と同じように別世界から来ている者なのか、もしくはこの世界で生まれた者なのか、気になるところではある。

 見ている限りはまるでこの世界で生まれたかのように過ごしており順応しているように見えるが。


 今すぐ知らないといけないことではないが、回りを見ていると自分がはみ出者であるように感じる。


「まあ、実際は別世界から来たからはみ出者には間違いないけど…………、ん?」


 ふと、翔は足元に左右に伸びている線に気がついた。


 翔が気がついたというのも元から書いてあったわけではなく、浮かび上がってきていると言った方が正しい。それに翔の足元だけでなく道のいたるところに縦横と微かに紫に発光しながらだ。


「何だこれ? 今日は何かの祭りの日なのか?」


 翔は今日がこの街特有の祭日でその催しだと思う。


 だが周囲に目をやるとどうやら違うようだ。


「お、おい、これはもしかしてあれじゃないのか!」


「そんなもん見れば分かる! 問題は一体どこにいるかだ」


「さっき中心部にいるって聞いたわ。私たちも急いで避難しないと巻き込まれちゃうわよ!」


 平和な日常が慌ただしく喧騒に包まれていく。皆それぞれ大事なものだけを抱え翔が来た道を戻るように走っていく。


 翔には何が起きているのか分からず、ただ変な線が浮かび上がっているだけに思える。


 周囲に目をやっていると目覚めたときに怒られた鬼顔の大男も逃げるように走っていた。


「ちょ、ちょっと、そこの鬼さん!」


 翔が走りながら声をかけるも当然鬼さんという名前ではないため振り向きもしない。


「待って! 聞きたいことがあるんだけど」


 追いついた翔に気がつき鬼顔の大男は振り向く。


「あぁ? 何だお前? あん時の迷惑な奴か」


 相変わらずの鋭い剣幕に一瞬びびるが臆せず翔は質問する。


「こ、これって何で急にみんな逃げ出してるんだ?」


「何言ってんだ、お前?」


 鬼顔の大男は変なものを見るように発した。


「やっぱりおかしい奴だな。危険だからに決まっているからだろ」


「危険って……、何が起きてるんだよ。この世界に来たばっかだから分からないことだらけでさ」


「この世界だと? お前……、もしかしてあいつらの仲間か?」


「あいつら?」


 状況が分からないうえさらに分からない情報に翔は余計に混乱する。あいつらとは一体誰のことであり、あいつらがこの事態を生んでいるのか。


「一から説明してくれよ。言っていることがさっぱり分からない」


「そんな時間あるか、知りたきゃ中心部に行け! そこで破壊者と戦ってるはずだ」


 大男は告げると中心部から走って離れて行った。


「破壊者と戦ってるって……」


 整理できない情報に翔は思案する。


 しかし結局は意味のないことである。今の翔にはどれだけ考えても分かるわけもなく、大男の言う中心部に向かう他ない。


 翔は周囲とは逆に中心部に向かって走り出す。

 言っていたことが本当であるならそこに翔の仲間もいるはずだ。おそらく仲間というのは翔と同じように別の世界から来た者のことだろう。


 しかし神であろう者は争い事はないと言っていたはずだがどうして戦っているのか。この世界は平和の世界ではなかったのか。


 思案しながらも翔は中心部へ向かっていった。



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