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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第二章:幻覚死銃奏曲「死と乙女」
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21話「穴が開いていましてよ……」 

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、穴掘りしていますの。


 ……ドランはフルーティエ家の秘密を探りに出かけ、ジョヴァンは店の方で情報収集。キーブはギルドの方で何かやっているようですわね。チェスタはいつも通りの薬中ですわ。酒から醒めたら薬キメやがりましたわ。何もない天井見上げて天体観測してましたわ……。

 というのは置いておいて。

 私は暇ですわ。地上に今出たら流石に私の露出過多ですもの。処刑台に上がって1週間ほどでエルゼマリンに颯爽と現れた謎の英雄をやってしまいましたし、ほとぼりが冷めるまでは地下生活ですわ。

 ……なので!

 私はこの地下道から直通の出入り口を!掘り抜こうと思いますのよ!




 スコップは一応用意しましたけれど、使う気がありませんわ。私が1人でスコップ使ってトンネル堀りなんて、あまりにも非効率的ですもの。

 ……では、私は何を用意したか、というと……。

「違法改造した空間鞄って本当に便利ですわね……」

 まずは、違法改造でおなじみの空間鞄。これで土砂を吸い込むようにして地下に穴を空けたら……。

「さあ、子ドラゴン達。ブレスの練習ですわよ!」

 ここでドラゴンですわ!


 ……穴を掘る、と考えた時、色々な方法を一応、候補に挙げましたの。

 たとえば、金属や鉱石の類を食べるクロスライムを使ってトンネルを掘らせようか、とか。チェスタを働かせようか、とか。何なら町に溢れるジャンキー共をミスティックルビーで釣ってここで労働させようかしら、とか。色々考えましたのよ。

 でも、クロスライムはうっかり漏れた時が大惨事ですし、下手に他の人間達にここの穴のことは知られたくありませんの。


 ということで、空間鞄で穴掘りすることにして、同時にドラゴン達を連れてきましたの。早速この子達、役に立ってますわね。

 子供ドラゴン達はまだまだ生まれたてのくせに、もう一丁前に炎を吐こうとしますのね。こういう時、ドラゴンの親は思う存分子供に炎を吐かせてやるんだそうですわ。そうすると炎を良く吐く丈夫な子に育つんだとか。

 ……当然ですけれど、人間が趣味や娯楽でドラゴンを飼う時にはそんなこと、絶対にさせなくってよ!ドラゴンが家の中で火を吹いたら大惨事ですもの!

 けれどここでなら話は別でしてよ。

 ドラゴン達は火を吹いては土を焼き溶かして、トンネルの壁の補強をしていますわ。

「思う存分練習すればよくってよ」

 今までアジトの中で火を吹けずにいたドラゴン達は、思う存分火を吹いたり、熔けた石をつついて遊んだり、楽し気ですわね。私はそんなドラゴン達の監督をしつつ、空間鞄で穴掘りを進めて、そして鞄がいっぱいになったらドラゴンに新しい鞄を取ってこさせつつ、一杯になった鞄をアジトへ戻させつつ、楽しく作業しましてよ。

 ……こうして、概ね順調に、地下の穴掘りは進んでいったのですわ。

 ええ。『概ね』順調に。




 トンネルをどちらへ伸ばそうかしら、と考えて、最初に候補に挙げたのがエルゼマリン近くの森ですわ。あそこって立ち入りを警備隊が監視していますから、人通りも少なくて中々いい出入り口になるんじゃないかと思いましたの。

 ……と思って、森に向けてトンネルを伸ばしていたんですけれども。

「あら?何かありますわね。木の根っこかしら?」

 土と一緒に鞄に入らなかったものがありましたの。巨木の根っこか何かのようなものが、丁度トンネルを遮るように横たわっていますのよ。

 これはいけませんわねえ。勿論、撤去しますわ。トンネルとして活用したいものがこんなところで木の根っこ如きに邪魔されてはたまりませんもの。

「さあドラゴン達。アレを燃やしておしまいなさい」

 私がドラゴン達をけしかけると、ドラゴン達は元気に火を吹いて、木の根っこを焼きましたわ。

 ……ええ。焼きましたのよ、確かに。

 木の根っこは子供ドラゴン達の元気なブレスを浴びて、燃え尽きるはずでしたわ。

 ……ところが!

「ぷぎゅるるるるる!」

 そんな声のような地鳴りのような音が響いたかと思うと……木の根っこが!動いて!襲い掛かってきましたわーッ!




「び、びっくりしましたわぁ……」

 木の根っこに襲われそうになった瞬間、木の根っこを空間鞄の中に放り込んだので事なきを得ましたわ。

 恐らく、さっきの木の根っこ、ローパーでしたのね。それも、相当大物の。

 ……ローパーならその筋の商人に売れると思いますわ。割と人気の魔物ですもの。まあ、トンネルづくりの邪魔をした分、私のお小遣いになってもらいましょうね。

「さあ、ドラゴン達。またトンネルづくりを再開しますわよ」

 バカでかいローパーはほっといて、私はまた、トンネルづくりに戻りますわ。

 ……と、思ったのですけれど。

「……あら?」

 地鳴りのような音が聞こえますわね。ついでに、ドラゴン達が、きゅーきゅー鳴いて私の服の裾を引っ張っていこうとしますわ。

 これはまさか……。

「あっ、これローパー引っこ抜いた分、ここらの土地、一気に歯抜けになったんですのね?」

 そうですわ。ローパーというのは、地下に潜んでいて、あちこちへ触手を伸ばす生き物ですもの。ローパーを1匹いきなり引っこ抜いたら、それはそれはもう、あちこちへ伸びていた地中の触手が一気に消える、ということで……。

「これ、さては崩落しますわね?」


 ヤバいですわーッ!逃げますわ!こんなところで生き埋めなんて御免でしてよーッ!私、まだ死ねませんわーッ!




