第二話
先程怒号を向けられた翔だが初めての異世界の会話に内心は興奮していた。
ただ欲を言えば言葉を交わしたのが美しいエルフであればもっと感動していたが。
「でも、これからどうすっかな」
改めて翔は辺りを見渡す。
異世界に来たのはいいが一体何をすれば良いのか。見る限り平和そのものでありごく普通の日常である。
神であろう者が言っていたように争いごとはなさそうであり、このような世界だと翔が来た意味が見出せない。
「まあ、戦いが無いにこしたことはないけど。とりあえず小腹も空いてきたしなんか買うか」
露店で物を買っているところを見るにおそらく金という概念がこの世界にはある。
当たり前だがここには知り合いはおらず、もっと言うなら今日寝泊まりするところもない。
なのでとりあえずはお金を得ることが最優先だろう。
この世界でどうやったらお金を得ることができるか知らないが翔は何一つ心配はしていなかった。
「なんてったって、俺には『能力創造』があるからな」
神であろう者が異世界に行く前にくれたチートの能力、どんな能力でも一度だけ作ることができる。話が本当であれば翔は金を生み出すことだって出来るはずだ。
「ま、物は試しか」
翔は右の手のひらを広げる。
初めて能力を使うためどのようにして発動するか分からないが検討はついている。このような場合は頭でイメージして右手に意識を集中すればどうにかなるものだ。
「ひとまず百万くらいあったらいいか。全部使い切る前に何かしら金を得る方法は見つかるだろし」
翔は能力とお金を頭の中にイメージし手のひらに力を込める。
「『能力創造』!」
すると右手が光り、次の瞬間には百万円の札束が手のひらに乗っていた。
「マジで、できた……」
想像通りにでき自分でも驚く。
こんなにも簡単に能力が使えるのであればこの先困ることなど起きるはずがない。寝泊まりするところもお金を使わず自らの能力で作ることも可能だ。
「けど無駄に能力は作れないよな」
作った能力は一度しか使用できないので使わなくていいときに使う必要もない。今は金があるのだからそっちを使えばいい。
翔は小腹を満たすため、作り出した金を眺め歩き出そうとする。
が、足を止めた。
なぜならば右手の諭吉と目が合ってしまったからだ。
百万円の札束を片手に翔の頬に一筋の汗が流れる。自分の犯した行為が愚かなことだと理解するのに時間はかからなかった。
「…………諭吉じゃ使えないじゃん!」
自分へのツッコミを地面に向かって叫んだ。
「馬鹿か俺は! ここは日本でも俺のいた世界でもないんだぞ! こんなの少し硬い紙にしかならないだろ! ティッシュの方が何倍もましだ!」
どこにもぶつけることのできない遣る瀬無さが街に響き渡る。
「いや、待てよ。確かこの世界のお金は……」
翔は先ほど見たお金を思い出し、今度は左の手のひらを広げもう一度同じようにする。
しかし、
「……出来るわけないじゃん!」
再度、地面へ叫んだ。
「馬鹿か俺は! 一度使用した能力は使えないって言われただろ! これじゃあ無駄に能力を作ったのと同じじゃんか!」
右手に用途の見つからない紙を握りしめ翔は深く肩を落とす。
一度しか使えない能力を無駄にしてしまい後悔する翔だったが、さらに嫌な予感がしてしまう。
「…………まさか、さっきの能力で何かを作るっていう能力が使えなくなったわけじゃないよな」
神であろう者はインチキもダメと言っていた。
つまり、翔は先ほどの能力を金を作る能力として作ったが、実際は何かを作るという能力として生まれていたものかもしれないということだ。
もし翔の予感が当たってしまっていたなら後悔どころの話ではない。
翔は確かめるため空いている左手を広げ紙を作るという能力をイメージする。
「の、『能力創造』」
そして左手に力を込めると一瞬光り、イメージ通りの真っ白いティッシュが左手に乗っていた。
翔は能力が発動したことに安心し一つ息を吐く。
「はぁ、よかったー。なんかを作る能力じゃなかったのか」
確かめるため二つの能力を無駄にしてしまったが、自分の能力について多少は分かってきた。
おそらく主語と述語が重要なのだろう。一万円札もティッシュも紙ではあるが二回ともできた。最初は一万円札をイメージし金を作ろうとし、二回目はティッシュをイメージし紙を作ろうとした。二回目も使えたということは、主語の部分が違えば同じ能力として見なされないのかもしれない。そして出来上がる物は翔のイメージした通りになる。
「ん? じゃあ、紙を作ろうとしてお金をイメージしたらどうなってたんだろ?」
疑問が口に出てしまった。
インチキのように思えるが気になってしまう。それに何が起きるか分からない今後のためにも自分の能力は把握しておきたい。
翔は実験するため金属を作る能力を発動しようとし五百円玉を左手の上にイメージする。
「『能力創造』!」
力を入れると、光った後に五百円玉がしっかりと左手のティッシュの上に乗っていた。
「おー、できた」
金である五百円玉が作れたということは予測通りだと確信を得る。
能力の言葉を頭の中で作り、出来上がるものをイメージすれば同じ意味を持つものを作り出せるということだ。
それでもあまりにもかけ離れたものをイメージすれば出来ないだろう。
それは翔でもインチキに思える。
実験は概ね成功し翔はひとまず満足した。