第二十九話
「そう……、それでいい」
「!」
それは翔の予想通りに起きた。
イスピナードの声と瓦礫の軋む音が視線の先から聞こえ、翔の足元から伸びている突起物に亀裂が入った。
そして次には一気に崩れ落ち、思わず翔は後ずさる。
「生きるためには全力で抗え、相手を考えず本能に従え。自らの命を第一に考えろ」
翔に向かって崩れ落ちた地面の上を歩いてくるその姿はまさに獣であった。
「あれだけやっても……」
悠々と向かってくる姿だが右手は歪に形を変えており所々から血を流している。
「いつぶりか……、いやこちらの世界に来てからは初めてだな。ここまで血を流すというのは」
形を変えた右手を眺めながらイスピナードは言った。
「もう、諦めてくれ。俺は……俺には、殺す術だってあるんだ……。こんな無駄な争いする必要なんか」
「我に傷をつけれて思い上がったか?」
「ち、違うっ! 俺の能力は知っているんだろ? 殺す能力を使ったらどうなるか……」
「ふっ……、分かっている。貴様がそのような能力は使わないとな」
翔は思わず口を詰まらせた。
「そ、それは……」
「貴様のその優しさがあの少女を助けようとするのだろう。……だが勘違いをするな。あの者は本気でこの世界を壊そうとしている。そこに嘘偽りはない」
「どうして、言い切れるんだよ……?」
「我の本能がそう言っているだけだ。故に我は牙を向く」
目の前まできたイスピナードは歩みを止めた。
「先ほどのように死に物狂いで抗うんだな。もう手加減はせんぞ」
一つ、イスピナードは息を吸い込み、そして深く吐いた。
するとイスピナードの体から蒼い湯気がゆらゆらと出始める。それはまるで炎を身に纏うように。
そして眼光は獲物を捕らえた。
「我は弱肉強食の頂点に立つ者、イスピナード! その命狩らせてもらう!」