 生き残りましたわ。子供ドラゴン達を連れて来た道を全速力で走り抜けて居る間に、背後でどんどんトンネルが埋まっていく不吉な音が響いて、土ぼこりがこちらまで届いて……本当に生きた心地がしませんでしたわ!

「でも私、生き残りましたのよ!」

「風が涼しくていいなあ、今日は……へへへへ……」

 ……とはいっても、アジトに戻ったところで薬中が1匹居るだけですから私の冒険譚は語るだけ無駄ですわ。壁に向かって話しかけていた方がまだ有意義ですわ。

「トンネルは……地上がどうなったのか聞いてから、作業再開しましょうね……」

 ドラゴン達は遊び足りなかったのかきゅーきゅー文句を言っていますけれど、私、まだ死にたくないのですわ!我慢して頂戴!




 ……さて。

 私はトンネル掘削作業も頓挫して、暇を持て余すばかりとなりましたわ。

 ジョヴァンでもキーブでもドランでもいいのですけれど、早く誰か帰ってきてくれないかしら。


 暇を持て余しながら薬中をつついて遊んでいたら、バタバタと地下道を走ってくる音が聞こえてきましたわ。さては誰か帰ってきましたわね?

 ドアが開いた瞬間、私きっと、満面の笑みで振り向きましたわ。それくらい暇を持て余しておりましたの。

 ……でも。

「お嬢さん!布ありったけ持ってきてくれ!」

 ちょっと、私、正気を疑いましたわ。

 だって、殺しても死ななさそうな、筋肉の塊みたいな、人間離れした戦い方をするというか本当に人間じゃないというか……そういうドランが、ジョヴァンの背中で、ぐったりしていたんですもの。


 そして、ジョヴァンの足元に、ぱたぱたと、赤い雫が絶えず落ちているんですもの。




「……これ、何があったんですの」

 ドランを寝かせて傷を診て、私、本当に困惑しましたわ。

 ドランがやられたっていうこと自体、もう困惑するしかありませんのに……ドランの脇腹の傷は、見たことが無いものでしたの。

 獣の牙に突き刺されたような。鋭くない刃物で刺し貫いたような。そんな傷ですわ。それが、脇腹をかすめるように1か所。そして、脇腹を貫くようにもう1か所……。

「と、とりあえず止血するしかありませんわね」

「俺は店に薬、取りに行ってくる。ここは頼むぜ」

「ええ」

 ジョヴァンがアジトから駆けていくのを見送って、私は改めて、ドランの傷を処置し始めましたわ。

 見たことのない傷は深くて、そこから絶えず血が溢れてきますの。血は見慣れていますけれど……血を流す相手を助けようとすることなんて、滅多にありませんから。少し、緊張しますわね……。


 とりあえず布を何枚も重ねては傷口を押さえて、ドランの出血を止めますわ。

 布にはじわじわと血が滲んできますけれど、それでも、垂れ流しにしていた時よりはずっとよくってよ。

「ああ、まさかあなたがこんなことになるなんて……」

 ドランの顔を見ていると、現実味がまるで感じられませんの。血の気が失せて、目は閉じたままで。呼吸は浅くて早くて、弱い。……まるで、彼らしくありませんわ。


「……ヴァイオリ、ア、か……?」

 少しした時、ふと、ドランの声が微かに聞こえましたわ。

 びっくりしてドランを見てみれば、微かに目が開いていてよ。意識は朦朧としているようですけれど、確かに、生きていますわ!

「ええ、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。ドラン、あなた、何があったの?大丈夫ですの?死にやしませんわね?」

 手を握ってみたら、あまりにも冷たくてぎょっとしましたわ。でも、おかげで少し、冷静になれましてよ。

「あなた、どこで、誰にやられたんですの?」

 もう一度聞き直すと、ドランは少しはっきりしたらしい意識を目の奥に見せつつ、小さく首を横に振りましたわ。

「フルーティエを、調べていた、ら……大きな音がして、気づいたら、やられて、いた。港……で……」

 港で、フルーティエ家について調べていたら、大きな音がして、気づいたらやられていた……?一体どういうことですの?

 もっと詳しく聞きたかったのですけれど、ドランにはその体力が無さそうですわ。

 ただ、代わりにドランは薄く笑って、私を見て、言いましたわ。

「……お前が、助けにきたのかと、思った、んだが」

「え?」

 ドランの言葉の意味が分からなくて、私、色々考えましたわ。

 私が助けに?一体……え?一体どういうことですの?

「勘違い、だったよう、だな」

 けれど続いたドランの言葉に、私、はっとさせられましてよ。


「……そうだ、相手の武器、は……金属の弾を、小さな筒から飛び出させた、ような、もの、だった」



 ……思い出しましたわ。

 ドランを傷つけた武器の正体、分かりましたわ。


「あなた、『銃』にやられたんですのね?」


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[気になる点] 地下で炎....一酸化炭素ヤバそう
[一言] 地下の崩落に巻き込まれたわけじゃなかったか
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